◆叢書インテグラーレ 003 韓国学への招待

広島大学大学院総合科学研究科 編 

責任編集:李 東碩・尹 光鳳・権 俸基 

予価税込 1,995円《税別1,900円》・四六 200 ISBN978-4-621-07846-4 C1330 20072月刊行

去る20世紀は、「戦争の世紀」、「成長重視の世紀」、「環境破壊の世紀」として、人類史に刻まれたと思います。そして、21世紀は、その反省から、「平和の世紀」、「福祉重視の世紀」、「環境保全の世紀」にすべきであると、誰もが願っています。

しかし、今のところ、世界には依然として、「富の世界一極集中化」とコインの表裏の関係にある「飢餓や貧困の蔓延」が世界規模で加速しているばかりです。さらに、低出産と高齢化、遺伝子操作による生命改造の暴走、気候変動による気象異変の続出、鳥インフルエンザやSARSなどの伝染病の蔓延など、「種の終焉」の危機までが地球規模で顕在化しています。

このように、世界大多数の貧しい人々の社会・自然環境権が縮小・剥奪されるなかで、「人類の対立激化」は極限にまで達しています。さらに、富を独占する超国籍企業・銀行といった一握りの人間集団は、世界各地域の貧しい人々が自分達の社会・自然環境権を必死に取り戻そうとする模索と実践を完全に押さえるために、新しい「世界統治権力の確立」を急いでいます。

現段階の支配的資本である超国籍金融資本は、9.11テロ以降、安全確保をスローガンに、最先端の兵器や原子力装備を備えた超国籍軍を組織するなど、「世界帝国化」に向けた世界統治権力を構築しつつあります。このように、21世紀の「世界化」に伴った「人類の対立激化」が顕在化するなかで、国家共同体は新しい世界統治権力に急速に包摂されています。

その根底には、新たな富の源泉であるIT(情報技術)・ET(環境技術)の研究開発に重点を移しながら、機械関連製造企業を傘下に再統合している超国籍金融資本の「富の世界一極集中化」が横たわっています。最近、復活しつつある東アジアの国家ナショナリズムは、東アジアの貧しい地域住民が互いにむやみな葛藤や紛争を繰り返すように煽っています。

今だからこそ、草の根の東アジア人が、超国籍金融資本の利益を最優先する国家共同体の枠組みに囚われず、世界循環型社会の実現に向けて、21世紀の新しい地域共同体、つまり、草の根の東アジア人の経済・環境・文化共同体を構築しなければなりません。執筆者一同は、多国にまたがる草の根の平和思想こそが、私達東アジア人を、敬天・敬人・敬物のグローバル・ヒューマニズムに基づいた「超国籍人」に蘇らせ、世界「反平和」を断ち切るための東アジア共同体構築に向けた前提条件になると確信しています。また、世界循環型社会の実現に向けて、日韓の真の平和構築に与えられた諸課題を、各国政府に任せるのではなく、地方自治体住民を単位とした、日韓の地域住民自らが協働で模索・実践しなければならないと共感しています。

したがって、国際教育・平和都市ヒロシマという視点に立った、韓国の文化・言語・歴史・科学・思想・社会・政治、経済、環境、平和に関する調査・研究と、グローバル・ヒューマニズムに基づいた日韓のNGO/NPO活動の促進のために、「広島韓国研究会」を20064月に設立しました。この「広島韓国研究会」が主催となって、200611月に、文化、言語、歴史・思想、政治、経済、環境分野に重点をおいた「21世紀東アジア共同体構築のための韓国学」と題して座談会を開きました。

本書の第T部は、草の根の新しい東アジア歴史共同体を構築するための「韓国学」の課題とは何かについて、ヒロシマの大学で教鞭をとる韓国国籍の6人の研究者が意見を交わしたこの座談会のすべてを収録したものです。

第U部は、この座談会参加者のなかの4人が、文化、経済、環境、歴史・思想分野に分かれて、それぞれ草の根の日韓共同体を構築するための具体的な模索と実践を提示しようとしたものです。そして、巻末には付録として、第1部の座談会の理解を深めるためのキーワード72個について、簡単な解説をしたもの収録しました。

21世紀の東アジア人の一員として、人類初の原爆の悲惨さを経験したヒロシマの地で生きる韓国国籍の執筆者にとって、21世紀の「平和科学」としての「総合科学」を進めていく上で、「ヒロシマ韓国学」がその第一対象になることは、自然なことだといえるでしょう。「ヒロシマ韓国学」と命名する理由は、世界「反平和」を断ち切って、「環境権」を確立するための世界循環型社会の構築に向けた21世紀「平和科学」として、「韓国学」を位置づけたい、という願いからです。さらに、「総合科学」をこの「平和科学」の研究課題を解明するための研究方法として採用しています。要するに、執筆者一同は、21世紀「平和科学」を修めるための「総合科学」として、「ヒロシマ韓国学」を位置づけており、この「ヒロシマ韓国学」を発展させることは、世界平和に向けた21世紀東アジア人の新しい歴史共同体を構築する上での「道しるべ」になると、考えています。このような「平和科学」としての研究課題と「総合科学」としての研究方法をあわせ持つ「ヒロシマ韓国学」は、「広島韓国研究会」のみならず、広島大学総合科学研究科の21世紀平和科学プロジェクトの一環としても、今後引き継いでいくことを誓います。

東アジア人同士の対立を激化させる21世紀の現段階グローバル・キャピタリズムとグローバル・ガバナンスに立ち向かって、草の根の東アジア人の、草の根の東アジア人による、草の根の東アジア人のための敬天・敬人・敬物のグローバル・ヒューマニズムに基づいた、日韓の21世紀共同体を構築するために、本書が役に立てれば幸いです。

【目次】
I部  座談会:「21世紀東アジア共同体構築のための韓国学」
II部 共通論題:「人間・環境・文明科学部門における日韓共同体構築の課題」
   1章 東アジア文化創出のための日韓文化共同体構築(尹光鳳)
   2章 東アジア経済創出のための日韓経済共同体構築(権俸基)
   3章 東アジア環境創出のための日韓環境共同体構築(羅星仁)
   4章 東アジア平和創出のための日韓歴史共同体構築(李東碩)
付録 韓国を理解するためのキーワード

【参  考】
I部 座談会:「21世紀東アジア共同体構築のための韓国学」
【主催】:広島韓国研究会
【日程と場所】:115日(日) 13001700 広島市女性教育センター4F
【参加者】
権 俸基(司会):呉大学大学院社会情報研究科教授 
尹 光鳳:広島大学大学院総合科学研究科教授
朴 大王:広島修道大学商学部助教授
李 東碩:広島大学大学院総合科学研究科助教授
金 栄鎬:広島市立大学国際学部助教授
羅 星仁:広島修道大学人間環境学部助教授
岳野 寿賀子(記録・整理):広島大学大学院総合科学研究科博士課程後期

 

 

 

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『草の根の日韓21世紀共同体』

― 文化・経済・環境からのアプローチ ー



 

尹 光鳳・権 俸基・李 東碩・羅 星仁〈編著〉

溪 水 社 ISBN4-87440-917-2  C1031  \1,900.-

A5判・270頁・1900円・2006420
国際平和都市・ヒロシマという視点から、文化交流、経済、環境問題への取り組みなど

日韓交流の促進のための現状と課題を検討し、新しい歴史共同体構築を総合的に提案する。

 

目   次

まえがき----------------------------------------------------- @

第1部       文化・教育・歴史分野における日韓交流

 

1章 韓流でみた日韓文化交流                   尹 光鳳--- 3

 1. はじめに 3

 2. 日韓文化交流の歩み 4 

 3. マスコミでみた韓流の現在 7

 4. 韓国における日本文化 10

 5. 日本における韓国文化 13

 6. 「冬のソナタ」と韓流ブーム 15

 7. おわりに 23

 

2章 日韓の大学における第2外国語教育            朴 大王--- 26

 1. はじめに 26

 2. 第2外国語教育の現状 32 

 3. 第2外国語教育をめぐる状況の変化 32

 4. 第2外国語教育の問題点と課題 35

 5. まとめ 39

 

3章 日韓の姉妹大学間の国際交流                藤井正一--- 42

1. はじめに 42

2. 日韓民間交流の必要性と課題 44 

3. 日韓の大学改革の現状と課題 50

4. 広島修道大学と大邱啓明大学間の国際交流 55

5. おわりに 59

 

4章 日韓共通の歴史教材制作からみた日韓交流        児玉戒三--- 62

1. はじめに 62

2. 制作に携わった日韓の執筆者の思い 64 

3. 日韓の学生の歴史認識の違い 67

4. 日本の中学校歴史教科書に対する韓国からの指摘 70

5. 共通歴史教材のテーマ 73

6. 親日派と親韓派 76

7. 原稿執筆と討論 80

8. 本の完成と今後の課題 85

 

5章 東アジア人の文化共同体構築のための日韓交流     李 東碩--- 88

 1. はじめに 88

 2. 人間同士の対立構図の過去・現在・未来 89 

 3. 世界「反平和」を断ち切るための実践課題 102

 4. 東アジア青少年のための「超国籍人」教育の課題 108

 5. おわりに 121

 

第2部       政治・経済・環境分野における日韓協力

 

6章 韓国と北朝鮮の政治・経済協力                金 聖哲--- 127

      ---日韓協力への示唆—--

1. はじめに 127

2. 「太陽政策」の政治経済学的政策 129 

3. 「太陽政策」と政府と企業の提携 133

4. 南北韓経済交流の制度化過程 139

5. 結びにかえて:日韓協力への示唆 144

 

7章 日韓における自治体間国際交流の現状とその特徴    権 俸基--- 149

 1. はじめに 149

 2. 日本における地域の国際化の現状 150 

 3. 日韓の自治体間交流と情報化利用における特徴と傾向 159

 4. まとめ 169

 

8章 東アジア地域における貿易パターンの変化と日韓協力  権 俸基--- 174

 1. はじめに 174

 2. 東アジア地域の経済成長と貿易パターンの変化 175 

 3. アジア地域の経済統合の推進 180

 4. 日韓の産業構造の変化と経済協力 185

 5. おわりに 194

 

9章 地球温暖化防止のための日韓協力               羅 星仁--- 194

      ---クリーン開発メカニズム(CDM)を介して—--

1. はじめに 197

2. 地球温暖化をめぐる国際交渉の経緯:

     先進国と発展途上国の対立を中心に 199  

3. クリーン開発メカニズム

     (Clean Development Mechanism: CDM)とは 202

4. 日韓のCDMプロジェクトの評価 206

5. ウルサンCDMプロジェクトの評価 215

6. 結びにかえて 217

 

10章 東アジア人の経済・環境共同体構築のための日韓協力  李 東碩--- 221

1. はじめに 221

2. 世界経済・環境管理体制の現状と課題 224

3. 東アジア人経済・環境共同体構築の課題 231 

4. 日韓経済・環境協力の最優先課題 245

5. おわりに 252

 

 

 

 

 

まえがき

 

20世紀はどのような時代であったかについて、論者によってさまざまな表現がありますが、おおむね、「戦争の世紀」、「成長重視の世紀」、「環境破壊の世紀」と、収斂できるのではないでしょうか。そして、21世紀は、その反省から、「平和の世紀」、「福祉重視の世紀」、「環境保全の世紀」にする必要があると、多くの論者が指摘しています。

しかし、21世紀に入っても、世界には依然として、上述した20世紀の特徴に変化がみられず、貧富の格差は一層拡大し、飢餓や貧困が世界中に蔓延しています。また、環境破壊による自然災害の増加、鳥インフルエンザやSARSなどの伝染病の蔓延、宗教や文化の相違から生じる対立の激化など、人間同士のさまざまな葛藤がその深刻さを一層増しています。さらに、イラク戦争や地域紛争が絶え間なく起こっています。

このような諸問題に直面する現段階のグローバル社会においては、文化・教育・歴史分野での交流促進とともに、政治・経済・環境分野での実践的な協力が要求されます。ところが、実際の日韓の交流と協力においては市場原理に基づいた経済協力が中心となり、企業・政府主導による交流と協力に偏った側面があります。そのため、所得格差の拡大、飢餓や貧困の蔓延、貧しい人々の環境権の剥奪、各国間の排他的な歴史認識、異文化間の排除や葛藤といった草の根の人々が抱える諸問題は置き去りになり、グローバル・ヒューマニズムに基づいた交流と協力は後退したといえるでしょう。

近年、東アジアにおいては、市場原理に基づいた経済協力を一層加速させるために、政府主導の東アジア共同体構想が活発となっています。例えば、日韓中の東北アジア3カ国間構想、ASEAN10プラス3(日・韓・中)、またはプラス6(日・韓・中・インド・オーストラリア・ニュージーランド)構想、さらに、ロシアとアメリカを含めたアジア・太平洋経済圏構想などがありますが、その背景には、各国政府間の国益と超国籍企業間の次世代の覇権をめぐる攻防が横たわっています。

 

本書は、このような世界の人々および東アジア人を取り巻く社会環境や自然環境破壊の現状を踏まえた上で、日韓の草の根の21世紀共同体構築をめぐる議論や実践課題について、研究者および教育者の立場から具体的な交流や協力の提案を試みたものです。

従来から日韓交流や協力関係は、経済のグローバル化を促進するためのものが中心となっていますが、近年には韓流と日流と呼ばれる日韓の文化交流も活発となっています。しかし同時に、その真っただなかの2005年は、日韓国交正常化40周年の記念すべき年でしたが、竹島・独島問題、歴史教科書問題、靖国参拝問題などが多発し、日韓交流や協力を妨げることになりました。このような相矛盾する現状をどう理解すればよいでしょうか。急速な経済のグローバル化の波に、私達東アジア人が飲み込まれていく過程で、生活保障への不安と安全保障への危機意識が次第に浮き彫りになった結果とみるべきではないでしょうか。

急速な経済のグローバル化に伴い、拡大・深化し続けてきた社会環境破壊は、東アジア人、とりわけ、日韓の人々にさまざまな影響を及ぼしています。このことによって、日本においては家族愛や人間性の復元を求めた純愛物語中心の韓国ドラマのブーム、韓国語を含めた第2外国語学習のブーム、大学間・地方自治体間の国際交流のブームなどにみられるように、日韓交流が活性化しています。その一方で、領土・歴史・政治問題で浮き彫りになった民族や国家ナショナリズムをめぐる攻防、北朝鮮の核問題で噴出した東アジアの新たな危機管理体制をめぐる攻防、東アジア自由貿易協定などの新たな経済管理体制をめぐる攻防、越境する環境破壊問題に対処するための新たな環境管理体制をめぐる攻防が加速し、日韓交流や協力を後退させる側面を併せ持っています。

本書は、このコインの表裏のような日韓の交流・協力関係の現状のなかで、真の日韓交流や協力を促進するため、草の根の多様な交流と実践的な協力をさまざまな分野にまたがって模索することを目的としています。従来の企業・政府主導の交流や協力体制を批判的に捉えながら、東アジア地域住民、とりわけ日韓の青少年が主体となる日韓交流や協力関係をいかに築いていくかについて焦点をしぼりました。このような本書の方向性は、「戦争の世紀」、「成長重視の世紀」、「環境破壊の世紀」の20世紀を清算して、21世紀の新しい「平和の世紀」、「福祉重視の世紀」、「環境保全の世紀」を創る上で欠かせない試みであると確信しています。

執筆者一同は、日韓が直面している諸問題を、政府間の交渉に任せるのではなく、日韓の地域住民自らが協働で取り組めるような新しい共同体づくりへの模索が必要である、という共通認識に立っています。そして、国を単位とした従来の固定的な地域の概念や範囲に囚われない、世界に開かれた東アジア人の文化・経済・環境共同体を構築するための糸口を、人文・社会科学の両領域にまたがって模索する必要を強く認識しています。とりあえず、日韓の地域住民が共通に直面している諸問題を整理することから始め、その問題解決に向けての実践課題を明らかにしようと、2年間あまり会合を開き、それぞれが関わっている分野を中心に意見を交わしてきました。特に、国際平和・教育都市のヒロシマの地で、韓国の姉妹都市大邱市との文化・経済・環境共同体づくりに向けて、今後具体的な実践を進めていくことを当面の目標に据えています。地方自治体、東アジア地域住民、教育・研究機関とNGO/NPO、持続可能な社会というキーワードを用いて、市民講座や研究会などを通じた活発な議論を重ねてきました。ヒロシマの大学で教鞭をとる韓国国籍の6人の研究者と、高校と韓国の大学で教鞭をとった経験をもつ2人の日本国籍の元教員が、それぞれの研究・教育現場での経験を生かしながら、草の根の日韓交流・協力関係の構築を実現するために真剣に取り組んできました。

このようにして誕生した本書は、日韓の人々が現在どのような交流を進めており、それを今後の新しい歴史共同体構築にどう結びつけるか、そのために私達は何を、どう取り組むべきかを、人間・文明・環境科学の3部門にまたがって総合的に提案を行っています。

 

本書は、210章で構成されています。まず、第1部は文化・教育・歴史分野における日韓交流について検討しています。

1章は、日韓文化交流をふりかえりながら、現在興っている韓流ブムの現状と課題を検討したものです。日韓両国間における大衆文化の受容、「冬のソナタ」シンドロムを考察した上で、今後の日韓文化交流を展望しています。著者は、これからの日韓交流は、両国間での緊張と葛藤を克服しながら、スペクトロームを地方レベルにまでげ、な交流を進める必要性を訴えています。また、両国間での青少年の交流が近年活発になってきていますが、これを積極的に支援する必要があると、強調しています。

2章では、日韓両国における外国語の教育の現状を踏まえながら、今後の改善策について述べています。特に、著者は「外国語をなぜ学ぶのか」という意義について考えながら、日本における第2外国語としての韓国語教育を通して、日韓両国の人々の新たな交流への提案を行っています。

3章は、グローバル化に対応するために日韓の大学が教育改革に取り組んでいる実状と背景、姉妹大学(広島修道大学と啓明大学)の国際交流の現状と課題について検討したものです。著者は、そのなかで大学は地域社会に貢献できる最大のNGO/NPOであり、そうあるべく今後の教育改革と国際交流を進めていく必要があると強調しています。新しい日韓関係を築くためには、大学を中心とした青少年同士の相互理解を深めながら、友好親善を推進することこそ、重要であると述べています。

4章では、日韓の歴史教育者が共通歴史認識を有するために、20023月から20055月まで行われた近世の共通歴史教材制作の取り組みをふりかえりながら、共通の歴史教科書刊行の必要性と難しさを著者の実際の経験に基づいて述べています。著者は、日韓両国において、その歴史認識の共通性が早急に求められているのが近・現代史の分野であるとし、一貫して草の根の民衆の姿や思いを浮き彫りにすることによって、共通歴史教科書刊行が実現できるとの認識を示しています。

5章では、日韓で新しい歴史共同体を構築する必要性とその実践課題を、人類史のなかでの「人間同士の対立構図」の到達点を検討しながら析出しています。著者は、草の根の東アジア人文化共同体を構築するためには、まず日韓での経済・環境・教育分野からの取り組みを優先的、同時多発的に進めることが大事であると強調しています。具体的に、東アジア地域通貨の創設による循環型社会の構築、地域住民による大同祭の開催、青少年の「超国籍人」教育を訴えています。

2部では、政治・経済・環境分野での日韓協力を模索しています。

6では、東アジアの平和と安全保障のためには朝鮮半島の分断状況と北朝鮮の核問題の解決が重要であるとし、政治経済学的観点から、朝鮮半島問題が日韓協力に与えた影響や政策的な含意を分析しています。著者は、韓国の対北朝鮮介入政策と南北韓経済交流の活性化は、安保と経済の両面から必然的に発生したとした上で、日本企業の北朝鮮に対する経済協力関係の構築が将来の東アジア平和と日韓の経済協力の構築に必要不可欠であると述べています

7章は、日韓の自治体間交流に焦点を当てて、交流の拡大とコミュニケーションの活性化という側面から、日韓両国間の国際交流の現状と到達点を検討したものです。著者は、より成熟した日韓交流の活性化のためには、交流の主体、その目的と方向性において、今までの官・行政主導から民間参加・主導型へと移行すべきであると提案しています。

8章では、アジアにおける経済統合の進展と交易条件の変化に伴う日韓の産業構造再編と経済協力問題を考察しています。著者は、東アジア地域のなかでも、リーダー的立場にある日韓両国が、その経済的効率の最大化のために顕在化するさまざまな障害をいち早く克服すべきであると指摘しています。また、より積極的なFTA締結とヒト・モノ・カネの完全自由移動に取り組む必要があり、それが今後の東アジアの経済統合を一層促進すると論じています。

9章は、地球温暖化防止のために実際に日韓で行われたCDMプロジェクトの評価を行いながら、国際環境協力のあり方を検討したものです。著者は、CDMを介した国際協力の条件を明らかにするとともに、日韓の協力だけではなく、東北アジアにおける協力の可能性についても検討しています。

10章は、世界経済の構造転換に伴う社会環境破壊と自然環境破壊の悪循環のメカニズムを明らかにしながら、グローバル・ヒューマニズムに基づいた草の根の東アジア人の経済・環境共同体を具体的に模索したものです。著者は、国境を越え各地方を束ねる東アジア循環型社会を構築するためには、まず日韓で環境姉妹都市コンテストを準備・実施することが最優先課題であると、強調しています。

 

以上のように、本書は、第1部では文化・教育・歴史分野での日韓交流を一層促進するための現状と課題を検討し、第2部では政治・経済・環境分野での日韓共同体を構築するための実践的な取り組みを提案しています。このように、本書は、文化・経済・環境を中心に見据えた日韓地方自治体間の新しい歴史共同体構築を一冊の本で模索したものです。これは、21世紀の草の根の日韓関係を構築するためには、政府主導による経済分野に偏った交流と協力ではなく、20世紀の諸問題の解決に向けての幅広い分野での交流と協力が相互間の関連性を保ちながら同時に進められることが大事であると、執筆者一同が認識したからです。このような調査・研究・活動の課題設定と実践の方向性は、20064月に設立される「広島韓国研究会」に引き継がれていくことを誓います。本書を通して、国境を越えた草の根の日韓交流の現状を認識し、日韓協力の実践的な取り組みへのヒントが見つかれば、何より幸いです。

最後に、本書が完成するまで、熱意がこもった議論と今までの研究領域を超えた執筆に最後まで力を尽くして下さった執筆者の方々、また本書の出版を快く受けて下さった溪水社の木村逸司社長に、この場を借りて心からの感謝を申し上げます。

 

 

                      20064月  編者(尹 光鳳、権 俸基、李 東碩、羅 星仁)