研究内容

 私たちの日常生活はプラスチック・ゴム・繊維などさまざまな高分子材料により支えられています。これらの高分子(ポリマー)は、モノマーと呼ばれる低分子化合物を多数つなげる(重合反応)ことにより合成されます。機能高分子化学研究室では,有機金属化学・分子触媒化学をベースに,重合反応に有効な高性能触媒の開発およびそれらを用いた特徴的な構造のポリマーの合成を行い、高機能高分子材料の創製へと展開することを目指しています。以下に詳細な研究内容を示します。

1)特徴的な構造を持つ高機能ポリマーの創製


① 様々な官能基を有する環状オレフィン共重合体の合成

 2種類以上のモノマーを用いて合成(共重合)した高分子材料の性質は,モノマーの割合や配列に大きく依存します。ノルボルネンなどの環状オレフィンを重合させて得られるポリマーは耐熱性や透明性に優れ、光学材料としての応用が期待されていますが、共重合可能なモノマーの種類は限られており、物性を自在に制御することは困難でした。最近、我々はノルボルネンをはじめ様々なオレフィンモノマーを任意の割合かつ高活性で共重合させるチタン錯体触媒を開発しました。この触媒を用いることにより、長鎖アルキル基や極性官能基、フッ素置換基、芳香環など様々な置換基を共重合体に導入できるようになったため、柔軟性や軟化温度、親水性や疎水性、屈折率や複屈折率をある程度自由に変えられるようになりました。


図1. 高透明性と高耐熱性・柔軟性を同時に実現したノルボルネン/1-アルケン共重合体

最近の主要文献:
1) Tanaka, R.; Sasaki, A.; Takenaka, T.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Polymer, 2018, 136, 109-113.
2) Tanaka, R.; Matsuzaki, R.; Nakayama, Y.; Shiono, T. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2017, 55, 2136.
3) Tanaka, R.; Ikeda, T.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Polymer, 2015, 56, 218.
4) Lee, J. -W.; Jantasee, S.; Jongsomsit, B.; Tanaka, R.; Nakayama, Y.; Shiono, T. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 2013, 51, 5085.
5) Tanaka, R.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Polym. Chem., 2013, 4, 3974.
6) Ban, H. T.; Hagihara, H.; Tsunogae, Y.; Cai, Z.; Shiono, T. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 2011, 49, 65.
7) Cai, Z.; Harada, R.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Macromolecules, 2010, 43, 4527.

② 希土類触媒を用いたステレオブロックポリ共役ジエンの合成

 ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを重合させて得られるポリマーは合成ゴムの主構造として知られていますが、実際の性質はその立体規則性によって大きく異なります。異なる立体規則性を持つ部分を1本のポリマー鎖内に有するステレオブロックポリマーは、単一の立体規則性を持つポリマーの混合物では観測されないような新たな物性を示すことがあり、注目されている材料の一つですが、通常共役ジエンの精密重合に用いる配位重合でステレオブロックポリマーを合成する手法は限られていました。我々はネオジムを用いた触媒系に有機アルミニウム添加剤を加えることで、共役ジエンの重合中に成長ポリマー鎖を切断することなく立体特異性を大きく変化させ、ステレオブロックポリ共役ジエンの合成に初めて成功しました。


図2. ネオジム触媒系を用いたステレオブロックポリイソプレンの合成

主要文献:
1) Tanaka, R.; Shinto, Y.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Catalysts, 2017, 7, 284.
2) Tanaka, R.; Yuuya, K.; Sato, H.; Eberhardt, P.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Polym. Chem., 2016, 7, 1239.

③ ポリ乳酸の改質による高機能化

 近年、プラスチックの環境負荷を低減する方策の一つとして、再生可能資源から得られる高分子や生分解性とリサイクル性を持つ高分子の開発が盛んに検討されています。このようなポリマーは生体内でも無害であり、手術用縫合糸やドラッグデリバリー用担体としての応用が期待されています。我々は代表的な生分解性高分子であるポリ乳酸の末端や内部に異なる構造を導入することで、新たな物性を付与しようと試みてきました。例えば、β-プロピオラクトンを共重合させることで生分解性が向上すること、末端を官能基化することで分解温度を大幅に向上させられること、イオン基を導入することで弾性率が向上し破断しにくくなること、ソフトなブロックを導入することで熱で成型可能なゴムとしての性質(熱可塑性エラストマー)を示すこと、などを見出しています。


図3. 熱可塑性エラストマーの性質を示す乳酸/ε-カプロラクトンブロック共重合体

主要文献:
1) Nakayama, Y.; Matsubara, N.; Cai, Z.; Shiono, T.; Inumaru, K.; Shirahama, H. Polym. Degrad. Stab., 2017, 141, 97.
2) Nakayama, Y.; Aihara, K.; Cai, Z.; Shiono, T.; Tsutsumi, C. Int. J. Mol. Sci., 2017, 18, 1312.
3) Nakayama, Y.; Aihara, K.; Yamanishi, H.; Fukuoka, H.; Tanaka, R.; Cai, Z.; Shiono, T. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 2015, 53, 489.
4) Nakayama, Y.; Inaba, T.; Toda, Y.; Tanaka, R.; Cai, Z.; Shiono, T.; Shirahama, H.; Tsutsumi, C. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 2013, 51, 4423.


2)高性能な重合触媒の開発


① オレフィン重合の高効率化を目指した触媒系の開発

 均一系配位重合触媒は通常、金属錯体触媒とそれを活性化する助触媒から構成されています。助触媒として最も一般的なのが、連続した-Al(Me)-O-構造を有するメチルアルミノキサン(MAO)です。MAOの金属錯体触媒に対する汎用性は高いですが、触媒に対して常に過剰量必要である点が重合効率を損なっていました。また、MAOにある程度含まれるトリアルキルアルミニウムが重合活性や精密性の低下を引き起こすことも問題の一つでした。我々は最近、MAOに対してホウ素を導入することで、金属錯体触媒の活性化効率を10倍程度に引き上げることに成功しました。また、シリカによる簡便な処理によってMAOに含まれるトリアルキルアルミニウムを選択的に除去できることも見出しました。錯体触媒側の改良にも取り組んでおり、触媒に対してわずか20当量のMAOを添加するだけで高活性で重合を進行させるチタン錯体触媒の開発にも成功しています。


図4. シリカを用いた修飾メチルアルミノキサン(MMAO)からのアルキルアルミニウム除去法

主要文献:
1) Tanaka, R.; Kawahara, T.; Shinto, Y.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Macromolecules, 2017, 50, 5989.
2) Sun, Y.; Xu, B.; Shiono, T.; Cai, Z. Organometallics, 2017, 36, 3009.
3) Tanaka, R.; Hirose, T.; Nakayama, Y.; Shiono, T. Polym. J., 2016, 48, 67.

② Lewis酸-塩基対を用いた精密開環重合触媒系の開発

 最近、相互作用の弱いLewis酸と塩基の組み合わせを触媒として用いることで、メタクリル酸エステルやアクリルアミド類などの様々な極性モノマーの制御重合が進行することが分かってきました。このような触媒系は、これまでの触媒とモノマーの活性化様式が異なるため、盛んに研究されています。当研究室でも、嵩高い有機アルミニウム化合物とホスフィンの組み合わせを用いてラクチドやカプロラクトンなど環状エステルの精密開環重合に成功しています。


図5. アルミニウム-ホスフィン系を用いたラクチドの開環重合

主要文献:
1) Nakayama, Y.; Kosaka, S.; Yamaguchi, K.; Yamazaki, G.; Tanaka, R.; Shiono, T. J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 2017, 55, 297.