解析学A(木曜日10:50-12:20)





new 講義ノート 2006年7月28日付け版(2006年7月25日版を更に改訂)をupload!
講義担当はないのですが気がついた点を加筆修正しました。昨年度版との違いは測度の構成に関わる7節, 8節, 9節の部分です。 (7月8日記)
不思議なものでいったん手を付けると不備が芋づる式に発覚してしまいました。 修正箇所は80ページ定理13.7の証明です。(7月12日記)
9節を大幅に充実させ1次元Lebesgue積分に関する記述を独立させ新10節としました。(7月17日記)
新10節を加筆修正しました。(7月22日記)
新10節を更に充実させました。(7月25日記)
beta関数,gamma関数について加筆しました。(7月28日記)


期末試験講評


問題\fbox{3}が積分論の応用として見栄えがするし、これから 出会うのはこのような形であろうから、これに焦点を当て 講評を述べ、今後の勉強の参照としてもらうとともに、 授業担当者としての反省点としたい。

まず積分の有限性にこだわり空しい努力をしている答案が目立った。 実は与えられた条件だけでは可積分性は保証されない。 ところが、講義で何度も強調したとおり $+\infty$という逃げ道を用意してあるので、 非負可測関数であるかぎり無条件に積分という概念が有効であり、 Tonelliの定理(誤解を避けるためあえてFubiniの定理とは言わないことにする) が適用できるのである。また単調収束定理がきわめてよく機能する。 但し小問(3)では新たに仮定を追加しており、その条件下では 可積分でありこれが重要である点は注意しておこう。

小問(1)では曲がりなりにも累次積分化しようとしているのだが、 積分領域の対応があやふやな答案が結構多い。 今の場合は三角形領域だから基本中の基本だと思うのだが$\cdots$。 なお細かな点だが、不連続点があるかも知れないLebesgue-Stieltjes測度 に関する積分であるから、 区間の端点が含まれるかどうかを明示することが重要である。

小問(2)では(1)の結果を変形してこじつけようとする答案がかなりあって 少々うんざりした。 これは積分の順序交換には直積測度に関する積分(いわゆる重積分)が介在していること への理解が不足しているためと思われる。

小問(1)と(3)ではLebesgue測度$\lambda$に関する積分 $\int_{[x,+\infty)} e^{-ty}\,\lambda(dy)$と $\int_{(0,+\infty)} ye^{-y}\,\lambda(dy)$を 評価する必要があるが、表面上の計算は(ひょっとしたら高校数学で)既出のものである。 以前との違いは、その理論的裏付けにある。 一つめとして上は広義積分というようなまがい物では\emph{なく}、 非負値可測関数の積分として確定したものであること、 もう一つは単調収束定理を使うことである。 このあたりに関する理解が浸透していないと感じたのは、 7月14日付け課題レポート(演習問題9.17)を採点していたときであった。 講義ノートの記述も不十分であるから、次に担当するときにフィードバック しようと考えている。

小問(3)ではLebesgueの収束定理を使うと意識していても 肝心の優関数をきちんと記述できている答案は皆無であった。 ここがもっとも難しいところだったと思う。

ところで小問(3)ではそれ以前の問題に全く手が着いていないのに いきなり極限の順序交換という荒技を裏付けもなしに使ってしまう 答案がいくつかあった。 だが、それなりの準備をしないと返り討ちにあう。 今はまだ基礎体力作りを優先すべきと思う。 まもなくその時が来て、ほとんど見通しが利かない嵐の 最中に出かけることがあろう。新しいことがそこにあるのだから。 その時にものを言うのがどれだけ蓄えを持っているかである。

今回の試験採点ではいつもより確かな手応えを感じた。 問題\fbox{2}の(2)では絶対連続測度に関する積分についての基本公式を 考察した。単に$\mu = f\ \lambda$という関係を代入して $\int g\ \mu = \int gf\ \lambda$ と考えてしまう答案が多かったのは"想定内"のことで、 少し無理を承知で出題したのである。 これは積分がどのように構成されるかということの縮図であり、 それを意識できている答案が数枚あったのは 嬉しい誤算であった。問題\fbox{1}と問題\fbox{2}の(2)が完答できていた場合は、 積分論の理論的側面をかなり理解できていると思う。 そのような者には積分とうまくつきあう下地が十分にあり、 ひょっとしたらずっと良い仲でいられるかも知れない。 それと同時に嵐に飛び込む勇気も持ち合わせると 応用面でも言うことなしである。




授業の進行状況


◆4月14日:講義ノートのハードコピーを16ページまで配付し、5ページ末の例1.9まで解説
◆4月21日:講義ノートのハードコピーを22ページまで配付し、10ページの系2.17(i)まで解説
◆4月28日:講義ノートのハードコピーを26ページまで配付し、14ページの補題3.15の証明まで解説。
レポート:演習問題1.10, 2.19, 3.5を解答のこと。なお1.10の解答は2.19, 3.5の解答とは 別の用紙に書くこと。またどの問題に対する解答かを明示すること、できれば問題としている命題を 書くのがよい。もちろんそれぞれに解答者名を忘れずに。5月12日の講義終了時に回収する。
◆5月12日:講義ノートのハードコピーを32ページまで配付し、18ページの可積分性と積分の定義まで解説
講義終了時にレポートを回収した。その際、解答例を配付したので以後の提出は受け付けない。 なおワープロで作成したレポートがあったが、今後は自書で署名を付するように指示するつもりである。
◆5月19日:講義ノートのハードコピーを38ページまで配付し、23ページの補題5.4まで解説
講義開始時にレポートを採点した際に気がついた点(mごとに収束のオーダーが違うのを考慮していない) をコメントし、終了時にレポートを返却した。
◆5月26日:講義ノートのハードコピーを46ページまで配付し、28ページの定理6.13(証明は割愛)まで解説。
レポート:演習問題4.13, 5.11を解答のこと。なお解答はそれぞれ 別の用紙に書くこと。6月2日の講義終了時に回収する。
◆6月2日:講義ノートのハードコピーを52ページまで配付し、31ページの定理6.25の証明まで と34ページ例7.9を解説
講義終了時にレポートを回収した。その際、解答例を配付したので以後の提出は受け付けない。 なお解答例を印刷した後で演習問題4.13の解答例に不備があることに気がついた。 「説明したように訂正をされたし」とhomepageの予定稿では書いてあったのだが、 実際はレポート回収時のどさくさで解答例1ページ11行目に訂正があるのを言いそびれた。 下記のリンクには訂正済みのファイルをuploadしてある。
◆6月9日:講義ノートのハードコピーを58ページまで配付し、37ページの定義8.1まで解説。 講義終了時に解答例1ページ11行目に訂正があったことと、レポートを採点した際に気がついた点 (演算が閉じていることを示すのが大事)をコメントし、レポートを返却した。
◆6月16日:講義ノートのハードコピーを66ページまで配付し、43ページの定義9.7まで解説。
レポート:演習問題6.21, 6.24を解答のこと。なお解答はそれぞれ 別の用紙に書くこと。6月23日の講義終了時に回収する。
◆6月23日:講義ノートのハードコピーを74ページまで配付し、50ページの補題10.4まで解説
講義終了時にレポートを回収した。その際、解答例を配付したので以後の提出は受け付けない。
◆6月30日:講義ノートのハードコピーを82ページまで配付し、58ページの定理11.21まで解説
講義終了時にレポートを返却した。
◆7月7日:講義ノートのハードコピーを94ページまで配付し (これで講義ノートの配付完了。授業は14節Fubiniの定理とその応用までをカバーする予定)、 67ページの例12.21まで解説。講義終了時に授業評価アンケートを実施した。
◆7月14日:講義ノート74ページの例13.10まで解説。
レポート:演習問題9.11, 9.17を解答のこと。なお解答はそれぞれ 別の用紙に書くこと。7月21日の講義終了時に回収する。
◆7月21日:講義ノート82ページの例14.17まで解説。これで授業は予定分をすべて終了。翌週7月28日に試験を実施する。
講義終了時にレポートを回収した。その際、解答例を配付したので以後の提出は受け付けない。 7月28日にレポート返却予定。なお提出者の名前が書いてないレポートが一組あった。 心当たりのあるものは岩田まで連絡されたし。
◆7月28日:期末試験実施。受験者数51名であった。講義終了時に試験解説 (なお配付したプリントには[3](2)の解答例で2カ所ミスプリがあります)を配付するとともにレポートを返却した。 なお期末試験も返却する。採点が完了したらこのページで知らせるので希望者は 岩田の研究室まで取りに来られたし。
◆8月3日:解析学A期末試験の採点終了。 答案返却につき希望者は岩田の研究室(C609)まで。





pdf形式ファイル


  • 4月28日課題解答例 5月12日締め切りのレポート課題に対するものです。これはあくまで解答例です。
  • 5月26日課題解答例 (訂正済み) 6月2日締め切りのレポート課題に対するものです。これはあくまで解答例です。
  • 6月16日課題解答例 6月23日締め切りのレポート課題に対するものです。これはあくまで解答例です。
  • 7月14日課題解答例 7月21日締め切りのレポート課題に対するものです。これはあくまで解答例です。
  • 期末試験(解答例 付き)
  • 期末試験解説(訂正済み) 7月28日実施の期末試験に対するものです。問題のポイントを解説するとともに 今後の学習について参考となるヒントをつけています。
  • 講義ノート 7月19日版をupload! (7月12日版を少し手直し)昨年度のと比べて大幅に加筆をしました。 4月11日版との主な違いは15節の部分ですが、講義はその前の14節までを カバーする予定ですので、授業に関する限り影響はありません。 総ページ数は94でpdfのファイルサイズは384KB (それでも以前に比べてずいぶん軽くなった!)に上っています。 もし印刷する場合はいっぺんにやらない方がよいかもしれません。 (なお受講生が当講義のために利用される分には自由ですが、 それ以外の場合は節度を持ってご利用ください) シラバスを書いた時点では13しかなかったセクションの数も15に増えています。 それにともなって 大小種々の間違い、勘違いが紛れ込んでいるものと思われます。追々改訂していきます。 気がついたときは講義終了時などに知らせてください。 参考までに目次を下に書いておきます。

 1 概略--定義域の分割から値域の分割への転換
 2 単関数の積分
 3 非負値可測関数の積分
 4 可積分関数とその積分
 5 Lebesgueの収束定理
 6 測度0の集合
 7 有限加法的測度とそれが誘導する外測度
 8 Caratheodoryの外測度と可測集合
 9 1次元Lebesgue測度の存在
 10 拡張の一意性とその応用
 11 直積測度としての2次元Lebesgue測度
 12 Dynkin族定理と直積測度の構造
 13 Fubini-Tonelliの定理と単調収束定理
 14 Fubiniの定理とその応用
 15 部分積分とそれが開く世界

  • another point of view 7月12日改訂版(6月4日版を大幅に手直し)です。あまり見慣れないやり方で測度論を展開しています。 決して標準的なものではありませんのでよっぽど暇な人以外には勧めません。





シラバスより

授業科目名:解析学A/Analysis A
キーワード:完全加法性、可測関数、ルベーグ積分、収束定理、外測度と測度の拡張、直積測度とフビニの定理
授業の目標等:
 面積とは何か?これを長方形についての公理と、分割に関する加法性だけに基づいてとらえようと いうのが測度論である。 分割を可算無限まで許容するのが特徴であり、解析学は測度論をもとにした積分からRiemann式積分では望めない多大な恩恵を受けている。 本講義では単調収束定理を基軸にすえて測度論的積分を解説する。
授業の内容・計画等:以下の通り
 1 概略--定義域の分割から値域の分割への転換
 2 単関数の積分
 3 非負値可測関数の積分
 4 可積分関数とその積分
 5 ルベーグの収束定理
 6 測度0の集合
 7 有限加法的測度とそれが誘導する外測度
 8 Caratheodoryの外測度と可測集合
 9 1次元Lebesgue測度の存在
 10 拡張の一意性とその応用
 11 直積測度としての2次元Lebesgue測度
 12 Dynkin族定理
 13 Fubiniの定理とその応用
テキスト・教材・参考書等
 教科書はとくには指定しない。かなり細かい点まで吟味して解説した 講義ノートを作成して配付する。授業では、文章にすると敷居が高くなるところについて、 大まかなアイデアを解説することにウエートをおくつもりである。 授業と講義ノートは互いに補完し合うものと理解されたし。 講義ノートなどはウェッブでも公開する予定である。 参考書としてつぎのものをあげておく。
 盛田健彦:実解析と測度論の基礎 培風館
 矢島賢二:ルベーグ積分と関数解析 朝倉書店
実解析、関数解析を本格的に目指したい向きには時間をかけて読みこなしてもらいたい。
上記のほかに最近の文献で手に入りやすいものとしては次がある。
 新井仁之:ルベーグ積分講義 日本評論社
 小谷眞一:測度と確率1・2(岩波講座 現代数学の基礎)岩波書店
昔からのスタンダードなテキストとしては
 伊藤清三:ルベーグ積分入門 裳華房