『生ましめんかな』

 

 

こわれたビルディングの地下室の夜だった。

原子爆弾の負傷者たちは

ローソク1本ない暗い地下室を

うずめて、いっぱいだった。

生ぐさい血の匂い、死臭。

汗くさい人いきれ、うめきごえ

その中から不思議な声が聞こえて来た。

「赤ん坊が生まれる」と言うのだ。

この地獄の底のような地下室で

今、若い女が産気づいているのだ。

 

マッチ1本ないくらがりで

どうしたらいいのだろう

人々は自分の痛みを忘れて気づかった。

と、「私が産婆です。私が生ませましょう」

と言ったのは

さっきまでうめいていた重傷者だ。

かくてくらがりの地獄の底で

新しい生命は生まれた。

かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。

生ましめんかな

生ましめんかな

己が命捨つとも

 

 

(『中国文化』一九四六年三月)

*この作品のホームページへの掲載は、栗原貞子さんご本人の許可を得て掲載しております。