リンパ増殖性疾患

 消化管におけるリンパ増殖性疾患の代表的なものとして悪性リンパ腫があります。悪性リンパ腫とは、リンパ球が分化する過程で発生した腫瘍のことで、全身のあらゆるリンパ節だけではなく、肺や消化管などリンパ節以外の臓器にも発生します(節外性悪性リンパ腫)。大きく分けて、B細胞系、T細胞系、ホジキンリンパ腫の3つに分類されますが、胃や腸などの消化管に発生するリンパ腫の多くはB細胞系の悪性リンパ腫です。

 消化管から発生する悪性腫瘍は癌が最も多く、その次は悪性リンパ腫です。よく「悪性リンパ腫は癌ですか?」と患者さんから質問を受けますが、どちらも転移する可能性がある悪性腫瘍であることは共通ですが、発生母地となる細胞が異なり、癌は上皮細胞、リンパ腫はリンパ球という違いがあります。また、癌の治療は切除することが完治するための必須条件ですが、リンパ腫は放射線療法や化学療法がよく効き、切除しなくても完治も望めます。
 リンパ腫は多くの亜型に分類され、悪性度はそれぞれ異なります。つまり、転移がなく抗生物質で治癒するものから、いろいろな治療を施しても転移して生命に危険を及ぼすものまでさまざまです。ですから、大切なことは消化管悪性リンパ腫のなかでもどの亜型(種類)なのか、また病気の広がりはどうなのか(範囲、ステージ)など、正確な診断を行うことです。私たちは悪性リンパ腫を専門とする病理医や血液内科医と常に密な連絡を取り慎重に診断しています。限局期胃悪性リンパ腫の治療に関しては、15年前までは手術で胃を全部摘出することが一般的な治療法でした。現在は放射線療法、化学療法、さらには分子標的療法などの胃を残す治療(胃温存療法)が主流となってきました。私たちは消化器外科、血液内科、放射線治療科とコミュニケーションを取り、また患者さんに病気について丁寧に説明したのちご希望を聞いて、治療選択をしています。
 悪性リンパ腫のうち消化管での発生頻度の高い、MALT (mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫、びまん性大細胞性B細胞リンパ腫 (diffuse large B cell lymphoma; DLBCL)、濾胞性リンパ腫 (follicular lymphoma; FL)の3種類について説明しますが、前二者は胃に多く発生し、FLは小腸に好発します。

MALTリンパ腫

 胃MALTリンパ腫は、胃の粘膜から粘膜下層に生じた粘膜関連リンパ組織 (MALT)の辺縁層B細胞由来の腫瘍と考えられています(図1)。我が国において胃悪性腫瘍のうち1~6%を占めるといわれており発育は緩徐です。MALTリンパ腫とヘリコバクター・ピロリ菌 (Helicobacter pylori ; Hp)感染は密接な関連があります。私たちの研究室では長い間、Hpと慢性胃炎の関連を研究テーマにしていたため、胃MALTリンパ腫に関しての研究を引き続き行ってきました1-3)。
限局期胃MALTリンパ腫に対してまず一次治療としてHpの除菌治療を行っています。すでに100例以上の患者さんに対し除菌療法を行い、5年以上経過を見ていますが、約70%の胃MALTリンパ腫がHp除菌治療により消褪(消失)し、再発もほとんどありません。Hp感染が陽性の方が除菌治療に対する反応性が良いですが、Hp感染が陰性でも、約40%で除菌治療のみで病変が消褪します。しかし、Hp感染陽性であっても、染色体転座など遺伝子異常がある場合は、除菌治療の効果がありません。当院では二次治療として主として放射線治療を用いています。このため、適切な治療法を選択するため治療予後を予測する因子として、API2-MALT1遺伝子を、RT-PCR法やFISH法で検出しています(図2,3)。当科における胃MALTリンパ腫の治療方針を示します (図4)。

図1
 
図2
 
図3
 
図4
 

びまん性大細胞性B細胞リンパ腫 (DLBCL)

 消化管の中では、胃や回盲部(小腸と大腸の境目)に多くみられ、進行が早く悪性度の高いタイプのリンパ腫ですので治療を急がないといけません。限局期DLBCLに対する治療は手術(胃全摘)が選択されていましたが、最近は、分子標的治療薬である抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)を併用した化学療法 (R-CHOP療法)、あるいはR-CHOP療法と放射線治療を組み合わせて行われます。胃DLBCLの治療前後の内視鏡画像を示します (図5)。

図5

濾胞性リンパ腫 (FL)

 濾胞性リンパ腫 (FL)は、低悪性度リンパ腫の代表的疾患です。腸管では十二指腸に好発しますが、症状がないため健診などで偶然見つかることがほとんどです(図6)。発育は非常に遅いため、病変が限局し症状もなければ、治療は行わず経過観察がなされる場合もあります(watchful waiting)。以前、消化管FL病変は十二指腸の第二部に限局していると考えられていましたので、放射線療法も選択されることもありました。しかし、私たちはカプセル内視鏡やダブルバルーン小腸内視鏡検査を取り入れて病変の範囲を検討したところ、9割は病変が十二指腸のみならず、空腸や回腸にも広範に多発していることを見出しました4)。正確な診断のためにはダブルバルーン小腸内視鏡によって全小腸を観察し病変の生検検査を行うことが必要です。また、消化管以外の病変の有無を調べて正確な病期を知るために、PET-CTや、骨髄検査を行います。FLの治療に関しては、標準治療が確立されていませんが、当院では病変が単発で腸管に限局している場合は経過観察としています。一方、病変が多発していたり病期が進んでいる場合は、前述の抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)単独療法あるいはリツキシマブ併用化学療法 (R-CVP療法)を選択し、全例寛解が得られています。しかし、FLは再発率が高いと報告されており、今後の長期経過や治療薬による副作用なども考慮して、総合的に検討する必要があります。

図6

参考文献

  1. Sumida, T., Kitadai, Y., et al.: Antibodies to Helicobacter pylori and CagA protein are associated with the response to antibacterial therapy in patients with H. pylori-positive API2-MALT1-negative gastric MALT lymphoma. Cancer Sci 100:1075-1081, 2009.
  2. Sumida, T., Kitadai, Y. et al.: Rapid progression of Epstein-Barr-virus-positive gastric diffuse large B-cell lymphoma during chemoradiotherapy: a case report. Clin. J. Gastroenterol. 1: 105-109, 2008.
  3. Ohara, E., Kitadai, Y. et al.: Regression of rectal MALT lymphoma after antibiotic treatment in patient negative for Helicobacter pylori. Clin J Gatoroenterol DOI 10,1007/s 12328-011-0270-5, 2011.
  4. Kodama, M., Kitadai, Y.,et al.: Primary Follicular Lymphoma of the Gastrointestinal Tract; a retrospective case series. Endoscopy, 40: 343-346, 2008