2012年度HINDAS第2回研究集会 報告

2012年度HINDAS第2回研究集会
日時:2012年8月10日(金)13:30-16:50
場所:広島大学大学院文学研究科 1階大会議室(東広島キャンパス)
共催:経済地理学会西南支部例会


<報告1>
宇根義己(広島大学/NIHU)
インドの地方小都市における繊維産業集積の形成—マハーラーシュトラ州イチャルカランジの事例

 本報告は,インド最大の織布生産を誇るマハーラーシュトラ州の代表的集積地であるイチャルカランジ市を対象に,織布産地の形成要因と生産構造の一端を明らかにした。現地調査は2012年3月に実施し,織布工場4社,テキスタイルパーク1社,生産団体などを訪問した。
 まず,同国における繊維産業の特徴を示した上で,織布生産の地域的差異と織布産地の存在を浮き彫りにした。織布生産は繊維衣料産業の中間工程であるが,インドでは民族衣装サリーを代表として一枚ものの布を多用する文化がある。そのため,大規模な織布需要に伴って産地形成が進んできた。
 イチャルカランジ市は人口が30万人の小規模都市ながら,Roy(1998)によると全国で3番目の規模(1996年)である。当市が織布産地として発展した背景は,1)約100年前の藩王国時代に国王が繊維産業を奨励したこと,2)有力な社会実業家が斯業のための研究・教育機関等を設立し,労働力の質を高めたこと,3)1980年代以降,政治的影響力をもったキーパーソンが登場し,集積の発展を政策的・政治的に後押ししたこと,が上げられる。
 次に,織布工場への聞き取り調査をもとに織布産地の生産構造の一端を示した。織布工場への調査は充分なサンプルを収集することができなかったが,以下の事が明らかになった。1)創業者には本人や親の代に他地域から移住した者が多い。2)操業年数が長い企業は複数の工場を所有している。3)主な調達品である糸は,種類を問わず全国各地から購入している。製品はブローカーを介して全国の顧客と取引されている。わずかながら製品を輸出する企業も確認された。4)労働者はビハール州やウッタル・プラデーシュ州といったいわゆる貧困州からの出稼ぎ労働者を雇用しているケースが多く,経営者との直接契約によって長短様々な契約期間で雇用されている。このほか,報告では繊維産業専用の工業団地テキスタイルパークについても概要程度に説明した。
 以上から,イチャルカランジにおける織布産地の形成には,歴史的経緯,支援機関とキーパーソンの存在が重要な役割を果たしたこと,域外の起業家や労働者が織布生産を担っていることなどを明らかにすることができた。本報告は予察的な調査・分析に留まったが,今後調査を重ねることにより,考察を深めたい。 (宇根義己)

<報告2>佐藤裕哉(広島大学) インドにおける医薬品企業の立地パターンと日系企業の進出実態

 本報告の目的は,インド医薬品産業の立地パターンと,日系企業がインドをどのように捉えているかを明らかにすることと,地理学からインド医薬品産業に対してどのようなアプローチが可能かを考察することである。そのために,1.制度などインド医薬品産業の概要把握,2.ダイレクトリーによる立地状況の把握,3.インドに立地する日系企業の聞き取り調査による実態把握を行った。分析の結果,以下の点が明らかとなった。
本社と工場の立地をみると,マハーラーシュトラ州(ムンバイ)とグジャラート州(アフダマーバード)に集積する。製造工程別にみると原薬と製剤で立地パターンに違いがあり,原薬はムンバイに集中し,製剤は相対的に分散傾向がみられた。また,聞き取り調査の結果,日系企業はインドの化学・薬学系人材の厚み,原薬の品質の高さ,税制優遇など政府の支援,を評価している。一方,評価していない点として,インフラの悪さ,特許法(改正されたが未だに問題が残っていること),薬価の低さが指摘された。
 上記の調査結果は,集積理由や効果,地域経済への影響などは十分に把握できていない。集積地域でのフィールドワークによって取引・共同研究ネットワークや労働市場などを把握し,これらを捉えることが今後の課題である。(佐藤裕哉)


<報告3>和田 崇(徳山大学):映画に関する地理学的研究の動向とインド映画産業の特徴

 本発表は,映画に関する地理学的研究の動向を整理した上で,インド映画産業の概況を把握することを目的とした。映画に関する地理学的研究は,映画の中に表現された場所・空間を読み解く研究,産業あるいは文化として映画の立地状況を解明する研究,映画を活用した地域振興に関する研究に大別される。
 国別に映画制作本数(2009年)を比較すると,インドは1,288本と世界第1位で,第2位のアメリカ(694本)を大きく上回る映画大国である。インドの映画は国内に多数存在する各言語で制作されており,ヒンディー語映画,タミル語映画,テルグ語映画などの制作本数が多い。制作本数や製作規模,映画のグレードなどからみてインドの映画産業の中心地といえるのがムンバイである。ムンバイの映画制作関係者/社のほとんどは市の北郊に集中して立地している。これは,地価の安さ,撮影スタジオの立地とともに,職種間で緊密に連絡をとりあいながら協同で仕事を進めるという映画産業の特質に起因する。しかし近年,スタジオの老朽化や不足などから,他州のスタジオや海外で撮影を行うケースも増加しており,ハリウッドでみられるようなランアウェイ・プロダクションが確認できる。 (和田 崇)

<集会全体の概要>
本研究集会は、基盤研究B「インド成長産業のダイナミズムと空間構造」(代表者:友澤和夫(研究分担者))との連携企画により実施されたものであり、また、経済地理学会西南支部例会との共催としても開かれた。報告内容は、繊維衣料産業(宇根報告)、医薬品産業(佐藤報告)、映画産業(和田報告)という現代インドにおける重要産業が取り上げられ、その発展と空間的特性について現地調査の結果を交えながら報告がなされた。質疑応答では、参加者に経済地理学分野の研究者が多かったこともあり、各産業における全体像についての質疑や、地理的な現象についての質疑が相次いだ。経済発展の進展に伴って現代インドの産業構造は劇的に変動していると考えられるが、そうした変化を大枠で確実に把握しつつ、その空間的特性の理解に努めることが必要である。(宇根 義己)



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