主な研究と特長
化学情報の取得を目的とする各種の分析技術は、研究開発はもとより工業分析や環境管理を支える基幹技術の一つである。分析技術無くしては現代工業社会の繁栄はあり得ないが、一方では分析機器の使用による試薬消費・エネルギー消費の問題も避けることができない時代になりつつある。この問題は特にクロマトグラフィーなど大量の溶離液を使用する分離分析の分野で重大である。分析技術の開発に携わるものとして次世代の分析法はゼロエミッションを目標とした「環境にやさしい」分析法でなければならないと考えている。
1)キャピラリー電気泳動法(CE)による微量分析
以上のような観点から次世代の分離分析法として期待される方法の一つにキャピラリー電気泳動法がある。この方法は分析に必要な試薬量が非常に少なくかつ高感度で迅速な分析が可能であって、ミクロ化の可能性も実証されているが、本法を分離分析法の中核に据えるには解決すべき問題も多い。特に分析法として重要な再現性については更に向上させる必要がある。そのため、再現性に関わる因子を計算機シミュレーションにより評価し現象の解明を行うと共に、理論的に予測される分離の実験的検証や現象のモデル化を行うなど種々の基礎的研究を進めている。
2)CEによる移動度・pKaの測定
このようなシミュレーションに必要なイオン性物質のpKa等や電気泳動移動度等は分析化学の基盤を支える重要なデータであるが、それらの重要性は認識されてはいるものの残念ながら現在では実際に数値を求める作業はあまり省みられなくなっている。我々は等速電気泳動法を使用してこれらの定数を算出し得られたデータをデータベース化してきた。キャピラリーゾーン電気泳動法では自動化装置が使用できるので、CEの分離の場が自由溶液と見なせる特長を生かし移動度・pKaの自動測定が可能なはずである。移動度測定には浸透流補正・温度補正など解決すべき問題も多いが、現在このため基礎研究を行うと共にソフトウエアを開発中である。
3)電気泳動法を基礎とする新しいhyphenated techniqueの開発
大量のマトリックス中の微量成分の分析は実分析において最も重要な課題であり、生体試料や鉱物試料を中心に選択性の高い高感度・高精度な分析法が求められている。我々は電気泳動法を基礎とする新しい分離識別システムの開発と微量成分の分析等を継続的なテーマとして研究を進めながらマトリックス中の微量成分の分析に電気泳動法を分離前処理法として用いるhyphnated techniqueを種々検討している。既に実用化した方法として等速電気泳動−粒子励起X線分析法(ITP-PIXE)がある。この方法は等速電気泳動法(ITP法)で分離ゾーンを分取し各フラクションをPIXE分析する方法であり、希土類鉱石・核燃料再処理廃液模擬試料等複雑な組成を持つ試料の高感度・高精度な分析法として有用である事を実証済みである。更に検出法を変える事により高感度化をはかれる可能性があり、原子発光法との組み合わせ(ITP-AES)等よる新分析法の開発を行っている。
4)イオンビーム・放射光を用いる表面分析
現代の分析化学は物質の化学情報に対する総合的なアプローチを行うものであり、特に材料工学の基礎として重要な役割を担っている。物質の化学情報を十分に引き出すにはバルクの組成分析のみならず局所分析が必要である事は言うまでもない。このようなニーズに対しては分離分析のみでは対応できない。そのためイオンビームや放射光を使用する非破壊分析法(PIXEやSRXF)などを利用した種々の表面分析にも取り組んでいる。研究内容は測定システムの開発・整備から、解析に必要なソフトウエアの開発まで多岐に渡っている。特に放射光を利用する分析は今後当研究室の重要な研究課題となろう。
今後の展望
今後は上に述べた各テーマの深化をはかりながら、キャピラリー電気泳動分析装置のミクロ化をはかり試薬消費量の大幅な低減や分析の迅速化を達成する研究をすすめたいと考えている。また機器分析技術はインテリジェント化の一途をたどっており、機器分析におけるソフトウエアの重要性は予測・診断等の目的において一層高まるものと推測される。その意味でシミュレーションソフトウエアの一層の高度化や分離分析装置に移動度などの測定機能を付与するソフトウエアの開発も重要な課題である。
経歴
1967年広島大学理学部化学科卒業、72年同大学大学院理学研究科博士課程単位修得退学、同年理学博士、75年同大学工学部応用理化学助手、92年同助教授、94年同教授
所属学会 日本化学会、日本分析化学会、放射光学会
研究室人員 学部学生6人、修士課程6人、研究生1人
主要論文・著書