大田洋子文学資料展

期日:2006年9月12日(火)〜17日(日)

会場:広島市中区袋町・市民交流プラザ1Fロビー

共催:「広島に文学館を!市民の会」

   広島市まちづくり市民交流プラザ


あいさつ

 

 大田洋子(一九〇三〜六三年)は不遇の作家でありました。それは原爆文学自体が日本の文壇において不遇であったのに似ています。

 彼女にも世に認められた時代はありました。昭和一四年(一九三九年)に「海女」により中央公論社の創作第一席に当選し、ついで翌年には朝日新聞社の一万円懸賞小説に応募して一等入選を果たしたのでした。それまで文学的にも人生的にも恵まれていなかった彼女はたちまち流行作家になり、自伝小説『流離の岸』(一九三九年)をはじめ、出版の困難な戦争中に九冊の著書を出版し、その他多くの作品を発表しています。しかし、そのことは戦後における彼女の不遇の原因の一つとなっています。

 大田は広島で被爆し、原爆の恐ろしさと被爆の実情について書き残さなければならないと思い、『屍の街』(一九四五年執筆、一九四八年一部削除して出版)を書きました。しかし、敗戦後の日本はアメリカ占領軍のプレスコード下にあり、原爆について書こうとする大田は直接占領軍の尋問を受けました。また、彼女の原爆文学は日本の文壇からもあまり好意的に受け入れられませんでした。しかし、彼女は『人間襤褸』(一九五一年)をはじめ、次々と優れた原爆文学を書き続けました。もとより孤独な性向の持ち主であった彼女は、周囲の無理解や原爆による不安神経症もあいまって、ますます狷介孤高の姿勢を貫いていきました。

 大田は戦前・戦中・戦後にわたる数多くの多様な人間劇(コメディ・ユメーヌ)の作家であり、少女小説なども手がけていますが、全集が出版されることもなく、現在ではその原著はもとより、一九八二年に出版された『大田洋子集』全四巻(三一書房版、復刻版日本図書センター)や文庫版の作品も入手が難しくなっています。

 こうした大田洋子の作品が、彼女が被爆後に疎開して『屍の街』の原稿を書いた佐伯郡玖島(現・廿日市市)の平本伸之氏によって集められ、今春玖島公民館で展示され、好評を博しました。今回平本氏のご好意により、広島市内でも大田洋子の主要な作品を網羅した「大田洋子文学資料展」を開催することができることになりました。

 作家の価値は作品によって決まります。戦後六〇余年が経ち、また彼女の没後四〇余年が経つ現在、この文学資料展により大田洋子の作品の全貌が明らかになり、さらに広く彼女の作品が読まれるきっかけになれば幸いです。

 

二〇〇六年九月一二日

「広島に文学館を!市民の会」代表 水島裕雅


主な展示物

○「廣島女流作家選集」(大正十三年)(今回初公開)

 この「「選集」は芸備日日新聞社を退職した女性記者・安留愛子によって出版。大田洋子は「彼女たち」を掲載。洋子二〇歳、初めての本である。

○「女人藝術」(昭五年・一〇号)暴露実話号 短編「火群」掲載

○「サンデー毎日」新春特別号(昭九年)「新春アパート風景」よりコメディー「モデル女」「女給」掲載

○「週刊朝日」(昭九年) 読切短編「櫻子」掲載

○「週刊朝日」秋季特別号(昭九年)読切短編「_」掲載

○「週刊朝日」(昭十五年)戦地慰問文「文学の好きな兵隊さんへ」掲載

○「婦人公論」(昭十七年)短編「秋の帯」掲載

○「女性生活」(昭十八年)文體社 連載小説「青潮」第三回掲載

○「改造」(昭二四年)レポート「8月6日8時15分」掲載

○「美しい暮らしの手帖」(昭二五年)随筆「戦争は起きないという答え」掲載

○「世界」(昭二七年)「暴露の時間」掲載

○「ひまわり」(昭二五年)連載小説「黄なるくちなし」連載十回

○「小さな自画像」(昭二九年)朝日放送編、随想「山の匂い」を掲載

○「静か雨」〈現代女流作家名作選〉(昭三一年)現代社「紫真珠」を掲載

○雑誌「映画藝術」(昭三一年)原作映画「流離の岸」の紹介記事掲載

○ドキュメント「昭和の文学展」冊子(平二年)朝日新聞「海底のような光」掲載紙面写真

○原爆文学展・神奈川近代文学館(平成十二年)

○幻の作品「河原」にかかわる記事

○知識階級動員懸賞入賞発表記事(中央公論)「海女」(一席入賞)を掲載

〈原稿〉

○「屍の街」

○「冬の巣」

〈手紙〉

林芙美子(昭十六年)/宇野千代(年不詳)/佐多稲子(年不詳)/壷井栄(昭二〇年代)/峠三吉(昭二六年)

〈写真〉

○ 著書「人間襤褸」と洋子

○ 林芙美子・辻山春子と(昭五年頃)

○ 母、千賀子、このみ、お手伝いさんと(「夕凪の街と人と」取材時期

○ 父・稲井穂十、母・トミと

○ 県庁時代の友人と

○ 進徳実科高等女学校卒業

○ 二〇歳前後の洋子

○ 「輝ク部隊」中支慰問団出発(昭十五年)

○ 「人間襤褸」第四回女流文学賞授賞式

○ 日本文藝家協会文学碑

など

〈書籍類〉

「流離の岸」(昭十四)小山書店/「海女」(昭十五)中央公論社/「櫻の國」/「淡粧」(昭十五)小山書店/「星はみどりに」(昭十七)有光社/「たたかひの娘」(昭十八)報国社/「屍の街」(昭二三)中央公論社/「屍の町」(昭二五)冬芽書房/「人間襤褸」(昭和二六)河出書房/「半人間」(昭二九)講談社/「夕凪の街と人と」(昭三〇)/「八〇歳」(昭二六)講談社、「大田洋子集」全四巻(昭五七年)三・一書房など多数


参考

「「大田洋子の文学」資料展で」(『中国新聞』、2006年9月13日)

「資料展:大田洋子の魅力にふれて 時代背景や変遷たどる きょうから中区で」(『毎日新聞』、2006年9月12日)

「広島で12日から大田洋子展」(『中国新聞』、2006年9月9日)

「大田洋子初めての本」(『中国新聞』天風録、2006年8月27日)