庭の空き瓶
――劣化ウランヲ――
御庄博実
死者を埋葬するのが
間に合わないのです
名前を書いた紙片を
手元の空き瓶に入れて
病院の 中庭に埋めるのです
その児がこの世にのこす
たった一つの存在(アリバイ)なのです
僕の眼をじっと見つめる
バスラ小児病院のハッサン医師
朝が来る 目を覚ます
歯ブラシを使い
朝飯を食べる
母さんがいるから……
鞄をかかえて
隣の 友だちと
学校へ行く
庭の緑が 美しい
ぼくは目覚めない
ぼくは眠らないのだから
ぼくはご飯も食べない
ぼくは一枚の紙切れなのだから
ぼくの父さんは戦場で死んだ
ぼくの母さんも市場で撃たれた
ぼくは病院にいたから ひとりになって
ぼくはいま 小さな瓶のなか
病院の中庭から
星空を見つめている
ハッサン先生の視線は
あの日の僕の瞳を覗き込む
ヒロシマで 何を見ましたか
「水を」とうめく死者を
一人づつ確かめながら
僕は 探す人を求め得ず
一枚の名札にも出会えず
虚空を抱いてふるさとへ帰った
イラクの病院の
中庭にふえ続けているという
幾十百という空き瓶
子供たちの名前が入っている
白血病 がん 腎臓病……
無脳児もある各種の奇形
いくさは終わったと言うのに銃声は時に激しく
白血病の子らの病室は
途切れることなく
いっぱいなのだ
中庭に並ぶ
小さな空き瓶のなかから
「母さん」と呼ぶ
子供たちの声が聞こえてくる
HP管理者から:この詩は、連作「劣化ウラン」最新作として、2004年8月15日「反戦・原爆詩を読む市民の集い」(於 平和公園原爆ドーム前)で著者自身によって読まれました。