炎症性腸疾患

炎症性腸疾患とは

 炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease; IBD)は慢性の下痢、腹痛や下血を来す疾患群で狭義では潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に分類されます(図1)。IBDは遺伝的素因・腸内細菌・食事などの環境因子によって生じる過剰な免疫反応が原因と考えられています。元々は欧米に多い疾患でしたが、日本でも21世紀に入り患者数は増加しており、現在UCは14万人、CDは3万人を超えています。若年者に多く難治であり、完治させることは困難ですが、ここ数年でさまざまな内科的治療法が加わり、入院や手術を回避し、長期に寛解維持できる症例が増えています。

図1

IBD患者さんの診療体制について

 現在、当院の消化器内科には UCの患者さんが約350名、CDが約250名通院されており、消化管専門医の6名の医師が連日診療にあたっています。当科では特に専門外来日を設けず、どの診察日に来院されても、患者さんに対し、IBDの専門医が豊富な経験に基づいた正確な診断と高度な治療を提供できるよう、常に心がけています。当院の診療の特徴として、再燃時や経過観察時には負担のない体外式超音波検査を励行していること、セカンドオピニオンやより詳しい治療方針説明などに対応するためIBD特別外来(主に木曜日)を設けていることです。また、手術適応に関しても消化器外科、大毛教授を筆頭に経験の豊富な外科医と常にコンタクトをとりながら方針決定を行っています。

IBDの内視鏡検査について

 IBDの診断や治療評価のため、内視鏡検査は不可欠です。そのためにわれわれ内視鏡専門医は、田中信治教授の厳しい指導の下、患者さんにやさしい内視鏡検査を心がけ、日々努力を続けています。当診療科の質の高い内視鏡診療には定評があり、治療件数の多さと技術力の高さは国際的にも評価されており、本邦他大学だけでなく、ヨーロッパやアジア諸国からの研修医、ドクターも見学に来られるほどであり、内視鏡診療科として全国に先駆けてISO9001(国際標準化機構)の認証も受けています。2013年9月にはハード面において1100m2規模の放射線透視室も完備した本邦屈指の「内視鏡センター」が完成し、最先端の内視鏡診療をお届けすることが可能となりましたので、こう御期待下さい。

IBDの内科的治療について

 IBDの原因は不明であり、残念ながら今のところ病気を治癒させる薬はありません。しかし、ここ数年、症状を改善させ(寛解導入)、症状のない落ち着いた状態を保つ(寛解維持)ための内科的治療が充実してきています(表1、2)。最近は粘膜治癒の認められた患者さんでは入院の機会や手術を回避する確率が上昇すると報告されており、症状をなくすだけでなく粘膜治癒を目指した治療戦略が推奨されています。しかし全ての患者さんに生物学的製剤や免疫調節剤を最初から投与することはありません。当院では個々の患者さん毎に有効性と安全性を考慮したバランスの良い治療を提供できるよう心がけています。

表1
表2

IBDの薬物療法

 IBDで使用される薬物を表3に示します。UC、CD両方に使用可能な薬物が多いことがおわかりかと存じます。

表3

5-ASA製剤

 IBDの基準薬として使用されています。現在わが国では、ペンタサ、アサコール、サラゾピリンの3種類の5-ASA製剤が使用可能です(表4)。寛解導入時や再燃時には高用量で使用することが重要であり(図2)、ステロイド治療開始を考慮する際に5-ASA製剤の量が十分であるかを確認するようにしています。再燃を防ぐためには飲み忘れのないようにすることが重要です。医師から処方された量をきちんと守って内服しましょう。

表4
図2

ステロイド剤

 活動性の高い時期に短期間、十分量使用することで非常に有効な薬剤です。ただし、症状改善作用はありますが粘膜治癒効果が少なく、寛解維持には用いないようにします。ステロイドには表5のような様々な副作用があり、長期使用による骨粗鬆症、子供の成長障害がみられることがあります。ステロイド剤は副作用のみが強調されがちですが、寛解導入作用に優れており、短期間に使えば副作用もほとんどなく有効性を発揮します。漫然と使用することは避けるべきです。

表5

局所製剤

 UCの病変は直腸からS状結腸にみられることが多く、肛門から直接薬を投与する座剤や注腸剤が有効なことがあります。これらは炎症部位へ直接薬を届けるため、経口剤と比べ副作用をできるだけ避けることができます。

イムラン

 寛解維持に使用する免疫調節剤のひとつです。ステロイドからの離脱効果(図3)や粘膜治癒効果があります。効果発現に3−4ヶ月かかるため、寛解導入時より、他の薬剤と並行して使います。われわれのデータからイムラン内服中のクローン病患者さんでは白血球数が4300以下で経過観察すると再燃率が低く、投与初期は白血球値を目安に投与量を調節します(図4)

図3
図4

血球成分除去(CAP)療法

 活性化した白血球を血液中から取り除く治療法で、ステロイド抵抗性、依存性の患者さんにはもちろん考慮する治療ですが、基礎疾患に糖尿病があり、ステロイドを使用しにくい高齢患者さんなどでは最初から導入することもあります。最近ではレミケードやタクロリムスなどの強力な寛解導入療法が登場してきましたが、感染症を合併している場合などは使用困難であり、CAPの良い適応と考えます。現在LCAP(セルソーバ)、GCAP(アダカラム)の2種類が使用可能です(図5、6)。CAPは、炎症性サイトカインを産生するリンパ球やマクロファージを除去することで効果を発揮するとされていますので、副作用がほとんどなく、小児や妊娠中の患者さんでも安全に使用できると考えています。

図5
図6

タクロリムス

 主にステロイド抵抗性UCの患者さんに使用する強力な寛解導入薬で、経口で使用します。血中濃度をチェックしながら投与量を調整して使うことで、有害事象の回避、有効血中濃度の維持が可能です。保険上、投与期間は3ヶ月であり、その後はイムランやレミケードなど寛解維持可能な薬剤に切り替えます。図7はステロイド抵抗性難治性で他院から手術目的で当院外科に紹介された患者さんの内視鏡所見ですが、タクロリムスの導入により図のごとく改善し、手術を回避できた症例です。

図7

抗TNFα製剤(レミケード、ヒュミラ)

 白血球が産生するTNF?という炎症を引きおこす蛋白を中和する薬剤で、レミケードは点滴製剤、ヒュミラは皮下注射製剤です。主にステロイド依存性の患者さんに使用します。ステロイド離脱効果が期待できます。もともと結核やウイルス性肝炎を有している患者さんでは悪化することがあり、これらの感染の有無を抗TNF?製剤投与前に必ずチェックしています。投与直後は有効だが、効果が減弱する二次無効が問題となっており、3−4割の患者さんが二次無効となっています。CDにおいてはこれに対し、現在レミケードは倍量投与が可能となっています。二次無効の予防には確立された方法はありませんが、われわれのデータでは、成分栄養療法を併用していた患者さんはしていなかった患者さんに比べ寛解維持効果が高かったため、レミケード継続中はなるべく栄養療法を併用して頂くよう指導しています(図8)。

図8

栄養療法

 一般にクローン病の患者さんに用いられます。エレンタールという成分栄養剤を用いた栄養療法は食事により増悪するクローン病の治療法として理にかなった薬剤です。成分栄養剤は蛋白質が抗原性を持たないアミノ酸まで分解され、脂肪の含有量が極めて少ないため、消化を必要とせず、腸管の安静を保ちながら栄養補給を可能にします。毎日続けることは困難かもしれませんが、1パックでも内服して頂くよう指導しています。基本的に食事成分であり、重篤な副作用はありません。抗炎症機序は不明ですが、アミノ酸の一つであるヒスチジンがマクロファージからのTNF?の産生を抑えることが明らかになっています。われわれの検討では抗体製剤使用中でも栄養療法を継続していれば、再燃しにくいというデータがあります。

IBDの外科治療

 内科的治療に反応の乏しい難治例や、大量下血、腸管穿孔、癌の合併がみられる症例では外科治療が必要となります。また腸閉塞を繰り返す狭窄例や、ステロイド長期投与による副作用の発現は、相対的な手術適応となります。このような患者さんに対しては、当院消化器外科、大毛宏喜教授のグループと常に速やかに密接にコンタクトをとりながら診療にあたっています。

患者さんのためのIBD勉強会

 IBDの治療指針は毎年のように変更が加えられています。また国が定める特定疾患制度の見直しや、難病患者さんに適応となった障害者総合支援法など、IBD診療における国の方針も大きく変わろうとしています。こうした最新の情報を患者さんにお届けできるよう、年に2回のIBD勉強会を院内で開催しています(図9)。医師だけでなく、栄養士、看護師さんや患者さんにも講演頂き、多方面から勉強をしていこうという趣旨の会です。このホームページで開催日などの情報をアップしていきます。参加費は無料ですので奮ってご参加下さい。

図9

治験、臨床試験について

 現在、IBDの治療に関する多くの治験、臨床試験が行われています。以前は海外では承認されていても日本では治験が遅れて承認が遅れてなされることが多かったのですが、最近は海外と同時に治験が進行するグローバル治験が多く、ドラッグラグなしに承認申請されることが増えています。現在では保険で使用されているレミケードやヒュミラもかつては当院で治験が行われ、多くの患者さんの協力をいただいた結果として保険承認されたものです。治験薬は安全性や有効性に関してさまざまな審査をクリアしたものが行われていますので、ご安心下さい。また、われわれの子ども、孫の代のIBD患者さんのために必ず役に立ちますので、是非前向きにご参加頂きたく存じます。なお、治験には適応基準、除外基準が厳密に定められていますので、まずは主治医に御相談下さい。現在クローン病の治験の一つでは、広島県の4病院が連携して治験患者さんの登録を推進していく取り組みが、県主導で行われており、これは国内初の仕組みとして、2013/11/15付けの中国新聞にもとりあげられました(図10)。

図10

患者さんへのメッセージ

 IBDは若い患者さんが多く、それぞれに受験や就職、結婚や妊娠など人生で最も重要な問題をかかえる時期に病気と闘うことを余儀なくされます。治療選択肢が増えた今、個々の状況に応じた最適な治療法が必ず見つかると思います。なので、生活面で困っていることも主治医に報告してほしいです。普通の日常生活が送れるよう、出来る限りお手伝いさせて頂きます。