広島大学考古学研究室の沿革と特色

 考古学は遺跡や遺物といった「モノ」を研究することによって、歴史や社会を復元する学問分野です。歴史を学ぶには、古文書などの文献史料から研究する方法と、土器・石器といった物質資料から研究する方法があります。「モノ」を研究する考古学では遺跡の発掘調査を行なって出土資料を収集し、これをもとに私たちの祖先が生きた環境や生活を知り、人類の歩んできた道を明らかにしていきます。
 広島大学大学院文学研究科考古学研究室は、平成27(2015)年の4月で開設50周年を迎えました。昭和40(1965)年4月の開設以来、松崎寿和先生・潮見浩先生・藤田等先生・川越哲志先生・河瀬正利先生を中心に、帝釈峡遺跡群の石器時代文化、イランの先史文化、東アジアの鉄文化をはじめ特色ある調査・研究と教育活動を推進してきました。また、この間には多くの卒業生を送り出すことができました。
 現在も、中国山地、広島県北部の縄文時代遺跡群、帝釈峡遺跡群の発掘調査を継続し、たたら製鉄に関する遺跡や、古墳時代以来の製鉄遺跡の調査研究に実績を持っています。また、広島県に残る戦争遺跡の情報収集も行っています。

広島大学考古学研究室のコレクション

 考古学研究室初代主任教授となる松崎寿和先生が1946年に広島高等師範学校に着任し、広島市比治山貝塚・中山貝塚や東広島市三ッ城古墳などの学術的な発掘調査を行い、広島県における考古学研究の一歩を刻みました。1965年には文学部に考古学研究室が開設され、現在まで数々の発掘調査を行ってきましたが、その出土品が現在の考古学研究室の重要な収蔵・保管資料となっています。
 広島大学の考古学研究室はこれまで中国山地における先史文化研究と「たたら」を中心とした日本独自の製鉄史研究を機軸としており、これに関する膨大な考古遺物が所蔵・保管資料の中核を占めています。前者の資料としては庄原市の帝釈馬渡岩陰遺跡・帝釈寄倉岩陰遺跡・久代東山岩陰遺跡、神石高原町の帝釈観音堂洞窟遺跡・帝釈弘法滝洞窟遺跡・豊松堂面洞窟遺跡から出土した縄文土器・石器・骨角牙製品・貝製品・動物骨などがあげられます。考古学研究室の開設当初から50年もの間、帝釈峡遺跡群の層位的かつ系統的な発掘調査を継続してきたため、これらの遺物コレクションは縄文時代の生活・文化や気候・環境の推移を知ることができる体系的・網羅的なものとなりました。また、石灰岩洞窟に遺存した良好な動物遺存体は、当時の動物相を示すだけでなく、人類の生業や食生活の復元に貴重な情報を提供しています。
 後者の鉄文化の研究においては、日本の製鉄技術の独自発展の解明に大きな成果をあげてきました。日本最古のカナクロ谷製鉄遺跡や古代製鉄炉の標式遺跡である大矢製鉄遺跡、近世高殿たたらの源流となる矢栗製鉄遺跡や下稲迫製鉄遺跡、高殿たたらと大鍛冶場をはじめて検出した保光たたら遺跡など、重要遺跡の発掘調査を行ってきましたが、その際出土した製鉄炉壁・羽口・鉄滓・原料鉄などの製鉄関連遺物を多数所蔵しています。これら考古資料の比較検討材料として、日本各地の遺跡から採集された製鉄関連遺物や民俗資料(炉壁・羽口・原料鉄・鉄滓・たたら道具・鍛冶道具・砂鉄採集道具)もあります。今ではほとんど失われてしまったもので大変貴重なものといえるでしょう。
 さらに、瀬戸内海島嶼部の調査も断続的に実施しており、福山市馬取貝塚・尾道市大田貝塚・大浜遺跡出土製塩土器など、瀬戸内海の古代製塩業を知るためには欠くことのできない資料があります。福山市宇治島北の浜遺跡出土の高級陶器類からは古代海上交通ルートを知ることができます。
 このほかにも、縄文時代のドングリ貯蔵穴がはじめて見つかった山口熊毛半島の岩田遺跡、響灘に面し最古の渡来人が作った農村である下関市中の浜遺跡、四隅突出型墳丘墓が出現した三次市の土器標式遺跡である塩町遺跡、広島湾の高地性貝塚として有名な西山貝塚、広島県最古の前方後円墳となる広島市宇那木山古墳・中小田古墳群、庄原市大迫山古墳などの出土遺物も学史的に非常に重要なものです。上記のコレクションとともに授業教材としても活用されています。 
 最後に特筆すべきは、イラン・アフリカなど海外の学術調査によって得られた考古資料や購入品です。トランスコーカサスから出土した紀元前1千年紀初頭頃の青銅柄バイメタル剣は当時の最先端の金属加工技術を如実に語る資料として貴重であるだけでなく、旧世界の東西に広がる初期鉄器文化の波及を考えるために重要な研究資料であることがわかってきました。また、イラン北東部、テペ・ホセナバード出土遺物群は当該地域の先史土器の変遷を層位的に知ることができる唯一の資料群です。これらイスラム世界で発掘した遺物群の一部は現在、当該国以外には持ち出すことのできなくなった大変貴重なコレクションでもあります。
 考古学研究室ではHiPROSPECTSプログラムの実習授業として、帝釈峡遺跡群の発掘調査や古墳の測量調査などを組み込んで継続実施しています。その際に得られた膨大な記録図・測量図も貴重な研究資料となっています。また、上記資料群は毎年、日本各地の博物館・資料館の常設展示・特別展示のために活用されており、埋蔵文化財を利用した社会教育活動にも貢献しています。

広島大学考古学研究室の活動

研究室の活動

 学部生を中心に4~5月に新入生歓迎会、遺跡見学会を行います。6月には帝釈峡遺跡群など、発掘調査に赴く遺跡の勉強会を行い、8月に野外考古学実習として発掘調査を行います。10月には広島史学研究会などで発掘調査の成果を発表していきます。11月から12月には考古学研究室に事務局を置く、たたら研究会を開催します。翌年の3月には野外考古学実習として前方後円墳などの測量調査を行うことにしています。

学部学生の授業内容

 1年次生では専門的な講義はありませんが、入門科目で旧石器時代から縄文時代・弥生時代・古墳時代・歴史時代に至る日本考古学の通時的な概要が学べます。2年次生からは考古学基礎論(考古学の研究方法論や土器・石器・金属器などの考古資料を実際に手に取って学ぶ、考古学概説、日本考古学研究およびアジア考古学研究(考古学専門分野の講義、アジア地域の考古学を中心に学ぶ)、この他に考古学特別研究(人類学や年代測定学、たたらのことなど考古学に関する学際的分野を学ぶ)、遺跡・遺物論演習(遺跡の発掘調査を記録した報告書を読み、自分の関心ある考古学テーマについて学生が研究発表する)、比較考古学演習(世界各地の考古学について、学生が研究発表する)が学べます。また実地体験のフィールドワークとして、考古学基礎実習と考古学野外実習があります。

過去の活動状況

研究室紀要