佐久川 弘教授に聞きました!
 
地球温暖化など、環境破壊は進行し、その影響は、植物にも如実に表れている。植物への悪影響を防止する方策はないものか環境を化学の視点から幅広く捉え、植物を守り育てる技術開発に取り組む。
 
大気汚染や酸性雨が植物に及ぼす影響を調査。そこから防止策の解明に挑む。
 
  佐久川先生は環境化学に興味を持ち、その分野の研究者になったという。「1960年代から70年代にかけて公害が激しかった時代に、その被害を防ぐ対策がないかというところから研究を始めました」。以前は野外に出かけては、松枯れやナラ枯れなどについて調べていたそうだ。

「大気汚染や酸性雨が植物に悪い影響を与えるということはすでに分かっていて、現在は、車の排気ガスから出てくるような微細な粒子の中に、どういった有害物質が含まれているかを大気を採取して詳しく分析し、それらが植物にどういう影響を与えるかを調べています」。

こうした有害物質には、最近注目されているPM2.5なども含まれるといい、広く世界的に研究されている分野のひとつだ。
 
なかでも、先生の研究の特色となるのは、環境評価だけでなく、環境からの影響をどう防ぐかということを重点としていること、さらには、詳しいメカニズムの解明にも取り組んでいることが挙げられる。

「目指しているのは、有害物質が植物に及ぼす環境ストレスを抑制する技術の開発です。オゾンや酸性雨が植生に触れると、葉面上で活性酸素が発生します。それがおそらく、クロロフィルなどに直接作用して、光合成活性を停滞させている。つまり、活性酸素の有害な作用を防ぐことができれば、オゾンや酸性雨の影響を防げるのではないか。

こうした考えに基づいて、現在は『活性酸素消去剤』というものを使った実験を中心的に行っています」と佐久川先生。実験にマンニトールという活性酸素消去剤を使用するのも特徴的という。
 
 
カギは活性酸素。温室内での暴露実験で、活性酸素の影響を防ぐ方法を探る。
 
  普通、こうした実験には抗酸化物質として知られるアスコルビン酸がよく使われるそうだが、先生の研究室では、マンニトールを使った暴露実験で、実際にオゾンの影響を防げることを確認しているという。

「屋外に設置したチャンバー(温室)内で、さまざまな暴露実験を行っています。暴露というのはさらすということですね。具体的に説明しますと、活性炭フィルターを通したきれいな空気で満たしたチャンバーに、単一の汚染物質を入れて、光合成量や成長量などを測定し、影響を見ていくというやり方です」と佐久川先生。

「これまでのマンニトールを使った暴露実験では、オゾンをかなり高濃度に暴露しても、植物は元気で、光合成活性も落ちないし、クロロフィル含量も低下しないということが分かっています」。
 
先生はまた一方で、活性酸素を使って植物の病気を防ぐ研究も行っている。「活性酸素の働きに着目して、これを意図的に発生させることで植物葉面のカビ菌の働きを抑制できるのではないかと考えました。そして、実験を重ねて、『活性酸素発生溶液』を作ったんです。これを使うことで、植物の病気であるうどんこ病などが防げるようになります。こうした研究は、広島県の農業技術センターと一緒に行って、すでに特許も取っています」。

このように、活性酸素は植物にさまざまな影響を与えることが分かっている。それをうまく活用して、病原菌を殺したり、大気汚染から保護したり、植物を元気にするというように、コントロールしていく技術を開発していきたいと先生は語る。
 
 
環境は陸海空全体としてひとつのシステム。その総合的な理解を図るのが環境化学の醍醐味。
 

  先生によれば、広島大学は環境化学の研究がやりやすい立地にあるという。

「広島大学は、瀬戸内海に面した独特の気候、環境がありますから、環境を研究するのに適したロケーションと言えるでしょう。さきほど紹介した大気の研究のほかにも、水圏の研究も実はやっているんですよ」と佐久川先生。広島大学生物生産学部の附属練習船・豊潮丸に年2回ほど乗船し、瀬戸内海の海水中の化学成分などを調べているという。

「いまは農薬について調べています。農業活動の結果として、農薬は川に流れ、最終的に瀬戸内海までやってきます。農薬は安定的な物質が多いため、光化学分解とか微生物分解などをあまり受けずに瀬戸内海まで行き、プランクトンや魚に濃縮される。そうした影響についても調べています」。

最後に、環境化学研究の醍醐味を尋ねると、先生はサンプリングと化学分析の2つを挙げた。「いろんなところに出かけていってサンプリングするのが面白いですね。加えて、微量な化学物質をいかに正確に測るかということも重要視されます。陸海空全体でひとつのシステムとして存在する環境というものを理解し、そのメカニズムを解明していく研究の面白さを、多くの学生たちに知ってもらいたいと思っています」。
 
佐久川 弘 教授

サクガワ ヒロシ
環境化学・環境分析学研究室 教授

2001年1月1日~ 広島大学 教授

2014年2月7日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦