最近、わが国において酸性雨・霧、酸性降下物を含む大気汚染によると思われる森林被害が顕在化しつつある。例えば、神奈川県丹沢のモミ、ブナ林、群馬県赤城山のシラカンバ林、奥日光のシラビソ林、関東・関西平野の鎮守の森のスギ、乗鞍岳の亜高山帯林、瀬戸内沿岸部のマツ林、福岡県宝満山のモミ林の衰退や大量枯死などが報告され、しかもこれらの森林衰退が主に大都市域からの大気汚染物質が霧や粉塵などとともに吹き当たる山岳地帯や斜面に集中している。しかし、これら森林衰退、被害と酸性霧・雨、酸性降下物質などを含む大気汚染との関係解明は、"状況証拠"の域を出ておらず、具体的な因果関係の解明を目指す研究は、わが国において始まったばかりである。
本研究では、全国各地の森林衰退の研究者を組織化し、共通の視点、手法で原因解明を試みる。特に、大気汚染物質の計測、動態および制御の大気化学的、気象学的解析のみならず、土壌環境の調査、さらに酸性霧・雨、大気汚染の授木への影響を、個体、器官、細胞レベルの構造・形態及び光合成能力などの生理活性に立ち入って調査・解析することを試みるが、このような総合的な研究は、世界的にも例が少ない。
本研究を通して、従来知られていなかった、森林衰退を引き起こす汚染物質が新たに発見されたり、ある汚染物質が低濃度であっても、十数年、数十年と長期にわたることによる衰退のメカニズム、また各種の汚染物質が複合した相乗効果による影響などが解明されるであろう。また、これによって大気汚染物質の総量規制の必要性、また長期にわたる森林への影響評価を踏まえた、新たな大気環境基準の必要性が認識され、より低負荷型社会システム、エネルギーシステムへの取り組みが促進されるであろう。
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