消化器外科 上部消化管(胃)

胃癌の治療法

 胃癌の治療法を決めるとき、またその治療法でどの程度直る見込みがあるかを予測する時に、治療選択の指標として胃癌がどれくらい進行しているかをあらわす尺度:胃癌の進行度分類(病期:ステージ)が必要となります。

 具体的には、各検査で得られた所見あるいは手術して摘出した病巣の顕微鏡検査により深達度(癌の深さ)、リンパ節転移、他の臓器への転移の有無に従って病期を決定します。

 日本胃癌学会から発刊されている「胃癌治療ガイドライン」に患者様の病状・病期によってどういった治療が適切かということが記載されています。

治療方針

  1. 外科療法(手術)
    手術は、がん細胞をすべて取り除くことによって治癒を目指す治療法であり、胃がんに対して最も有効で標準的な治療法です。胃の切除と同時に、決まった範囲のリンパ節を取り除きます(リンパ節郭清)。これは、一定の範囲のリンパ節に転移した胃がんであれば手術で治そうという考え方に基づくものです。その範囲を超えた転移であれば、残念ながら治すことは困難です。その後、食べ物の通り道を作るようにつなぎ直します。
    手術はがんが局所にとどまっている場合には最も確実な治療方法ですが、切除範囲を超えてがんが広がってしまっている場合には、手術でがんをすべて取り除くことは不可能であり、手術と化学療法を組み合わせた治療を行うこともあります。以下に、手術の種類を紹介します。
    1. 内視鏡的粘膜切除(消化器内科)
      早期胃がんの中でも、粘膜内にとどまり、大きさも2cm以下であり、がん細胞の種類も比較的おとなしいものと診断された場合は、リンパ節に転移している可能性は極めて低いため、内視鏡を用いてがんを切除することが行われています。切除した病変部を顕微鏡で確認し、断端にがんが残っていないかどうか、がんの深さが予想以上に深くないかどうか診断します。場合によっては追加手術が必要となることもあります。
    2. 開腹手術
      胃がんの標準的な手術療法は、胃の2/3以上の切除と周囲のリンパ節をその周りの脂肪組織などと一緒に取り除く(郭清)方法です。
      胃の切除方法には大きく分けて3通りあり、胃の出口側を切除する幽門側胃切除、胃を全部切除する胃全摘、胃の入り口側を切除する噴門側胃切除となります。
      これらは、がんが胃のどこにどれだけの範囲で存在するか、またその進行度によって術式を決定します。
    3. 腹腔鏡下手術
      腹腔鏡下の胃がん手術は全身麻酔をかけて、腹部に5mm~12mmの穴を数か所開けて、専用のカメラや手術器具を挿入し、モニター画面で腹腔内を観察しながら、器具を操作して胃の切除を行う方法です。
      最終的に4-5cmの創から切除した胃を取り出します。
      従来の開腹手術、腹腔鏡手術
      わが国での腹腔鏡下手術件数

      腹腔鏡下手術のメリットは、
      ・ 傷が小さいことで美容面以外に手術後の疼痛が少ない
      ・ カメラでの拡大視効果などにより出血量が少ない
      ・ 疼痛が少ないことにより手術後のリハビリが比較的容易に行える
      ・ 腹部の傷が小さいため癒着が少ない
      などが指摘されています。 早期の胃がんに対しては従来の開腹手術と比較して安全性は高いとの結果が得られており、全国的に腹腔鏡下手術は増加傾向にあります。当院に置きましても早期癌を中心に積極的に腹腔鏡手術に取り組み2016年の手術症例のうち約75%を腹腔鏡にて行っています。しかしながら、手術の難易度は高く、安全な手術の実施のためには十分な技量・チェック体制を持った施設での実施が望ましいと考えます。当院では安全な内視鏡手術を提供できるよう、日本内視鏡外科学会により、高度な技術と資料力を有すると認定を受けた技術認定医のもとでの手術を行っております。
    4. ロボット手術
      2011年当院において手術支援ロボットda Vinciが導入されました。
      これまでの腹腔鏡手術では医師がモニター画面(2-D画像)をみながら限られた動きしかできない器具を用いて手術を行うのと大きく異なり、手術支援ロボットda Vinciでは患部の立体画像(3-D画像)をみながらかつ腹腔鏡手術では出来ない複雑かつ繊細な動きが可能となりました。
  2. 化学療法(抗がん剤治療)
    化学療法は抗がん剤を用いてがん細胞をおさえる治療です。切除したところに効果がある手術療法と異なり、内服薬または点滴などで行う方法により、薬剤が血液の流れに乗って全身に到達し、がん細胞に影響します。いわゆる全身治療となります。
    薬剤の種類や組み合わせはがんの病期によって異なります。胃がんの化学療法は近年、新しい抗がん剤の登場や大規模な臨床試験の遂行により進歩を遂げている分野です。抗がん剤治療の使われ方は3種類挙げられます。
    1. 術後補助化学療法
      手術でがんを切除できたと思っても、時に目に見えない細胞のレベルでがんが残っていることは否定できず、これが大きくなり見つかるのが再発です。術後に抗がん剤治療を併用し、この可能性を低くしようという考えで行うのが術後補助化学療法です。最近の臨床試験において、ティーエスワンやゼロックス/オキサリプラチンといった抗がん剤を補助化学療法に用いることでⅡ期、Ⅲ期の胃がんの再発が抑制されることが証明され、標準的治療として位置づけられています。 手術を行った場合には、必ず取った胃をよく調べて、正確な病期を判定します。その結果、Ⅱ期、Ⅲ期であった場合には、このような治療が提案されます。手術後の体調など、いろいろな要素を加味して、どのような治療を受けるかについて検討する必要があります。
    2. 化学療法
      手術で取りきれなかった場合、遠い臓器にも転移があり手術が適応とならなかった場合、術後にがんの再発が診断され手術ではとりきることが難しいと判断された場合には抗がん剤治療が治療の柱となります。現代医学においても取りきれなかったがんや再発したがんは完全に治癒することは難しいですが、抗がん剤治療により進行を遅らせて予後をのばす効果は認められています。
      なにより科学的根拠(エビデンス)に基づいた適切な治療が行われることが重要です。薬剤はがんの進行状況に応じて、単独で使用したり、複数を組み合わせたりする場合もあります。不幸にして胃がんが治らないと判断された場合でも、これらの薬を上手に使いきることで、寿命を延ばすことができると考えられています。しかし、抗がん剤治療の効果や副作用には個人差が大きく、また、体の調子が良くない場合やがんの進行がひどいときには行えない場合もあります。個々の患者さんの状態に応じて、治療効果と副作用をよくみながら治療を行っていきます。
      当科では豊富な経験と科学的根拠に基づき、個々の患者様に最適な治療ができるよう尽力しています。また、多くの癌専門施設と共同で臨床研究を行い、免疫化学療法など将来的な新たな治療法になり得る治療法の開発にも取り組んでいます。
    3. 術前化学療法
      まだ臨床試験段階で標準治療として確立していませんが化学療法を行ってから手術を行う場合です。通常、手術で目に見える範囲については取りきることができると判断しても、経験的に、目に見えないレベルで取り残しが生じ、結局は完治が難しいと思われるような、相当がんの進行した場合が対象となります。
      現在行える最強の化学療法は、副作用の関係で、胃を切除したばかりの患者さんに対して行うのは困難な場合がありますので、手術の前のお元気な状態のうちに化学療法を行ってがんを叩いた上で手術を行うのは合理的な方法です。ただし、その化学療法が効かず、手術のタイミングを失ったかのように思える場合もあります。したがって、このような治療法は、臨床試験段階ですので医師からよく説明を聞いて、納得の上で行う必要があります。
  3. 放射線療法
    放射線療法は放射線を用いてがん細胞を殺すがん治療のことです。胃がんに対する効果は手術ほど確実ではないため通常は行われません。現在では、胃がんからの出血を止める目的や、痛みを和らげたりする目的などを中心に行われています。

(文責 田邊和照)

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