広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 分子病理学研究室

学位取得者

学位取得者、学位論文要旨

1)大上 直秀 2002年3月
「胃癌におけるMGMTとhMLH1のプロモーター領域のメチル化」
Promoter hypermethylation of MGMT is associated with protein loss in gastric carcinoma. Int J Cancer 93:805-809, 2001
The promoter methylation status of the DNA repair genes, hMLH1 and MGMT in gastric carcinoma and metaplastic mucosa. Pathobiol 69:143-149, 2001
MGMT(O6-methyl-guanine-DNA methyltransferase)は、MNNGやMNUによってなどの発がん剤によって産生されるO6-methylguanineを修復する酵素である。本研究では、胃癌について、MGMTのメチル化とその発現との関係を解析し、さらに、MGMTとミスマッチ修復酵素であるhMLH1のメチル化の相関を胃癌およびその発生母地と考えられる腸上皮化生について検討した。胃癌の31%において、MGMTのプロモーター領域のメチル化がMSPによって見いだされた。メチル化症例すべてにおいてMGMT蛋白の発現は減弱していた。高分化型癌にMGMTのメチル化は多い傾向にあり、発現レベルは有意に低かった。MGMTの発現は、ステージの進んだ症例で有意に減少していた。MGMTのメチル化と発現消失がみられた胃癌細胞株では、抗メチル化剤5-Aza-2'-deoxycytidineにより、MGMTの発現誘導が認められた。hMLH1、MGMTのメチル化は、ともに高分化型腺癌に有意に高頻度であったが、hMLH1とMGMTが同時にメチル化されている症例はわずか1例のみであった。hMLH1のメチル化は腸上皮化生全例に認められ、一部の不完全型腸上皮化生にhMLH1蛋白の発現減弱が認められた。以上、本研究により、MGMTおよびhMLH1のプロモーター領域のメチル化による不活化は、それぞれ独立して、胃癌、特に高分化型腺癌の発生・進展に関与する可能性が示唆された。さらに、hMLH1のメチル化は、胃癌の発生母地である腸上皮化生の段階から出現することが明らかとなった。
2)倉岡 和矢 2004年3月
「HER-2遺伝子の細胞膜貫通部位コード領域における—塩基多型は胃癌の発生及び悪性度と関連する—」
A single nucleotide polymorphism in the transmembrane domain coding region of HER-2 is associated with development and malignant phenotype of gastric cancer. Int J Cancer 107:593-596, 2003
HER-2(erbB-2/neu)遺伝子の細胞膜貫通部位コード領域にアデニンがグアニンとなりイソロイシン(Ile)からバリン(Val)へのアミノ酸変化を伴う一塩基多型が同定されている。そこで本研究では、この遺伝子多型と胃癌のリスク及び癌の進展との関連を検討した。遺伝子型Ile/Ile、Ile/Val, Val/Valの分布は胃癌症例では各々68.9%、26.4%、4.7%、対照例では81.5%、16.7%、1.8%であった。胃癌症例においてはIle/Val及びVal/Valが統計学的に有意に多く、Ile/Ileに対するオッズ比は、Val/Valでは3.25(95%信頼区間1.09-9.70)、Ile/Valでは1.97(95%信頼区間1.27-3.06)であった。これらの結果は、Valアリルを持つVal/Val、Ile/Val遺伝子型において胃癌発生のリスクの高いことを示唆した。胃癌症例において、TNM分類、病期、分化度等の臨床病理学的因子と遺伝子型との関連を検討すると、より深い深達度を示す症例、リンパ節転移を伴う症例、より進んだ病期にある症例では、Valアリルを持つVal/Val、Ile/Val遺伝子型が統計学的に有意に多かった。すなわち、HER-2遺伝子の細胞膜貫通部位コード領域における一塩基多型は胃癌の発生及び悪性度と関連することが示され、この多型は胃癌の発生や悪性度の有用なマーカーとなり得ることが示唆された。
3)大下 恭弘 2004年3月
「ヒト胃癌において高頻度に認められるプロモーター領域のメチル化によるRIZ1の不活化」
Frequent epigenetic inactivation of RIZ1 by promoter hypermethylation in human gastric carcinoma. Int J Cancer 110:212-218, 2004
RIZ (retinoblastoma protein-interacting zing finger gene) はRb結合蛋白としてクローニングされた遺伝子であり、PRドメインを有するRIZ1はヒストンメチル化酵素活性を有し、遺伝子発現制御に関わっている。本研究では、胃癌について、RIZ1のメチル化、発現および臨床病理学的因子との関係を解析し、RIZ1のメチル化とCIMP(CpG island methylator phenotype)およびp53変異との関連について検討した。胃癌細胞株でRIZ1の発現消失しているものは、RIZ1のメチル化を認め、脱メチル化剤5-Aza-2'-deoxycytidine処理により、RIZ1の発現が誘導された。胃癌症例では、RIZ1のメチル化は腫瘍部の69%、s非腫瘍部の21%に認められ、腫瘍部で有意に高頻度であった。若年健常人の正常胃粘膜にはRIZ1のメチル化は認めなかった。RIZ1のメチル化を認めた腫瘍部では、RIZ1の発現は有意に低レベルであった。RIZ1のメチル化はdiffuse-scattered typeよりもintestinalおよびdiffuse-adherent typeの腫瘍に有意に高頻度であった。胃癌の40%がCIMPを示し、RIZ1のメチル化と有意な相関を認めた。胃癌組織においてはp53の変異とRIZ1のメチル化あるいは発現との相関は認めなかった。これらの結果から、RIZ1のプロモーター領域のメチル化による不活化は胃癌において高頻度に認められ、特にintestinal typeおよびdiffuse-adherent typeの胃癌発生に関わり、さらにRIZ1はCIMPの標的遺伝子である可能性が示された。
4)近藤 丈博 2004年3月
「POT1遺伝子の発現は胃癌のステージ及びテロメア長と関連する」
Expression of POT1 is associated with tumor stage and telomere length in gastric carcinoma. Cancer Res 64:523-529, 2004
染色体末端のテロメア領域には繰り返しDNA配列が存在し、その3'末端は一本鎖の状態で突出している。近年、このテロメアの3'突出末端に特異的に結合し、これを保護する蛋白としてPOT1が同定され、テロメラーゼを補充する作用も持つことが予想されている。本研究では、POT1の発現と癌の進行度との関連、テロメア長との関連等について胃癌症例および胃癌細胞株を用いて検討した。POT1の発現(癌部/非癌部比:T/N)は,Stage I/IIに比べ、Stage III/IVにおいて有意に高かった。POT1の発現レベルとテロメア長との間に正の相関が見いだされた。3'overhang signalと、POT1の発現レベルとの間およびテロメア長との間に正の相関が認められた。胃癌細胞株MKN-28をAZTで処理し、人為的にテロメア長を短縮化させると、POT1の発現レベルはテロメア長の短縮に従い減少した。同細胞株をPOT1のアンチセンスで処理したところ、テロメラーゼ活性の低下、テロメア長の短縮、3'overhang signalの低下、anaphase bridge の増加が認められた。これらの結果から、POT1はテロメア長の調節とテロメアの保護に重要な役割を果たし、その発現低下は染色体不安定性を惹起するテロメア機能不全をもたらし胃癌の発生・進展に関与する可能性が示された。
5)松村 俊二 2005年1月
「メタロプロテアーゼ遺伝子の一塩基多型と胃癌の発生・進展との関連」
A single nucleotide polymorphism in the MMP-1 promoter is correlated with histological differentiation of gastric cancer. J Cancer Res Clin Oncol 130:259-265, 2004
A single nucleotide polymorphism in the MMP-9 promoter affects tumor progression and invasive phenotype of gastric cancer. J Cancer Res Clin Oncol 131:19-25, 2005
癌の浸潤・転移においてmatrix metalloproteinase (MMP) は重要な役割を演じる。MMP-1遺伝子のプロモーター領域-1607bpの部位に1G/2Gの一塩基多型SNPが同定され、MMP-9遺伝子のプロモーター領域には-1562bpの部位にC/TのSNPが存在する。本研究では、これらSNPと胃癌の発生リスクならびに進展における関連について検討した。MMP-1プロモーター領域におけるSNPでは、胃癌症例と対照群で遺伝子型の分布に差は認められなかった。胃癌症例における臨床病理学的パラメーターと遺伝子型の分布との関連では、2Gアレルを有する1G/2G、2G/2G遺伝子型は,組織学的にはDiffuse typeに多く見られた。MMP-9プロモーター領域における遺伝子型C/C、C/T、T/Tの分布は、胃癌症例と対照群で遺伝子型の分布に差は認められなかった。胃癌症例では、より深い壁深達度を示す症例、リンパ管侵襲を伴う症例、より進んだ病期にある症例において、Tアレルを有するC/T、T/T遺伝子型が多く認められた。以上より、MMP-1およびMMP-9のプロモーター領域におけるSNPは、胃癌の発生リスクには影響しないものの、MMP-1では胃癌における組織学的分化度に関連することが示され、MMP-9では胃癌の深達度や進行度との関連が認められることから、進展における危険因子として良い指標となり得ると考えられた。
6)三谷 佳嗣 2005年12月
「ヒストンH3のアセチル化は胃癌におけるp21WAF1/CIP1遺伝子の発現抑制に関与している」
Histone H3 acetylation is associated with reduced p21WAF1/CIP1 expression by gastric carcinoma. J Pathol 205:65-73, 2005
転写制御においては、ヒストンのアセチル化やメチル化などの修飾によるクロマチン構造の変化が重要である。しかし、実際の癌組織におけるヒストンのアセチル化状態と遺伝子発現との関連の解析はない。一方、p21WAF1/CIP1の発現は、ヒストンの脱アセチル化阻害によって誘導されることが知られている。本研究では、胃癌細胞株および胃癌組織におけるp21WAF1/CIP1のヒストンアセチル化とその発現ならびにp53との関係を検討した。胃癌細胞株では、p53遺伝子変異によらずTSA処理よりp21WAF1/CIP1の発現は誘導され、同時にプロモーター(P)領域およびコーディング(C)領域におけるヒストンH3およびH4のアセチル化レベルは増強されていた。胃癌症例において、H3の低アセチル化はp21WAF1/CIP1のP領域では34.5%、C領域では34.5%、H4の低アセチル化はP領域では20.7%、C領域では55.2%であった。P領域におけるH3の低アセチル化はp21WAF1/CIP1mRNAの発現現弱と有意な相関が得られた。以上の結果より、胃癌において、ヒストンアセチル化、特にH3の低アセチル化はp53 非依存的にp21WAF1/CIP1の発現抑制に関与することが示唆された。
この成果は、癌細胞株のみならず癌組織試料をも用いて得られたものであり、ヒストンアセチル化による遺伝子発現制御が実際の癌においても普遍的に存在することを示すものである。
7)Phyu Phyu Aung 2006年1月
「SAGEデータに基づく胃癌特異的遺伝子の網羅的検索: melanoma inhibitory activityとmatrix metalloproteinase-10 は胃癌患者の新規予後因子である」
Systematic search for gastric cancer-specific genes based on SAGE data: melanoma inhibitory activity and matrix metalloproteinase-10 are novel prognostic factors in patients with gastric cancer. Oncogene 25:2546-2557, 2006
著者らは,Serial Analysis of Gene Expression (SAGE) 法を用いて胃癌組織を解析し、世界最大の胃癌SAGEライブラリーを完成している。本研究では、胃癌SAGEライブラリーと生存に必須の正常臓器のライブラリーを比較して癌特異的発現遺伝子の候補を探索し、新規診断・治療標的の同定を試みた。胃癌と正常臓器のSAGEライブラリーの比較から54個の候補遺伝子を抽出し、定量的RT-PCR法から胃癌特異的発現遺伝子として9遺伝子(APIN、TRAG3、CYP2W1、MIA、MMP-10、DKK4、GW112、REGIV、HORMAD1)を同定した。GW112およびMIAのmRNA発現レベルは、癌の進行と有意な相関を示した。MIAとMMP-10は、免疫染色ではそれぞれ32%と45%に陽性であり、癌の進行、不良な予後と有意な相関を認めた。胃癌患者血清中のMMP-10レベルの測定では、cutoff値を200pg/mlとすると、陽性例は健常者および胃炎患者では15%、胃癌では94%であり、ステージ2以上では全例陽性であった。MIA導入胃癌細胞株MKN-28では、emptyベクター導入株と比較して浸潤能が有意に促進された。以上の結果より、MMP-10は胃癌検出のよいマーカーであり、MIAとMMP-10は胃癌の予後因子であることが示された。さらに、MIAとMMP-10の発現は癌に限定しており、その機能を合せ考えると胃癌治療の新規標的として有用であると考えられた。
8)本下 潤一 2006年2月
「分化型胃癌における粘液形質発現とDNAメチル化および癌関連遺伝子発現」
DNA methylation profiles of differentiated-type gastric carcinomas with distinct mucin phenotypes. Cancer Sci 96:474-479, 2005
Molecular characteristics of differentiated type gastric carcinoma with distinct mucin phenotype: LI-cadherin is associated with intestinal phenotype. Pathol Int 56:200-205, 2006
 胃癌は,粘液形質発現により、胃型(G型)、腸型(I型)、混合型(GI型)、分類不能型(N型)に亜分類することができる。本研究では、分化型胃癌を亜分類し、種々の遺伝子のプロモーター領域のメチル化および癌関連分子の発現との関係について検討した。分化型進行胃癌における粘液形質発現の陽性例は、それぞれHGMが43%、M-GGMC-1が15%,MUC2が46%、CD10が55%であり、G型15%、I型 43%、GI型 27%、N型15%に分類された。DNAメチル化は、それぞれhMLH1で15%、MGMTで33%、p16INK4aで39%、RAR-betaで52%、E-cadherinで43%に認められた。hMLH1のメチル化はMUC2陰性例において、MGMTのメチル化はMUC2陽性例において有意に高頻度であった。分化型早期癌は、G型 24%、I型 34%、GI型 24%、N型18%に分類された。早期癌と進行癌との比較では、EGFRとLI-cadherinの過剰発現、E-cadherinの発現低下およびp53の異常蓄積が進行胃癌において有意に高頻度であった。粘液形質発現との関連では、LI-cadherinの過剰発現はI型においてG型よりも有意に高頻度であった。これらの結果は、分化型胃癌において、粘液形質と関連する遺伝子・分子の異常が存在することを明らかにしており、胃型癌と腸型癌との生物学的態度の違いを規定する因子の一端を解明したものである。
9)首藤 真理子 2007年1月
「胃癌におけるレチノイン酸シグナリング関連遺伝子のDNAメチル化:retinoid acid receptor beta, cellular retinol-binding protein 1およびtazarotene-induced gene 1の発現はDNAメチル化と相関する」
DNA methylation of genes linked with retinoid signaling in gastric carcinoma: Expression of the retinoid acid receptor beta, cellular retinol-binding protein 1, and tazarotene-induced gene 1 genes is associated with DNA methylation. Cancer 104:1609-1619, 2005
種々の癌でレチノイン酸受容体-β(RAR-β)遺伝子は高頻度にメチル化が起きている。cellular-binding protein 1 (CRBP1) は、血中レチノイン酸と結合し細胞内に取り込む作用を有する。Tazarotene-induced gene 1 (TIG1) は、RAR-β、-γを介して細胞間接着に関わり、細胞増殖を抑制する。本研究では、胃癌におけるレチノイドシグナル関連遺伝子の意義を明らかにする目的で、RAR-β、CRBP1、TIG1のDNAのメチル化とmRNAの発現を検討した。胃癌細胞株の検討では、CRBP1とTIG1の発現消失はメチル化と関連し、脱メチル化により発現回復が確認された。胃癌症例における検討では、RAR-β、CRBP1,TIG1のメチル化は、 36%、33%、10%に認められ、非腫瘍部よりも明らかに高頻度であった。mRNA発現低下とメチル化に有意な相関を認めた。3遺伝子のメチル化と臨床病理学的因子に有意な関連はなかった。以上、胃癌においてレチノイドシグナル関連遺伝子RAR-β、CRBP1、TIG1がDNAのメチル化によって高頻度に不活化されていることが明らかとなった。DNAのメチル化と深達度,転移,ステージとの関連は見出されず,癌の進展よりも癌の発生に関わるものと考えられた。これらの遺伝子の発現は脱メチル化剤によって回復することから、胃癌に対するレチノイドと脱メチル化剤の併用療法が有用である可能性も示唆された。
10)眞田 雄市 2007年1月
「Serial analysis of gene expressionデータ解析によって同定されたclaudin-18遺伝子の腸型胃癌における発現低下」
Down-regulation of the claudin-18 gene, identified through serial analysis of gene expression data analysis, in gastric cancer with an intestinal phenotype. J Pathol 208: 633-642, 2006
 胃癌で特異的に発現が抑制されている遺伝子を同定することを目的として、serial analysis of gene expression(SAGE)ライブラリーのスクリーニングを行ない、23の候補遺伝子の中から胃癌の50%以上で発現の低下している遺伝子として、claudin-18(以下CLDN18)を同定した。CLDN18は,タイトジャンクション蛋白一つであり、homeodomain転写因子であるT/EBP/Nkx2.1の標的遺伝子として初めて同定されたものである。そこで、胃癌細胞株と胃癌組織におけるCLDN18の発現様式・局在と粘液形質、進展、予後との関連を検討した。バリアント特異的RT-PCRでは非癌部胃粘膜にCLDN18 v2の発現があり、胃癌では多くの症例で発現は消失していた。免疫染色による検討では、非癌部において、正常胃粘膜のすべての上皮細胞と十二指腸のPaneth細胞の細胞膜に局在を認めた。一部の腸上皮化生、大部分の胃腺腫、57.5%の胃癌において発現低下を認めた。発現低下を認める進行胃症例の5年生存率は有意に低下していた。粘液形質発現との関連では、腸型胃癌において有意に発現が低下していた。本研究から、CLDN18の発現低下は、進行胃癌における予後因子として有用であること、腸型胃癌の発癌早期に関与していることが示唆された。胃型上皮分化に関与する転写因子の調節を受けている可能性も考えられた。
11)仙谷 和弘 2008年1月
「マイクロアレイとSAGE法を用いた遺伝子発現プロファイリングにより同定されたPLUNCは胃原発hepatoid adenocarcinomaの新規マーカーである」
Gene expression profiling with microarray and SAGE identifies PLUNC as a marker for hepatoid adenocarcinoma of the stomach. Modern Pathol 21: 464-475, 2008
網羅的遺伝子発現解析の手法としてcDNA microarrayとSerial Analysis of Gene Expression (SAGE) 法が知られている。本研究では、同一胃癌サンプル(充実型低分化型腺癌)を用いてSAGE法と5万プローブを搭載したcDNA microarrayで解析した発現遺伝子リストを比較して、SAGE法では検出できなかった新たな胃癌特異的発現遺伝子の候補を探索し、新規診断・治療標的の同定を試みた。cDNA microarrayで最も発現が亢進している遺伝子はPLUNC(Palate, lung, and nasal epithelium carcinoma-associated protein)であった。胃癌の免疫染色でPLUNC陽性は9%のみであったが、多くの癌細胞が染色された症例の大部分はAFP産生胃癌であるhepatoid adenocarcinomaであった。胃hepatoid adenocarcinomaの肝転移と原発性肝細胞癌は治療方針が異なるために、鑑別診断は重要である。胃hepatoid adenocarcinomaの肝転移巣ではPLUNCの陽性像が確認されたのに対して、原発性肝細胞癌では全例陰性であった。また、正常の成人の肝臓や胎児の肝臓でもPLUNCの染色性は認められなかった。以上の結果より、網羅的遺伝子発現解析で同定したPLUNCは胃hepatoid adenocarcinomaの新規マーカーであり、原発性肝細胞癌との鑑別に有用であることが示された。
12)大原 慎也 2010年2月
「Reg IVは限局性前立腺癌における独立した再発の予測因子である」
Reg IV is an independent prognostic factor for relapse in patients with clinically localized prostate cancer. Cancer Sci 99:1570-1579, 2008
Regenerating islet-derived family, member 4(REGW)は炎症性腸疾患において発現が亢進している遺伝子としてクローニングされている。本研究では限局性前立腺癌におけるREGWの発現とその意義に関し検討した。前立腺癌におけるREGW、MUC2、chromograninAの免疫染色による解析の結果、REGWの発現は腸型形質、神経内分泌分化と有意に関連していた。術後のPSA再発との関連を検討したところ、多変量解析においてREGW陽性例(P=0.0312)、Gleason score 8以上(P=0.0014)、術前PSA 20ng/ml以上(P=0.0357)の症例において有意にPSA再発が高く、REGWは独立した予後予測因子とみなされた。EGFRの発現を認めるホルモン感受性前立腺癌細胞株LNCaPを用いてREGWを含む培養液で処理したところ、EGFRのリン酸化が誘導された。REGW含有培養液中のEGF・TGF-αは検出限界以下であったことから、REGWはEGF・TGF-α非依存的にEGFRを活性化するものと考えられた。前立腺癌手術症例におけるREGWとリン酸化EGFR発現の免疫染色による解析では、両者の間に症例レベルで有意な関連が認められた(P=0.0099)。以上より、REGWが術後PSA再発の独立した予測因子であり、また、前立腺癌のホルモン不応性の獲得にREGWが関与している可能性が示唆された。
13)坂本 直也 2010年2月
「Serial analysis of gene expression法を用いた食道扁平上皮癌の解析:食道扁平上皮癌においてADAMTS16の発現は亢進している」
Serial analysis of gene expression of esophageal squamous cell carcinoma: ADAMTS16 is up-regulated in esophageal squamous cell carcinoma. Cancer Sci 101:1038-1044, 2010
食道癌は発見時に臨床病期が進行している症例が多く、五年生存率は他の消化管癌と比較しても著しく低い。そこで本研究では、Serial Analysis of Gene Expression(SAGE)法による遺伝子発現解析を基盤として食道癌の新規診断、治療標的の同定を試みた。食道扁平上皮癌1サンプルについてSAGEライブラリーを構築し、データベース上の正常食道のSAGEデータを加えた64938タグ、20600種類の転写産物を解析したところ、食道扁平上皮癌で発現が亢進している遺伝子として、ADAMTS16、IGHG1、 COL1A1、SPARC等が同定された。ADAMTS16発現の定量的RT-PCRによる解析では食道癌20例中8例に高発現が認められたのに対し、既知のマーカー遺伝子SCCA1では4例に高発現が認められたのみであった。ADAMTS16の発現とT-gradeの進行との間に有意な相関が認められた。食道癌細胞株を用いた機能解析では、mRNA発現レベルの高かったTE5において細胞溶解液、培養液中のいずれにもADAMTS16蛋白が検出され、分泌蛋白であることが明らかとなった。さらに、TE5に対してsiRNAを用いてADAMTS16の発現をノックダウンしたところ、未処理の細胞と比較し、浸潤能、細胞増殖能はいずれも有意に抑制された。以上より、ADAMTS16は食道扁平上皮癌の新しい診断・治療標的となる可能性が示された。
14)阿南 勝宏 2010年9月
「CAST(Escherichia coli ampicillin secretion trap)法を用いた胃癌特異的膜蛋白質の探索:腸型粘液形質を有する胃癌におけるDSC2の発現」
Search for transmembrane protein in gastric cancer by the Escherichia coli ampicillin secretion trap: expression of DSC2 in gastric cancer with intestinal phenotype. J Pathol 221:275-284, 2010
CAST法を用いて、胃癌に特異的に発現する膜蛋白質の新規同定を試みた。胃癌細胞株MKN-1、MKN-28および正常胃粘膜組織から抽出したmRNAよりCAST libraryを作製し、CASTベクターに挿入、アンピシリン耐性コロニー各々1440に対してシークエンスを行った。次に、同定した遺伝子の発現を正常主臓器と胃癌組織について定量的RT-PCR法で解析し、胃癌に特異性のある膜蛋白質遺伝子としてDSC2(desmocollin 2)を同定した。胃癌症例の定量的RT-PCR法では32%において癌部で2倍以上のDSC2発現を認めた。DSC2の免疫染色では、胃癌の28%にDSC2が陽性であった。胃癌327例からなるtissue microarrayを用いた検索では、MUC2陽性の54%でDSC2陽性となり、MUC2陰性例(28%)と比較して有意に高頻度であった。また、CDX2陽性例におけるDSC2陽性率(59%)は、CDX2陰性例(25%)と比較して有意に高率であった。大腸癌細胞株HT-29を用いた検討では、CDX2によるDSC2の発現誘導が確認された。DSC2-siRNA処理は、増殖能・浸潤能に影響を及ぼさなかった。以上よりDSC2は、CDX2の制御を受け、胃癌においては腸型形質の発現に関与しており、腸型形質を有する胃癌の新規マーカーになることが明らかとなった。
15)林 哲太郎 2011年5月
「DSC2は尿路上皮癌の扁平上皮分化を検出する新規免疫染色マーカーである」
DSC2 is a new immunohistochemical marker indicative of squamous differentiation in urothelial carcinoma. Histopathology, in press
膀胱癌尿路上皮腫瘍において一部でも扁平上皮への分化を含む症例は純粋な尿路上皮癌と比べstageが高く予後も不良である。本研究では、desmosomeを構成する膜蛋白質Desmocollin 2 (DSC2)の発現を検討し、Uroplakin V (UPV)、CK7/CK20、p53、EGFRの発現との比較解析を行なった。扁平上皮への分化を伴う尿路上皮癌では96%でDSC2の発現が確認されたのに対し、純粋な尿路上皮癌ではDSC2の発現は全く認められなかった。一方、UPVは尿路上皮癌成分でのみ発現が認められ扁平上皮分化部位での発現はなく、DSC2とは完全に排他的な発現パターンを示した。CK7とCK20は純粋な尿路上皮癌と比べ扁平上皮分化部位で有意な発現の減弱が認められた。DSC2はstageの進行した症例で有意に高頻度に認められ、DSC2陽性例は陰性例と比べ有意に予後不良であった。DSC2の生物学的特性について細胞株を用いて検討したが、細胞増殖能、浸潤能には影響を及ぼさなかった。DSC2陽性例はp53の発現との相関は認められなかったが、EGFRの発現と有意な相関が認められた。以上より、DSC2は膀胱癌において扁平上皮への分化を示す部分を感度特異度ともに高く検出する有用な診断マーカーであり、DSC2陽性例はstageが高く予後不良であるため、予後予測マーカーとなり得ることが示唆された。

学位取得者(修士)

1)世古 直嗣 2010年2月(医科学修士)
「大腸癌におけるOlfactomedin 4 (GW112, hGC-1) の発現と予後との関連」
OLFM4は、2001年にヒト骨髄芽球からクローニングされた遺伝子で分泌蛋白質Olfactomedin 4をコードしており,小腸・大腸の幹細胞のマーカーである可能性が指摘されている。本研究では、大腸癌におけるOlfactomedin 4の発現と臨床病理学的因子との関連を検討した。外科的に切除された176例の大腸癌のホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いて免疫染色を行なったところ、56例(34%)でOlfactomedin 4が陽性であり、癌の進行とは有意な逆相関が認められた。Olfactomedin 4陽性例は陰性例と比較して有意に予後良好であり、多変量解析においても独立した予後予測因子であった。Olfactomedin 4の発現は、非癌部粘膜では幹細胞が存在する陰窩基底部に認められたが、大腸癌では癌細胞の半数以上が陽性となる症例もあり、癌幹細胞のマーカーにはなりえないものと判断された。以上、Olfactomedin 4が大腸癌の独立した予後予測因子であり、今後の臨床応用が期待される。
2)高見 北斗 2010年2月(医科学修士)
「胃癌のサイトケラチンパターンとがん関連分子及び粘液形質発現との関連」
サイトケラチン(以下CKと略す)7およびCK20の発現は各臓器癌で特徴的なパターンを示すが,胃癌では一定のCK発現パターンを示さず、パターンを決定づける分子機構についても殆ど知られていない。本研究では、胃癌において各々のCKパターン別に代表的ながん関連分子および粘液形質の発現について検討した。外科的に切除された胃癌のホルマリン固定パラフィン包埋標本870例(tissue microarrayを含む)を用いて免疫染色で解析した。CKパターン別では、それぞれCK7+/CK20+が18%、CK7+/CK20-が57%、CK7-/CK20+が9%、CK7-/CK20-が17%であった。低分化型胃癌でCK7-/CK20-パターンが多かったが、進行度とCKパターンとの関連はなかった。CK7+/CK20-パターンはMUC5ACおよびMUC6の発現と、CK20陽性胃癌はCDX2およびMUC2の発現と有意に相関していた。粘液形質との関係では、CK7+/CK20-パターンはG typeと、CK7-/CK20+パターンはI typeと有意に関連していた。p53、EGFR、β-cateninの発現とCKパターンには相関は認められなかった。以上、胃癌をCKパターン別に詳細に検討し、CKパターンに特徴的ながん関連分子および粘液形質の発現が存在することが明らかとなった。
3)松田 美穂 2010年2月(医科学修士)
「大腸癌におけるclaudin-18の臨床病理学的解析と粘液形質との関連」
Claudinファミリーは、細胞接着に関わるタイトジャンクションの構成蛋白のひとつで、傍細胞輸送を調節している。本研究では、大腸癌におけるclaudin-18 (CLDN18)の発現と粘液形質、CDX2および予後との関連を解析した。外科的に切除された569例の大腸癌のホルマリン固定パラフィン包埋標本を用いて免疫染色を行なったところ、CLDN18の発現は21/569(4%)に認められ、MUC5AC陽性の胃型粘液形質を有する症例、腸型転写因子CDX2の発現が陰性の症例に有意に高頻度であった。CLDN18陽性症例は,組織学的に胃癌に類似した形態を示すものが多く認められた。CLDN18およびMUC5ACに関しては陰性症例と比較して陽性症例で、CDX2に関しては陽性症例と比較して陰性症例で有意に予後不良であった。多変量解析においてもCLDN18の発現は独立した予後不良因子であった。以上、大腸癌におけるCLDN18の発現は胃型粘液形質と関連し、それらは胃癌に類似した形態を示すこと、有意に予後が不良であることが明らかとなった。
4)内藤 寛 2011年2月(医科学修士)
「胃癌特異的遺伝子REG4のプロモーター領域の解析-CDX2による転写制御の検討」
REG4が臓器特異的発現を示し、胃癌進展に関与することは分かっているが、その発現制御機構についてはこれまでに報告がない。REG4蛋白がMUC2陽性の腸型形質を有する細胞で発現していることから、REG4が腸型転写因子CDX2により転写制御を受ける可能性が推測される。そこで本研究では、REG4の転写制御機構におけるCDX2の役割について検討を行った。胃癌細胞株10株中6株でREG4とCDX2の発現に相関が認められた。大腸癌細胞株HT29を用いてCDX2を強制発現させると実際にREG4の発現が誘導された。次に、REG4遺伝子の上流配列を解析すると、CDX2のコンセンサスシークケンスが11カ所見出された。そこでdeletion mutantを作製し、レポーターアッセイによる検討を行ったところ、CDX2の結合には特に上流130-137bpが重要であることが明らかとなった。さらに、クロマチン免疫沈降でも同部位でのCDX2とREG4遺伝子の直接結合が確認された。以上の結果から、REG4遺伝子上流配列には、CDX2が結合する領域が確かに存在し、REG4はCDX2により転写制御を受けることが明らかとなった。
5)若松 雄太 2011年2月(医科学修士)
「胃癌の原発巣と転移巣における粘液形質発現及び癌幹細胞マーカー発現の免疫組織化学的検討」
胃癌の原発巣と転移巣における粘液形質の変化および癌幹細胞の意義を明らかにするため、リンパ節転移を有する胃癌を材料に4種類の粘液形質分類(G, I, GI, N type)の比較と3種類の癌幹細胞マーカー(ALDH1、 CD44、CD133)の臨床病理学的意義を免疫組織化学的に検討した。検討した胃癌症例110例中64症例において原発巣・転移巣は同じ粘液形質を示したが、変化した症例では、転移巣でN typeになる傾向が高かった。次に癌幹細胞マーカーの発現と臨床病理学的因子との関連では、ALDH1は腫瘍深達度と相関し、特に未分化型胃癌の転移巣での高発現が認められた。CD44とCD133の発現はいずれもリンパ節転移のある症例で有意に多く、予後不良であった。以上より、胃癌の転移巣での粘液形質は特にN型に変化する頻度が高く、また検討した癌幹細胞マーカーの発現はいずれも癌の進展あるいは予後に寄与していることが明らかとなった。

研究室関連学位取得者

1)松谷 憲政(第一内科:茶山 一彰教授)2002年3月
「ヒト胃癌におけるテロメア関連因子及びDNA修復酵素の発現」
Expression of telomeric repeat binding factor 1 and 2 and TRF1-interacting nuclear protein 2 in human gastric carcinomas. Int J Oncol 19:507-512, 2001
Expression of MRE11 complex (MRE11, Rad50, NBS1) and hRAP1 and its relation with telomere regulation, telomerase activity in human gastric carcinomas. Pathobiol 69:219-224, 2001
 染色体末端には5'-TTAGGG-3'の繰返し配列が存在し、染色体の安定性に関与している。本研究は、テロメア制御機構の胃癌への関与を明らかにする目的で、ヒト胃癌組織において、テロメア関連因子及びDNA修復酵素の発現を検索し、テロメラーゼ活性、テロメア長等との関連を解析した。胃癌において、非癌部より癌部でmRNAの発現亢進を示した症例は、TRF1では50%、TRF2では60%、tankyraseでは50%、TIN2では30%、MRE11では65%、RAD50では70%、NBS1では80%、Sir2では60%、hRAP1では65%であった。TRF2の高発現群ではtankyrase、TIN2、hRAP1の発現が有意に高かった。2Kbp以下の短いテロメアを有する群は、テロメラーゼ活性およびTRF1の発現が有意に高かく、TRF2およびTIN2の発現も高い傾向にあった。従って、テロメア長の短い胃癌細胞では、高いテロメラーゼ活性とTRF1、TRF2およびTIN2が必要であることが示唆された。TRF1高発現群においてMRE11およびRAD50の発現が有意に高く、TRF2高発現群においては、MRE11およびNBS1の発現が有意に高かった。TRF1およびTRF2の高発現群では、MRE11 complexの高発現が必要であり、両者がテロメアループ構造の形成及び解除に関与している可能性が考えられた。
2)濱井 洋一 (原医研腫瘍外科:峠 哲哉教授)2004年3月
「胃癌におけるHLTF遺伝子のメチル化とヒストン脱アセチル化による発現抑制」
DNA hypermethylation and histone hypoacetylation of the HLTF gene is associated with reduced expression in gastric carcinoma. Cancer Sci, 94, 692-698, 2003
SWI/SNF複合体は、酵母から真核生物において存在し、ATP依存的にクロマチン構造を変化させ、転写を制御するクロマチンリモデリング因子である。SWI/SNF familyのhelicase like transcription factor (HLTF) が癌抑制遺伝子として働き、大腸癌ではメチル化と発現消失が関連することが明らかにされた。本研究では、胃癌細胞株および胃癌症例について、HLTF遺伝子のプロモーター領域のメチル化、ヒストンH3、H4のアセチル化,HLTFの発現を検討した。胃癌組織ではHLTFのメチル化は50%に認められ、メチル化症例ではHLTF mRNAの発現レベルは低下していた。メチル化、mRNAレベルと臨床病理学的事項との相関は認められなかった。胃癌細胞株KATO-IIIではメチル化がありHLTFの発現は消失していた。Aza-dCあるいはTSAで処理すると、HLTF mRNAの発現が誘導された。さらに、HLTF遺伝子の5'CpG islandおよびcoding regionのどちらの領域においてもヒストンH3、H4ともにアセチル化レベルは上昇した。以上の結果より、HLTF遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化とヒストン脱アセチル化が、遺伝子発現抑制を介して胃癌の発生に関与している可能性が示唆された。
3)水入 寛純(原医研腫瘍外科:碓井 亞教授:代行)2007年1月
「食道扁平上皮癌におけるレチノイン酸シグナリング関連遺伝子のDNAメチル化:CRBP1とTIG1のDNAメチル化は腫瘍ステージと関連する」
DNA methylation of genes linked to retinoid signaling in squamous cell carcinoma of the esophagus: DNA methylation of CRBP1 and TIG1 is associated with tumor stage. Cancer Sci 96: 571-577, 2005
レチノイドはレチノイン酸受容体(RAR-a、-β、-γ)とレチノイドX受容体を介して発癌に対して抑制的に働く。cellular-binding protein 1(CRBP1) は、血中レチノイン酸と結合し細胞内に取り込む作用を有する。Tazarotene-induced gene 1(TIG1)は、合成レチノイドTazaroteneで誘導される遺伝子である。本研究では、食道扁平上皮癌におけるレチノイドシグナル関連遺伝子の意義を明らかにする目的で、RAR-β、CRBP1、TIG1のDNAのメチル化とmRNAの発現を検討した。RAR-β、CRBP1、TIG1のメチル化は,食道扁平上皮癌の25%、18%、18%に認められ、いずれもmRNAの発現低下と相関していた。少なくとも1つ以上のDNAメチル化を認めたものは43%であった。CRBP1とTIG1のメチル化は、深達度、リンパ節転移、ステージの進行と相関し、RAR-β mRNAの発現低下はリンパ節転移例に有意に高頻度であった。本研究により、食道扁平上皮癌においてレチノイドシグナル関連遺伝子であるRAR-β、CRBP1、TIG1がDNAのメチル化によって比較的高頻度に不活化されていることが明らかとなった。特に、CRBP1とTIG1のメチル化は早期の癌では認められずステージの進行と相関することから、癌の進展に関与することが示唆された。
4)鈴木 崇久(原医研腫瘍外科:岡田守人教授)2007年8月
「MAGE-A1の発現は進行再発胃癌においてdocetaxelとpaclitaxelの感受性予測因子となる」
Melanoma-associated antigen-A1 expression predicts resistance to docetaxel and paclitaxel in advanced and recurrent gastric cancer. Oncol Rep 18: 329-336, 2007
Melanoma-associated antigen(MAGE)遺伝子群は、染色体Xq28に存在しtaxol (Paclitaxel)耐性との関連が示唆されているTRAG3の近傍に位置している。本研究では、このMAGE遺伝子に注目し、同遺伝子の発現がタキサン系薬剤を基本とした胃癌化学療法の耐性や効果に関わるか、また、その予測に有用であるか否かを明らかにすることとした。免疫染色による蛋白発現の検索では、胃癌の9.8%にMAGE-A1の発現が認められたが、これらはタキサン系薬剤を基本とした化学療法に抵抗性であった。一方、治療効果の認められた症例はMAGE-A1発現が認められず、MAGE-A1の発現はタキサン系薬剤を基本とした化学療法の効果規定因子である可能性が示唆された。MAGE-A1を導入したTMK-1胃癌細胞株において、親株と比較し本遺伝子の過剰発現がWestern blot法にて確認された。抗癌剤に対する感受性の検討では我々の予想に反して、MAGE-A1遺伝子導入株では、DocetaxelやPaclitaxelに対する感受性が増強した。以上より、 MAGE-A1遺伝子が胃癌に対する化学療法についての予測マーカーである可能性が示唆された。今後の胃癌治療に貢献するものと考えられる。
5)長谷川 泰久 (腎泌尿器科学:松原昭郎教授)2009年1月
「前立腺癌におけるRIZ1遺伝子のDNAメチル化はp53の核への異常集積と関連する」
DNA methylation of the RIZ1 gene is associated with nuclear accumulation of p53 in prostate cancer. Cancer Sci 98: 32-36, 2007
RIZ1(retinoblastoma protein-interacting zinc finger gene)はretinoblastoma結合蛋白として同定された遺伝子で、G2-M arrestやアポトーシスを誘導する癌抑制遺伝子と考えられており、胃癌、大腸癌などでは、DNAメチル化によるRIZ1の不活化が報告されている。本研究では、前立腺癌におけるRIZ1遺伝子の役割を明らかにする目的で、RIZ1のDNAメチル化、p53遺伝子変異ならびに臨床病理学的因子の関係を検討した。前立腺癌切除例の43%においてRIZ1遺伝子のDNAメチル化が認められたが、臨床病理学的因子との相関はなかった。p53蛋白の核内異常集積あるいは p53遺伝子の変異が確認された症例はいずれもRIZ1遺伝子のDNAメチル化を伴っていた。前立腺癌細胞株では、PC3においてRIZ1遺伝子のDNAメチル化とmRNAの発現消失が認められ、脱メチル化によってmRNAの発現が回復した。これらの結果から、RIZ1遺伝子における転写活性不活化の主なメカニズムはDNAメチル化であり、前立腺癌の発生に関与しているものと考えられた。p53蛋白の核内異常集積とRIZ1遺伝子のDNAメチル化との間に有意な相関が見られたことから、前立腺癌においては、p53遺伝子変異とRIZ1遺伝子のDNAメチル化というエピジェネティックな変異が関連して起きる可能性が示唆された。

博士(歯学)

1)小野 重弘(第二口腔外科、石川武憲教授)2002年3月 博士(歯学)
「口腔癌の発生と進展に対するヒストンアセチル化とDNAのメチル化の役割に関する研究」
2)中川 裕之(第二口腔外科、石川武憲教授)2002年3月 博士(歯学)
「口腔癌におけるBub1遺伝子の解析からみたパクリタキセルの抗腫瘍作用の基礎的研究」
3)重 石英夫(第二口腔外科、石川武憲教授)2002年9月 博士(歯学)
「消化器癌における細胞周期チェックポイント遺伝子ChkI、ChkIIおよびBub1の解析—口腔癌と胃癌—」


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