教授挨拶

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  貴方は男性ですか女性ですか?

 ヒトの性別を決める大きな因子に性ホルモンがあります。いわゆる男性ホルモン、女性ホルモンのことです。これはステロイドホルモンの一種であり、精巣や卵巣で合成され、周産期には形態的な性差や脳の性分化を引き起こし、成熟後は生殖機能を維持する作用を有します。脳はステロイドホルモンレセプターが多数存在し、性ホルモンの影響を受ける臓器の一つです。
  女性ホルモンの一種にエストラジオールがあります。大人の脳では、エストラジオールは記憶能力を増加させ、神経を強力に保護します。すなわちエストラジオールは脳にとってかけがえのないホルモンです。さて、エストラジオールは卵巣で作られます。男性の貴方、卵巣なしで脳にどうやってエストラジオールを供給しますか?また、女性には性周期があります。女性の貴方、卵巣のエストラジオール合成が低い時にはどうしますか?

 実は、脳はかけがえのないエストラジオール、つまり女性ホルモンを自分で作っているのです。

 脳が作るステロイドホルモンは、ニューロステロイドと総称されます。エストラジオール以外のニューロステロイドにも様々な機能があると思われます。しかしニューロステロイドは微量なため、まだまだ研究は進んでいません。 我々の研究室では、脳が作る女性ホルモンの働きや合成調節機構の研究を精力的に行っています。

 貴方は、記憶能力は高いほうですか? 記憶能力には、女性ホルモンも関係しますが、脳内タンパク質のリン酸化、脱リン酸化という作用が大きく関連することが知られています。貴方が物を覚えるときには、脳内でリン酸化や脱リン酸化が起こると考えられています。
 この研究室では、脳の機能に重要な脱リン酸化酵素、CaMキナーゼホスファターゼの発見者がおります。この重要な酵素の性質には、まだまだ未知の部分が多く、脳の機能の理解という点で、この酵素の研究は宝の山です。

 この研究室では、1977年からステロイドホルモンの研究を始めました。当初は大量のホルモンを合成する、副腎皮質や卵巣を用いて成果をあげてきましたが、1995年からニューロステロイドについても研究を始めました。そして2007年からは脳内で脱リン酸化を担う、ホスファターゼの研究を始め、この機会に「分子脳科学研究室」という看板を掲げることにしました。研究手段は、化学を基礎にしていますが、様々な分野の研究者との共同研究も行っており、細胞や個体レベルにも範囲を広げています。

 さて、ここまで読んで下さった貴方、脳という魅力あふれる研究対象を一緒に探ってみませんか。


分子脳科学研究室 教授 山崎 岳