体外式超音波による新しい消化管診断学の開発

従来、消化管病変においては、X線、内視鏡診断が主流であり、体外式超音波診断は、管腔内ガスの存在が観察の妨げとなり、十分な評価が困難であるとされていました。しかし、近年、超音波診断装置の進歩や描出法の工夫により、十分な質的診断が得られるようになってきています。
本項では、その中でも腫瘍と炎症の代表的疾患について我々の検討を含めて述べます。

1. 腫瘍

胃癌や大腸癌、特に進行癌においては、周囲のリンパ節の評価や近接臓器への浸潤判定などが、体外式超音波で評価可能であり有用な検査であると考えられます。例えば、進行胃癌の超音波像は、一般的に不整な低エコー腫瘤として描出されますが、粘膜下を広く浸潤するスキルス胃癌だけは他の進行癌と異なり、び慢性の壁肥厚として観察されることが多く経験します(図1)。進行大腸癌では、層構造の消失した限局性の低エコー腫瘤として描出され(図2)、スクリーニングとして用いても、体外式超音波によりかなり高率(当科の検討で80%以上)に、進行癌の診断が可能です。

図1
図2

当科ではさらに、これらの病変に対して、カラー・パワードプラ法や超音波造影剤を用いたMicro Flow Imagingなどにより、消化管領域の血流評価を行っています。Micro Flow Imagingとは、臓器の実質にとどまった造影剤を強い超音波で壊し、再灌流の様子を造影剤によるハーモニック信号のMax Hold処理によって微細な血管を表示する方法です。この方法によりカラー・パワードプラ法では限界であった、消化管粘膜・粘膜下層内の微細な血流の評価が可能となりました。超音波造影剤を用いた消化管領域の血流評価は、手技、評価法、臨床的意義のすべてに検討される余地は多く残されていますが、これまで困難であった消化管領域の非侵襲的血行動態の評価法として今後大いに期待されている領域です。

図3

図3に進行大腸癌のMFI画像を提示します。MFIにより腫瘍内の蛇行した血管が描出されています。

2. 炎症性腸疾患

炎症性腸疾患は感染性腸炎、憩室炎などの急性腸炎と、クローン病、潰瘍性大腸炎などの慢性のものとに分けられます。どちらも病変部の腸管壁の肥厚を伴いますが、以前より我々はUS所見を炎症性腸疾患の活動性の指標として壁肥厚と層構造により3つのTYPEに分類して用いています。

図4
図4aは正常の腸管像です。大腸はハウストラを伴ったガス像にそったラインとして描出されています。図4b,cに小腸のUS像を示しますが、小腸はケルクリングを認め、蠕動運動があります。それぞれ、厚さは1−3mm程度で、内側から低エコーを粘膜層、高エコーを粘膜下層、低エコーを固有筋層の構造を認めます。

図5


次に、先ほどの炎症性腸疾患における消化管の壁構造によるA-Cの3つの分類について説明します。4mm以上を壁肥厚ありと判定しています。
まず、図5にtype Aを示します。Aはコンプレッシビリティ(プローブで圧迫を加えた際管腔の変形に乏しい)の低下、蠕動の低下とハウストラの消失を認めますが、壁肥厚がなく、層構造が保たれたものをいい、内視鏡所見では、軽度のびらんや、陳旧性炎症性変化等を認めます。 図6にtype Bを示します。層構造は保たれていますが、壁の肥厚を認めるもので、肥厚の主体は粘膜および粘膜下層の肥厚であり、粘膜下層に留まる炎症を示し、内視鏡所見では粘膜の発赤、浮腫、びらん、小潰瘍を認めます。図7にtype Cを示します。層構造の消失した壁肥厚として描出され、内腔面はやや不整で内視鏡では、敷石状病変、深い潰瘍の多発などを認めます。これらを用いて、病変の分布や範囲、腸管周囲の付随所見などから、総合的に診断します。
図6
図7

クローン病では特徴的な所見として、比較的高頻度に認められる腸管横断像での局所的層構造消失所見 (図8) や、消化管周囲の脂肪織肥厚所見(図9)などがみられます。また潰瘍性大腸炎では、直腸から連続する壁肥厚を伴った腸管を認めることが多く、範囲などの診断に有用です。

図8
図9

図10
このほかにも、カラードプラUSや超音波造影剤をつかった、Flash echo imagingなどを行い、血流を定性的、定量的に判定し、活動性の指標を行うなどの研究も行っています(図10)