話題:電子論入門「物質の電子状態」
授業日:金曜日5・6時限
教 室:先端科学総合研究棟405N
J.H. Jeans, 1915
物質の電子状態と物性(小口多美夫)
キーワード:量子シミュレーション
・原子系
・分子系
・固体系
1.1 物質科学とは?
マクロな性質(物性、構造、..)をミクロな性質(電子状態)から理解する.
材料(Materials):目的を特化した物質群
構造材料、機能材料、電子材料、磁性材料、...
ここでは、基本的で純粋な物質(Matter)とそれに固有な性質(物性)について考える.
1.2 歴史的経緯
生活に重要な物質(時代の性格を反映)
石器時代、鉄器時代、青銅器時代
現代:多種多様な物質(応用を意図していると言う意味で材料)
鉄、軽合金、肥料、半導体、高分子、触媒、医薬品、...
物質の発見・合成
身の回りにあった
偶然に発見された
経験による試行錯誤
(関連する一連の物質を合成して、期待した性質をもたないものを捨てる)
→ 化学成分と物質の性質の間の関係を記述する経験的で数量的な法則
化学の発展
1.3 物性を支配している物理法則:電子の役割
ヘールボップ彗星:ニュートンの運動方程式を解くことによりその運動(軌道)が予測できる.
(古典力学の範疇)
物質が固有にもつ性質(物性)を支配している物理法則は?
我々は、物質を光学的性質、電気的性質、磁気的性質、融点、固さ、化学的反応の性質に従って分類し、その共通点から法則性を探る.理論的には、これらの物性を決定している方程式を知っていれば、ヘールボップ彗星の軌道を求めるように単にその方程式を解くことによりいかなる物性をも予測することができるはずである.
19世紀末から20世紀初め(約100年前)にかけて、
「物質の中の電子がその物性を決定するのに重要な役割を果たしている」
ことが発見された.
例えば、
・分子の形(簡単な分子、複雑な分子、..、DNA、タンパク質、..)
・固体中の原子の配置(結晶構造)
・原子間に働いている力(弾性的性質)
・電気的性質(絶縁体、半導体、金属)
・磁気的性質(強磁性体、...)
・光学的性質(色、透明、反射、...)
すなわち、
電子を支配する法則性を数学的に確立することが、物性を記述し、理解し、さらに予測するために必要
なこととなる.
1.4 量子力学の完成(1920年代)
電子のような小さな粒子(例えば、電子の質量は9.1x10-31kg)の運動は古典力学では記述されない.
基礎方程式:Schrödingerの式 HΨ=EΨ
Ψ:波動関数(ギリシャ文字のプサイ)
粒子の運動は、古典力学ではその位置座標の時間的変化として記述されるが、量子力学では位置と時間に関する粒子の存在確率(波動関数の絶対値の2乗)として表現される.
古典力学におけるニュートンの運動方程式はSchrödinger方程式の古典的極限
1.5 量子力学的アプローチの問題点
相互作用の存在 → 一般に、物質は多電子系
・電子は、他のすべての電子と相互作用をし、多電子的な状態をつくっている.
電子の数
・(中性)原子には原子番号と同じだけの個数の電子がある(ウランには92個)
・水分子には10個の電子と3個の原子核
・固体中に含まれる原子の数:1023個(アボガドロ数)
Schrödinger方程式を厳密に解くことはごく少数の例外(水素原子等)を除いて不可能!
量子力学の形成以来、科学者たちはSchrödinger方程式を解くための近似法に関する研究に取り組んできており、多くのすばらしいアイディアが確立されてきている。
近似法:具体的な解法を提供
有効性と限界を知ることにより物理的概念が形成
Simulation:模擬実験、つまり本物の代わり
2.1 計算機シミュレーションの役割
(1)実験の代替
時間、予算、危険性(例:原子炉シミュレーション)
(2)実験の不可能領域
実験不可能な環境、パラメータ(温度、圧力、磁場、...)
(3)現象の基本要素への分解
複数の要素が原因となっているとき
特定のパラメータに注目し、他のパラメータを固定することによって、
そのパラメータの現象の依存性を解析
現象を支配する本質的要素を抽出
2.2 物質科学におけるシミュレーション
物質科学の2本柱
・理論 単純で理想的な系に関する議論(解析的手法)
・実験 現実の系に関する複雑な現象
ところが、なかなか噛み合わない現実!!!
・シミュレーション 理論と実験をつなぐ役割 → 第3の科学ともよばれる
キーポイント:1.基礎理論の発展
2.方法論(数値計算手法)の発展
3.計算機能力の向上
特に、物質科学における量子力学に基づくシミュレーション
→ 量子シミュレーション
" You can not understand it,
J.C. Slater
until you know how to calculate it."
水素原子、He+、... 電子がひとつのとき(水素様原子)
3.2 電子がまず満たす法則
パウリの排他則(電子がフェルミ粒子であることの要請)
ある電子の占める状態を他の電子が占めることはできない.
ただし、電子には(相対論的な)スピンの自由度があり、ひとつの軌道状態には異なるスピンを持つ電子は同時に占めることができる. → スピン軌道の概念
3.3 一体近似(非常に大胆な近似、でも非常に多くの物理現象が説明できる)
基本的な考え方:多数の電子がいるから、特定の電子がどこにいるかが問題ではなく、すべての電子がつくる有効場のなかの相互作用のない電子として取り扱う.ただし、フェルミ粒子である性質(パウリの排他則)は満たす.
ひとつのSlater行列式による多電子波動関数の表現
一体近似は、一意的ではない.有効場をどのように具体的に記述するかが問題!
→ 電子構造論(平成14年度後期開講予定)
3.4 原子では
水素様原子の軌道に電子を詰めていくのとほぼ同じ
(ただし、水素様原子では軌道角運動量が違っても軌道エネルギーは異ならないが、一般的な一体ポテンシャルの固有状態のエネルギーは軌道角運動量に依存することに注意.)
球対称ポテンシャルに対する一電子Schrödinger方程式を解く
↓
原子の中の電子の分布は玉葱型 ← 動径軌道の直交性
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓ 3d 10個 原子核から遠い
↑ ↓ 4s 2個 K、...
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓ 3p 6個 Al、Si、P、S、Cl、Ar
↑ ↓ 3s 2個 Na、Mg
↑ ↓
↑ ↓
↑ ↓ 2p 6個 B、C、N、O、F、Ne
↑ ↓ 2s 2個 Li、Be
↑ ↓ 1s 2個 原子核に近い H、He
周期表はこの電子構造を反映している
論より証拠! 百聞は一見にしかず! 原子の電子密度分布
3.5 分子では
ヴィリアル定理による凝集の一般的理解
凝集では必ず、ポテンシャルエネルギーが得をし、運動エネルギーが損をする
原子核は+Zeの電荷をもつから原子核同士は反発している
-eの電荷をもつ電子はその間に入って原子核を引き付ける →電子はノリの役割
しかし、あまり引き付けが強いとパウリの排他律に触れる
直交性により運動エネルギーが上昇する
→適当なところに安定距離
・原子核に近いコア電子の状態はもともとの原子のときとほぼ同じ。
・原子核から比較的離れている価電子状態
分子としての特有な軌道をつくりそこを占める 分子軌道 →結合を生む
問題:2原子分子での凝集の性質はどのように理解されるであろう?
De:解離エネルギー、we:振動数、Re:結合長
●水素分子での結合:結合状態と反結合状態の形成
●第一周期元素(B−F)分子:結合の強さがN2で最大
→分子軌道の形成からの理解 σ結合、π結合
3.6 結晶では
1023(アボガドロ数)個の電子を扱う
原子が規則正しく並んでいる → 並進対称性 群論という数学的取扱い
取扱いはその規則性のひとつの単位とほぼ同等になる
結晶中の電子の状態:ブロッホ状態(結晶に広がった波)
結合の形態: イオン結合 → イオン結晶(NaCl)
閉殻のイオン球が積みあがった
球対称的分布
金属結合 → 金属
電子の海の中の金属イオン
d電子系ではd電子による共有結合的要素
(遷移金属は硬い、融点が高い)
最密構造(fcc、bcc、hcp)
共有結合 → 半導体(ダイアモンド、シリコン)
結合の明確な様相 → 強い結合
3.7 表面では
物質には表面がある
・表面での異種原子の出会い
・表面自身にバラエティー(並進対称性の消滅)
・新たな結合
例:Si(111)表面
Si結晶を(111)面で切った構造
・結合が切れたままの手(ダングリングボンド)が残る → 不安定
走査トンネル顕微鏡(STM)のイメージ
・7倍周期の構造 → DAS模型
酸化反応
還元反応
触媒反応