2012年度HINDAS第1回特別研究集会 報告

2012年度HINDAS第1回特別研究集会
日時:2012年10月7日(日)13:30-14:45
場所:神戸大学 鶴甲第1キャンパスD棟D303(〒657-8501 神戸市灘区鶴甲1丁目2-1)

<報告>
中村雪子(お茶の水女子大学・院)
インド、ラージャスターン州における酪農協同組合組織の展開――女性酪農協同組合を中心に――

 現在,インドは世界一のミルク生産国であり,同時に乳製品市場としても世界最大である。昨今の急激な経済成長を背景に将来的にも大幅な需要増加が見込まれ,一層の生産力の増強が求められている。今日の状況につながるインド酪農産業の近代化は,1970年代に大規模化したインドの酪農開発(Operation Flood Programme,以下OF計画)に端を発する。OF計画は,乳牛の品種改良,近代的家畜飼育搾乳方法導入,農村と工場を結ぶ集乳ルートの確立とともに,単位酪農協同組合組織をとおした農村地域の社会的経済的政治的向上をめざしたものであった。酪農協同組合の数度の刷新を経て国家的な酪農開発が現在も推進され,農村地域における酪農協同組合組織の普及が継続されている。1992年の免許制廃止,続くWTO加盟によって,酪農産業には協同組合組織以外にも,民間企業と多国籍企業の進出が進んでいる。このような現状において,酪農協同組合組織は,市場での厳しい競争に対峙することになっている。
 本報告で対象とするラージャスターン州は,現在,ウッタル・プラデーシュ州に次ぐインド第2位のミルク生産州である。乾燥・半乾燥地域に属し,家畜飼育頭数の多さが特徴的な同州では,酪農産業は州の発展にとって重要な産業として位置づけられている。近代的酪農産業の成立条件として非常に厳しい地理気候的環境の中で,1970年代にOF計画の一環として導入された酪農協同組合組織は重要な位置を占めてきた。さらに,1990年代初頭からは,中央政府主導の農村女性のエンパワメントを主目的とした農村開発政策の一環として成立した「女性酪農協同組合」を,村落/集落レベルの組織化が進めている。州全体として酪農協同組合組織における女性メンバーの割合は増加し続けており,2010年10月現在,全単位酪農協11,990のうち女性酪農協同組合は,4,226を占め,全組合員数646,129のうち女性組合員数は206,553と約31%を占める。
 2010年4月から8月にかけて,ラージャスターン州では各種協同組合組織の選挙が実施された。この選挙は,2002年に新たに施行されたラージャスターン州協同組合法2001(Rajasthan State Cooperative Societies Acts,2001:以下,ラ州協同組合法2001とする)に基づいて行われた2度目の選挙である。ラージャスターン州酪農協同組合(以下,州酪連)組織では,各県酪農協同組合(以下,県酪連)において少なくとも一人以上の女性理事が選出され,州酪連理事会においても前回選挙(2005年)に引き続いて女性理事が選出された。ラージャスターン州では,1990年代初頭から村落/集落レベルにおいて女性酪農協同組合が組織化されてきたが,県/州レベルの理事会に女性が選出されたのは2005年(前回選挙)が初めてであった。本報告では,ラージャスターン州の酪農協同組合組織において2010年に行われた選挙とそれへの女性の参加状況に関する調査結果を示す。さらに,その結果を組合法改訂の動きを視野に入れながら,女性のガバナンスへの参加状況にどのような変化が表れているか,知見を提示した。(中村 雪子)

<討論内容と座長所見>
本報告は,報告者の中村氏が約十年にわたり現地調査を継続してきたラージャスターン州の女性酪農協同組合について,その展開経緯と実態を詳細な具体的事例をもとに論じたものである。質疑応答では,女性が主体となって展開する組合の性格的位置付けや政府の政策,ミルクの供給体制などについて質問が寄せられた。近年はデリー首都圏の成長に伴って同州が酪農製品の供給圏にも組み込まれ、発展していると報告者が示していたように,現地の社会文化的特性に根ざした酪農生産が遠隔大都市の発展によって変容していく様は非常に興味深い。今後の研究の発展を期待する。(宇根義己)



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