ビーム物理コミュニティーの形成

 「ビーム物理について」でも触れたように、粒子ビームの応用範囲は多岐にわたっています。20世紀前半に荷電粒子ビームの人工的加速実験が初めて行われた時は、物理学への応用のみが念頭に置かれていました。しかしながら現在では、基礎物理学実験用の大型加速器よりもむしろ、医療産業利用などを目的とする小型加速器の方が圧倒的に多くなっています。

 ビームの有用性が各方面で強く認識されるにつれ、当然の流れとして、ユーザーが期待あるいは要求するビーム性能はますます高度化しています。これまでは当代最高の技術を集積した加速器を建設し目標をクリアしてきましたが、このアプローチには明らかに限界があります。ビームは互いに相互作用する基本粒子の集合であり、特定の性能(エネルギー、電流値、エミッタンス、など)を極限まで追求すれば、その反作用による複雑な非線形現象が必ず起こります。ビームそのものの基礎物性に対する深い理解がなければ、次世代の超高性能加速器は設計できません。逆に、ビーム物理学的な研究の成果として超高性能加速器が実現されるならば、その加速器が応用可能な様々な分野に巨大なインパクトを与えるでしょう。

 以上のような国際的情勢を背景に、近年、ビーム物理コミュニティーが急速に拡大しつつあります。アメリカでは1980年代半ばにビーム物理研究の基盤が確立されましたが、日本国内にビーム物理関連の組織が立ち上がったのは1990年代の後半です。つまり、この分野は誕生間もない、黎明期にあります。しかしながら、この10年の発展は著しく、2006年春には日本物理学会に「ビーム物理領域」が正式に認められました。新領域は、ビームが有する汎用性の故に、分野横断的性格をもちます。今後、他の様々な分野と協調して大きく発展していくであろう、将来性豊かな研究領域です。