熱電変換デバイスは、未利用の大量の熱エネルギーを電気エネルギーに変換して回収する技術であり、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から非常に注目されています。特に、廃熱の回収はエネルギー効率を向上させ、持続可能な社会の実現に貢献するための重要な手段とされています。近年では、IoT(Internet of Things)社会の実現に向けて、年間約1兆個のセンサ(トリリオン・センサ)を駆動する電源としても関心を集めています。室温付近で高効率に発電できる熱電変換デバイスの開発は、これらの技術に大いに貢献できるため、社会的にも非常に重要な課題です。
さらに、熱電デバイスは小型化が可能であり、柔軟性のある材料を使用することで、従来の硬いデバイスに比べて設置や運用の自由度が増すことが期待されます。これにより、さまざまな環境条件下での運用が可能となり、実用性が向上します。また、これらのデバイスは、ウェアラブルデバイスや自律型センサネットワークなど、今後の技術革新において重要な役割を果たすことが予想されます。こうした用途において、有機化合物を基盤とする熱電変換材料(有機熱電変換材料)の開発は、エネルギー効率の向上や持続可能な社会の実現に向けた鍵となる技術です。
有機熱電変換材料として研究されている物質群には、導電性高分子とカーボンナノチューブの2種類があります。カーボンナノチューブは電気伝導性が高いため、多くの研究者が開発に取り組んでいますが、カーボンナノチューブはその炭素の並び方により金属的な性質や半導体的な性質を示すため、通常、これら異なる電気的性質を持つものが混合され、合成されることが多いです。このため、分離が困難であり、性能や用途に限界が生じます。また、熱電変換デバイスは温度差を利用して発電するシステムですが、カーボンナノチューブは熱伝導度が高いため、物質内の温度差が時間とともに消失する問題もあります。
これに対して、導電性高分子を基盤とする熱電変換材料は、有機合成化学的手法により、さまざまな骨格を有する分子を自在に設計・合成できるという特徴があります。導電性高分子は、有機π共役系高分子に酸化または還元処理(これをドーピング処理と呼びます)を施すことで、分子内に電荷を注入し、電気伝導性を発現させます。つまり、ドーピング条件によって、電気特性を精密に制御できるという特徴もあります。しかし、導電性高分子は無機熱電変換材料やカーボンナノチューブよりも電気伝導性が低いため、これが最大の課題となります。また、長期間使用することで脱ドーピング反応が進行し、電気特性が低下する問題も発生します。
導電性高分子を基盤とする有機熱電変換材料の開発研究は非常に限られており(日本国内では非常に稀)、分子構造やドープ率の制御、さらにドーパントイオンの影響について調査した研究はほとんどありません。このため、私たちはこれらの未解決の課題に取り組むことで、国内外の研究の最前線を牽引していきたいと考えています。
これらの課題を克服するため、私たちは以下の4つの観点から高性能有機熱電変換材料の開発を目指して研究を進めています。
- 分子構造を制御した導電性高分子の開発
- ドープ率と熱電変換特性との相関解析
- ドーパントイオンの分子構造によるポリマー膜の力学特性の制御
- ナノ炭素材料(カーボンナノチューブやグラフェン)との複合化による熱電変換特性の改善
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