2013年度HINDAS第5回研究集会 報告

2013年度HINDAS第5回研究集会
主催:HINDAS 研究ユニット1、2
開催日:2014年1月25日(土)13:30-18:00
開催場所:広島大学大学院文学研究科1階B153講義室(東広島キャンパス)

溝口常俊:インドUP州サンディラ地区における定期市の変容
土屋 純:インドにおける小売チェーンの発展と地理的拡散
渡辺和之:ネパールにおける定期市−インド・バングラデシュと比較して
杉浦由香里:現代インドの義務教育制度に関する一考察

第1報告:溝口常俊「インドUP州サンディラ地区における定期市の変容」
1989年にサンディラ地区で調査した30箇所の定期市を、2009年から2013年にかけて再訪して、それらが20年間でいかに変容したかを、同地区の都市と農村の変化とあわせて報告した。定期市の変容としては、①定期市の数自体は変わっていなかったが、規模は縮小傾向にあった。②女性客の増加が目立った。定期市を補完する機能として、常設店舗が増え、朝市、毎日市のウエイトが高くなり、道路沿いの露天商も増加した。また、緑化運動が高まったのか国道沿いに苗木の卸売り市が認められた。女性、子どもが楽しめるメラ(大市)は昔と変わらず賑わっていた。(溝口常俊)
定期市機能の再発見として、①カーストの混在、共生する空間であること、②子ども稼ぎの場になっていることが確認された。家庭環境の深刻さもあるが、それが解消されない限り、定期市は、彼らが気軽に店を出すことが出来る点で、その存在意義は大きいものがある。また、夫の出稼ぎなどで家庭の主とならざるを得ない女性にとって、村の小さな定期市はなくてはならない存在となっている。
【討論内容と座長所見】 本報告では、報告者が1989年に調査したインドUP州サンディラ地区の定期市の20年後(2009年)の変容について考察がなされた。定期市の数自体はさほど変わりないが、規模が縮小傾向を示していること、朝市が増加したこと、女性客が増加したこと等が明らかにされた。定期市が流通システムにおいて依然重要な役割を果たしているとの報告者の指摘は、一般的な都市発展図式の再検討を促すものとして大変興味深い。報告後、女性客の増加と女性の経済状況の変化との関係、出店をめぐる交渉等についての質問が出、議論がなされた。(森 日出樹)

第2報告:土屋 純「インドにおける小売チェーンの発展と地理的拡散」
本報告では、小売チェーンの発展過程と地理的拡散について検討するものである。インドでは、2000年代よりデリー首都圏やムンバイ大都市圏を中心として、経済成長に伴って中間層人口が増加した。そうした需要増に対応するように、家電や衣料品などの専門店や百貨店などを展開する小売チェーンが発展している。そうした小売チェーンはタタやリライアンスといった財閥の多角化戦略の中で展開しており、外資と合弁で展開する場合が多くなっている。小売チェーンの地理的拡散は上位の都市から展開する傾向にあり、デリーやムンバイといったTire Iの都市を中心としながら、次の都市階層であるTire IIやIIIにも展開するようになっている。加えて、パンジャブ州など州政府が許可して小売チェーンの発展を促している場合もあり、特定の州に偏っているチェーンも存在する。インドでは州を結ぶような交通インフラの整備が進んでいないことから、小売チェーンの全国化は進んでいないが、今後もその拡散状況に注目していきたい。(土屋 純)
【討論内容と座長所見】 土屋報告は、インドにおける小売りチェーンの近年の変化を概観した後、大型ショッピングモールの分布展開を分析した結果をまとめたものである。経済発展に伴う消費量の増大は、人々の購買行動を変化させ、また大型ショッピングモールはそれに呼応するように大都市を中心に急速に増加しつつある。大型ショッピングモールは、メトロポリス規模の大都市内部でのさらなる増加とメトロポリス周辺地域や地方中枢都市への拡散が顕著となっており、土屋報告では、これらの大型ショッピングモールの立地展開を地図化し、可視化した点で高く評価される。
課題としては、インドのおける流通構造の変化に関する全体像がとらえにくいこともあり、「インドにおける小売チェーンの発展と地理的拡散」の要因や背景にアプローチできるようになると、さらなる展開が期待できる。(由井義通)

第3報告:渡辺和之「東ネパール・サガルマータ県における定期市の変化:北インドと比較して」
従来、低地から高地へ物が一方方向に流通することが指摘されてきた東ネパールの定期市において、山を下りる産物に注目し、ローカルな産物が周囲の村々から集る中心地としての機能を考察した。高地と中間山地で、定期市にどのような商品が集るのか、1990年代と2010年代の調査と比較することで、20年間の変化を分析した。
結果として、次の2点がわかった。第1に、低地から高地へ米や生活雑貨が流通する大きな流れは認められる一方で、ジャガイモや大根などのローカルな農産物は高所から低所へ集積していた。第2に、20年間の変化では、自動車道路が開通と出稼ぎの普及に伴い、ブドウやリンゴなど、インド産の果物が定期市に出現した。一方で、山地産の産物は定期市で売買されても、そこから都市や平原まで流通するものはほとんどなかった。この点で低地から高地へ一方方向的に流通する大きな流れは変わらなかったが、定期市に出現する地元産の農産物も種類が増えていた。
その背景には、出稼ぎによる土地利用の変化がある。すなわち、労働力不足で遠い棚田での稲作は辞めても、家庭菜園での冬野菜の栽培や家畜飼養など、集落の近い場所で農業の労働集約化が進み、そこで得た農産物を定期市で販売することが村に残った人々の現金収入源となっているのである。
似たような事例は、北インドの調査でも確認できた。UP州ラクノウ郡では低カーストの地位向上政策に伴う農業労働者の賃金上昇により、小麦や水稲から手のかからないマンゴーに転換する地主が増えている。ネパールの中間山地でも近年はコーヒーを家庭菜園で作る人が増えており、これらの作物が商品作物として定期市でどれだけ流通するようになるのか、あるいは別のチャンネルで流通するのか、今後の動向が期待できる。(渡辺和之)

杉浦由香里:現代インドの義務教育制度に関する一考察
本報告では、現代インドにおける義務教育制度について考察した。一般に、義務教育制度の成立要件として1)就学義務、2)学校設置義務、3)就学保障義務(無償制および児童労働の禁止)の三つが挙げられる。義務教育制度が確立するためには、これら三つの義務とその履行が問題となる。とりわけ重要なのが3)就学保障義務であり、無償制と児童労働の禁止の実現が義務教育制度確立の鍵となる。
長らくインド憲法45条の無償義務教育条項は努力義務規定にとどまってきたが、2002年の第86次憲法改正において教育への権利(21A条)と親の就学義務(51A条)が明記されたことにより、無償義務教育は国民の基本権として位置づけられることとなった。さらに、2009年には無償義務教育法が定められ、無償制が具体化されるとともに、政府や地方当局の学校設置義務規定が明示された。
このように、インドにおいても義務教育法制が一見整備されたかにみえる。だが他方で、問題なのは、児童労働法制とその履行に大きな課題を抱えている点である。インドにおける児童労働の実態は改善するどころか深刻さを増しているのが現実である。また、経済的理由による中途退学も多く、義務教育制度の確立に影を落としている。
児童労働と不就学は相互の関係にあり、不就学や中途退学の改善のためには児童労働の禁止を実現することが必要不可欠となる。したがって、現代インドにおける義務教育制度の成立から確立への道筋を展望する上で、児童労働と不就学をめぐる現実と課題を実証的に考察することが今後の課題といえる。(杉浦由香里)

  








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