中坪 孝之教授に聞きました!
 
昆虫を追いかけていたらいつの間にか生き物全体、そして地球への関心へと発展。地球は好奇心を羽ばたかせる雄大なフィールドだ。その中で生物はつながり、活動を続ける。その全体像の追究に挑み続ける。
 
生物間のつながりの解明から生態系全体を理解したい。
 
  どこか少年のような雰囲気を漂わせる中坪先生。聞けば、物心ついた頃から無類の生き物好きだったそうだ。

「幼稚園の頃は虫ばかり取ってましたね。小学校の時に初めて野生のクワガタを捕まえたんですけど、その瞬間はいまだに覚えていますよ」と先生。
昆虫博士になるのが夢だった少年が、いまでは生態系全体を対象にした研究者となった。進路の決め手になったのは、学生の時のアメリカ旅行で大自然を体感したことという。

「大自然を前にして、これはフィールドの研究だ!と思ったんですよ。もともと植物も好きで、生き物全般に興味があって」。

現在続けている研究のうち、メインとなる2本柱は「北極」と「河川流域」。両者はまったく対照的だが、臨むのは同じ視点から。
 
それは、生態系を構成する個々の生物にスポットを当て、個々の生物の生態を明らかにすることを積み上げていくことで、生態系全体を理解しようというもの。その上で、どのような物質循環が構築されていて、それが環境の変化によってどのように変わっていくかといったことをつぶさに調べ、全体像の理解を目指している。

「例えば、河口域の干潟にはいろんな生物がいる。なかでもカニや巻貝などは、物質循環に大事な役割を果たしているんですね。そこで、巻貝を通して炭素などの物質がどう動くかを定量化しようとしています。生態系の中で元素が動いていくのに、生物がどう関わっているのかを定量化する。ガス交換があればその速度や、そこに温度や光といった環境要因が影響するとどうなるかなど、生態系の中で起こっている物質の流れを明らかにしようとしています」。

その手法には、フィールドでの現地測定と室内実験や栽培実験など、ありとあらゆる方法で、自然へのアプローチを行っている。
 
 
北極研究に20年。これほど長期の研究例は他にない。
 
  「北極」の研究は、ノルウェー北部を拠点として国際的な連携のもとで行われ、論文も主に海外に向けたものだ。北極に日本の領土がないなかで20年もの間続けられている先生の研究。その希少性から多方面より高い関心が寄せられているという。

そして極地はいま、温暖化が急激に進んでいる最中だと先生は言う。

「この10年くらい、データ的にも進んでいますね。極地は他の場所に比べて、非常にはっきり分かるんですよ。どう変わりつつあるのか、これからどう変化していくのかといったことに対して答えを見出すことは、科学者としての責任だろうと思うんです。温暖化を直接止めることはできませんが、そうした環境の変化を深く理解するためには、必要な情報だと思うので、これからも国内外の研究者と連携しながら調査・研究を続けていきたいと思います」。
 
一方、「河川流域」の研究は、身近な環境問題に直接かかわるものであるだけに、学会への発表だけでなく、地域に対して分かりやすい形で情報発信する必要性を感じているという。

「最近注目しているのは、外来種の問題。特に河川流域にはいろいろな外来種が入ってきて、さまざまな変化を起こしている。これをどう解決していくかということは、研究者だけの問題ではないですよね。そこで、『エコネットひがしひろしま』などの社会活動にも積極的に関わるようにしています」。
この2本柱の今後の目標は――。

まず、「北極」の研究では、しっかりとした研究拠点を構築して、次の世代に引き継いでいくことを目指しているという。
 
 
  「やはり極地の研究というのは、なかなかアクセスできないし、時間もかかる。そこで、これまで積み上げたものを、ネットワークも含めて次の世代につなげていく。先人が築いてくださったものをベースに私たちが研究をしてきたように、継承することは大切ですね。人材育成も同時にやっていかないといけません」。

さらに、「河川流域」の研究では、今後も研究を続けつつ、応用につなげるのが目標とのこと。

「まだ調べることがたくさん残っていますから、対象を広げてボトムアップしていく。それと並行して、自然と市民がふれあえる機会をつくるといった社会への働きかけも続けたいですね。子ど達が自然を好きになってくれるように、観察会などもやっているんですよ」と先生。

調査・研究結果が、市民が地域に親しみ、地域を盛り上げていく動きにつながっていくことを期待しているという。
 
研究は世代を超えてつながっていく。このおもしろさを知って欲しい。
 

  研究の醍醐味は、「思いもかけない生き物の姿を発見することにある」と先生は言う。

「目立たない植物がすごい能力をもっていたり、とても不思議なことが見つかったり。ヤマをはってやるんですが、大体予想と違うんです。そういう新たな発見が一番おもしろい」。

さらにもうひとつ。「あるフィールドに何年かしてまた行ってみると、個々の生物や生態系への理解が深まっているので、以前と見え方が違うんですね。そんな風に、自分自身の理解がすごく進んだことを実感できる瞬間もまた、醍醐味のひとつと言えるでしょうね」とニコニコ顔の先生。

外に出かけていくといつも、なにかしら「えーっ?」と思うことがあるといい、研究者として実績を積んだいまでも旺盛な好奇心は変わらぬままだ。

そうして、先生の研究は続いていく。

「研究って世代を通じてのものだと思うんですね。思いも含めて、私たちの積み上げてきたものを次の世代が受け継いで発展させて欲しい」。

そんな思いは、若い世代に向けたメッセージにも込められている。

「最近の学生さんは、ネットで調べて進路を決めてしまうというようなところがありますね。それよりも、経験して、ゆっくり自分の将来やるべき方向を探してほしいと思います。とにかくやってみると、なんでものめりこんでみると、すごくおもしろいんです。研究ももちろんおもしろいし、もうひとつ、自分の能力とか、自分発見ということもそこにはあるんですね。自然を知る体験と同時に、自分を見つける体験ができる。それをぜひ皆さんにやって欲しいなと思います」。
 
中坪 孝之 教授
ナカツボ タカユキ
陸域・大気循環予測論研究室 教授

1990年4月1日~1991年3月31日 日本学術振興会特別研究員(PD)
1991年4月1日~1999年3月31日 広島大学総合科学部 助手
1999年4月1日~2002年3月31日 広島大学総合科学部 助教授
2002年4月1日~2007年3月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授
2007年4月1日~2011年8月31日 広島大学大学院生物圏科学研究科 准教授
2011年9月1日~ 広島大学大学院生物圏科学研究科 教授

2015年11月26日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦