上真一教授に聞きました! インタビュー
 
近年、海を席巻きするようになったクラゲという未知の存在を詳しく説き明かしていくうちに広く人類の存在に関わる問題だと気づかされた。人間の英知によって、本格的な海の姿を取り戻さねば。いまこそクラゲの声に耳を傾けたい。
 
クラゲはなせ大量発生するのか、その生態の解明からのスタート。
 
写真   上先生はエチゼンクラゲ研究の第一人者として、世界的に知られる存在。
だが元々は、動物プランクトンの研究が専門だったという。クラゲ研究を始めたきっかけを上先生はこう語る。

「生物生産学部が現在の東広島キャンパスに移転し、東広島や呉の海でプランクトンを採取しようとしたところ、大半がクラゲの粘液にからまっていたりして、実験材料にならない状態だったんです。そこで、敵であるクラゲについてよく知らないとプランクトンの研究もないと考えました。さらにその頃、漁業者から『クラゲが増えて漁ができず大変だ』という話がたくさん寄せられたんですね。実際の被害の大きさを知って驚き、クラゲについてちゃんと研究して漁業者を助けたいという思いが沸き上がってきました。調べてみると、クラゲの研究者は世界的にもほとんどおらず、クラゲの生態も謎に包まれていることが分かりました。いわば“海の生物の暗黒地帯”だったんです」。
 
こうして、研究対象が変わったが、実はクラゲも巨大なプランクトンなのだそう。「1mmほどの大きさの動物プランクトンから1~2mの巨大なプランクトンに関心が移ったということなんです」。その後、上先生はエチゼンクラゲの人工繁殖に世界で初めて成功。クラゲの生態の解明もかなり進んできている。「研究を進めるほどに、クラゲの大発生の原因は、温暖化、富栄養化、魚類資源の減少などにあり、これらはいずれも人間活動が招いたものであることが分かりました。海の環境がクラゲにとって好適な条件になっているため、すぐにクラゲを減らして魚の海に戻すのは容易ではありません。クラゲの海に対する特効薬はないんです」。
 
漁業者を守るために『クラゲ予報』を実用化。予測そして抑制へ。
 
エチゼンクラゲ大量発生による被害は実に深刻で、2005年には約300億円もの被害が報告されている。これをなんとか最小限にとどめるために、上先生が編み出したのは、大量のクラゲが発生して日本にやってくるかどうかという“ 予報” を出すという手法だ。すでにエチゼンクラゲの発生場所は中国で、対馬海流に乗って約3ヵ月後に日本にやってくるということが明らかになっており、モニタリングからおよその規模も推定されるという。「台風と同様に、いつ頃、どれくらいの規模でやってくるかが事前に分かれば、その間に対策を取ることができます。実際に2009年には特に大量のエチゼンクラゲが発生しましたが、予報体制によって被害を1/3~数分の1程度まで抑えることができました。2006年から始まったこの予報体制の精度を今後はもっと高めていきたいですね」。さらにその先の目標は、クラゲの全体量を減らすことだと上先生は言います。

現在、農林水産省等の委託により、クラゲ対策プロジェクトのリーダーとして、クラゲの発生予測や制御のためのさらなる技術開発に取り組んでいるとのこと。
 
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「いかにしてクラゲの全体量を減らすかということになると、海の環境をよくしたり、魚をもっと管理するといったことをしていかないといけません。それには、日本だけでなく、中国や韓国をはじめとした各国の研究者、さらには行政とも一緒になって取り組んでいく必要があります」。日中韓での国際共同調査はすでに実施されているほか、日本と同様の問題を抱えるスロベニアとの共同研究や各国の有識者が集まる国際会議、国際シンポジウムなどで上先生は広く協力を訴えている。
 
この研究をライフワークに。”大里海の再生”をめざしたい。
 
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この研究の醍醐味とは。「クラゲの予報をすると、漁業者たちがものすごく喜んでくれるんですよ。研究の直接的な成果を喜んでくれる人がいるというのは大変ありがたいこと。研究者冥利に尽きますね。さらに、クラゲの大発生は世界中で問題になっていますから、我々の先進的な研究によって、他の海域でのクラゲ発生の解決に近づくためのモデルを示すことができたという喜びもあります」と上先生。

「クラゲはその巨大でグロテスクな姿で、私たちに海の変化を知らせてくれる“海からの使者”ではないかという気がしています。クラゲは大発生によって、人間のおごりを私たちに伝えに来ているのだと。こうしたクラゲのメッセージを人間のことばに翻訳して伝えることこそが私の使命だと考えています」。

研究の最も大きな目標は『大里海の再生』であるという。「東アジアの海の環境管理と漁業管理を通してクラゲを減らし、魚の生産量の極めて高い海である『大里海』の復活をめざしています。これはもうライフワークです。人間が地球上で永住するために、学問を越えてやるべきことがまだまだあります」。

海洋立国推進功労者賞
海洋立国推進功労者賞[1]を受賞されました。
  国際シンポジウム
2013年に広島で国際シンポジウムが開催されます。
 
上 真一 教授
ウエ シンイチ
国立大学法人 広島大学 海洋生態系評価論研究室 教授

1973年 広島大学水畜産学部水産学科卒業
1976年 広島大学大学院農学研究科修士課程修了
1978年4月1日~1983年1月15日 広島大学 助手
1983年1月16日~1994年3月31日 広島大学 助教授
1994年4月1日~広島大学 教授
1995年1月1日~1996年3月31日 オレゴン州立大学 客員教授
2007年5月21日~広島大学 理事・副学長

2012年8月30日掲載

 
脚注
1. 「海洋立国推進功労者表彰」(首相官邸ホームページ)

人間と自然の調和的共存への挑戦