反復配列

反復配列とゲノムの進化

トランスポゾンによるホストの進化の促進

 真核生物のゲノムは多数の反復配列を含んでいます。これらの反復配列は大きく2つのカテゴリーに分けられます。一つは、サテライトDNA、ミニサテライトDNA、マイクロサテライトDNAなどと呼ばれる、同じ配列が同方向に連なって存在する縦列(タンデム)型反復配列です。これらは「単純反復配列」(Simple Sequence Repeat, SSRと略される)とも呼ばれます。もう一つは、ゲノムのあちこちに散在して存在する散在型反復配列です。これらはゲノムの中を動き回る遺伝子(転移因子、トランスポゾン)に由来すると考えられています。これらの配列は、種によっても異なりますが、一般にゲノムの非常に大きな領域を占めています。たとえばヒトのゲノムは、そのほぼ半分が反復配列に由来する配列で占められています。トウモロコシなどではゲノムの約80%が反復配列だと言われています。

 祖先から様々な種が分岐して進化していく過程で、いろいろな時点でいろいろな反復配列がゲノムの中に誕生し、あるいは他の生物からの水平転移によって侵入してきました。それらは染色体の中を転移しつつ、自分のコピーを増やしてきました。この繰り返しによって反復配列たちはゲノムの進化を促進し、その種に特有のゲノムの組成を作り上げてきたと考えられます。

 

 トランスポゾンをはじめとする反復配列はそのふるまいによってゲノムの進化を促進してきました。同時に、そのような「利己的」にふるまうトランスポゾンと、それに対抗するホスト(宿主)との相互作用によって、様々な進化的なイノベーション(新奇性)が生まれてきたことが明らかになってきています。以下に2つの場合を紹介します。


(1) 転移因子の動きを抑制するメカニズムが、新しい生物機能を生み出す

 ホストにとって、トランスポゾンが勝手気ままにゲノム内を動き回ることは、遺伝子の異常を引き起こすなど、好ましくない場合が多いと考えられます。そこで宿主はトランスポゾンの活動を抑えるための様々なメカニズムを進化させてきました。たとえばDNAのメチル化や、最近話題の小さなRNAによる遺伝子抑制機構(RNAiやmiRNA)などのエピジェネティックな調節機構は、もともとはトランスポゾンの抑制のために現れたメカニズムだったという説が有力です。しかし、このようなメカニズムは宿主の遺伝子発現調節などにも応用することが可能だったため、宿主が様々な局面でこの新しい機能を利用するようになったのだと考えられます。


(2) トランスポゾンが「家畜化」されて新しい機能をもつようになる

 トランスポゾンが、そのホストに「家畜化」され、宿主にとって有用な機能を果たすようになった例がいくつか見つかってきています。たとえばショウジョウバエでは染色体末端に存在するテロメア配列の維持にLINE型レトロトランスポゾンが飛び込むことでテロメアの長さが維持されていることが知られています。また脊椎動物の免疫系での遺伝子組み換え機構に働くRAGというタンパク質は、DNA型トランスポゾンの転移酵素(トランスポゼース)から由来したと考えられています。


 このようにトランスポゾンの挙動がホストの進化を促進してきた例は今後もたくさん見つかってくるだろうと考えられます。生物のゲノムは、このようにたくさんの「自分勝手な」遺伝因子たちに対抗しつつ、時には彼らをうまく取り込みながら進化してきた「寄り合い所帯」とも言えるのかもしれません。