研究内容

 私たちの日常生活はプラスチック・ゴム・繊維などさまざまな高分子材料により支えられています。機能高分子化学研究室では,高性能・高機能高分子材料の創製を目指して,「錯体触媒によるポリオレフィンの精密合成」「金属錯体を重合開始剤とする新しい生分解性高分子の開発」の2つのテーマのもとに研究を進めています.

1)錯体触媒によるポリオレフィンの精密合成

高分子(ポリマー)はモノマーと呼ばれる低分子化合物を共有結合により多数つなげる(重合反応という)ことにより合成されます。高分子材料の性質は,モノマーの種類はもちろんのこと,分子量・分子量分布や立体規則性に,また,2種類のモノマーを用いた場合には(共重合という),モノマーの割合や配列に大きく依存します(図1).例えば,ポリエチレンやポリプロピレンは代表的なプラスチックですが,エチレンとプロピレンのランダム共重合体はゴムとなります.炭素と水素のみからなる単純なオレフィンモノマーを遷移金属触媒により重合して得られるこれらポリオレフィン材料は,環境適合性に優れた高分子材料として期待されています.

私たちの研究室では構造の明確な錯体触媒により,構造の精密に制御されたポリオレフィンの合成を行っています.例えば図2に示すチタン錯体()がノルボルネンのビニル付加重合に高活性を示し,透明性に優れ耐熱温度400℃に達する高分子を与えることを見いだしました. この触媒はエチレンやプロピレンとノルボルネンとのランダムおよびブロック共重合にも有効で,光学材料への展開が期待されます.

    図1 共重合体の構造           図2 錯体触媒によるノルボルネンのビニル付加重合

2)金属錯体を重合開始剤とする新しい生分解性高分子の開発

生分解性高分子とは,「自然界において,微生物が関与し,環境に悪影響を与えない低分子化合物(主に水と二酸化炭素)に分解される高分子化合物およびその配合物」のことです.近年,プラスチック廃棄物による環境汚染の対策として,リサイクルと生分解性高分子の開発が盛んに検討されています.また,代表的な生分解性高分子であるポリ乳酸はトウモロコシなどの再生可能資源から合成できる非石油由来材料としても注目されています.私たちも,エーテル,カーボネート結合等を含む新規な脂肪族ポリエステルの合成と生分解性について研究を重ねてきました.合成触媒としてスズ,チタン,希土類金属,アルミニウムなどの金属錯体を用いて,ラクチド,ラクトン類,環状カーボネートとラクチドまたはラクトン類,ジエステルとジオール類,環状デプシペプチドとラクチドまたはラクトン類との(共)重合を行い,生分解性が高く物性の良好な高分子を合成しています.研究の例として,分子内にエステル結合とペプチド結合の両方を有する「デプシペプチド共重合体」では,高融点 (100℃以上) ながら生分解性にも優れた高分子の開発に成功しました.また最近では,両末端官能基化ポリ乳酸とポリ(ε-カプロラクトン)をジイソシアナート類で連結したマルチブロック共重合体が極めて柔軟性や弾性に優れていることを発見しました.これらは生体内吸収性のバイオマテリアル(手術用縫合糸,ドラッグデリバリー用担体,骨折用固定化材)としてもその応用が期待されます.図3に我々が開発したポリマーの活性汚泥による生分解前後の電子顕微鏡写真を示します.

        図3.分解前                  分解14日後