入院していろいろな検査を終了して、手術の説明を受ける時
追加検査で何が分かったか?
脳腫瘍の疑いで入院後、さらに精密検査を行いました。腫瘍の場所に限定したMRI検査、MRで塊の中の特殊な成分を検出する検査(MRスペクトル検査)、脳の機能を検査するMRI、アイソトープを使用した検査、脳血管撮影も受けられた場合もあろうかと思います。この時点で入院する前の状態に比べて新しく何が分かってきたのかを聞いてください。どんな腫瘍が考えられるのか、想定される腫瘍は少なくとも5種類以下には絞られている可能性が高いと思います。決して手術をするかしないかはまだ決定した訳ではありません。また、腫瘍の種類の説明を受けるときにはその名前をくれぐれも漢字とひらがなで書いてもらいましょう。英語でも書いていただければ理想的です。腫瘍の種類は脳腫瘍の種類の項を参考にしてください
手術はなぜ必要か?
脳腫瘍イコール手術ではありません。勘違いしている患者様も多いと思いますが、勘違いしている医師も多いのが実情です。これまでの検査で分かったことを総合して、医師団は次の治療計画を提示してきます。その治療計画の一つが手術である可能性は高いとは思います。その際にはなぜ手術が必要かを十分お聞きください。これが最も大切です。なぜ手術が必要かを説明せず、手術の危険性や手術のやり方ばかりを説明する医師は失格です。医師は手術の意味をお伝えし、患者様が手術の必要性を判断するために、手術のやり方と手術の危険性を説明するのです。
手術の意味 その1
脳腫瘍の手術とは3−12時間かけて(一日のうちで)腫瘍の存在する場所に到達して、腫瘍組織を取り出してくる行為です。頭を開けて行う場合は、皮膚と頭蓋骨、それに脳を包む膜(硬膜)を切って縫う訳ですから、大けがではないにしても、ちょっとした頭のげがはどうしても避けることはできません。手術が最高にうまくいっても、一年後に、何となく頭が重い、頭の皮がぴりぴりすると言った症状は全員に認められ、手術後何年もたってもこの様な症状を訴え続ける方もいらっしゃいます。
じゃあなぜ頭の手術をするのでしょう。それは、
総合的な判断の結果を患者様にお話しして、患者様が手術を選択された
からです。一番手術をする必要があるのは、手術をしないよりする方が患者様に明らかに利益がある場合です。しかし、手術は必ずうまくいくとは限りませんから、明らかに利益がある場合はありません。また、軽い交通事故で念のためとったMRIで症状の出ていない2センチの髄膜腫が見つかった場合などは、今手術をするのがいいのか、少し様子をみた方がいいのか、脳神経外科の学会で討論されるほどで、結論は出ていません。こんな時は医師の説明を聞いて、場合によってはセカンドオピニオンを聞いて、手術するかどうか、手術するならどこでするのかまで、患者側が決める必要があります。
手術の意味 その2
私は脳腫瘍の手術の意味は以下の3つに尽くされていると思います。
1. 腫瘍か腫瘍でないか塊を取って検査をしてみないと分からない場合
脳腫瘍ではないけれど脳に塊をつくる病気は結構あります。脳みそにばい菌が感染して膿をためたもの(脳膿瘍:のうのうよう)、神経細胞の足(突起)を包んでいる細胞が自然に解けてしまう病気(脱髄疾患:だつずいしっかん)、ウイルス性の脳炎、寄生虫の感染症などが代表です。現代ではこれらの病気は手術をしなくても大部分は診断がつきますが、私の勤務している病院では年に一回ぐらいこれらの病気の手術をすることがあります。区別が全くつかないから手術で決める場合が多いのですが、脳腫瘍と思っていたけれど、手術後の検査で脳腫瘍ではないことがはじめて分かったと言うこともまれにはあります。
大切なことは、腫瘍とこれらの病気の治療は正反対であるということです。逆の治療をしていたら腫瘍もそれ以外の病気も直らないのは当然ですが、悪化する場合もあるのが怖いところです。
2.できるだけ腫瘍をとることが治療になる点
手術は脳腫瘍の治療の中で最も強力な手段です。手術で腫瘍の塊を全部取り除くことができれば、当面の治療が終了する場合も数多くあります。また、手術後に別の治療が必要である場合でも、腫瘍が取り除かれていればいるほど、その後の治療が効きやすくなり、その後の治療自体も円滑に行うことができます。
3.手術の際に取り出した腫瘍を検査して、腫瘍の細かな種類・性質を決めることができる点
いろいろ体に影響が少なく、危険性の少ない検査が出てきましたが、その腫瘍自体を取り出して検査することほど正確な診断は今でもありません。取り出した腫瘍を蝋詰め(ロウズメ)にして、薄く切って色づけ(染色)して、ガラスの板に載せて顕微鏡で観察します。細胞や核の色・形、並び方などを観察して細かな脳腫瘍の分類のうちでどれに当てはまるかを決定します。これを病理検査といいます。病理検査の結果を病理診断と言い、それまでいろいろと行ってきた検査のファイナルアンサーになります。
さらに特殊な染色を追加して、腫瘍細胞がつくっているものを調べたり、腫瘍細胞の何%が増える性質を持っているかどうか調べることができます。また、患者様の承諾の後、取った材料の遺伝子を取り出して、遺伝子の検討を行う場合もあります。脳腫瘍の場合病理診断、遺伝子検査は手術をしなくては不可能です。こうした検査の結果と手術後のCT、MRI検査の結果を総合して、その後の治療計画を患者様に説明することとなります。
腫瘍を全部取ろうとすると重篤な合併症が出る場合、腫瘍を見た目に全部取っても後の治療が必ず必要で、かつ治療の結果が手術で取った量に関係ない場合などは、腫瘍の種類を決めるだけのために、ほんの少しだけ腫瘍を取ることもあります。これを生検術といい、この場合は手術の目的は治療ではなく、純粋に検査だけになります。胃や大腸、肺などでは内視鏡の検査ですむことですが、脳の場合は頭を開けて行うこともまれではありません。