三本木 至宏教授に聞きました!
微生物のエネルギー代謝タンパク質の構造と機能を解明し、生命が生きるための仕組みを知る。エネルギー代謝のひとつである発酵現象にも着目し、基礎的な知見を食品産業に活かしていきたい。
 
 
生命の仕組みを突き詰め、タンパク質の不思議に挑む研究。
 
  三本木先生の現在の研究の端緒は、学生時代にタンパク質に興味を持ったことにある。なかでも惹かれたのは、タンパク質構造の多様性だ。

「タンパク質の構造で、アルファベット26文字すべて表せます。これは、ヒトが文字を発明するずっと以前から、自然がそうしたデザインをしていたということで、そんなタンパク質の不思議と、タンパク質がなければ維持できない生命との関係というものに非常に興味を持ったんです」。

そして、研究のもうひとつのキーワードは、「エネルギー代謝」だ。先生によれば、エネルギー代謝の問題は、“生命とは何か”という問いかけにほかならない。つまり、先生の研究は、エネルギー代謝に関わるタンパク質の構造や機能の解明を通して、「生物がエネルギーを得る仕組み」を知ろうとすることだ。
 
研究は大きく3つの軸に展開されている。「養分が外界からインプットされると、これが細胞内で変換され、エネルギー代謝タンパク質が働く訳ですが、わたしはこれをXYZの3つの軸で研究しています。X軸は『電子伝達鎖軸』、Y軸は『ATP合成軸』、Z軸は『発酵軸』。X軸では『シトクロムc』を、Y軸では『ATP合成酵素』をターゲットとして幅広く研究を行っています」。これは、頭のなかで自身の研究をジオラマ化することが好きと言う先生らしい解説。研究の全体像もタンパク質模型のごとく立体的に捉えられているようだ。

その研究のスタイルはというと、「教科書を基本に、次に一歩進めるのが研究であり、教育であると考えます」と先生。教科書に記載されているタンパク質でも分からないことだらけという現状から、先生の研究が教科書を書き換える成果につながった例もある(後述)。また、2001年には農芸化学会奨励賞を受賞するなど、学会内でもその研究は大いに注目されている。
 
 
立体的な研究展開。論理的に続けていけば新たな可能性も開ける。
 
  各研究について、もう少し細かく解説しよう。

X軸にあたる「シトクロムcの研究」は、学部の卒論研究がきっかけだ。「伊豆の温泉には72℃で生育する好熱菌と呼ばれるものがいまして、こういうのを極限環境微生物と言うんですが、それが卒論のテーマとして与えられたことから、これに興味を持って取り組みました。研究室で培養して菌がどんどん増えてくるとピンク色に変化する。そのピンク色の実態がシトクロムcで、以来30年以上、これに魅了されて研究を続けています」。シトクロムcの研究ではその後も、温度に対する環境適応性を調べたり、構造から安定性をもたらす分子のメカニズムを調べるといったことが中心となっている。
 
一方、Y軸にあたる「ATP合成酵素の研究」では、ATP合成酵素が回転しながらATPを作ることを証明。その成果はその後、教科書の書き換えにつながっている。そして、実際に回転している映像は先生の研究室のみが保持しており、先生はその貴重な映像を学部1年生の授業で見せているとのこと。いわば広島大学の学生のみがこれを見られることになる。

また、Z軸にあたる「発酵の研究」では、2014年7月に生物圏科学研究科と包括的研究協力に関する覚書を調印したオタフクソース株式会社と共に、「野菜・果実の発酵技術に関する分野」での研究開発が進行中だ。「発酵現象もATPをつくるためのひとつの形態。それに関する基礎的な知見を食品産業に活かすことで、いずれは有益な食品開発へと応用していきたいですね」。
 
 
  こうした研究全体について先生は、それぞれの基礎研究の中に応用の可能性が秘められていることから、「研究は基礎と応用の往復」と捉えている。「卒論研究に端を発したように、『若い時に与えられたものを一生かけて解く』というのがわたし自身の研究姿勢です。これからを担う若者たちにもそうした姿勢を考えてみてもらいたい。他方、研究はただまっすぐではなく、時に基礎と応用を行ったり来たりもする。それでも、わたしは研究を立体化しているので、テーマが変わってもいつかつながっていくと考えています。それは現在も実感していることで、そんなことも含めて、自然科学は実におもしろい」と微笑む。
 
科学研究は自然を翻訳する作業。伝えることはなんと難しいことか。
 

  先生が感じている研究の醍醐味とは。その問いには、「先人の教えを伝えること。未知の世界を言葉で表すのが科学者」との言葉が返ってきた。

「わたしの恩師は『基礎も応用もおもしろい。両方やれ』と言われていたし、隣の研究室の先生は『困ったことがあったら、微生物が教えてくれる』と言われました。また、恩師の師にあたる坂口フラスコを開発された坂口謹一郎先生は『未知の世界が残されているということは楽しいこと』と著書で言われています。こうした偉大な先人の教えとともに、自分がやっていることを学生に伝えていく。それが研究を通して得られる醍醐味でしょうか。学生との対話はわたしが最も大切にしていることのひとつです」と先生。

そんな先生が描く今後の展望とは。ひとつは研究者として。これも学問体系を3軸に分けて解説された。「ひとつは、これまで通りの研究を続けること。そうした自然科学分野が一番おもしろいんですが、これと並行して人文科学分野と社会科学分野への展開を考えています。人文科学分野では、自身の研究が『化学史』のなかでどのような位置づけにあるのかを俯瞰したい。また社会科学分野では、人の営みである科学研究に組織論の視点を取り入れるべく勉強を続けていきたいですね」。

もうひとつは教育者として。「その昔、蘭学者である緒方洪庵が開いた適塾をお手本にした教育を考えています。ひとつの学問体系に身を置いて自分を磨くという姿勢を見習いたい。それによって、学生たちが国際的教養人に近づくことができる広島大学となるように」。

最後に、研究者を目指す皆さんへ次のようなメッセージを送る。
「研究室での教育プロセスを学士・修士・博士と設定すると、それぞれの過程で成すべきことが見えてきます。学士では、基礎実験や論文を書くということはどんなものなのか、まずは参加して知ることが大事。ぐっとレベルが上がる修士では、努力することを学ぶ。博士の時期には自力で学術論文を投稿して、結果を残す。そんな風に、自分の位置を知り、論理的に考えることを意識していくと、迷うことの少ない人生を歩めるのではないでしょうか。さらに博士から後は、同業者として同じ視点からアドバイスしたいと思います。自然科学はどこまでもおもしろく、対峙する科学者は、自然の本質をわたしたちのことばで客観的に表現する仕事です。伝えることの難しさを噛みしめながら、共に努力をつづけていきましょう」。
 
三本木 至宏 教授
サンボンギ ヨシヒロ
微生物機能学研究室 教授

1992年6月1日~1995年2月28日 オックスフォード大学生化学科 博士研究員
1995年3月1日~2002年1月31日 大阪大学産業科学研究所 助手
2002年2月1日~2002年3月31日 広島大学生物生産学部 助教授
2002年4月1日~2011年9月30日 広島大学大学院生物圏科学研究科 助教授・准教授
2011年10月1日~        広島大学大学院生物圏科学研究科 教授

2016年12月13日掲載

 

人間と自然の調和的共存への挑戦