徳島大学 大学院生物資源産業学研究部 特任助教 谷原 史倫 先生

No.16 「遺伝子改変ブタの可能性」


 
徳島大学 大学院生物資源産業学研究部 特任助教
谷原 史倫 先生




 
専門分野:動物発生工学
履歴:
2014年3月  山口大学大学院連合獣医学研究科獣医学専攻博士課程修了(博士・獣医学)
2015年1月  徳島大学 特任助教, 糖尿病臨床・研究開発センター
2016年2月  徳島大学 特任助教, 生物資源産業学部(仮称)設置準備室
2016年4月  徳島大学 特任助教, 大学院生物資源産業学研究部

◯ 医学研究の現場で活躍する遺伝子改変ブタ

新薬を開発したり、ある特定の病気の治療方法を研究したりする際には、多くの場合実験動物が使用され、場合によってはその用途に応じて(例えばヒトの病態モデルになるような)遺伝子操作が行われます。実験動物には、マウスやラット、ウサギ、ブタ、サルなどが使用されていますが、遺伝子改変動物が作製されるのはマウスが中心でした。私は、実験動物の中でもブタに焦点を当て、私たちが確立した新規のゲノム編集技術であるGEEP法(Genome Editing by Electroporation of Cas9 Protein)を使って遺伝子改変ブタを製作する研究をしています。GEEP法は簡便で時間がかからず、一度に多くの卵子を処理できるといった多くのメリットを持っています。

写真:実験で使う機材と使用の様子
(左上:GEEP法で用いる電極と実体顕微鏡、右上:マイクロマニピュレーターと倒立顕微鏡、
右下:体細胞クローン技術 / 除核の様子)

◯ 遺伝子改変ブタの今までとこれから

従来、遺伝子改変ブタの作製には体細胞クローン技術が使用されてきました。この技術は、マイクロマニュピレーターという機材を使い、顕微鏡下で卵子を一つずつ捕まえ、インジェクションピペットと呼ばれる針のような細いガラス管を卵子に刺し、核を除去し、代わりに体細胞の核を入れて発育させるというものです。この技術は難しく、上手い人でも多くの時間と労力を必要とします。また、卵子に物理的に傷をつけてしまうため卵子自体のダメージも大きく、母ブタに卵子を移植したとしても、遺伝子改変された子豚が作られる成功率は決して高いとは言えません。
 近年、ゲノム編集技術が確立され、その技術を活用して様々な動物種で精度の高い遺伝子改変が可能になりました。GEEP法は2つの金属電極の間に体外受精卵を並べ、電気を流すことでゲノム編集を引き起こす分子(Cas9タンパクおよびガイドRNA)を受精卵の中に導入し、一度に多くの卵子の遺伝子を改変できることを特徴としています。GEEP法だと、約50個程度の卵子を一度に処理でき、設計したガイドRNAにもよりますが、遺伝子改変の成功率は7~8割です。遺伝子改変ブタ作製の具体的な手法としては、まずGEEP法を使用して遺伝子改変をした受精卵を作ります。それを受胚ブタと呼ばれる母ブタに移植し、無事に着床すれば約4ヶ月の妊娠期間を経て遺伝子改変された子ブタが生まれてくるという流れになります。これまで行った研究では、10頭生まれてきた中で9頭が遺伝子改変された子ブタでした。母ブタから生まれてきた1世代目の遺伝子改変ブタは正常な細胞と遺伝子改変が行われた細胞が混在するモザイク状態のブタであるため、実際に医学研究などで疾患モデルとして使用する遺伝子改変ブタは、場合によってはその次の世代の2世代目からということになります。
 このように、ひとつの疾患モデルに合った遺伝子改変ブタを製作するにはある程度の時間が必要になりますが、従来の技術と比べると簡便で、遺伝子改変胚の作製に時間がかからず、生まれてきた子ブタの生存率も良いというのが、GEEP法の大きな魅力であると考えています。

写真:徳島大学 創薬・医療機器開発施設の外観

◯ 可能性に富んだ「ブタ」を利用して

実験動物としてのブタは生理学的、病理学的、解剖学的にヒトに近く、また、サルよりコストが安いため、注目されている動物です。通常、創薬のための医学研究でははじめにマウスやラットが使用され、ある程度効果が確認されたらその次のステップとしてサルでの実験という流れがあります。非常に高価なサルを使用する前段階としてブタを挟むことで、コストの削減が見込めるのではないかと考えています。
また、大動物で体の大きさがヒトに近いために、新薬開発だけでなく医師の手術手技トレーニングでも利用されています。

もともとはいわゆる犬や猫といった小動物が好きで獣医師を志しましたが、大動物の方が肌に合うことが分かってきました。最新の遺伝子改変技術に触れ、これまで学んできた獣医学と組み合わせて発展的な研究をブタで行えることは、今後の獣医学の発展にも貢献できるのではないかと思っており、とても面白いと感じています。

◯ 社会に還元できる未来を目指して

製薬会社などのニーズに合わせて、GEEP法や体細胞クローン技術を活用して、有用な遺伝子改変疾患モデルブタを製作していきたいと考えています。また、近年再生医療をキーワードとしたさまざまな研究がされているので、そういう医療ニーズにもこたえていきたいですね。例数を増やし、精度を上げていくことで、安定的な遺伝子改変ブタの供給に貢献できればとも考えています。
これまで潜在的なニーズは多分にあったものの、マウスと違い遺伝子改変が難しいブタはなかなか普及しないという現実がありましたが、GEEP法によってそれが変わってくるのではないかと期待しています。

 

取材担当:田崎 優里(広島大学 大学院教育学研究科 心理学専攻 博士課程前期2年)