(工学部コミュニケーション、'98-vol.1 1998.4.1発行)

共通講座から新入生諸君へ

平成10年度共通講座主任 廣川 健


 新入生諸君、入学おめでとう。共通講座の教職員一同、心より歓迎します。ご承知のように、我が工学部では第1類から第4類、つまり機械系、電気系、化学系、建設系という工学体系別に諸君を教育するシステムを採用しています。共通講座はこれらの類以外の第5番目の組織で、諸君の専門分野の基礎教育を担当する教職員のグループですが、その存在自体、諸君には初耳かも知れません。この小文では諸君に共通講座を紹介すると共に、大学で何を学ぶべきかについて私の考えを述べてみたいと思います。

 工学とは種々の物質・エネルギー・情報などの生産力を向上させるための応用的科学技術の総称です。現代工学は大きく二つの指向性を持っていると思います。一つは既に工業的に確立している技術の維持・改良、もう一つは現在未開発であるが将来人類の福祉に有用であると考えられる新技術の開発です。どちらの方向についても自然科学の基礎が重要ですから、諸君は専門分野に応じて数学・物理・化学などを「専門基礎科目」として学ぶことが義務づけられています。我々共通講座の教官は、このような基礎教育を担当しながら各自の専門分野に関する先端的研究を手がけています。

 どのような学問も時代背景によって変化していくものですが、学問体系を樹木に例えるなら、時に剪定し風通しを良くしたり、全体を見直して樹勢を整える必要があります。我が工学部でも組織改革の動きがあり、共通講座は『応用数学物理系』の新設を提案しています。この組織は数理現象工学講座と物理工学講座の2大講座からなります。皆さんの入学にはこの新しい組織は間に合いませんでしたが、中にはこの『応用数学物理系』に属する研究室で卒論研究を行う人が出てくるかも知れません。

 さて、諸君は入学にあたってどの程度学問に取り組む心積りが出来ているでしょうか。一生懸命に受験勉強に励み、その努力の甲斐あって今日があるのですが、いささか受験勉強に疲れてしまっていませんか?高校と違い、大学では諸君は一人前扱いされる事が多いのですが、自由と放縦を履き違え、自律を忘れた生活に自己を埋没させてしまい、大学入学の目的を見失ってしまう人が少なからずあるように見受けます。早く心身の疲れを癒し、新たな目標を設定して前進しなくてはなりません。強いて勉めることも必要ですが、それに加えて「学とは何ぞや」と自ら問うべき時期に来ているのです。

 大学では、まず種々の専門基礎科目を履修し、各専門分野の基礎知識を収得します。さらにそれらを有機的に繋ぐ「ものの考え方(論理的思考法)」を学びます。考え方を講義の中や書物の中に見いだすだけでなく、実際に自分で考える習慣を身につけなければなりません。また、問題にぶつかったとき、どこにどんな資料や設備があるのか、どのように調べれば目的の知見が得られるのか、その方法論も重要です。さらに机上の理論だけでなく、実験などを通して実地に様々な体験を踏む必要もあります。

 こうした知識や体験を積み重ねて最後に身につけるべき力は、何より問題を見つけたりそれを解決する力ですが、その力の基礎は、「何故か」とか、「どうすれば良いか」と考える力です。記憶に頼り知識の断片を頭の中に詰め込んだだけでは実はそれらはあまり役には立ちません。ある物事の知識は様々な他の知識との有機的な連携の中で始めて生きてくるものです。さもないとすぐ忘れてしまうのは諸君自身が良く知っている事でしょう。その有機的な連携はどうやって作れば良いのでしょうか?なかなか難しい問題ですが、私の考えは、まず諸君が自分にとって興味のある事を見つける事だと思います。そしてそれに打ち込んでみる事です。面白いと思って打ち込んで得られた知識はなかなか忘れず身に付くものです。そうして得られた知識を幹に据えておけば、枝葉にあたる知識も次第に付いてくるように思います。大学での講義や読破した本の中にその「何か面白いもの」を発見する事が、今からの諸君の第一目標ではないでしょうか。なるべく早い時期にそれを見つけることが出来れば、幸福というものです。

 学問に王道なしというように、学問は楽なものではありません。楽に見えるものは、たいていそれだけのものです。苦労したものや、とても面白く感じて打ち込んだものが、その密度の時間積分に応じて、いつか諸君にプラスになって帰ってくるのです。健闘を祈ります。

 

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