九月のある土曜日、「小田原文学館」を訪ねた。同館は、幕末の志士で、元宮内大臣でもある田中光顕伯爵の別邸という歴史的建築物を生かし、小田原にゆかりのある文学者の生涯や作品を、原稿や写真パネルの展示によって紹介している。小田原文学館は、同じ敷地内にある洋館の「本館」と、日本建築の「童謡館」に分かれている。童謡館では、もっぱら北原白秋の作品と生涯を紹介している。私が訪れたのは土曜日の三時で、本館も童謡館も閑散としており、静かな時間を過ごしたい客がそこそこやってきている、という感じであった。
同文学館は、JR線の最寄り駅からかなり離れた閑静な住宅街の中にあり、交通の便はあまり良くない(無料駐車場があるので、マイカーで来るのは便利だろう)。この交通の不便さを補うアイディアがあり、それに感心した。観光シーズンの週末・祝日のみの運行ながら、JR小田原駅前から、観光客むけに市内を循環するミニバスが出ている。これは、百円の料金を払うと一日乗り放題、途中の停留所で何度でも乗り降り自由、という小型バスで、いわゆる「シルバー人材」のガイドが道々ずっと解説してくれる。この小型バスが立ち寄る観光名所は、細い路地の中の手作りのかまぼこ屋さんとか、雑木林の中の城跡とか、港の魚市場とか、この文学館のように、通常の観光ルートの幹線からはずれた「隠れた名所」ばかりである。私がこの小型バスに乗ったときは、市外からの観光客だけでなく、小田原市民の親子連れもたくさん乗っていた。地元民に小田原を再発見してもらうという効果もあるようだ。(2003年10月10日記)