は じ め に

 土壌細菌の仲間である放線菌は, 抗生物質・免疫抑制剤・薬理活性物質・除草剤・酵素阻害剤などの多くの二次代謝産物を生産するので, 最も重要な有用微生物の一つです。事実, 抗生物質の実に2/3が放線菌によって作られているのです。しかし、抗生物質が効かない MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)や VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)のことがテレビや新聞で報じられているように, 人類と細菌との長い戦いは現在も続いています。また, 癌やエイズに真に有効な薬を求めて, 放線菌等の微生物の培養液を用いたスクリーニングも盛んに行われています。
 放線菌の生物としての側面を眺めると, 典型的な放線菌は枝分かれした菌糸の先端にらせん状に胞子を形成し, 形はカビによく似ています。 それゆえ, 放線菌は最も複雑な形態分化を行う細菌として, 細胞分化の研究対象としても注目されています。加えて, 当研究室の先駆的研究によって放線菌から線状プラスミドが発見され, その後, 染色体自身も線状であることが明らかになり, 「細菌は1個の環状染色体をもつ」という遺伝学の常識は否定されました。このように放線菌はゲノム構造の上でも極めて特異的ですが, ごく最近, 放線菌の代表株である Streptomyces coelicolor A3(2) のゲノムプロジェクトがイギリスで完了しました。その線状染色体は大腸菌の環状染色体の約2倍の 8667 kb もの長さをもち, 多くの二次代謝遺伝子群をコードしていることが分かりました。これをきっかけに, 放線菌の研究が世界中で益々盛んになると思われます。
 私たちの研究室では一貫して放線菌を対象にして研究を行って来ましたが, 現在も, 生命の設計図であるゲノムの構造と変化, そこに書き込まれている遺伝情報の発現調節, 抗生物質の生合成メカニズムの解析など多角的な研究を展開しています。そしてその成果を, 生物一般の染色体構造の起源・進化の研究に役立てるとともに, ハイブリッド抗生物質の創製や生産性の向上などの応用にもつなげたいと考えています。

★ 研究テーマ ★

(1)放線菌の線状ゲノムのダイナミックな構造変化の解析       

(2)線状プラスミド pSLA2-L 上にコードされた様々な抗生物質生合成遺伝子群の機能解析

 私たちの研究室は広島大学東広島キャンパスの先端科学総合研究棟の6階にあります。2001年8月に竣工した新研究棟で, 環境的にも非常に恵まれています。大学院生, 研究生を随時募集していますので, 私たちの研究に興味を持たれた方はぜひ見学に来て下さい。意欲ある大学院生とともに放線菌という興味深い微生物の本質を明らかにし, その能力を人々の生活に役立てる道を探究していきたいと思います。

連絡先:

 〒739-8530
 広島県東広島市鏡山 1-3-1
 広島大学大学院先端物質科学研究科
 分子生命機能科学専攻
 細胞機能化学研究室

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