2013年度HINDAS第6回研究集会 報告

【主催】HINDAS 研究ユニット1、2
【日時】2014年2月10日(月)13:30〜17:10
【場所】広島大学大学院文学研究科1階B102講義室
【報告】
和栗 佳代(広島大学大学院国際協力研究科・院)
バングラデシュ青年期女性の学歴取得の意義と性役割観の変容―ガイバンダ郡後期中等学校生徒を事例に―

板倉 和裕(広島大学大学院社会科学研究科・院)
独立期のインド政治とマイノリティ問題―SC留保議席導入をめぐる政治過程を中心として

河井 由佳(広島大学大学院教育学研究科・院)
現代インドにおけるガーンディー主義の教育―マハラシュトラ州ワルダーの教育実践より―


【報告】
 本研究集会は、若手研究者の育成の一環として、広島大学の大学院生による研究成果発表を行ったものである。
 第1報告:和栗佳代(広島大学大学院国際協力研究科・院)「バングラデシュ青年期女性の学歴取得の意義と性役割観の変容―ガイバンダ郡後期中等学校生徒を事例に―」
本報告は、バングラデシュ共和国ガイバンダ県ガイバンダ郡を研究対象地とし、現代の青年期女性の学歴取得の意義と性役割観を、同世代の男性ならびに彼らの母親との比較(男女間比較、世代間比較)を通して明らかにし、ミクロな視点からの教育におけるジェンダー平等の課題を同定することを目的とする。
同郡の青年期女性のライフコース観は、教育と職業の接続が希薄であった母親世代と比較して、より社会進出志向へと変容してきていると指摘できる。しかしながら、女性隔離の規範であるパルダや家父長制に関しては、依然として肯定的な姿勢を持つ青年期女性が多く、また、ガイバンダ郡の産業基盤は、教育基盤の拡大と比例していない。現代においても学歴に関わらず、教育修了後に結婚というのが女性の一般的なライフコースであり、教育拡充政策が「教育を受けた結果」には結び付いていない。しかし、複線的な教育拡充政策の効用として、女子教育の普及が女性の早婚予防に寄与していること、また、夫婦間のバーゲニングパワーとして教育が機能していることが指摘できる。つまり、教育が女性のエンパワメントにおいて一定の役割を果たしてはいるが、女性の自己実現には、産業基盤の拡大を待たなければならない。(和栗佳代)
【討論内容と座長所見】 質疑では、現在の就業内容や学校の違いによる特徴の差異の有無、ライフコースや家庭環境などについて質問があり、議論がなされた。
 和栗報告は修士論文の調査をもとに行われたもので、自身による現地調査に基づいた大変意欲的な研究である。要旨にも述べられているように、女性のエンパワメントにおいて教育が一定の役割を果たしているが、卒業後に教育および学歴が活かされるような就業機会は残念ながら少ない。このことはバングラデシュにおける産業発展がまだ初期段階にあることを示しており、経済発展と教育との関連について考えさせられる大変示唆に富んだ指摘といえる。また、和栗報告はジェンダー観やライフコース観といった論点から実態に迫っている点、また、女子生徒を対象にしながらも男子生徒についても調査している点、調査学校についても政府系、非政府系といったように比較の観点を分析に取り入れ、さらにインフォーマントの母親のライフコースまで調査するなど、論拠に厚みをもたせている。この点は高く評価されるべきではないだろうか。今後の研究に期待したい。(宇根義己)

第2報告:板倉和裕(広島大学大学院社会科学研究科・院)「独立期のインド政治とマイノリティ問題―SC留保議席導入をめぐる政治過程を中心として」
 本報告では、インドにおける社会的マイノリティに対する政治的保障措置、とくに指定カースト留保議席に注目し、そのような措置が憲法に盛り込まれた理由を歴史的に考察した。指定カースト留保議席の成立について先行研究は、今日広く認識されているように、補償的差別ないし積極的差別是正措置という観点から説明してきた。それゆえか、先行研究では、指定カースト指導者たちが彼らに固有の社会的脆弱性を自覚し、政治的保障が必要であると考え、何らかの権利を憲法にもたらそうと主体的に政治に働きかけていった過程には十分な関心が向けられてこなかった。
以上の点を踏まえ、本報告では、指定カーストの中心的指導者であったB. R. アンベードカルに焦点を当てインドの制憲政治を再検討した。それにより本報告は、まず、アンベードカルが印パ分離独立後の新たな政治環境を考慮し、従前の主張を変化させたこと、自らに歩み寄る姿勢を見せていた会議派指導者と協力関係を構築し、目標決議を実行に移させるべく政治を導こうとしたことを明らかにした。次いで、制憲議会が政治的保障措置の対象を限定する方向へと動いていくなかで、会議派指導者たちは、マイノリティ一般に対する留保議席の見直し議論と社会的マイノリティとしての指定カーストに対する配慮を講じていくための議論とを切り離すための論理として「後進」概念を強調するようになったことを明らかにした。(板倉和裕)

【討論内容と座長所見】 質疑では、アンベードカルのライフヒストリーや周辺人物との関わり、彼の行動の拠り所になった点は何かといった、アンベードカル個人に関する内容が多く取り上げられた。
座長所見として1点だけ指摘したい。これは「無い物ねだり」かもしれないが、ネルーやパテールといった大物人物を主体とするアリーナのなかでアンベードカルはどのような立場にあり、またどのように戦略的な立場を取っていったのかといった、いわば内実のような点に関心が向いてしまった。このことは、板倉氏の分析が「きれいにまとまりすぎている」からそのような内実に目が向いたのかもしれない。板倉氏は憲法制定過程におけるマイノリティの政治的権利について一貫して研究しており、今後の研究に期待したい。(宇根義己)

第3報告:河井由佳(広島大学大学院教育学研究科・院)「現代インドにおけるガーンディー主義の教育―マハラシュトラ州ワルダーの教育実践より―」
本報告は,ガーンディーの教育思想である「ナイー・タリーム」が、どのようにガーンディー主義者達によって継承されてきたのかを明らかにするとともに、マハラシュトラ州ワルダーのセヴァグラム・アシュラムにあるガーンディー主義の学校の教育実践を検証することにより、現代インドにおけるガーンディー教育思想の影響の一端を明らかにすることを目的とした。
「ナイー・タリーム」とは、1937年の「全インド国民教育会議」において、国民教育政策としてガーンディーによって提唱された「ベーシック・エデュケーション」の枠組みを生涯教育まで拡張したものである。ガーンディーの没後も「ナイー・タリーム」はヴィノーバなどのガーンディー主義者達によって継承されてきた。現在、セヴァグラム・アシュラムにある「アーナンド・ニケタン小学校」では、ナショナル・カリキュラムや州のカリキュラムを考慮しつつも、糸紡ぎなどのクラフトや農業が教育活動に導入されており、ガーンディーの教育思想に沿った教育が行われているということであった。しかし、この学校は1〜7年生までの取り組みであり、地域との関わりもほとんど無いことなどから、成人教育や衛生教育によって農村の復興を重視した従来の「ナイー・タリーム」の構想とは異なるものであった。(河井 由佳)
【討論内容と座長所見】 河井氏の報告に対する質疑では、「ナイー・タリーム」と「仕事教育」との関係、調査学校の教師の思想などについて質問があった。座長所見としては、ガーンディー主義を実践するような学校の場合、教師のボランタリティー精神による運営が極めて重要ではないかと感じた。また、今回の事例「アーナンド・ニケタン小学校」では、地元と深い関係にある財閥から資金協力を得ているとのことであり、そうした経済的支援が特定思想に基づいた学校の運営の存立基盤となっている点は見逃せないと感じた。今後の研究に期待したい。(宇根義己)






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