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植物の細胞壁、細胞表層に作用する阻害剤について -

目次

各化合物の名前をクリックすると、少し詳しいことが書いてあるのを読めます(書いてないのは今後追加)。

セルロース合成阻害剤の作用について参考になる興味深い論文

セルロース合成が阻害されると、単に細胞壁が弱くなるだけでなく二次的にホルモン作用や病害抵抗反応などが活性化されることが見いだされ研究されている。CBI (Cellulose Biosynthesis Inhibition) response と呼ばれている。イソキサベンが特異性の高い有用な阻害剤として標準的に使われている。

しかし Isoxaben の作用機構は十分に解明されているわけではないので気をつけなければならないという letter が発表されている。

Cellulose biosynthesis inhibitor isoxaben causes nutrient-dependent and tissue-specific Arabidopsis phenotypes   Plant Physiol. 2023 Oct 12:kiad538. doi: 10.1093/plphys/kiad538. Online ahead of print.   Michael Ogden, Sarah J Whitcomb, Ghazanfar Abbas Khan, Ute Roessner, Rainer Hoefgen, Staffan Persson  PMID: 37823413   RNA-seq データ GSE228764 が公開されている。

https://science.sciencemag.org/content/369/6507/1089?utm_campaign=email-japan&utm_medium=email&et_rid=51967918&et_cid=3470077

https://www.pnas.org/content/113/40/11360?ijkey=d9299f78da6c5201417205fcb0b25cc686fc0445&keytype2=tf_ipsecsha

Synthesis and self-assembly of cellulose microfibrils from reconstituted cellulose synthase.    Plant Physiol. 175, 146–156 (2017). doi:10.1104/pp.17.00619pmid:28768815

A single heterologously expressed plant cellulose synthase isoform is sufficient for cellulose microfibril formation in vitro.    Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 113, 11360–11365 (2016). doi:10.1073/pnas.1606210113pmid:27647898

細胞内輸送システムは現代生物学の主要分野の一つである。セルロース合成と細胞内輸送システムの深い関わりが解明されてきている。セルロース合成酵素は他の細胞膜局在タンパク質と同じく、小胞体で合成されゴルジ体を経由して細胞膜へ輸送される。細胞膜上を移動しながら機能を果たした後、細胞内に取り込まれて分解されリサイクルされる。輸送過程について優れた研究が多数行われている。

Cellulose synthesis and cell expansion are regulated by different mechanisms in growing Arabidopsis hypocotyls.   Ivakov AA, Flis A, Apelt F, Fuenfgeld M, Scherer U, Stitt M, Kragler F, Vissenberg K, Persson S, Suslov D.   Plant Cell. 2017 May 26. pii: tpc.00782.2016. doi: 10.1105/tpc.16.00782.    PMID: 28550150   Ivakov らの論文では、セルロース合成は intracellular trafficking of cellulose-synthase enzyme complexes を通じて制御されることが示されている。 そしてそれは炭素代謝の状態によって制御されることが示されている。

A G protein-coupled receptor-like module regulates cellulose synthase secretion from the endomembrane system in Arabidopsis.   Mcfarlane HE, Mutwil-anderwald D, Verbančič J, Picard KL, Gookin TE, Froehlich A, Chakravorty D, Trindade LM, Alonso JM, Assmann SM, Persson S.   Dev Cell. 2021 Apr 13:S1534-5807(21)00306-3. doi: 10.1016/j.devcel.2021.03.031.    PMID: 33878345    At5g18520 という遺伝子(7TM1)が出てくる。これが機能しなくなると、イソキサベンを与えた培地での根の長さが、同じ条件の野生型の根の長さよりも少し短くなる。DCB を与えても、野生型よりも少し sensitive になる。セルロース合成阻害剤以外への感受性は変化が見られなかったので、セルロース合成に特異的な変化と判断された。一般的、標準的なタンパク質輸送装置には何も変化がないが、セルロース合成酵素専用の輸送装置に影響が出ていた。

その例、総説:

Cellulose defects in the Arabidopsis secondary cell wall promote early chloroplast development.   Xu D, Dhiman R, Garibay A, Mock HP, Leister D, Kleine T.   Plant J. 2019 Sep 9. doi: 10.1111/tpj.14527.    PMID: 31498930

Small but Mighty: An Update on Small Molecule Plant Cellulose Biosynthesis Inhibitors   Raegan T Larson, Heather E McFarlane   Plant and Cell Physiology, pcab108, https://doi.org/10.1093/pcp/pcab108

タンパク質リン酸化と細胞壁合成

OXI1 等のプロテインキナーゼの標的を大規模に探索したすばらしい成果が論文として発表されている。

Mapping proteome-wide targets of protein kinases in plant stress responses   Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Feb 11;117(6):3270-3280.  doi: 10.1073/pnas.1919901117. Epub 2020 Jan 28.   Pengcheng Wang など   PMID: 31992638    PMCID: PMC7022181

この論文の supplemental DATA に、ストレスを与えた際にリン酸化が高まる標的タンパク質のリストが掲載されている。「Examples of SOS2 targets in response to salt stress」 のリストに、CESA1, CESA3, CESA4 等の細胞壁合成関連遺伝子が出てくる。ストレス状態では細胞壁合成にエネルギーを使うことはできにくくなる。SOS2 などのプロテインキナーゼでリン酸化されることで酵素活性を低下させるのかもしれない。


化合物名作用
DCB(DBN DCBN) セルロース合成阻害剤
Isoxabenセルロース合成阻害剤
flupoxam_フルポキサム比較的最近見いだされたセルロース合成阻害剤
Indaziflam最近見いだされたセルロース合成阻害剤
Acetobixan最近見いだされたセルロース合成阻害剤
Blefeldin_A細胞内輸送阻害 細胞壁成分の輸送も阻害
Cestrinセルロース合成酵素の動きを阻害する
Thaxtominセルロース合成阻害剤であり、シロイヌナズナ細胞内へのカルシウム流入を促進する働きもある
Nitric_oxide_(NO)タンパク質を修飾し様々な局面で細胞内セカンドメッセンジャーとして働く
オーレオバシジンAGIPC 合成の初期段階を担っているIPC 合成酵素を阻害する抗生物質
フモニシンセラミドの合成を阻害する植物毒素
Yariv試薬(ヤリブ試薬)アラビノガラクタンタンパク質 (AGP) と特異的に結合する化合物
Morlin微小管の配向をランダム化する化合物
Cobtorinこの化合物の作用で微小管の配向とセルロース微繊維の配向が連携しなくなる
細胞骨格に作用する阻害剤細胞骨格に作用する阻害剤
Amiodaroneアミオダロン 酵母で、細胞へのカルシウムの流入に影響を与える
ステロールと結合する抗生物質ステロールと結合する抗生物質
フシコキンfusicoccin (フシコクシン)原形質膜局在型の H+ - ATPase を活性化する
Tunicamycinツニカマイシン 糖タンパク質の糖鎖合成を阻害する
Endosidin20Endosidin20 Endosidin20 セルロース合成阻害剤    The mode of action of Endosidin20 differs from that of other cellulose biosynthesis inhibitors.   PMID: 33104193
クマリン最も初期にセルロース合成阻害剤として見いだされた化合物  リンク
FluopipamineDiscovery and Characterization of Fluopipamine、a Putative Cellulose Synthase 1 Antagonist within Arabidopsis B Kirtley Amos など  PMID: 38291808