確率統計基礎講義A(金曜日15:00-16:30)

広島大学理学部数学教室「講義を終えて」より

Fourier変換を議論する際に便利に利用されるのが、 自身およびそのFourier変換が具体的に評価できる関数である。 その典型例としては、両側指数分布から導かれるものと 正規分布から導かれるものがある。 とくに後者ではFourier変換もパラメータこそ違えまた正規分布に付随する という意味での自己双対性がある。 この性質はPoissonの和公式を通じて theta関数に関するJacobiの虚数変換を導くなど 数学の深いところまで浸透するものである。

R^nでは畳込みにより積分核の1係数族が構成される。 正規分布に付随するのは熱核である。 舞台を単位円板に取り替えると 基礎となる対称性を記述する群が 可換でなくなりまた熱核の双対性も失われるが、 調和解析の原点となる豊富な素材となっている。 そういうわけで単位円板における熱核の表示導出を目標に 講義を組み立てた。 内容と授業の進行は以下の通りである。

    4/9: 熱方程式とFourier解析

    4/16 : 熱核とFourier逆変換公式

    4/23: Brown運動と熱方程式

    4/30: Brown運動と調和関数から導かれるマルチンゲール

    5/7: Dirichlet問題、単位円板の正則同型

    5/14: Poincare計量とLaplace作用素およびそれらの不変性

    5/21: Poincare計量から導かれる距離関数および面積測度

    5/28: 測地的極座標、Poisson核の複素べきとLaplace作用素

    6/4: 熱核の形式的導出とHelgason変換

    6/11: Poisson核の複素べきとLegendreのP関数

    6/18 : Legendre P関数の整級数表示と積分表示

    6/25: 単位円板上の熱核の積分表示

    7/2: 熱核が確率密度であることと点測度への収束

    7/9: 熱核の半群性


R^nでは平行移動という基本的対称性がある。 その表現論的基底となるのが平面波であり Fourier変換は平面波展開を表すものである。 単位円板では正則自己同型が平行移動の役割を果たす。 またPoisson核の複素べきはLaplace作用素に関して "固有関数''になっており これが平面波の役割を果たす。 R^nでは平行移動をつうじて畳込みで 積分核が構成された。単位円板では 測地的極座標を通じて積分核が見えるが、 正則自己同型により極の取り替えが自在に行えるのがみそである。 変換性を具体的に求めるさいに Poisson核がDirichelet問題の解表現を与えること が役だった。 さてPoisson核の複素べきを 単位円周上で積分するとLegendreのP関数が得られるので 後者についての長年の蓄積から得られる種々の公式を 駆使して熱核の積分表示が最終的に得られる。 このあたりが授業の準備をしていて 講義担当者自身が非常におもしろいと感じた。

授業では学部1,2年の解析学でまず確実に題材としてとりあげられている ものをのぞいて、すべの公式の導出を詳細に行った。 そこでは、級数、積分、正則関数などが融合しあって 展開される解析の醍醐味を具体例によって味あうことができ、 学部でおこなった基礎練習の意味が理解できたのではないかと思う。