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研究と教育への取り組み

       水産増殖学研究室における研究と教育


 水産増殖学研究室では,瀬戸内海や大学周辺の河川をフィールドとして,増殖学的研究を精力的に実施しています。また,学部学生への講義と卒業研究に加えて,世界に向けて研究成果を発信すべく,大学院生の研究指導に大きな力を注いでいます。

 特に,外国からの留学生を積極的に受け入れているほか,日本の研究機関で長年研究に従事している科学者には,大学院に入学して博士号取得に挑戦する人がいますので,そうした方々に十分な指導を行うよう努力しています。

 
水産増殖学研究室で特に力を入れているのは,学部学生・大学院生には,みずからフィールドに出て,研究を進めるように指導していることです。最近はともすれば,生物生産学においても,研究室において機器を用いた実験・分析が研究の大きな部分を占める傾向があります。しかし,私たちはそれだけでは,広島大学の大学院・学部が研究対象とする《生物圏》を広く理解するには不十分と考えています。

 
みずからがフィールド(=生物圏)に出て,現場で起きていることを肌で感じ,問題点を見つけ,データを取り,解決する能力を養い高めること。これが,水産増殖学研究室における教育の基本姿勢です。


 
このやり方は,効率を重視する最近の研究・教育の流れとは大きく異なるかも知れません。しかし,遅々とした歩みであっても,常に変化する野外・生物圏において,みずからが深く考え,漁業者や他研究機関の協力を得ながら,問題解決の訓練を行うことは,卒業後や大学院修了後に,広い視野を持って,社会に貢献できる人材を育成することに大きく資すると考えています。



 
以下に,長澤先生のグループによる研究を紹介しましょう。

1.
寄生虫を生物標識として活用した増殖対象種(メバル類,タイ類,ニホンウナギ)の生態解明

 
瀬戸内海は,日本の「つくる漁業」の発祥の地です。これまでも「つくる漁業」に関する多くの研究が水産研究機関で 実施され,膨大な知見が蓄積されています。しかし,その反面,明らかにすべき多くの問題が残されているのも事実です。たとえば,放流された人工種苗が確かに生き残り,天然資源に添加して再生産を行なっているかは,最も基本的で重要な疑問です。また,放流された魚種が天然の同一種のみならず,他の生物にどのような影響を与えるかも,十分考慮しなければなりません。特に,放流した魚種の個体数が増えた過ぎた場合には,その地域の生物相や生態系に大きな負の影響を与えますので,「つくる漁業」がプラスとマイナスの両側面を持っていることは認識しておくべきです。

 こうした状況のなか,放流の是非も含めて,多くの疑問に答え,直面する問題を解決するには,増殖対象種の生態・生活様式を様々な手法を用いて多面的・科学的に明らかにすることが重要です。

 いっぽう,
寄生虫は宿主の生活様式や生態を示す「生物標識(生物指標)」として,さまざまな水生生物の資源研究や生態研究に活用されてきました。寄生虫は,「宿主の生活を映す鏡」と言われています。水産増殖学研究室では,日本でまだ十分な研究が進んでいないこの分野において,わが国の栽培漁業種を対象に,「生物標識」としての寄生虫の活用に関する研究を始めました。
 
 具体的には,
寄生虫を「生物標識」として活用して,瀬戸内海におけるメバル類やタイ類の生態研究を開始し,多くのデータを蓄積しつつあります。 

 
また近年,資源が著しく減少したニホンウナギに対しても,この種が生態学的な3型(海ウナギ,河口ウナギ,川ウナギ)を有することに注目して,寄生虫を「生物標識」に用いて,ニホンウナギの生態研究を実施しています。



2.外来水族寄生虫の生態,特に日本の水界生態系に与える影響評価

 
内水面(淡水域)の増殖を含む漁業生産において,最も大きな脅威となっているのは、アユの冷水病の蔓延と,ブラックバスやブルーギルなど外来魚の存在です。彼らの急激な分布拡大と在来魚への大きな捕食圧は,内水面の漁業生産において極めて憂慮すべき事態となっています。

 外来生物の影響に関して忘れてはならないのは,持ち込まれる魚病細菌や寄生虫などの病原因子です。しかし,甚大な病害を与える微生物性因子に比べて,寄生虫に関する研究はほとんどなく,分類や生態に関する知見は極めて限られています。また,外来種苗によって日本に持ち込まれた寄生虫が,わが国の海面養殖で被害を及ぼしている例がすでに知られ,大きな問題となっています。

 水産増殖学研究室では,
外来生物によって持ち込まれた寄生虫が日本の水界生態系に及ぼす影響評価とこのことに関するガイドライン作成を目的として研究を行っています。そして,研究の第1歩として,わが国の内水面に広く分布する外来魚で,採集が容易なために定量的研究が可能なブルーギルをモデルとして,その寄生虫相の解明と主要寄生虫の生態研究を実施しています。将来的には,海産の外来生物に由来する寄生虫にも,研究範囲を拡大する計画を持っています。



3.水族寄生虫の多様性・生態・共進化過程の解明

 
わが国は,先人の努力によって,魚類寄生虫学が世界で最も進んだ国のひとつに数えられます。しかし,これまでの研究を見てみますと,過去に寄生虫が調べられた魚種は,4100種を超すわが国の魚類相のほんの一部に過ぎません。水生無脊椎動物の寄生虫に関しても,分類学的研究はほとんど行われていません。また,生活史や宿主との関係など,水界における寄生虫の生態学的研究は極めて遅れています。さらに,水産養殖の現場で,寄生虫が魚類の疾病や斃死の原因となることがありますが,多くの場合,それら寄生虫にどのように対処すべきか,明らかではありません。つまり,水生生物に見られる寄生虫に関しては,基礎・応用面ともに多くのことが未知であり,早急に取り組まなければならない研究課題が山積しているのが現状です。

 水産増殖学研究室では,こうした状況に鑑みて,わが国の水生生物に見られる様々な寄生虫に関して,研究を精力的に実施しています。
主要寄生虫であるカイアシ類,単生類,ヒル類,吸虫類,線虫類,条虫類などを対象に,その多様性と生態に関する研究を行っています。また,寄生虫は,宿主とともに進化していますので,生物の進化を考えるモデル生物としても寄生虫をとらえています。そして,こうした研究を通じて,水生生物の寄生虫に関する学問領域を21世紀に継承・発展させていく人材(=水族寄生虫学者)の育成を図っています。




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