平成11年度研究実施計画
 

 

研究
代表者 佐久川 弘   研究課題 森林衰退に係わる大気汚染物質の計測,動態,制御
                   に関する研究

I. 研究内容

・ 当該年度における研究の進め方
  本プロジェクトにおける森林衰退研究は、1)樹木衰退地域の把握、2)大気汚染物質の測定、3)植物の生育状態の測定・診断、4)衰退メカニズムの解析という4つの要素から成り立っており、これら4つの要素とその関連が解明されることで、最終研究目標である、5)森林衰退の制御に関する提言が達成される(図1)。これまで、4つの地域でこれら4つの要素の同時的な解明を目指してきたが、結果として、達成可能な部分と不可能な部分がある程度明確になった。そこで本年度は、研究の重点・方向性をより明確化するために、アカマツおよびモミの衰退メカニズムの解析に焦点をあてて研究を進め、研究対象地域・分野を集約する。それに伴い、これまで研究機関別で構成してきた研究組織に変更を加える。また、その他の要素で確実に研究成果が得られると予想され、またプロジェクト全体から見て重要性が高いと考えられる部分に関しては継続して研究を進める。各研究機関における研究内容は別紙(補足説明資料)に記述した。以下に研究分野別に要点を述べる。
 

1. 樹木衰退地域の把握

  過去3年間の研究でほぼ研究が完了した。したがって今年度は特別な予算の計上は行わな
  い。

2. 大気汚染物質の測定

  広島、大山以外での大気汚染物質の測定は原則として行わない。ただし、屋久島は、世界自然遺産地域であり、東アジア圏からの長距離移送による汚染物質の生態系への影響評価を行うために重要な位置にあるため、今年度も調査を継続する。ここで得られた結果は、秋元プロジェクトで不足した面(越境汚染物質による植生への直接影響評価)を補うと予想される。特に、天然記念物であるヤクタネゴヨウ(ゴヨウマツの一種)の立ち枯れが近年顕著に見られるが、この立ち枯れは、瀬戸内沿岸で見られるアカマツの立ち枯れと同様に大気汚染に因る可能性があり、マツへの酸性降下物やOHラジカルなどの有害物質負荷量の把握を行うことにより、衰退メカニズムの解析が可能になると考えられる(3参照)。

・研究担当者
古賀・永淵・平川

3. 植物の生育状態の測定・診断

  これまでに確立された樹木診断法(光合成、気孔開度、細根量測定、植物ホルモン測定、酵素活性測定)を用い、本年度は山陰(アカマツ)、丹沢・大山(モミ)、屋久島(ヤクタネゴヨウ)で調査を行う。これは、樹木診断法の汎用性の確認および衰退メカニズムの野外での確認・追試の意味が含まれており、本プロジェクトで得られた結果を検証するうえで非常に重要である。
  また、衰退過程の解析において重要であるにもかかわらず、これまで定量できなかった細根・菌根の動態の解析手法、土壌劣化の把握手法を確立する。さらに、樹木に対するストレス要因を明らかにするために、野外で採取されたサンプルに関して炭素同位体比、栄養塩類含有量、窒素含有量、クチクラワックス、年輪中の仮導管の形状分析を行う。本プロジェクトにおいて、これら一連の野外調査により、大気観測の結果あるいは予測モデルの妥当性を判断することが可能になると考えられる。

・研究担当者
中根・桜井・堀越・中坪・中川・土谷・竹中・手塚・西村・久米・中谷

4. 衰退メカニズムの解析

a. 原因物質による障害発生機構の解析
i. 暴露実験
  これまでの研究で、丹沢のモミにおいては酸性霧が、広島のアカマツに関しては夜露中の活性酸素種が、葉に生理的な障害を与えていることが明らかになった。今年度はこれらの汚染物質がどのように障害を与えているのかを明らかにするために、広島大学(アカマツ)と名古屋大学(モミ)において1年以上の長期暴露実験を行う。広島大学では既存の野外長期暴露実験装置(オープントップチャンバー)を使用し、名古屋大学では圃場に実験ハウスを新設する。

・研究担当者
アカマツ 佐久川、中根、小林、久米、平川、中谷
モミ  竹中、手塚、吉田、小林、久米

ii. 樹木衰退モデルの構築
生理活性の診断結果を実際の樹木衰退と結びつけるために、物質生産バランスを考慮した樹木成長モデルを構築する。モデルの確立により、大気汚染による生理的な障害から枯死に至るプロセスを明確に示すことが可能になると考えられる。

・研究担当者
中根・久米・小林

b. 原因物質の生成・動態の解析
植物体に対して大きな影響を与えている大気汚染物質が、どのように、どれだけの量が植物に負荷されているのかを実測・モデルの両面から明らかにする。
i. 葉上での有害物質(特にOHラジカル、亜硝酸)の生成量の測定
アカマツを用いた暴露実験により、活性酸素種が葉の生理活性に障害を与えていることが明らかになった。そこで、現場の環境条件下おける葉上での活性酸素種の生成量を測定することを試み、暴露実験との整合性を評価する。また、活性酸素種の生成に関与する大気中の亜硝酸の測定を行い、活性酸素種の生成機構を解明する。

・研究担当者
佐久川・中谷・平川

ii. 汚染物質の測定
各種汚染物質の沈着挙動の解明、樹冠への負荷量、森林への総負荷量、林内雨の測定を行う。大山・札掛での合同調査において、樹冠部の針葉への酸性降下物、重金属などの化学分析を行う。

・研究担当者
アカマツ 佐久川・中谷
モミ  井川・大河内・永淵・中谷

iii. 大気汚染物質拡散予測モデルの構築
瀬戸内海沿岸に見られる海陸風及び接地逆転層の形成などによる大気汚染物質の滞留を考慮した気象環境の把握を行う。そして、瀬戸内海沿岸地域及び西条地域において環境条件下で起こる化学反応及び熱効果を算入した地域スケールの大気汚染物質拡散モデルを構築する。また、丹沢・大山においては、酸性霧の発生機構を考慮した大気汚染物質拡散モデルを構築する。

・研究担当者
佐久川・石坂・平川

5. 森林衰退の制御に関する提言
マツノザイセンチュウの影響評価
  本プロジェクトでは、大気汚染が植物に及ぼす影響を評価することが主目的であるが、アカマツ衰退においては、マツノザイセンチュウ感染の影響の大きさが通説として流布している。これまでの研究で大気汚染による衰退によって、マツノザイセンチュウ感染が引き起こされる可能性が明らかになってきた。そこで、大気汚染による衰退プロセスでマツノマダラカミキリ及びザイセンチュウの影響がどのように変化するかを評価する。

・研究担当者
佐久川・中根・久米・小林

6. その他

a. 国際シンポジウムの開催
  平成9年12月に広島市において森林衰退に関する国際シンポジウムを、平成10年12月に神奈川県において公開シンポジウムを開催し、国内外の研究者との交流・情報の交換を行うことができた。本年度は、秋元プロジェクトと合同で、第2回の国際シンポジウムを、名古屋市で11月に開催を予定している。そこで、更なる交流を深め、情報ネットワークの構築を進めたいと考えている。

b. テクノプラザ借料、事務経費、人件費