単純反復配列(SSR)の進化

SSRの役割

ツメガエルの新しいSSR配列Xstirと、その起源

動くSSR、そして染色体構造の進化

 生物のゲノムには、反復ユニットが同じ向きに縦列(タンデム)に長く連なった「単純反復配列」(Simple Sequence Repeat、SSR)と呼ばれる反復配列が多数ふくまれています。これらはそのユニットの長さによってサテライトDNA、ミニサテライトDNA、マイクロサテライトDNAなどとも呼ばれています。これらの配列は昔は単に「利己的」に自分のコピーを増やしているだけの「ジャンクDNA」の一種だと考えられたこともありましたが、染色体の構造構築に関する研究が進んだことで、SSRの重要な役割が次第に明らかになってきました。

 染色体の機能にとって重要な役割をはたしているセントロメアテロメアといった領域には、このようなSSRが存在することが知られています。たとえばヒトのセントロメアはαサテライトと呼ばれる171bpの繰り返し配列が存在し、セントロメアの構築に重要な役割を果たしています。しかしセントロメアのSSR配列は機能的に重要であるにもかかわらず、その配列は種間で保存されておらず、種によって配列が異なるという面白い事実が明らかになっています。セントロメアのSSRがどのように生まれ、進化してきたのか、興味がもたれます。

 セントロメアのみならず、染色体上に存在するSSRは染色体の高次構造を構築する機能を担っていることが明らかになってきています。真核生物の染色体はDNAとタンパク質の複合体であるクロマチン構造をとっています。クロマチン構造には強く凝縮して転写も不活発な「ヘテロクロマチン」と、凝縮がゆるく転写される遺伝子が多く存在する「ユークロマチン」の2種類の主要な構造があります。このようなクロマチンの構造変化のパターンは染色体の機能にとって重要だと考えられます。そしてヘテロクロマチン領域には多くの場合SSRが存在し、これがRNAiなどのエピジェネティックな機構を通じて周囲の領域をヘテロクロマチン化する目印として機能しています。

 このようにSSRは染色体の構造と機能にとって重要な役割をはたす、ゲノムの構築要素であると、現在では考えられています。ここで興味深いのは、セントロメアの場合もそうでしたが、多くのSSRは種特異性が非常に高く、近縁の種でもゲノムに含まれるSSRの種類や量がきわめて異なっていることが多いという事実です。つまりゲノム内のSSRの組成は非常に速く進化しているわけです。このようなSSRの進化が、染色体の高次構造の進化に深く関連しているのではないかという推理が成り立ちます。

 このように細胞生物学的にも進化学的にも興味深いSSR配列ですが、そもそもSSRがどのように生まれ、どのようにしてコピー数を増やし、染色体に広がってゲノムの中で優勢なSSRとなっていくのかは、まだよく分かっていません。私たちはこの問題に興味をもち、以下のような研究を進めています。

 私たちはアフリカツメガエル(Xenopus laevis)からMITE型トランスポゾンの一種であるXmixというトランスポゾンを発見しました(もっと詳しく)。面白いことに、Xmixはその内部配列を重複させ、約86bpの縦列反復配列(タンデムリピート)をつくり、これがXmixの上に乗って大量に増幅・転移することでツメガエルのゲノムの中で非常に優勢なSSRを生み出していることが分かりました(Hikosaka et al, 2000)。さらに同属のニシツメガエル(X. tropicalis)にもこのXmixが存在し、やはり非常に優勢なSSRを生み出しているのですが、この両種ではSSRとして増幅しているXmixの領域が異なっていることを明らかにしました(Hikosaka and Kawahara, 2004)。つまりXmixが優勢なSSRを生み出す、という進化的なイベントが2つのツメガエルの系統でそれぞれ別に生じたということになります。

 以上の結果をもとに「MITEからSSRが生まれ、MITEの上に乗って増幅・転移することで優勢なSSRファミリーを生み出す」という新しい分子進化のメカニズム「MITE-driven SSR formation」モデルを発表しました(Hikosaka and Kawahara, 2004)。これは種の進化の過程でSSRが生まれ、増幅し、拡散していく機構の一つであり、ゲノム進化を推進する一因となったと考えられます。

 

 上のような「MITE-driven SSR formation」という現象が生物の進化においてどれだけ一般的に見られるものなのかは、まだ明らかではありません。私たちは独自のデータベース解析プログラムを作成しながら、このような現象の普遍性について現在解析を進めており、この現象が幅広い生物で見られるだろうという感触を得ています。

 トランスポゾンの上に乗ったSSRはトランスポゾンとしてゲノムの中で増幅し、動き回ることができます(動くSSRmobile-SSR)。 したがってmobile-SSR は染色体構造の進化に大きな影響を与えて来ただろうと推測できます。とくに生物の種分化は染色体構造の変化を伴う事が多く、そのような変化にmobile-SSRがどのような影響を与えてきたのかは非常に興味が持たれる問題です。

 mobile-SSRが染色体の進化にどのような影響を与えたのかを調べるためには、「ゲノムの中に新たな mobile-SSRが出現した」という状況を人為的に引き起こしてやり、それによって染色体にどのような変化が起きるかを調べるという、進化の再現実験が有効だろうと私たちは考えています。私たちはこのテーマで2007年度に科学研究費補助金(萌芽研究)を得て、研究を進めてきました。