声明】 海賊版『峠三吉・原爆詩集』について

 

 下関原爆展事務局(発行)なる団体が、海賊版『峠三吉・原爆詩集』(取扱・長周新聞社)を発行しました。これは今年、峠三吉没後50年にあたり、市民グループの詩と思想の継承・文学的再評価をかかげた活動に乗じたもので、善意の多くの人たちを困惑させています。

 現在問合せ等しており、その中でいくつか明らかになった問題点を列挙すれば、

 第一に、扉の峠三吉の「・・・・・・・・・・全世界の原子爆弾を憎悪する人々に捧ぐ」の献辞は、孔版『原爆詩集』の無断複写です。

 第二に、追加作品として掲載している「すべての声は訴える」は、広島文学資料保全の会によって1987年(彼らの解説による1990年は間違い)に発見、広島市中央図書館に寄贈された峠関連資料の一部であり、好村冨士彦氏(当時・文学資料保全の会代表幹事)によって整理・編集されたものです。(1990年『行李の中から出てきた原爆の詩』暮しの手帖社刊に収録)今回の収録にあたり、彼らは「細かい書き込みなどを検討判断し可能なかぎり忠実に起こした形で収録」と記してはいますが、部分的な改ざんさえ行うなど、もちろん文学資料保全の会ならびに中央図書館の諒解を得たものでなく、一方的盗用にあたります。

 同じように、彼らの機関紙的性格を備えている「長周新聞」(第5855号)においても、「呼びかけ」「われらの詩はどのようにすすむべきか」「文学サークル運動についてのエッセイ」などを無断掲載するなど、無法ぶりは徹底しています。

 第三に、もともと『原爆詩集』は青木書店から発行(現在、中野重治・鶴見俊輔解説の<新編>)されていますが、青木書店には何ら打診はなく、出版界の常識を逸脱した行為です。

 第四に、こうした出版物を発行するためには、常識的に著作権継承者に許諾を得ることはもちろんのこと、通常の場合「出版契約書」を取り交わすものですが、こうした手続きは度外視しています。

 また、使用している写真類は、明らかに書籍からの複写であり、無断借用の疑いが色濃いものです。これらのことにかんがみ、下関原爆展事務局・発行の『原爆詩集』は、単なる部内的資料にとどまらず有料(500円)で販売するなど、海賊版の資質を全面的に備えているシロモノであるいわざるをえません。

 この間、彼らは峠三吉を顕彰すると称して、各地で「原爆と峠三吉の詩」パネル展を企画してきました。(7月31日〜8月6日 福屋八丁堀店にて計画中)その内容は、海賊版『原爆詩集』に見られるように、多くは作品・写真類の著作権を侵害した無断借用であり、「峠三吉の原爆詩集は、平和運動の現場からも、平和教育の現場からも長いあいだ遠ざけられてきた」(長周新聞)と述べるなど、広島の平和運動・平和教育を歪曲する特定の見解を押しつけ、著作権問題について指摘すれば、「10年前に諒解をとった」とか、「峠の宣伝をしているのに何が悪いのか」と居直るなど、到底まともな市民運動とは思えないような態度に終始しています。

 おそらく、彼らは峠三吉没後50年(峠三吉の命日は1953年3月10日)ということで、いわゆる著作権法をクリアしていると考え、この海賊版『原爆詩集』(奥付には5月1日発行となっている)刊行を思いつき発行したのであろうが、残念ながら著作権法第57条を見落としているのです。57条(保護期間の計算方法)によれば、「著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する」。つまり、峠三吉の場合、今年中(2003年)は著作権法でいう保護期間中ということができます。

 重要なことは、被爆者をはじめ多くの市民の皆さんが、こうした実態を知らないまま、善意としてパネル展の賛同者となったり、海賊版『原爆詩集』を購読、あるいは協力者になっておられることです。こうした彼らを「善意」によって市民運動・平和運動として認知していくことは広島にとって錯誤といわざるをえません。

 今年、広島においても広範な市民はアメリカのイラク戦争に対し、「NO WAR NO DU!」の人文字に結集し、戦争反対の意思を示しました。当日、メイン会場においても「原爆詩集」<序>「ちちをかえせ・・・」が日本語と英語で朗読されるなど、ヒロシマのはたすべき責任を改めて考える場となりました。

 峠三吉が亡くなって50年。私たちは、まだまだ『原爆詩集』の必要性を痛感せざるをえない状況下にあります。

 私たちは、このたびの海賊版『原爆詩集』に接し、表面では「原水爆禁止」を唱えながらこのような平和と文化に対する冒涜行為を許すことはできません。

 ヒロシマの文学を学び、次代に伝えていく活動を展開している私たちは呼びかけます。

海賊版『原爆詩集』を一つの反面教師と受け止め、原爆文学に対する認識・評価をヒロシマ市民の責務として深め、広めていこうではありませんか。

 

2003年7月23日

峠三吉没後50年の会(共同代表・水島裕雅・海老根勲・御庄博実)

広島文学資料保全の会(代表幹事・古浦千穂子)

(広島市中区本川2丁目1−29−301 電話 082−291−7615)

* なお、参考資料として海賊版『原爆詩集』を幹事の方にお預けしておきます。


この声明は2003年7月23日、広島市政記者クラブで公表したものです。