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シロイヌナズナ種子からのRNA抽出について -

目次

シロイヌナズナの種子や様々な植物の熟した果実からRNAを抽出するには、それに適した方法を使わないといけない。そこでここに気がついたことを記録しておきたい。

種子

「種子ではなぜ普通の組織でうまくいく方法が通用しないのか」
葉や茎から抽出する際はTRIZOL やセパゾールといった試薬を使う(酸性グアニジンチオシアネート/フェノール法)。しかしこれを普通の茎や葉でのやり方で使うと種子からRNAを抽出することができない。

その原因の一つは、「大量に存在する不溶性の物質に、核酸が吸着してしまう」ことらしい。TRIZOL やセパゾールは酢酸緩衝液が入っていて pH が酸性である。その状態では、イオン的相互作用で核酸が細胞壁または貯蔵タンパク質(溶解度が低い)にくっついてしまいやすいらしい。

こういうことは核酸だけでなく、タンパク質でも起こる。タンパク質の場合、特に等電点が高いものは細胞壁と何の関係もなくても、細胞壁の沈殿にくっついてしまうことが起きやすい。そういう場合には、抽出緩衝液に高濃度の塩を加えることで抽出効率を改善できることがある。また抽出緩衝液の pH は高めにする方がよい。

核酸が抽出できていなくても、大量に存在するタンパク質や多糖類はエタノールで沈殿するし、フェノールやクロロホルムで除くことはできにくい。沈殿は出てくるのに吸光度は全然ダメということになる。

種子からの抽出に適した方法はいくつも発表されている。それらは「1M Tris-HCl pH9 + 1%SDS」や「8M LiCl + 2-ME」でまず抽出している。濃度の高い溶液にすることで、核酸が沈殿物に吸着してしまうことを防いでいるのかもしれない。多糖類の溶解度を低下させ、核酸を取りやすくしているのかもしれない。

私は、
Suzuki Y, Kawazu T, Koyama H. RNA isolation from silique, dry seeds, and other tissues of Arabidopsis thaliana.
Biotechniques 37: 542-544 (2004)

に従って行った。この方法では、抽出緩衝液の pH は9.5 と高い (9.0 でも問題なかった)。高濃度の塩を含んでいる。イオン的相互作用を妨げる効果が高そうに思える。

この抽出緩衝液は実際に作ると溶かしにくい。暖めると溶ける。溶けてもすこし粘性がある。置いておくと沈殿が再び出てくる。しかし使用前に溶かせば問題ないらしい。

この方法では、乳鉢を使うことが必須である。乳鉢内で凍結したままサンプルを粉にする。冷えているサンプルに抽出緩衝液を加えるとまた凍る。その状態でよくすりつぶす。暖まってくると溶解して均一な液体になる。その状態では粘性がなくなる。この方法は抽出緩衝液に有機溶媒(フェノールやクロロホルム)が含まれていないので、乳鉢を使って時間をかけてよくすりつぶさないと抽出効率が悪くなってしまう。

あとは書かれているとおりに行う。LiCl 沈殿も行う。その後のイソプロパノール沈殿は省略し、代わりに多めのエタノールでリンスする(LiCl はエタノールによく溶ける)。エタノールをよく除去し8分ほど放置して乾かす。少量の H2O に溶解し、吸光度を測定する。
RT-qPCR のために、10 μg を採取し DNase処理を行う。Ambion の TURBO-DNAase kit が楽にできてよい。その後イソプロパノール沈殿、エタノールリンスして少量の H2O (20μL) に溶解する。

この方法では種子からでもかなりの量のRNAがとれる。私の場合野生型の種子 40mg から80μgくらいとれた。吸光度的には全然問題はない。DNase処理、逆転写、リアルタイムPCR (Gotaq qPCR master mix とLineGene を使用)も、一応きちんとできているような結果になった。

成熟した果実

成熟した果実の場合は、イソプロパノールで RNA を沈殿させようとすると、ゼリーのような多糖類の方が大量に沈殿することが起きやすい。そうなると RNA がうまく取れない。

それを克服するために「最初に得られる水層に、1mlのTRIzol当たり0.25 ml のイソプロパノールと0.25 ml の高塩溶液(0.8 M クエン酸ナトリウム、1.2 M 塩化ナトリウム)を加えて混合し、遠沈する。」と書いてある資料が公開されている。   http://www.invitrogen.jp/focus/focus221.shtml   基本的に、塩濃度を高くした状態でイソプロパノールを加えると資料にあるように多糖類をうまく除ける。しかし、植物の果実の場合、もう少し塩とイソプロパノールを多量に加えないといけないことがあった。

私が扱ったある果実では、以下のようにしたらうまくいった。

セパゾールRNA Super G(ナカライテスクの製品)で抽出する→クロロホルムを加え攪拌遠心→上澄み

上澄みに「1mlのセパゾールSuper当たり、0.25 ml のイソプロパノールと0.5 ml の高塩溶液(0.8 M クエン酸ナトリウム、1.2 M 塩化ナトリウム)を加えて混合 塩を増やしてみたが、これでも RNA が沈殿しなかった。

そこでさらに 6M LiClを、0.25 ml 加えた。さらにイソプロパノールを0.75ml 加えた。 遠心して、RNAを含む沈殿を得られた。

この方法をトリゾール(インビトロジェンの製品)で行うと、うまく沈殿が出なかった。果実の場合は余計な物質が多量に含まれるので微妙な違いでうまくいかなかったりするらしい。

果実では果肉に種子が入っていることがある。種子が混ざるとサンプルとして均一でなくなるし RNA がとれにくくなるので除かないといけない。