『さんげ』

 

死ぬ時を

強要されし

同胞(はらから)の

魂(たま)にたむけん

悲嘆の日記

 


 

「噫!原子爆弾」の章より

 

ピカッドン 一瞬の寂(せき) 目をあけば 修羅場と化して 凄惨のうめき

目の前を なにの實態(じったい)か 黄煙が クルクルクルと 急速に過ぎる

蒼白の 娘の顔が 眼のさきに 母さんと叫ぶ 鼓膜をつきて

木ッ葉みぢん 崩壊の中に 血まみれの まっ青の顔 父の顔まさに

 


 

「悲惨の極」の章より

 

燃える梁(はり)の 下敷の娘 財布もつ手をあげ これ持って逃げよと 母に叫ぶ

炎なか くぐりぬけきて 川に浮く 死骸に乗っかり 夜の明けを待つ

死骸の上に 明かせし朝(あした) 陸のへに 助けられたれど 息絶えし人

子をひとり 焔の中に とりのこし 我ればかり得たる命と 女泣き狂ふ

傷口を 縫う糸も これでもう無いと 醫師(いし)つぶやけり 手あてなしつつ

 


 

「戦争なる故にか」の章より

 

石炭にあらず 黒焦の 人間なり うづとつみあげ トラック過ぎぬ

子と母か 繋ぐ手の指 離れざる 二ッの死骸 水槽より出ず

 


 

「生き残る者の苦」の章より

 

川中に 流るる死骸 引よせて 處理する兵士の 顔青くひきつる

一日中 死骸をあつめ 火に焼きて 處理せし男 酒酒とうめく

酒あふり 酒あふりて 死骸焼く 男のまなこ 涙に光

 


 

「愛しき勤労奉仕學徒よ」の章より

 

可憐なる 学徒はいとし 瀕死のきわに 名前を呼べば ハイッと答へぬ

大き骨は 先生ならん そのそばに 小さきあたまの 骨あつまれり

焼け身ながら 家にかえり来て 大丈夫と 親に言いしのち 息たえゆき

 


 

「殉死學徒の母」の章より

 

焼死せし児が 寫真の前に トマト置き 食べよ食べよと母泣きくどく

 

 


 

「罹災者収容所」の章より

 

亡き娘の ブローチ探しあて よろこびし親も 爆弾症の 重態にふす

 

 


 

「復員兵」の章より

夕ぐれを 焼けし家あとの 石に座し じっと動かぬ 復員兵の顔

あぢうりを 食べとわたせば 顔あげし 復員兵のま眼は ぬ れ居り

 

 


 

「混沌の中より生るるもの」の章より

 

武器持たぬ 我等國民(くにたみ) 大懺悔の 心を持して 深信(しんじん)に生きむ

 

 


註:
上記短歌は、生前の正田篠枝と親交があり、現在広島で作家活動を続けている、古浦千穂子さんが選んだものを掲載しております。
また、上記作品のホームページへの掲載は、古浦さんを通して御遺族の許可を得ております。