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● 巻頭言 クール・ジャパン再考

青木孝夫(広島大学大学院総合科学研究科教授)

今年は明治維新より150年ということで、政府の記念事業も多いと聞く。昨秋、政府の官房長官が「大きな節目で、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは重要だ」と述べたというが、それはまた日本のかつての勢いに陰りが見え、その弱みが自覚されてきたからでもあろう。

最近、海外の人の口を借りて「日本は凄い」というテレビ番組に接し、辟易することも多い。日本文化の美点の指摘を通して、日本人自身が自国の文化や伝統を見直す番組の先陣を切ったのはNHK・BSが2006年4月に始めた『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン〜』であった。

その頃、経済を専門とする人々の間から、美や文化や感性を強みとした日本の国づくりが提唱されはじめていた。例えば、静岡県知事を務める経済学者川勝平太であり、『新・文化産業論』(1979)を更に展開していた日下公人らである。川勝は、『「美の文明」をつくる』(2002)、『「美の国」日本をつくる』(2006)などの著作で、国土や森や自然の美しさを保持し、また多様な国々や文化を調停・調和させ、国としても個人としても徳を積む役割を日本に求めていた。

同じ頃、製造業の勢いが衰えてきた日本が、その文化の魅力を日本商品のブランド化に利用する考えが現れた。2006年、「新日本様式協議会」が設立され、技術力と伝統文化の融合した「日本らしさ」で日本商品を輝かせるという。経済産業省が2010年6月に設置室を置き推進している「クール・ジャパン」は、サブカルチャーなどのアートを中心に伝統文化やファッション、食文化、デザインなどのライフ・スタイルや気遣いやおもてなしの感性、つまり文化のソフト・パワーの魅力を訴え、「文化産業で世界で稼ぐ」策である。その基本思想を嚮導する一人は、「クール・ジャパン官民有識者会議」の座長代理を務める松岡正剛である。公表された『面影日本―日本の本来と将来のために』を見ると、母国を保持し、飛躍させるために国の文化的な母体Matrixを回復し、将来へと繋げる政治的意思が根幹にある。話は明治に跳ぶが、国粋保存旨義を唱えた政教社では文明開化を受けとめ変化する国の主体を「国粋」(nationalityの訳)と呼んでいた。この国粋にはまた国の文化形成の生きた精髄・精気を示す用法もあり、志賀重昂は日本の卓越的契機として「美術的の観念」を語る。松岡らもまた「日本流」の基礎にある「見立て」「本歌取り」「かわいい」など、社会の根底にある無形の美的文化形成遺伝子に着目するのである。日本に顕在しまた潜在する文化の力で日本を再生し創造し輝かせようと。

美的な文化や景観による国の振興は、国内的にはインバウンドやアートによる町おこし等の戦略とも関連し、地域社会の創造や再生と連関するが、文化経済学会の発足は既に1994年のことである。この四半世紀、高齢化が進展し人口減少が進む日本は2011年に東日本大震災に見舞われ、グローバル経済の荒波の只中で欧米と東アジアに挟撃されて立ち尽くす。この時、国の再生・振興を期して、経済の枠を越え、或いは経済・産業と結びついて、あらためて日本の文化による創造が議論の焦点に浮上した。未来志向の美の日本回帰、美的ナショナリズムの登場にクールに注目する次第である。

 

 

● 第122回例会報告

研究発表報告① 谷口仙花の描いた女性像―戦前の作品を中心に

発表:角田知扶(呉市立美術館学芸員)

報告:市川由(広島大学総合科学研究科人間科学部門人間存在領域 M2)

谷口仙花(1910-2001)は、近代日本画壇において活躍した女性作家である。戦時中に夫・船田玉樹の故郷である広島県呉市に疎開し、およそ10年の年月を過ごした。角田知扶氏の発表は、2010年に呉市でその作品が新たに発見されたことをきっかけに、谷口仙花の画業を調査し、特に作家の特徴ともいえる女性表象に着目し、考察したものであった。

初期作品の「日本のミレー」と謳われた農女のモチーフ、その後、川端龍子に師事し、青龍社展を中心に発表した職業婦人からモダンガールへの流れ、そして青龍社から独立した後の伝統美とモダニズムの融合といった変遷を作品に即して辿り、谷口が如何に評価されていたかを概観した。そして評価をえながらも、自身が女性であることによる作家活動の難しさに悩んでいたことを発表された。

谷口の作品、および資料が戦前のものを中心に検討されることが多いなか、今回の発表で、新しく発見された作品の一つ『夏日幻想』が出品後改作されていたことが判明し、これまで渡米後だと考えられてきた仏画の構想が呉時代からあったことが明らかとなった。また、このことにより、青龍社時代とそこからの独立後での描かれる女性の表情の変化に仏画の影響があることが裏付けられた。

44歳で渡米して以降、帰国することなく、多くが不明となっていた後半生について、いささかでも知ることができたのは大きな意義があると感じた。また、渡米後にみられた仏画の構想が呉時代からあったことは郷土の作家として扱う上で重要な事柄だと感じた。今後の研究の更なる発展により、米国時代の制作など、画家の全貌が明らかとなることを切望する。

 

研究発表報告② 明治期の広島における洋楽普及のネットワーク~一次史料の調査をもとに~

発表:能登原由美(「ヒロシマと音楽」委員会)

報告:馬場有里子(エリザベト音楽大学)

発表者の能登原氏は、「ヒロシマと音楽」委員会のメンバー、また委員長として、片仮名の「ヒロシマ」に関わる音楽作品の情報収集や、その演奏・聴取のあり方に着目した研究で知られるが、今回の発表内容は、「ヒロシマ」以前の明治期の「広島」を対象に、洋楽普及に関わる諸状況を取り上げるものであった。

日本近代の洋楽受容については、1960年代に『明治音楽物語』や『音楽明治百年史』といった雑駁な通史によって紹介された後、特に1990年代以降において、塚原康子や中村洪介らをはじめとする綿密な資料調査に基づく学術的著作が現れ、本格的な研究が進展してきた。とはいえ、その対象となる地域は東京や関西、あるいは外国人居留地などが中心であり、近年地方都市にも広がったとはいえ、能登原氏によれば、広島については、特定の人物や団体などを取り上げた個別研究にとどまっている。そこから全体像の把握へと繋げていくためには、広範囲にわたる地道な資料調査が不可欠となろう。

能登原氏も、今回の研究においてまず、明治期の音楽雑誌ならびに新聞記事(中国新聞、芸備日日新聞ほか)などを調査し、手掛かりとなる情報を丹念に拾い上げる作業を行っている。そこから、氏は、当時の広島の軍都および学都としての特性に着目し、洋楽導入・普及に大きく貢献したネットワークとして、主に、軍楽隊、官製教育機関(広島師範学校、県立広島高等女学校、広島高等師範学校)、民間の音楽隊(広島音楽隊)の存在とその活動(広島高師内の丁未音楽会など)があったと指摘した。そのうえで、小学校教員を対象とする音楽講習会や研究会、および、さまざまな目的で開催された慈善音楽会などを通じて、郡部を含む現場教員や広く市民一般へと洋楽の普及が進んだ様子を、資料をもとに報告した。

今回の調査結果は、当時の大づかみな状況を整理・確認するものとなったが、新たな資料の発掘や、さまざまな角度からの分析が加わっていけば、さらに豊かな全体像が見えてくる可能性がある。今後は、明治期についてさらに掘り下げを試みるとともに、大正、昭和初期へも対象を広げ、また他都市との比較も行っていく予定とのこと。その進展に大いに期待しながら、次回の発表を待つこととしたい。

 

─事務局から─
 
◆ 【重要】会報の電子化とe-mailアドレスの登録 (再掲)

146号でお伝えしたように、会報を電子化してe-mailで配信することになりました。現時点では、151号(2019年2月頃発行)から電子版となる予定です。

つきましては、会報電子版をお受け取りできるe-mailアドレスを、事務局(hirogei@hiroshima-u.ac.jp)までお知らせください。お知らせがない場合は、会報を配信することができませんので、どうぞよろしくお願いいたします。(皆様のe-mailアドレスは事務局が管理します。個人情報の保護には充分に配慮し、また当学会の活動に直接関係する目的以外では使用しません。)

入会申込書にe-mailアドレスを記載してくださっていた方や、メーリングリストにご登録済みの方は、そのe-mailアドレスを使わせていただきますので、その後変更が生じている場合のみ、新しいe-mailアドレスをお知らせください。

何らかの特別な理由により従来通り紙媒体でのお受け取りを希望される方は、その理由を事務局までお知らせください。委員会でその理由が認められた場合は、紙媒体でのお受け取りを継続することができます。

(事務局長・大島徹也)

 

◆ 新入会者(敬称略)
夏 語聴(XIA YUTING/日本の能楽、日本の伝統文化)
劉 恺(LIU KAI/日本の伝統文化、美学、映画)
寧 洪波(ねい・こうは/芸術における癒しの力)
姚 成語(よう・せいご/明治・大正時期の流行歌)
楊 旭(よう・きょく/サクラの美学)
王 雅培(おう・がばい/食文化)
竹内 麻理絵(たけうち・まりえ/現代美術)
金山 和彦(かなやま・かずひこ/現代美術、幼児の造形)

 

 

─会報部会から─

・チラシ同封について

会報の送付に際して、会員の方々が開催される展覧会・演奏会などのチラシを同封することが可能です(同封作業の手数料として、1回1,000円をお願いいたします)。ただし、会報の発行時期が限られるため、同封ご希望の場合は、あらかじめ下記までお問い合わせください。次号の会報は6月下旬の発行を予定しています。

(馬場有里子090-8602-6888、baba@eum.ac.jp)

           

 

 

大会日程のお知らせ、研究発表者の募集

● 今夏の大会日程が、7月29日(日)に決まりました。

(会場:サテライトキャンパスひろしま502大講義室)

● 研究発表者を募集です。ご希望の方は、発表タイトルと要旨(600字程度)を添えて、事務局までご連絡ください。詳細のお問い合わせは、事務局までお願いします。

 

― 次回第123回例会のご案内 ―

下記のとおり第123回例会を開催いたします。どうぞ多数お集まりください。

海の見える杜美術館
「香水瓶の至宝―祈りとメッセージ―/知られざる竹内栖鳳―初公開作品を中心に―」見学

海の見える杜美術館では、3月よりリニューアルオープン記念展示 「香水瓶の至宝―祈りとメッセージ―」が開催中です。併設の竹内栖鳳展示室では「知られざる竹内栖鳳―初公開作品を中心に―」も開催されており、館蔵品も観覧できます。 同美術館では香水瓶や近代日本画は、その主要なコレクションの分野となっています。また、今回は栖鳳の唯一の油絵作品《スエズ景色》も展示されています。

 

日時:2018年5月26日(土) 10:30(集合)~15:00(解散)
会場:海の見える杜美術館(739-0481 広島県廿日市市大野亀ヶ岡701 Tel : 0829-56-3221)
※JR宮島口駅からタクシー等で約10分 入館料:1,000円(一般)、500円(大学生)

■集合
○とき
2018年5月26日(土)10:30頃
○場所
海の見える杜美術館 正面玄関エントランスに集合
 
■交通
○タクシー利用 (美術館正面玄関につけられます)
※ 領収書の提示により、タクシー1台につき1名分の入館料が無料となります
《参考》JR宮島口駅より正面玄関まで、タクシーで約10分、約1,500円程度。
 
○自家用車
来館者用の駐車場からシャトルバスで正面玄関まで送迎があります(約5分)。
駐車場から正面玄関まで、徒歩で15分程度。
 
■観覧内容・スケジュール
○午前 10:30~11:45
 美術館1階、栖鳳展示室を中心に観覧。★同館学芸員による解説があります。
○昼食
フランス料理「 セイホウ・オンブラージュ 」(美術館から徒歩5分)にて
約2,000円(要予約 ※下記参照)
○午後 13:00~15:00
 美術館2階、リニューアルオープン記念展示を中心に観覧。
13:30から約30分、★同館学芸員のギャラリーツアーがあります
 
■申込み
メール宛先 :hirogei@hiroshima-u.ac.jp
※お名前、緊急連絡先、昼食のメイン料理のご希望(肉か魚かの指定)を明記して、ご連絡ください。
締切:5月15日(火)