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植物を観測するのに役立ちそうな様々な方法について -

目次

新しい技術の導入は、新しい発見、今までになかった付加価値を持つ製品、製法の開発につながる。もちろん植物生理学の分野でも次々と新しい観測法が開発されている。新学術研究領域「植物の環境感覚」でも、新しい植物細胞の解析技術による研究のブレークスルーが目指されている。   http://esplant.net/index.html

カラーコンパスmfa

https://colorcompass.jp/colorcompass/colorcompasmfa/ 「カラーコンパスMFAは、株式会社ATシステムで製造する 小型の分光器です」

秋月電気通商から購入できる。植物の状態の観測に使用した例(植物の上方に設置して葉からの反射光を分析する・植物工場でも使えるかもしれない)、微生物の菌体が発する蛍光を観測した例などがネットで見つけられる。生物が発する蛍光はストレスを受けたりすると変化しやすい。これまで販売されていた分光器よりも圧倒的に安価なため、高校教育で利用している例がある。

微小電極式の圧力計

https://www.riken.jp/press/2023/20230517_2/index.html   「カエル胚がお尻の穴を開く仕組み−初期胚の体液排出の時間制御機構を解明−」  加藤 壮一郎 研修生(研究当時、現 大阪大学大学院 理学研究科 招へい研究員)と猪股 秀彦 チームリーダー(研究当時)の研究チーム によるすばらしい成果

このプレスリリースに、アフリカツメガエルの原腸(発生中の胚の、将来腸になる部分で、この段階では液体で満たされている)の圧力を測定するために「微小電極式の圧力計」が使われている。原腸に圧力計のプローブ針を差し込む。別の注射針で色素液を押し込む。色素があふれ出す時の圧力を測定することで原腸の出口の耐圧を測定できる。

ガスセンサー

生物からは多種類の気体、揮発性有機化合物(VOC)が発生している。二酸化炭素はその代表で二酸化炭素濃度計が一般向け機器としても販売されている。

https://www.winsen-sensor.com/ で、多種類の気体に対する赤外線型ガスセンサーが製造販売されている。AliExpress などで購入できる。  https://ja.aliexpress.com/wholesale?catId=0&initiative_id=SB_20191206015713&SearchText=winsen  

二酸化炭素に対するセンサーがモジュール化されたもの MH-Z19 の使用例が多数公表されている。Arduino などにつないでデータを簡単に読み込めるようになっている。

光ファイバーを歪みセンサーとして用い、作物の地中の根の動きを見える化する

「作物の地中の根の動きを見える化する装置を開発」つくばサイエンスニュース https://www.tsukuba-sci.com/?p=9430  (国)海洋研究開発機構(JAMSTEC)・超先鋭研究開発部門と(国)農業・食品産業技術総合研究機構によるすばらしい研究成果

根の様子を観察することは植物の生育を改善するために役立つが、地中に埋まっているので観察しにくい。透明なアクリル板で薄い箱を作り、土を入れて育成する方法があるが大きな規模ではやりにくい。高感度な光ファイバーを使ったひずみセンサーを開発して、渦巻き状に巻いてすきまに土を入れて育成する。根が伸びると光ファイバーに力が働き歪みが生じるので検出できる。

光ファイバーに工夫をしてセンサー機能を持たせて用いる技術は、様々な企業で実用化されている。  「光ファイバ式センサによるひずみ計測」 https://www.hbm.com/jp/7256/optical-strain-sensor-fundamentals/  HBM 社の技術解説   

https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/67/9/67_9_1029/_article/-char/ja/  「光ファイバー回折格子」水波先生による解説

http://www.shinko-ew.co.jp/products/FBG/  伸興電線株式会社

光ファイバーの末端から一定の距離ごとに、光を反射・回折するための微細な格子(回折格子)を多数形成する。その際に、格子の間隔を変化させることによって反射する光の波長がそれぞれの場所ごとに異なるようにする。このことによって場所の情報を得ることが可能になる。

末端から光を当てると、一番近い格子で反射した光、次の格子で反射した光、・・・ が戻ってくる。 それぞれの場所ごとに格子の間隔が異なるので戻ってくる光の波長はそれぞれ異なる。このことで場所を区別できる。カラーコンパスmfa と組み合わせると良さそうに思える。 格子の部分がひずむと、反射した光の波長が変化するのでひずみ計測ができる。温度も波長を変化させるので場所の情報が得られる温度センサーとして使っている例もある。

SEM

SEM とイオン液体

最近の優秀な機械では非常に簡単に観察することができる。しかし生きたままでは無理 

と思っていたが、イオン液体を利用することで今までできなかった観察ができるようになってきたと言うことが紹介されている。生物観察への応用も可能になっている。

大阪大学大学院工学研究科教授応用化学専攻応用電気化学領域桑畑 進 教授の研究紹介 http://www.keyence.co.jp/rd-site/interview/0811_01/01.jsp

雑誌「化学」2009年12月号に 「イオン液体が拓く新しい電子顕微鏡観察法  桑畑 進・鳥本 司 博士」という記事が掲載された。ワカメにイオン液体をしみこませて観察した例が紹介されている。イオン液体は真空中でも蒸発しにくいので、形が保たれやすい。

すでに論文として成果が発表されている。まだ生物材料への適用は始まったばかりで、今後すばらしい発展が期待できる。電子顕微鏡に関すること以外にも、イオン液体の細胞への影響、効果なども興味深い。   SEM Observation of Wet Biological Specimens Pretreated with Room-Temperature Ionic Liquid.   Tsuda T, Nemoto N, Kawakami K, Mochizuki E, Kishida S, Tajiri T, Kushibiki T, Kuwabata S.   Chembiochem. 2011 Oct 11. doi: 10.1002/cbic.201100476. [Epub ahead of print] PMID: 21990115

株式会社日立ハイテクノロジーズから、電子顕微鏡用のイオン液体が発売された。   http://www.hitachi-hitec.com/news_events/product/2013/nr20130520.html

光学顕微鏡で簡単に物を見るとき、スライドグラスにサンプルを置いて、一滴水をかけカバーグラスをかぶせる。染色する際も普通は水に色素を溶解して酢酸などを加えたものを使う。水は蒸発するので、そのうち乾いてしまう。イオン液体は蒸発しにくいので、水の代わりに使えば長持ちして良いかもしれない。浸透圧の問題があるので水の代わりにできる場面は限られるかもしれないが、うまく使える場合もあるかもしれない。

イオン液体を、シアノバクテリアの菌体内に作らせたプラスチックの回収に使用する方法が開発された。 A simple recovery process for biodegradable plastics accumulated in cyanobacteria treated with ionic liquids.   Kobayashi D, Fujita K, Nakamura N, Ohno H.   Appl Microbiol Biotechnol. 2014 Nov 29. [Epub ahead of print]   PMID: 25432673

イオン液体を、植物に含まれる有機化合物の効率的な抽出に用いる方法が開発された。   www.kanto.co.jp/times/pdf/CT_231_03.pdf   上智大学理工学部 藤田、臼杵 両先生による解説

深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)

深共晶溶媒(DES:Deep Eutectic Solvent)に関する、Trogery12 博士による解説   https://www.chem-station.com/chemglossary/2018/08/deep-eutectic-solvent.html

DES はイオン液体と似た性質を持ち、価格が安く使いやすい。

DES をバイオ燃料の回収に使う研究が成功している。   Integration of renewable deep eutectic solvents with engineered biomass to achieve a closed-loop biorefinery.   Kim KH, Eudes A, Jeong K, Yoo CG, Kim CS, Ragauskas A.   Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Jul 9;116(28):13816-13824. doi: 10.1073/pnas.1904636116. Epub 2019 Jun 24. PMID: 31235605

カーボンナノチューブを用いたガスセンサー

エチレンはガス状の植物ホルモンである。1ppm 以下の濃度で、植物の生長、遺伝子発現を制御する。特に果実の成熟時に決定的な役割を果たすことが知られている。エチレンの測定はFID を検出器として用いたガスクロマトグラフィーが長年用いられてきた。信頼性があり感度が高いが、持ち運びはできず価格も高い。定期的にガスを買わないといけないので面倒である。

カーボンナノチューブ(CNT) を用いたエチレン選択的なセンサーを用い、エチレンを検出する方法が開発された。このページで紹介されていた。   http://sustainablejapan.net/?p=1540   SJN ニュース 「MIT、果物の熟れ具合を精密測定できるCNTセンサ開発」 エチレンは銅イオンに親和性がある。CNT と銅イオンを組み合わせると、エチレンが存在するときに電子移動速度が大きく変化するようになる。エチレンに対する選択性も高いそうである。きわめて安価にできるらしい。

実用にするには信頼性が高く、持ち運びが楽で誰でもすぐに使えないといけない。そのための技術、開発が進んでいる。

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200512/pr20200512.html 「産総研:植物ホルモン(エチレン)を常時モニタリングできる小型センサを開発」

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200512/pr20200512.html 「産総研:ポータブルなエチレンセンサーの試作機を開発」

生物にとって呼吸は基本中の基本である。好気呼吸では酸素 (O2) が消費され水が生じる。呼吸に伴って糖が代謝されるが、その際 TCA サイクルから二酸化炭素 (CO2) が生成する。生物に働くガス状のホルモン、生理活性物質としては、エチレン以外にもいくつか存在する。一酸化窒素(NO), 一酸化炭素(CO), 硫化水素(H2S) が知られている。特に一酸化窒素は人間の病気、生理的現象との関係も深く膨大な量の研究がある。CNT を、それらのガス(またはガスが溶解した細胞液中の濃度)の量を測定することにも使えるようにできれば、とても価値があるだろう。しかしそれらのガスが細胞から生成される量はとても小さいので、かなり感度が高くないと使えない。

すでに NO2 などについて、そういう研究成果が発表されていた。   http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080930/pr20080930.html   独立行政法人 産業技術総合研究所ナノテクノロジー研究部門 研究部門長 南 信次、佐々木 功 産総研特別研究員、Annamalai Karthigeyan元産総研特別研究員によるすばらしい研究 「カーボンナノチューブを用いた高感度ガスセンサーを開発」

http://steem.eei.eng.osaka-u.ac.jp/leptos/list01/169-173.pdf   大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻  片山光浩・本多信一 博士  「カーボンナノチューブを用いた超高感度ガスセンサー開発」 応用物理 2007年 第10号  こういう 成果を生物の観測に生かすことにどんどん取り組んでいただければ、生物学者としても大変有難い。研究成果を社会に還元するという点から見ても有意義かもしれない。

NO を NO2 に変換して測定すれば、NO を測れることになる。植物組織などを測定する場合、NO3 が大量に含まれているのでそれがNO2 に変わってしまうことによる妨害があり得る。そういう問題は、また別の方法で克服しないといけない。

NO を直接 CNT で測定するという成果も、すでに報告されていた。   http://sustainablejapan.net/?p=4628   「MIT、体内に1年以上埋め込んで一酸化窒素モニタリングできるCNTセンサを開発」   SJN News による紹介

https://www.jstshingi.jp/abst/p/09/923/nitech4.pdf   「健康・環境センサーの開発戦略」   名古屋工業大学 大学院 工学研究科未来材料創成工学専攻 増田教授    この資料では、増田教授のグループによる NO の特異的、高感度な検出ができる人工錯体の開発、それをカーボンナノチューブと組み合わせた高性能なセンサーの開発について書かれている。紙に人工錯体をしみこませることで、NO ガスを検出して色が変わる検出紙ができたという写真がある。これを植物の葉に貼り付けることで、うまくいけば(感度・特異性が十分なら)NOがたくさん発生している葉の部位を見分けられる(場所の情報を得られる)ことになる。これがうまくいくのなら、それだけでも植物生理学者にとってはとても役に立つ。動物、人間に対しても役立つだろう。検出紙にするのなら、一度しか使えなくても問題ないし退色しなくてよいかもしれない。しかし使い捨てで一枚10万円ぐらいになったりしたら手が出ない。

株式会社ピコデバイスのホームページ   http://www.pico-device.co.jp/24.html

生物の表面に薄膜トランジスタを貼り付ける

http://www.nedo.go.jp/content/100553180.pdf NEDO 海外レポート2014年3月号に、「目に貼り付く電子機器(スイス)」という記事があった。植物の葉の表面に薄膜トランジスタを貼り付けた写真が掲載されている。どう役に立てるかは今後の課題である。

LED や 有機EL などの発光デバイスがある。それらを薄膜にして葉の表面に貼り付けられれば、葉の葉緑体に光を効率よく届けることが可能になる。 「世界最軽量、世界最薄の柔らかい有機LED(発光ダイオード)の開発に成功〜あらゆる曲面に張り付けられる有機LED照明やヘルスケア・センサーの新しい光源への応用が期待〜」という研究が発表されている。   http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130729/index.html   「染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクト」研究総括 染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)   

http://scienceportal.jst.go.jp/clip/20151217_01.html   では、「プリンターで生産可能! 絆創膏型体温計」という、東京大学大学院工学系研究科の横田知之(よこた ともゆき)特任助教と染谷隆夫(そめや たかお)教授らのグループによる成果が紹介されていた。

日本経済新聞2015/12/25 17面に、「樹脂フィルム 伸縮自在」というパナソニックの製品が紹介されていた。「密着性も高い」と書かれている。

一酸化窒素は人間の病気、生理的現象との関係も深く膨大な量の研究がある。最高占有軌道(HOMO) に一つだけ電子が入っていて様々な反応を起こす。一酸化窒素と相互作用する半導体もあるらしい。   http://www.ekouhou.net/%E4%B8%80%E9%85%B8%E5%8C%96%E7%AA%92%E7%B4%A0%E7%94%A8%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5/disp-A,2012-512392.html   生物が作る一酸化窒素を簡単に精度よく測れると科学研究だけでなく医療や農業にも役立つ。一酸化窒素が作用すると電気の流れ方が変わるような半導体を生物の表面に貼り付けられるとよいかもしれない。センサーがアレイになっていて場所の情報があればもっとよい。

チタンなどのナノ粒子

Direct isolation of flavonoids from plants using ultra-small anatase TiO2 nanoparticles.   Kurepa J, Nakabayashi R, Paunesku T, Suzuki M, Saito K, Woloschak GE, Smalle JA.   Plant J. 2013 Oct 22. doi: 10.1111/tpj.12361. [Epub ahead of print]   PMID: 24147867 チタンナノ粒子を用いて、生きた細胞の内部から、細胞を壊すことなく、色素のみを取り出せる。

チタンなどのナノ粒子は、紫外線吸収、光と相互作用することによる光触媒作用、有機太陽電池への活用などの有用な性質を持つ。日焼け止め、化粧品にも大量に用いられている。生物学にも、もっと活用する必要がある。

「Nanoparticle-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry」という方法で、生物の細胞に存在するホルモンなどの量と、局在する場所を同時に測定検出できる方法が開発されている。ナノ粒子を用いることで、標的になる低分子のイオン化効率の上昇と低いバックグラウンドを両立できる。ナノ粒子はエネルギーを吸収するがそれ自体は質量分析で検出されるイオンを生成しないらしい。もっと感度が上がれば申し分ないらしい。

Imaging of multiple plant hormones in roots of rice (Oryza sativa) using nanoparticle assisted laser desorption/ionization mass spectrometry.   Shiono K, Taira S.   J Agric Food Chem. 2020 May 21. doi: 10.1021/acs.jafc.0c00749. Online ahead of print.   PMID: 32437141

http://www.ksv.jp/index.html   アルテック社で、様々なナノ粒子が売られている。表面に電荷を持たせたタイプの粒子もある。正電荷を持った粒子なら、細胞内の負電荷を持った分子を吸着できる可能性もある。

植物にナノチューブを埋め込むと光合成が活性化   Nature ダイジェスト 2014年6月号に、こういう記事が掲載された。

植物が化学兵器探知機に!?   http://netallica.yahoo.co.jp/news/20140325-00010004-tocana   植物にカーボンナノチューブを埋め込む、マサチューセッツ工科大学の研究について紹介されている。一酸化窒素の検知に使えるらしい。

これが元の論文らしい。   Plant nanobionics approach to augment photosynthesis and biochemical sensing.   Giraldo JP, Landry MP, Faltermeier SM, McNicholas TP, Iverson NM, Boghossian AA, Reuel NF, Hilmer AJ, Sen F, Brew JA, Strano MS.   Nat Mater. 2014 Apr;13(4):400-8. doi: 10.1038/nmat3890. Epub 2014 Mar 16.

Erratum in: Nat Mater. 2014 May;13(5):530. PMID: 24633343

ナノセリアというナノ粒子が出てくる。ナノセリアは、酸化セリウム(セリア)をナノ粒子にした物だそうである。ナノ粒子にすることで表面積と体積の比が高くなる。それによって電子の運動、状態が変化し、電子が抜けた正孔ができたりすることで様々な興味深い性質が出てくるということらしい。ナノセリアは活性酸素 ROS を除去する作用があることが注目されているらしい。   http://samurai.nims.go.jp/pdf/NAGANUMA_Tamaki-j.pdf   光合成には ROS の生成がつきもので植物は ROS を消去する機構を発達させている。今後植物の生育に対する効果の再現性などが確かめられる必要がある。

適当なナノ粒子を細胞内に取り込ませることで、細胞内の ROS や NO などの量を攪乱して植物や動物の生育、状態をコントロールするのはよいアイデアかもしれない。学問的には「それで ROS の量は本当に減ったのか。減ったならどれくらい減ったのか」などを確かめねばならず難しいが、とにかく都合のよい変化が起きればよいのなら、それよりは楽になる。

Juan P Giraldo 教授がこの分野で多数の論文を出版している。Pubmed で「Giraldo jp plant」 と検索すると出てくる。

Brigham and Women's HospitalとMIT、ナノ粒子薬剤を経口投与する新手法の開発に成功 2013年11月29日 09:30 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20131129/172596/    ナノ粒子をうまく使うと、細胞にダメージなく、細胞内に粒子を出入りさせられるらしい。あらかじめナノ粒子に薬をしみこませておけば細胞内で放出することができ、逆に Kurepa らの論文のように細胞内の物質をナノ粒子を介して細胞外に取り出すこともできるらしい。

ナノ粒子溶液をゲルや生物組織の接着剤に Nanoparticle solutions as adhesives for gels and biological tissues p382    Nature 2014年1月16日号に、シリカのナノ粒子を接着剤として用いる方法が報告された。

細胞内に導入した酸化鉄のナノ粒子に電磁波でエネルギーを与えることで細胞機能を調節するという論文があった。   Science 4 May 2012: Vol. 336 no. 6081 pp. 604-608 DOI: 10.1126/science.1216753    Radio-Wave Heating of Iron Oxide Nanoparticles Can Regulate Plasma Glucose in Mice   Sarah A. Stanley など

量子ドット

http://www.riken.jp/pr/press/2013/20130809_1/   「量子ドット間の光エネルギー移動を活用し“正確に速く”意思決定」 理化学研究所のプレスリリース   量子ドットを用い、粘菌の行動原理を模倣したアルゴリズムで問題を解くことに成功した。

量子ドットは、蛍光を発生することを利用して生物学にも用いられるようになってきている。   http://www.sigmaaldrich.com/japan/materialscience/nano-materials/lumidots/quantumdot-optical-nanomaterials.html  

X線回折

結晶の構造を解析するために、X線が用いられる。   http://www.jaima.or.jp/jp/basic/xray/xrd.html   日本分析機器工業会による説明   結晶を構成する原子は規則正しく層を成して並んでいる。層と層の間隔は、X線の波長〜その数分の一に近いことが多い。X線が原子と相互作用して散乱・反射する。一つの層の原子によって散乱・反射したX線が、その次の層の原子によって散乱・反射したX線と干渉することで、強めあったり打ち消しあったりする。   X線を当てる角度を変えながら反射したX線の強度を測定したものを X線回折パターンという。物質ごとにパターンが異なるので、物質の種類を鑑別するのに使われる。 それ以外にも、X線を用いた様々な測定法があり多様な情報が得られる(勉強中)。

この方法を、様々な物質が複雑に組み合わさって構成されている植物体(茎を薄くスライスしたもの)に適用することで、植物体の微細な構造に関する情報を観測できるという論文が発表された。

Tissue specific specialization of the nanoscale architecture of Arabidopsis.   Liu J, Inouye H, Venugopalan N, Fischetti RF, Charlotte Gleber S, Vogt S, Cusumano JC, Kim JI, Chapple C, Makowski L.   J Struct Biol. 2013 Sep 25. doi:pii: S1047-8477(13)00243-8. 10.1016/j.jsb.2013.09.013. PMID: 24075949

この論文は、バイオマスとして注目される植物細胞壁の構造を、X線回折で分析することを目的としている。X線のビームを細くすることで、微細構造に関する情報を得ている。木材を工学的に研究している先生方のモデルによると、細胞壁は「補強されたマトリックス」というモデルで表現される。コンクリートに鉄筋が入っているのと似ている。ペクチンなどがマトリックスを構成し、そこにセルロースの繊維が配向して並び、補強している。論文では「two component model」と書かれている。 X線回折で、マトリックスとセルロース繊維の比率がわかる。セルロース繊維は結晶化しているので、その配向と角度がわかる。それ以外にも、無機元素の局在がわかる。組織表面に存在するワックスもX線を散乱するらしく、ワックスに関する情報も得られる。

AFM

生きたままでも分析できる

AFM はいままでになかった手法を可能にするかもしれない。すでにAFMで植物の細胞を観察したという論文は出ている。また、AFM を用いて生きた細胞の表面の弾性、粘弾性を測定するという試みが動物細胞でなされている。 
植物細胞の力学的性質を測定できる。力学的性質が、カルスから葉が分化するときに変化するのを時系列的に測定できるかもしれない。

私は「プローブの先に抗体などをつけるといろいろと分析できるかもしれない」と思っていたが、そういう例はないらしい。逆に、プローブの先につけた物質を基盤の微小な領域にスポットすることが出来ると報告されている。一つの細胞の、細胞表面のごく一部分を局所的に修飾できる可能性がある。また一細胞の局所だけに機械的力を掛けることが出来る可能性がある。それによってどのような実験が可能になるかは、よく考えなければならない。

例) 機械的力を掛けたことによる応答を、GFPやカルシウム感受性色素などの発光で見ることが出来るような植物を作る。 機械的力を掛けたことによる応答がどれくらいの時間後に出てくるか?(ありきたりなアイデア)
例) 茎頂の特定の細胞の表面に、AFM を用いてCLV3 ペプチド(の仲間)をスポットする。葉の発生はどうなるか?(AFMを使わなくても出来るかもしれない: 微小なビーズにしみこませて茎頂に載せるとか)
例) AFM ではサンプルの力学的強度を測定できる。茎頂の各部分の強度が、葉の発生、花の形成に従って時系列的にどのように変化するかを事細かに測定する(茎頂全体の時間的、空間的な力学的性質の測定)。それがうまくいくと膨大な数値データが得られる。数値データを元にして数学的なモデルをつくる(どんなモデル?)。モデルから、「こういう操作をすると葉の発生にこういう影響が起きる」という予想をする。それが本当に茎頂で起きるかどうかを調べる(以上、とても具体性に欠ける思いつき)。 私は単に思いついただけだが、実際にAFM で茎頂を観測した論文も発表された。あまり解像度は良くないらしい。この論文ではシロイヌナズナを使っている。もっと茎頂が大きくて構造がわかりやすい植物の方がよいかもしれない(オオカナダモなど)。

In vivo analysis of local wall stiffness at the shoot apical meristem in Arabidopsis using atomic force microscopy   Milani P, Gholamirad M, Traas J, Arnéodo A, Boudaoud A, Argoul F, Hamant O.   Plant J. 2011 Sep;67(6):1116-23. doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04649.x. Epub 2011 Jul 4.    PMID: 21605208

すでに、AFM で植物細胞の表面を観察したという論文はいくつも出ている。 生体分子計測研究所 http://www.ribm.co.jp/ というところで、走査型プローブ顕微鏡の基本機能型を売っている(SXM STANDARD)。これはとてもすばらしい製品ではないか。「低価格型」と書かれている。生体分子計測研究所では、「食品のナノ計測」を受託している。植物組織はそのままでも食べられる場合もあり、食品と同様な手法が使える可能性が高い。ホームページから計測例を見ることが出来る。この会社で行っているような測定手法が、植物の研究にも役立つかもしれない。

レンズAFM

テックサイエンス    http://www.techsc.co.jp    という会社で、「レンズAFM」という装置を発売している。生物学者が普通に使う光学顕微鏡のレボルバーに、レンズの代わりに取り付けるだけで AFM として観察ができるらしい。生物学に応用した測定例、写真も公開されている。他にも生物学に活用できる様々なセンサーなどが紹介されている。

フェムト秒レーザー

新学術研究領域「植物の環境感覚」細川 陽一郎准教授のすばらしい研究   http://esplant.net/keikaku/a03_ke.html   レーザーで微細な組織の操作(切除、切り出しなど)をすることができる。また、組織に衝撃力を与えることができる。それによって起きる変位を AFM を用いて検出するシステムが作られている。とてもわかりやすく解説された資料が公開されている。   http://www.kindai.ac.jp/news_event/2011/01/post-210.html   力を与えたことで、細胞をどのように変形するかを測定できれば、細胞の力学的性質を決定することができる。特に植物では細胞の力学的性質がホルモンなどによって変化し重要なので、今後の成果が期待される。

摩擦力顕微鏡、膨張顕微鏡法

まさつ力顕微鏡による分子の剛性と分子間相互作用の定量   Alfred John Weymouth, Thomas Hofmann, Franz J. Giessibl   http://www.sciencemag.org/content/343/6175/1120.abstract

Science からのメールマガジンで紹介されていた。AFM を応用しているらしい。

「膨張顕微鏡法」 Fei Chen, Paul W. Tillberg, Edward S. Boyden   http://www.sciencemag.org/content/347/6221/543.abstract    というのも掲載されていた。

量子顕微鏡

Nature の2017年3月9日 Volume 543 Number 7644 に、こういう記事が掲載された。    「量子顕微鏡が報告され、化学反応をリアルタイムで捉えることも可能に。」   

Quantum microscope offers MRI for molecules p162

Diamond-based imaging system uses magnetic resonance of electrons to detect charged atoms and peer at chemical reactions in real time.''   Sara Reardon doi: 10.1038/nature.2017.21573

MRI(NMRイメージング)、パルス核磁気共鳴装置

医学、医療ではMRI装置によって、医学的な診断が行われている。植物の組織も同様な方法で観察した例もある。しかし一般的に使える方法とは言い難い。非侵襲で生物の組織に関する様々な情報を得ることは有用である。またそれ以外にも様々な応用、実用化ができる。

応用物理、第80巻、第02号(2011)で、「先端医療を支える応用物理」という特集が組まれている。MRI 装置に関して解説されている。単に画像を得るだけでなく、組織の性状に関しても情報が同時に得られるようになってきているそうである。MR elastography (the imaging of mechanical characteristics)という方法が開発されている。測定装置の値段、設置の容易さ(持ち運びできると便利である)、測定にかかる時間がさらに改良されれば、いままで生物学では考えられなかったようなデータが時系列の画像で得られるかもしれない。また医療だけでなく食品農産物工業製品の検査にすばらしい進歩をもたらすだろう。

最近の技術の進歩により、永久磁石を用いたコンパクトMRIが市販されるようになった。 http://www.mrtechnology.co.jp/ 株式会社エム・アール・テクノロジーのホームページ 応用物理学会の学会誌に、広告が掲載されていた。 このホームページでも、ミカンやリンゴの果実の内部構造を観察した例が掲載されている。

雑誌「化学」2015年11月号に、片側開放型NMR について紹介されていた。

牛の霜降り状態がNMR でわかる!?──片側開放型NMRが拓く新たな可能性 中島善人先生による解説

片側が開放されているので、様々な物体に押し当てることによる MRI イメージングが可能になっている。今まで MRI を使えなかった分野への応用が期待されている。 開放されている分、シグナルを得ることは難しくなるがそれを様々な改良、新しいアイデアで克服している。

「BRUKER 核磁気共鳴装置(NMR)FOURIER 60」という、卓上 NMR があった。 https://members.hht-net.com/sinavi/Menu/Products/Em/Bruker/FOURIER60/Pages/  NMR を分光光度計のように、物質の定量、酵素活性の測定などに身近に使う方法を調べておくのもよいかもしれない。

種子の状態を非破壊で測定する

種子は長期間保存すると発芽率が低下していく。種子の状態を非破壊で測定することには高い価値がある。可視光、赤外線画像や蛍光画像の分析などが行われるが、NMR を用いることもできる。

NMR には様々な種類、手法がある。「パルス核磁気共鳴装置」を用い、「パルスNMR」を行うことができる。この方法を、種子に含まれる油含量を測定するために使用した研究が、2008年植物生理学会で講演されていた。 1pE14 種子油増産に寄与する新規遺伝子の探索 大音 徳 博士ら 要旨140ページ

3mg の種子で、非破壊的に測定できると報告されている。パルスNMR は、液体および固体の系全体の情報を与えるそうである。高分子の混合物の分析に用いられている。  リンク: http://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%91%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%A0%B8%E7%A3%81%E6%B0%97%E5%85%B1%E9%B3%B4%E8%A3%85%E7%BD%AE&sourceid=navclient-ff&ie=UTF-8&rlz=1B3GGGL_jaJP248JP248

NMR は様々な用途に使われる。「低磁場での自作NMR測定装置による食品類の緩和時間測定」という発表が行われていた。https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202002290263483825  

超音波イメージング

応用物理、第80巻、第02号(2011)で、「先端医療を支える応用物理」という特集が組まれている。「高機能医用超音波システムの開発」椎名 毅 博士による解説   「組織弾性イメージングが実用化された」と紹介されている。単に画像を得るだけでなく、同時に組織の性状に関しても情報を得ることができるそうである。

ためになる本「叩いて超音波で見る−非線形効果を利用した計測」佐藤 拓宋博士の著書 コロナ社 1995年 素人にとって大変勉強になる。生物の組織は均一であることの方が珍しい。それによる非線形効果を見ることは、生物組織を観測するのに、特に向いているのだろう。

水の移動によって生じる超音波を測定

日本経済新聞2014/10/07に、「埼玉大の蔭山教授らは、植物が根から水を吸い上げる際に発生する超音波を観測してトマトなどの状態診断する方法を開発した」という記事が掲載されていた。茎に超音波センサーを取り付けた写真が掲載されている。

http://mehp.mech.saitama-u.ac.jp/activities/kageyama-1.html に、蔭山研究室の研究紹介がある。ここの図では、空気は主に道管の周囲の細胞の細胞壁と細胞間隙から入り込んでくるように書かれている。それ以外にも、道管内の液体が蒸散によって上部へ引っ張り上げられていることによる圧力低下が気泡の形成をもたらすことが植物生理学の分野では重視されている。 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1974

正常状態では泡は発生しない・非常に小さいが、ストレス条件では大きな泡となる。それがキャビテーションで、その際に超音波が発生する。アコースティック・エミッション(AE)と呼ばれている。

アコースティック・エミッション(AE)は水分状態と比例するかというと、そんなに単純ではなく、正常なトマト個体に水を与えた際にはアコースティック・エミッション(AE)が減少するが、乾燥ストレスがかかった個体に水を与えるとアコースティック・エミッション(AE)は増加するという結果が紹介されている。蔭山教授が開発した「フィルム積層エレクトレットコンデンサマイクロフォン」を用いることで、キャビテーションによって発生する微弱な超音波の検出が可能になっている。蔭山研究室の研究紹介では、超音波センサー、超音波振動子を用いるとガスセンサー(ガスで音速が変化する)や生体組織の硬さの測定などが行えることが紹介されている。

植物の茎に存在する道管は、単なる一本のパイプではない。複数の太さが異なる道管が存在し、お互いに連絡がある。道管と仮道管の二種類がある。道管内部にもらせん状の構造があり、水をはじく成分も含まれている。そのように複雑なのでアコースティック・エミッションの発生の度合いも複雑に変化する。

日本経済新聞2023/12/17に、「トマトやタバコは乾燥したり茎を切られたりすると超音波の悲鳴を上げる」という記事があった。それを見ると「超音波の音量は普通の会話並みで 62~66デシベルに達する」と書いてある。どんなしくみでそんなに大きい音が出るのか。記事ではキャビテーションのことが書いてある。本当かどうかは今後の課題だろう。

植物が水を吸い上げるしくみは、水ポテンシャルという、熱力学の化学ポテンシャルを元にしたパラメーターで説明されている。「新・生命科学シリーズ 植物の生態−生理機能を中心に」という本に、寺島一郎先生によって詳細に解説されている。 道管や篩管などの水を輸送するための器官に関しても説明がある。

植物が水を吸い上げるしくみは、流体工学の先生によっても解析されている。ネットに公開されている。   ながれ 24(2005)491−496.   〔特集〕植物と流体力学   植物の吸水作用の物理   *電気通信大学名誉教授 細川 巌先生

水の同位体比率の分析

日本経済新聞2015/02/24 に、「産地偽装、見逃さない」NTT が新技術 という見出しの記事があった。 農作物に含まれる水の同位体比率は産地によって特有の値を示す。 ある農産物、加工物に含まれる水を「レーザー光を使ったガスセンサーで」同位体比率を調べることで産地を見分けることが可能になる。 「レーザー光を使ったガスセンサー」の詳しいことについては書かれていなかったのでこれから調べる。

光音響トモグラフィー

http://www.sciencemag.org/content/335/6075/1458.abstract   Science 23 March 2012:Vol. 335 no. 6075 pp. 1458-1462   Review: Photoacoustic Tomography: In Vivo Imaging from Organelles to Organs Lihong V. Wang*, Song Hu

動的粘弾性測定(DMA)Dynamic mechanical analysis

http://www.siint.com/products/thermal/tec_descriptions/dma.html   エスアイアイアイ・テクノロジー社による解説 植物の茎のような形状のものは、3点曲げモードで測定できそうである。

この方法を植物個体に使った論文   Detailed characterization of mechanical properties and molecular mobility within dry seed glasses: relevance to the physiology of dry biological systems    (pages 607–619)   Daniel Ballesteros and Christina Walters   Article first published online: 9 SEP 2011 | DOI: 10.1111/j.1365-313X.2011.04711.x   

レーザーラマン顕微鏡

物質に光が入射したとき、散乱される光には入射光と異なる波長が含まれる。ラマン効果、ラマン散乱と呼ばれる。散乱される光のスペクトルシフトを分光器で分析する。それぞれの物質の分子構造、結晶構造によってスペクトルシフトが変化する。このことを利用して、ある物質の、局所的な分子構造、組成、結晶構造を調べることができる。

http://www.riken.jp/soft-kaimen/symposium/Report_Trainig_Ozaki.pdf   「ラマン分光法による表面測定法」米粒が測定できるらしい。

共焦点レーザー顕微鏡のように、光を当てる部位をスキャンし、得られるデータを蓄積し再構成することによって、レーザーラマン顕微鏡が作られている。

http://www.nbci.jp/file/060530-2.pdf

ナノフォトン株式会社 では、レーザーラマン顕微鏡 RAMAN-11を発売している。 http://www.nanophoton.jp/raman/raman-11.html

ラット心筋細胞を観察した例が紹介されている。核酸、タンパク質、脂質を無染色で色分けし表示することができている。植物ならば特に結晶化したセルロースの量や局在がはっきりとわかるかもしれない。残念ながら使ったことがないのでわからない。

そのほかにも、生物試料を観察した例が多数掲載されている。

SRS(誘導ラマン散乱)顕微鏡 というものが、http://www.nedo.go.jp/content/100536963.pdf NEDO海外レポート 2013年10月30ページ で紹介されている。弱いラマン信号を10,000倍超に増幅する(誘導ラマン)ことで、腫瘍細胞と正常細胞をリアルタイムに見分けることができる。どうやってラマン信号を増幅するのかについては書いてないので後から勉強する。

https://www.symphotony.com/products/ 光響という会社から、「ラマン分光学習キット」が発売されている。比較的低価格(98万円)で購入できる。

植物の細胞壁をラマン顕微鏡で分析したという論文が発表されている。

Chemical imaging of poplar wood cell walls by confocal Raman microscopy.   Gierlinger N, Schwanninger M.   Plant Physiol. 2006 Apr;140(4):1246-54. Epub 2006 Feb 17.

Label-free in situ Imaging of Lignification in Plant Cell Walls.   Schmidt M, Perera P, Schwartzberg AM, Adams PD, Schuck PJ.   J Vis Exp. 2010 Nov 1;(45). pii: 2064. doi: 10.3791/2064.

Raman-based diagnostics of drought, heat and light-induced stresses in three different varieties of hemp   Mackenzi Steczkowski, Kyle McClellan?, Russell Jessup, Dmitry Kurouski という論文があった。細胞壁の主成分であるセルロースなどからのシグナルが検出される。

細胞壁の表面のクチクラを観測することができる。

A guide to elucidate the hidden multicomponent layered structure of plant cuticles by Raman imaging   Peter Bock, Martin Felhofer, Konrad Mayer, and Notburga Gierlinger FRONTIERS IN PLANT SCIENCE (2021)

ラマン分光は、種々の形態の試料からリグノセルロース物質を分析することに有効に利用されている。植物バイオマスの効率的変換の研究のために使用されている。

リグノセルロース物質のNIR-FT ラマンスペクトル http://www.nedo.go.jp/itd/grant/pdf/98gp1.pdf

近赤外光フーリエ変換ラマン分光法と多変量解析を組み合わせることにより、ユーカリの細胞形態、細胞壁の厚さ、セルロースなどの量を分析する方法が開発されている。 http://www.jst.go.jp/kisoken/crest/report/heisei11/pdf/e-1-02.pdf 

東京大学大学院理学系研究科 浜口宏夫博士が書かれた解説 「ラマン分光による単一酵母生細胞の分子レベル分光と生物活性の可視化」  http://yeast.ac.affrc.go.jp/Hamaguchi.html 酵母の細胞壁、タンパク質からなる構造体、ミトコンドリアに由来するシグナルなどが可視化されている。細胞分裂時に作られたばかりの隔壁と、成熟した壁に大きな違いが観察されている。

応用物理学会の学会誌にも紹介されている。

応用物理、第75巻、第6号、p.0682-0688 (2006)   非線形ラマン顕微分光法による振動分光イメージング−分子性結晶から単一生細胞まで−   加納英明 ・ 島田林太郎 ・ 茺口宏夫

「現代化学」という雑誌にも紹介されている。2009年6月号 58ページ 坪井正道

炭素〜炭素間の三重結合(アルキン)は、ラマン顕微鏡によって効率よく検出される。このことを利用して生理活性物質にアルキンの構造を付加してラベルし、その分子が細胞内でどのように振る舞うかをラマン顕微鏡で観察することが成功している。

http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/news/2014/rn201405.pdf   理研ニュース2014年5月号 袖岡先生のグループの成果

http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/122/122-4/okada04.pdf   ラマン散乱顕微鏡を用いた生細胞イメージング   岡田、藤田両博士による解説

アルキンだけでなく、ニトリルやアジドの構造でもラマンイメージングに使えると書かれている。生理活性物質でニトリルをもつものなら、そのままでも理屈上は見ることができることになる(感度やノイズの問題はあるが)。

ラマン分光を用いた、リンゴ果実に含まれるプロシアニジン量の測定

https://www.hirosaki-u.ac.jp/topics/58693/   弘前大学によるプレスリリース   花田先生(弘前大・理工)、和田先生(理研・光量子工学研究センター)、前多先生(弘前大・農生)らによる研究成果   私はラマン分光というのはとても高級で強力なレーザー光を使うものだと思っていたがそれは間違いで、レーザーポインター程度の微弱なレーザー光を15秒間リンゴにあてることで測定可能であると書かれている。

ハンドヘルドラマンスペクトロメーター

Resolve handheld Raman spectrometer    https://www.agilent.com/en/products/raman-spectroscopy/raman-spectroscopy-systems/handheld-chemical-identification/resolve   という製品が売られている。植物への使用例: Non-invasive Diagnostics of Liberibacter Disease on Tomatoes Using a Hand-Held Raman Spectrometer   Planta, 251 (3), 64   2020 Feb 11   Lee Sanchez 1 , Alexei Ermolenkov 1 , Xiao-Tian Tang 2 , Cecilia Tamborindeguy 2 , Dmitry Kurouski   PMID: 32048047 DOI: 10.1007/s00425-020-03359-5

オプティカルクリアリングイメージング

Revealing 3D structure of gluten in wheat dough by optical clearing imaging.   Ogawa T, Matsumura Y.   Nat Commun. 2021 Mar 17;12(1):1708. doi: 10.1038/s41467-021-22019-0.   PMID: 33731714

レーザースペックル顕微鏡

レーザー光は、進行方向、位相、波長がそろっている。エントロピーが低い。レーザー光が物体に当たると、散乱光が干渉し合って粒状のパターンを形成する。これをレーザースペックルという。蛍光灯の光で机に置いた白いコピー用紙を照らすと、どの位置も均一に明るくなる。しかしレーザー光の場合は、紙の表面に微小な凹凸があるせいでスペックルが発生する。均一にならず、ざらざらした感じに見える。これはスペックルノイズと呼ばれて問題になることもあるが、逆にそれを物体の微少な動きの検出に使うことができる。

照らされた物体が静止しているならスペックル(明るさの不均一さ)も変化せず一定だが、ごくわずかでも動き、揺らぎがあるものを照らした場合にはスペックルもそれに合わせて揺らぐ。その様子を顕微鏡で見ることができる。顕微鏡にカメラをつければパソコンに動画として取り込める。カメラでスペックルの変動、揺らぎを記録して分析することで、対象物の微小な変位、動き、揺らぎを検出することができる。

問題点としては、

   http://www.iis.u-tokyo.ac.jp/topics/09_13.htm   フォトリフラクティブ効果を用いた微小振動計測   志村 努博士による研究成果の紹介   絞り、フォトリフラクティブ結晶、偏光板を付加することでスペックルの大きさの調節、ノイズの除去などができるそうである。フォトリフラクティブ効果とは、「物質が光を吸収して屈折率が変化する現象」だそうである。   http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/photoref/pr1.htm

生物に対する応用も既に行われている。血流による血球細胞の流れ、揺らぎを利用して眼底の血流のマッピングが行われている。   http://picasso.elec.eng.osaka-cu.ac.jp/miyazakilab_speckle.html   宮崎博士のグループによるレーザースペックルを用いた振動計測と鼓膜への応用   振動している物体を観察した場合、何枚かのスペックル画像を重ね合わせるとスペックルがぼやけた状態になる(コントラストが低下する)。全く動きがなければスペックル画像は不変なので何枚重ね合わせてもスペックルははっきりとしている(ノイズのせいで完全に不変ではないだろうが)。振動が大きいほどぼやけ方も大きくなる。スペックル画像の処理法についてはたくさんの優れた研究がすでにある。

植物の生長をモニターするために利用した例もある。http://ci.nii.ac.jp/naid/110006866595   http://www.ieice.org/ken/paper/20080523WaDN/   この方法は、植物生理学者にとって非常に興味深い。もっと生物学者から注目されてもいい方法、成果だろう。以前は伸長を確認するために茎にインクで目印をつけることもあったが、レーザースペックルを使えば目印をわざわざつけなくても植物の表面の微小な凹凸から生じるスペックルパターンの変化が目印になる。ホルモンによる伸長を今までにない方法で測定できるかもしれない。今までは伸長または相対伸長速度を重要視していたが、スペックルを使えば「時間あたりのスペックルの揺らぎ、変化の度合い」を指標に出来るかもしれない。スペックルの揺らぎは、よい装置を使えば細かい時系列で精密な値を得やすいだろう。動画像として取り込んで保存することが出来る。それによって Lockhart の成長方程式を上回る、新しい成長方程式を考えられるかもしれない。

生物に見られる揺らぎを正しく観測し数値化する、さらにそこから情報を引き出す方法を確立することで、生物学的な発見に結びつけられる可能性がある。   http://bpwakate.net/summer2005/shibata.pdf   「細胞の中の反応ゆらぎ」広島大学理学研究科 柴田先生

「レーザースペックルひずみ計」に関する解説 山口一郎先生 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003402463/

顕微鏡と組み合わせて、一つの生きた細胞に見られる揺らぎを測定することも成功している。 久留米高専、平川研究室の研究紹介 http://apollo.cc.kurume-nct.ac.jp/~hirakawa/world/Lab_Files/sub5.html   http://www.jstage.jst.go.jp/article/jslsm/28/2/28_129/_article/-char/ja 

平川先生の研究紹介では、「植物では蒸散による水分移動に伴う葉脈での揺らぎが検出できる」とある。葉脈を移動する水分に含まれる微粒子の動きがスペックルの揺らぎになるのかもしれない。植物の水分吸収、蒸散と関連する数値を非接触で測定できるかもしれない。「植物の水分状態を測定し、それに応じて自動的に水やりする装置」を作れるかもしれない。

すでにそういう研究が成功している。   http://ci.nii.ac.jp/naid/110004823663   レーザスペックル法を用いた植物体中の流量測定への適用  松尾ら 信州大学繊維学部 最近植物工場が注目されている。工学的な手法を植物育成、植物の状態観測に生かすことは植物工場の運営に役立つだろう。

http://www.sgkz.or.jp/project/plant/19/document_20.html   バイオスペックルを用いた光断層画像法による植物の環境ストレスモニタリング   http://www.sgkz.or.jp/project/plant/18/document_15.html   環境評価のための統計干渉法による植物のナノメータ生長応答計測装置の開発

茎頂のような活発に細胞増殖、分化が起きている部分では細胞内器官の微小な動き、原形質流動による揺らぎが大きくなっていて検出されやすいかもしれない。茎頂領域内でどの部分の細胞の活性が高いかがわかるかもしれない。カルスを観察すれば、再分化を始めそうな部分と全く分化しない部分で揺らぎが違っていたりするかもしれない。寒天培地に生えた細い根は見づらいが、スペックルの揺らぎを利用すれば寒天の部分(全く揺らがない)と根をはっきり区別できるかもしれない。植物は重力屈性を示す。それにはアミロプラストの重力による沈降が関与している。重力がかかる向きを変えたときにアミロプラストが動いて、スペックルの揺らぎが変化するかもしれない。画像解析ソフトウェア ImageJ が、画像の処理に役立つかもしれない。  

植物を観測する場合、観測期間が長くなる。その間ずっと動画を撮影してその後動画ファイルを分析するのでもよいが、ファイルサイズが大きくなってしまい処理が難しくなる。OpenCV  というすばらしい画像処理・画像認識用のC言語ライブラリ、サンプルプログラム、解説資料を使えば、素人でもカメラから画像を取り込んで処理することができる。

光合成の研究ではクロロフィル蛍光の時間変化から様々な重要な情報が得られて研究に活用されている。それ以外にも生物は様々な蛍光を発生し、生物現象の解明に有用に使われる。

「応用物理」2017年12月号に、 「蛍光計測による海苔(のり)の生育診断」 岡本 保先生による解説が掲載されていた。 半導体を蛍光を用いて分析する方法を応用して、海苔の健康状態を光合成色素からの蛍光で測定できる。植物生理学、生態学でも光合成色素からの蛍光を分析する機器がよく使われている。海苔の光合成色素は何種類もある。励起する光をうまく選ばないと、健康と病気を区別できない。488 nm でうまくいったと書かれている。変化する波長もスペクトルで見ないといけない。病気で大きく変化する蛍光のピークが 500 nm 位に存在していた。 蛍光の強さ、スペクトルだけでなく、蛍光寿命にも大きな差が出て有用だった。

光の強さと出力が直線に乗らないことがある。そういう補正について説明してある資料があった。   除草剤による植物の光合成機能障害の画像診断   http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/joho/Omasa/File303.PDF   大政、高山、後藤博士らによる論文   画像処理はすばらしい技術がすでに多数開発され使われているので、それらに学ばないといけない。

アルファスクリーン技術

サイエンスからのメールマガジンで紹介されていた。「学部生の実習におけるアルファスクリーン技術を用いたcAMPの測定」Measurement of cAMP in an Undergraduate Teaching Laboratory, Using ALPHAscreen Technology   Sci. Signal., 14 February 2012   Vol. 5, Issue 211, p. tr1   Joseph D. Bartho, Kien Ly, and Debbie L. Hay*   School of Biological Sciences, University of Auckland, Auckland, New Zealand.   http://www.cosmobio.co.jp/aaas_signal/archive/tr_20120214.asp?elq=a90903c1e46a4801ae7e69ed5ea5166b

アデノシン3',5'一リン酸(cAMP)の量を測定する方法には様々なものがある。多数のサンプルを簡単に素早く測定する方法の開発には高い価値がある。この論文では、「ビーズベースのアルファスクリーン(増幅発光近接ホモジニアスアッセイ)技術」を用いることで多人数の学生実習でも測定できるようにした。「この技術は多数の異なるシグナル伝達経路の測定に適用できる」と書かれている。   http://www.perkinelmer.co.jp/products_ls/assays/assays_0010.html   Perkin Elmer社が開発、販売している。

イオンコンダクタンス顕微鏡

http://www.shoshinem.com/products/ms-ion.htm

二光束干渉顕微鏡

http://www.mizojiri-opt.co.jp   応用物理学会の学会誌の広告に載っていた。

光子は、観測方法によって粒子のように見える場合もあれば、波のように見える場合もある。波と波が重なると干渉を起こす。それを利用する様々な技術がある。

表面プラズモン共鳴による生細胞屈折率の可視化

http://jstshingi.jp/abst/p/11/1128/hiroshima2.pdf 広島大学、柳瀬博士、秀教授らによる研究

細胞磁気計測

http://ci.nii.ac.jp/naid/110003286884   細胞磁気計測による原形質の粘弾性の研究   小林、根本 両博士の研究 この研究では、動物細胞に磁気粒子を取り込ませて測定を行っている。

フナコシで、磁性ナノ粒子を用いて動物細胞を培養するキットが売られていた。磁性ナノ粒子を取り込んだ細胞を磁石で培養液に浮上させ、細胞を集合させて三次元構造を形成するように培養する。磁性ナノ粒子の値段は、600マイクロリットルで35000円だった。

植物の場合細胞壁がある。細胞壁を構成する高分子のマトリックス、編み目にうまく取り込まれるが、細胞内には入らないような磁性ナノ粒子を用意する。それを細胞壁にとりこませる。まず磁性ナノ粒子の向きを揃え、それがランダム化していく様子を時系列で観測する。そういうことができれば、細胞壁の性質に関する情報を得る一つの方法になるかもしれない。動物細胞でも細胞外にマトリックスが発達しているものなら、できるかもしれない。

SFG(和周波発生)分光システム

http://www.tokyoinst.co.jp/products/catalog/cat/system/TII-5_B_SFG.pdf

実際にこの方法を用いて、植物細胞を観察した論文が発表された。

Monitoring meso-scale ordering of cellulose in intact plant cell walls using sum frequency generation (SFG) spectroscopy.   Park YB, Lee CM, Koo BW, Park S, Cosgrove DJ, Kim SH.   Plant Physiol. 2013 Aug 30.   PMID: 23995148

Inhomogeneity of Cellulose Microfibril Assembly in Plant Cell Walls Revealed with Sum Frequency Generation Microscopy.   Huang S, Makarem M, Kiemle SN, Hamedi H, Sau M, Cosgrove DJ, Kim SH.   J Phys Chem B. 2018 Apr 26. doi: 10.1021/acs.jpcb.8b01537.  PMID: 29697980

テラヘルツ波(THz)を用いる分析

http://ocw.nagoya-u.jp/files/197/kawase.pdf   川瀬博士による解説   

http://www.nikon.co.jp/profile/technology/core/optical/terahertz/index.htm   (株)ニコンにより製品化が進んでいる。   

テラヘルツ波技術の歩みと展望   荻行正憲 応用物理 2012年4月号   小型テラヘルツ波発生、検出プローブの写真が掲載されていた。皮膚の検査などに用いることができる。イメージングにも使えるらしい。

テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いたバイオ計測   紀和利彦 応用物理 2012年4月号 p298〜

テラヘルツテクノロジーフォーラム   http://www.terahertzjapan.com/

テラヘルツによる植物の葉の水分含有量とイメージングに関する研究   http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902293643776420   ZHANG Hongbing(秋田大)ら

テラヘルツ電磁波を用いた繊維の鑑別方法  http://jstshingi.jp/abst/p/10/1033/kitatohoku6.pdf   岩手県立大学地域連携本部 テラヘルツ応用研究所 倉林徹 教授の解説   繊維を構成しているセルロースは、繊維の種類によって結晶構造が変化する。その違いが吸収スペクトルとしてはっきりと検出されている。植物体を構成するセルロースについても同様なことが観察されるかもしれない。すでにそういう研究も進んでいるらしい。

バイオ燃料を低コストで生産するために多くの研究が進んでいる。セルロースがセルラーゼ、イオン液体などで分解されるときには結晶構造が崩壊する。テラヘルツ波を用いることで、結晶構造の変化をリアルタイムで観察できるかもしれない。それによって、反応を効率化するための条件を見いだしやすくなるかもしれない。反応を促進する因子をスクリーニングできるかもしれない。高価なセルラーゼをできるだけ節約し再利用するために有効かもしれない。セルラーゼはセルロース繊維を分解するときに渋滞を起こすことがあるそうなので、セルロース繊維とセルラーゼの量の比率を最適な値にコントロールしないとかえって効率が悪くなることが起こりうる。

セルラーゼを再利用することでコストを大幅に下げたという話があった。テラヘルツ波をプロテアーゼの反応モニタリングに使うという成果が報告されていた。セルラーゼもうまくいくかもしれない。

小宮山 進 先生(東京大学大学院総合文化研究科) が「パッシブテラヘルツ近接場顕微鏡 −新規バイオ計測を目指して−」という講演をされていた。   http://rcis.c.u-tokyo.ac.jp/seminar.html

拡散反射法

粉体や植物体に光を照射すると,光が種々の方向に反射する。 表面で反射するもの以外に、内部に進入してさらに反射、屈折して拡散する光もある。 内部に進入してさらに反射、散乱した光をレンズ、検出器を用いて検出する。顕微鏡とカメラを使うことができるだろう。 内部に進入した光は、内部組織を通り抜ける間に試料成分によって吸収される。そのため、通過してきた 光のスペクトルは試料の成分による吸収に関する情報を含んでいる。 スペクトルの特定の波長に注目したり、多変量解析を行うことで成分に関する情報を得ることができる。 細胞壁成分の簡易的な分析に透過型の赤外分光光度計が使われているが、それとよく似たスペクトルが得られる。 光は可視光でも赤外光でもよいらしい。レーザー光で波長を切り替えられる光源を使えば、レーザースペックル顕微鏡の機能も 同時に持たせられるかもしれない。

参考になる資料: 
島津製作所の技術資料 http://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/support/lib/ftirtalk/talk1/intro.htm
東京農工大学大学院 西舘先生の研究室ホームページ http://www.tuat.ac.jp/~bmp-mpg/index.html

信州大学 石澤広明先生の研究紹介   http://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/support/lib/ftirtalk/talk/02.htm   植物の表面に付着した微量の残留農薬を検出することが成功している。微量な吸収変化から再現性よく有用な情報を抽出できることを示している優れた成果である。

植物の細胞壁はホルモンによる成長促進時などに力学的性質、構成多糖類の分子量などが変化する。それらの変化が光の拡散、反射、吸収に影響を与えると言うことも考えられる。 もちろん目でスペクトルを見ただけではわからないだろうが、多変量解析を用いることでそういう情報を抽出できる可能性がないわけではない。そういう研究をしているところもあるらしい。ホルモン処理した組織と、対照の緩衝液で処理した組織を用意する。それぞれからスペクトルを複数サンプルについて得る。得られたデータについて、ホルモンのあるなしを最もよく判別する式をスペクトルデータの多変量解析で求める。R言語などのソフトウェアが使えるだろう。しかし「細胞表面の吸収の変化」と「細胞内成分の濃度変化による吸収の変化」を区別するのは難しいかもしれない。単に何らかのサンプルを判別することが目的なら、問題ないかもしれない。

FT-IR microspectroscopy

これも近赤外、赤外領域の吸収スペクトルを用いた分析である。画像化することでより詳細な情報が得られる。

Transmission Fourier transform infrared microspectroscopy allows simultaneous assessment of cutin and cell‐wall polysaccharides of Arabidopsis petals    (pages 880?891)   Sylwester Mazurek, Antonio Mucciolo, Bruno M. Humbel and Christiane Nawrath   Article first published online: 4 APR 2013 | DOI: 10.1111/tpj.12164   (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.12164/abstract)

全反射吸収法

エバネッセント波を用いて、物体のごく浅い表面のみによる反射、吸収を測定できる。植物組織に応用した例が報告されている。

植物体表層成分の赤外スペクトル計測法の開発とその利用 生物工学会講演要旨集 平成12年度 http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN10549378/ISS0000159426_ja.html   549番 實渕博士らの講演 表層のクラチラ成分を検出できている。クラチラは水をはじき、プロトプラスト化を妨げたりする。

イメージングマススペクトロメトリー、質量分析顕微鏡

「イメージングマススペクトロメトリー」という手法や「質量分析顕微鏡」という機械が開発されている。金イオンのビームを組織に照射し二次イオンを発生させる。または組織にマトリックスを塗布しレーザー光を当ててイオン化させる。そのほかにも優れた方法が開発されている。生成したイオンを質量分析する。金イオンなどののビームやレーザー光を試料の特定の部位に照射し、それをスキャンしていくことで二次元的な映像を得る。組織の特定の部位に、ある質量数を持つ物質が増加していることがわかったりする。タンパク質やや脂質由来のイオンが検出される。細胞内部のホルモンなどについても検出できるようになってきている。

https://www.preppers.co.jp/ 浜松医科大学発ベンチャー企業 質量分析に関する優れた技術を社会に生かしている。

「植物の生長調節」(植物化学調節学会機関誌)の 2008年、43巻 第2号に、斎藤、福島両博士が「TOF-SIMS の植物細胞壁化学への応用」という素晴らしい解説を書かれている。
金イオンのビームをサンプルの局所に照射し、発生する二次イオンをTOF−MSで検出する。検出された二次イオンが試料表面のどこから発生したがを記録することで、特定の化合物の分布を知ることができる。「質量分析イメージング」という名前で開発されている技術の中でも進んでいる。斎藤、福島両博士は樹木細胞壁のリグニンの解析やパルプ・紙表面の化学特性解析などに成功されている。リグニンからは、構成成分である低分子のモノマー分子が二次イオンとして発生する。リグニンは細胞壁に均一に存在しているのではなく、道管では特異な組成を示していることが、画像として示されている(図5)。細胞壁多糖類については、この解説では書かれていないが分析可能かもしれない。側鎖に特異な糖を含む多糖類なら、その糖に由来する二次イオンを検出できればうまくいくかもしれない。

広島大学の升島教授らは、極細の針と質量分析を組み合わせて生きた細胞内の様々な生体物質を分析する方法を開発した(日経新聞2009/01/05)。細い針を細胞に突き刺し細胞内の成分を吸い出す。そのまま質量分析装置にセットして含まれる成分を分析する。細い針を使うので、一つの細胞内での局在性まで調べることができる。茎頂ぐらいの大きさなら、何回も場所を変えながら針でサンプリングすることで茎頂内での物質の分布を調べることもできるかもしれない。「イメージングマススペクトロメトリー」が、より簡単にできるようになるかもしれない。

升島先生のグループは、さらにすばらしい研究成果が上げられている。   http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2012/120425/detail.html   10分以内にヒトの細胞1個の薬物分子を追跡 −新薬開発の高速化とオーダーメイド医療に新たな方向性−

植物ホルモンの組織内局在性を決めるのは難しかった。植物ホルモンは低分子なので、タンパク質とは異なり「固定操作」が難しい。また特異性の高い抗体を得るのも難しい。しかし「イメージングマススペクトロメトリー」を使えば、固定操作をせずに検出できる可能性もある(やったことがないのでわからないが)。また特異性は質量分析によって非常に高くなる。今後極めて期待が持てる技術である。しかし植物ホルモンは非常に低濃度で働くものなので難しい。

「J. Exp. Bot. 2006;57(9):1863-70.  Metabolic aspects of organogenesis in the shoot apical meristem. .」 という Fleming 博士の総説では、トマトの茎頂を切り取ってメタノールで抽出し、抽出物を ESI-ToF MS 分析してデータを採取する方法について述べられていた。オーキシン処理で代謝産物のパターンが変化している。升島教授らの方法を使えば、さらに物質の局在、分布までわかるようになるかもしれない。

応用物理 第83巻 第5号 (2014) に、「研究紹介   クラスタイオンビームを用いる表面分析技術の新展開」という題名で、松尾 二郎 先生の解説が掲載されていた。脳の切片に存在するリン脂質の局在が明瞭に観察されていた。

クラスタイオンビームというものについて: 今後勉強する。

レーザー顕微鏡 (共焦点顕微鏡ではあるが、蛍光検出の機能はないタイプ)

金属の表面観察などに使われていて、SEM のように使え、前処理が不要で使いやすいそうである。生物材料も観察できると紹介されている。

「レーザー顕微鏡は、凹凸の激しい表面やレプリカフィルムなどの観察を容易にできます。FE-SEMと同様な被写界深度を有しながら、試料の前処理が一切不要なため、調査解析の時間短縮が図れます。また、ミクロ組織観察や表面粗さ測定等のデジタルデータが得られるため、パソコン上での画像処理やデータ解析が可能です。充実した表面粗さ測定機能や形状測定機能を用いての表面形状解析ができます。水分を含む生物など「ウエットなもの」および高分子材料やフィルム・ポリイミド樹脂など「電子線の影響を受けやすいもの」の拡大観察や正確な計測が可能です。」と、紹介されている。キーエンスという会社でわかりやすく説明した資料を配付している。レーザー顕微鏡は、表面の形状を測定するには大変優れているが、弾性などの性質を測定することはできない。

メタボローム:

一般には可溶性物質を分析する。しかし細胞壁やデンプンを含む不溶性画分も同時にサンプルから採取できる。それらは分析されないことが多い。しかしそこにも重要な情報があることが、理化学研究所の菊池博士のグループにより示された。不溶性高分子についても分析することが必要かもしれない。デンプンは専用の測定キットがある。細胞壁はそれぞれの場合により簡単な分析、細かい分析を行う。 細胞壁の分析は長年ガスクロなどを使った昔ながらの方法が使われてきたが、ハイスループット分析はできない。新技術が必要とされている。

NEDO 海外レポート2010年4月 No.1062 では、糖化されやすい樹木サンプルと糖化能力の高いセルラーゼの組み合わせをハイスループットで分析するパイプラインが構築され既に成果が上げられていることが紹介されていた。樹木サンプルの分析から、糖化されやすさを支配する QTL が既に見つけられている。樹木なので遺伝学は難しいだろうが、かなり大きなプロジェクトでそれを何とかするらしい。すでに樹木については様々な品種が確立されていて、それぞれを掛け合わせた系統も作成済みなので、それらの成果を活用することで実行できるらしい。    http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1062/1062.pdf   

NMR:

NMR で、メタボローム分析を行うことができる(私はやったことはない)。この場合、不溶性の物質についても同時に情報を得られるそうである。今後注目される。特に「細胞壁に関するハイスループット分析」が可能になるかもしれない。今までの方法では、ハイスループット分析は難しい。特に、洗浄するのに「溶液を加える→攪拌→遠心→上清を除く」を繰り返す。これはとても面倒である。また細かい断片は沈まないので失われる。セライト(濾過助剤)を混合してフィルターにかけて洗浄したらいいかもしれない。セライトは無機物なので糖の分析に影響はない。

NMR を用いて、細胞壁に関する情報を得たという論文 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17996933?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum 
Rondeau-Mouro C, Defer D, Leboeuf E, Lahaye M.      Assessment of cell wall porosity in Arabidopsis thaliana by NMR spectroscopy.      Int J Biol Macromol. 2007 Oct 6; [Epub ahead of print]

理化学研究所の菊池博士のグループが、 NMR によって、メタボローム分析で得られる不溶性画分に含有される化合物に関する情報を得る方法を開発された。   http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2010/100128/detail.html

可溶性の物質でも、組織からの抽出効率は100%ではない。特に植物は葉緑体があり、その内部に様々な化合物が含まれている。液胞や細胞質に存在する物質よりも抽出されにくいだろう。沈殿を構成する多糖類などに吸着する物質もあるだろう。そういう物質がかなり多く、見落とされてきたことを示している。

「植物の生長調節」(植物化学調節学会機関誌)の 2008年、43巻 第2号に、菊池博士が「統合バイオファイナリーへのNMR技術開発」という素晴らしい解説を書かれている。
可溶性物質、脂質、セルロース、リグニンなど、さらにはそれらの分解機構を網羅的に分析し、バイオマスの生産から分解、燃料化までを統一的に解明、実用化する雄大な研究が進展している。

大阪大学理学研究科の 奥田寛、上山憲一両博士が、「β-グルカンの(1,6)結合グルコ−ス/(1,3)結合グルコ-ス比の定量方法」という題で、固体核磁気共鳴装置を用いたβ-グルカンの架橋の分析について紹介されている。   http://www-tech.sci.osaka-u.ac.jp/bunseki/pdf/nmr3.pdf   今まで多糖類の構成糖同士の結合様式を調べるには、本文中に紹介されているように、メチル化、化学分解した後に、GS/MS(ガスクロ-マススペクトラム)による分析方法が用いられてきた。大変面倒な方法である。有毒な試薬を大量に使用する問題もある。糖をメチル化する試薬は DNA もメチル化してしまうので、体にいいはずがない。固体NMR では、パン酵母菌の細胞壁をそのまま測定試料管に詰め、水を含ませて2次構造および3次構造を崩して、(1,6)結合グルコ−スおよび(1,3)結合グルコ−スから構成されるβ-グルカンのそれぞれの特徴的なシグナルを観測できるそうである。メチル化による分析を完全に代替することはできないかもしれないが、植物由来の多糖類の分析にも役立つ可能性が高い。

イオン液体:

セルロースを溶かす溶媒は数が少ない。最近「イオン液体」が注目されている。 良い文献: 「イオン液体を反応媒体とする酵素反応」 伊藤俊之博士 化学と生物 42:(11月号)717〜723頁 2004年

イオン液体は、無機塩の中で常温でも結晶化せずに溶融している塩の総称である。化学反応の媒体として用いることが試みられている。 
アラバマ大学の Roger R らはイオン液体を溶媒として有用な濃度のセルロース溶液を得ることに初めて成功した。  J. Am. Chem. Soc. (2002) 124:4974.   SIGMA-Aldorich から、CELLIONIC という名前でセルロースのイオン液体溶液が発売されている。様々な種類のイオン液体も発売されている。Google 検索:「イオン液体 セルロース」 http://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E6%B6%B2%E4%BD%93+%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B9&hl=ja&lr=&start=0&sa=N

イオン液体をサンプルにスプレーすることで、SEMによる観察が簡単に可能になることが示されている。  大阪大学大学院工学研究科 桑畑教授

植物にイオン液体をかけたらどうなるだろうか。濃い場合はものすごく強力な除草剤になるかもしれない。イオン液体は 塩のようなものであるから、水で薄めて植物にスプレーすると塩ストレス応答が起きるかもしれない。 薄いイオン液体でも観察できるなら、スプレーして低真空の SEM で観察すれば生きたままSEM画像が撮れるかもしれない。 しかしそんなに都合よくいくかどうかはわからない。

ダニを生きたまま SEM で監察できることが報告されている。   Observation of live ticks (Haemaphysalis flava) by scanning electron microscopy under high vacuum pressure.    Ishigaki Y, Nakamura Y, Oikawa Y, Yano Y, Kuwabata S, Nakagawa H, Tomosugi N, Takegami T.   PLoS One. 2012;7(3):e32676. doi: 10.1371/journal.pone.0032676. Epub 2012 Mar 14. Erratum in: PLoS One. 2012;7(8): doi/10.1371/annotation/c81bc3a4-63e1-44a6-bf1e-f923087bfa71. PMID:   2243198   石垣博士らの成果

既にイオン液体が植物セルロースの分解に使えることが示され実用に近づいている。

バイオマスの糖化を助けるイオン液体   http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1048/1048-03.pdf

(近)赤外分光法、ハイパースペクトルイメージ分光カメラ:

近赤外〜赤外線を用いる赤外分光法は以前から様々な生体物質分析に有効に用いられている。特に結晶化したセルロースは赤外に特徴的な吸収スペクトルを示すのでこの方法が非常に有効である。リグニンやデンプン、タンパク質や脂質もそれぞれ異なる吸収スペクトルを示す。

最近の進歩したセンサー、赤外線カメラの技術で生きたままの試料からでも可視〜赤外領域のスペクトルを測定することができる。人工衛星や航空機からのリモートセンシングの研究にも有効に用いられている。それによって多次元で膨大なスペクトルデータが得られる。それらのデータから有用な情報を抽出する技術も著しく進歩している。リモートセンシングの研究分野ではスペクトルデータから植生に関する情報を抽出する技術が進んでいる。

リンク  近赤外分光法

ハイパースペクトルイメージングの技術は、すでに農産物の品質検査、植物工場における植物の状態観測などに実用化されている。

http://www.argocorp.com/cam/special/HeadWall/applications.html   株)アルゴ社の紹介ページ   紫外から赤外まで多次元の吸収、反射を観測でき、多変量解析などのデータ解析を行うことで様々な情報が得られる。結果が画像としてが得られることにはとても価値がある。

ハイパースペクトルイメージングを植物生理学に適用した、すばらしい論文が発表されている。   Hyperspectral imaging techniques for rapid identification of Arabidopsis mutants with altered leaf pigment status.   Matsuda O, Tanaka A, Fujita T, Iba K.   Plant Cell Physiol. 2012 Jun;53(6):1154-70. PMID: 22470059

応用物理学会の学会誌の広告に、ハイパースペクトルカメラの広告がいくつかあった。

当たり前だが、性能がよいハイパースペクトルカメラは価格が高い。あるものは約 300万円すると書かれていた。そういう機種は動画でデータを得られたりする。しかし実験室内で植物を観測する場合、1枚の画像を得るのにかなり時間がかかっても問題は少ない。また物体の形状がゆがんで見えてもあまり問題はない。そういう部分を我慢して、安上がりに済ませることも考えられる。実際に、市販デジタルカメラにレンズ、回折格子を組み合わせて物体のスペクトルを得ることに成功したという論文が発表されていた。

http://www.cg.tuwien.ac.at/research/publications/2012/Habel_2012_PSP/   Practical Spectral Photography   Ralf Habel, Michael Kudenov, Michael Wimmer   Computer Graphics Forum (Proceedings EUROGRAPHICS 2012), 31(2):449-458, May 2012. [ Draft]   Weblink: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1467-8659.2012.03024.x/abstract   日本語で紹介した記事も見つかる。   http://j-molsci.jp/np/NP0017.pdf   

回折格子、デジタルカメラに内蔵されているベイヤーフィルター Bayer filter の組み合わせで得られる画像をソフトウェアで再構成して、元の形状に戻している。レンズは標準的な物を組み合わせている。

回折格子について調べてみると、プラスチックのシートの物が数千円で売られていた。

普通のカメラに、バンドパスフィルターを取り付けて撮影する・それをフィルターを交換して繰り返すことで、解像度は低いがスペクトルの情報をある程度もたせる方法が紹介されていた。博物館で、歴史的な所蔵品を非破壊で調べる方法として使われている。   http://www.si.edu/MCIImagingStudio/Multispectral   得られる画像は、それぞれのフィルターの波長での明暗を示すモノクロ画像になる。それらをソフトウェアで引き算したりできる。

SELEX 法、SOMAscan

SELEX法(試験管内人工進化法)とは、タンパク質などのターゲットに特異的に結合する機能的核酸(アプタマー)を得るための操作法である。多糖類に特異的に結合するアプタマーを選択することもできるらしい。

DNA ligands that bind tightly and selectively to cellobiose.   Yang Q, Goldstein IJ, Mei HY, Engelke DR.    Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 May 12;95(10):5462-7.

SELEX 法では RNA のライブラリーに対してセレクションをする。しかし常にそれで目 的のものが見いだせる保証はない。実際にあまりうまくいかなかったらしい。 塩基の修飾などでさらに改良することが成功している。SOMAscan という名称がついて いる。    https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120419/160671/    日経バイオテクONLINEで紹介されている。

細胞壁を構成する成分それぞれを選択的に認識するプローブがあれば研究に便利である。そのようなプローブを植物に与えることで細胞壁の構造に変化、異常を生じさせ、防御遺伝子の発現を誘導することも可能になるかもしれない。 植物の細胞壁には全く結合しないがカビの細胞壁には強力に結合するようなアプタマーが見つかれば、病原性のカビをやっつけるのに使えるかもしれない。

その場合、プローブを安定化する(すぐに分解したのでは実用にならない)・取り込みをよくする(クチクラを透過できるようにする)などの改良が必要になる。

核酸ではなく、多糖類に特異的に結合するタンパク質を用いたすばらしい研究が立命館大学の矢野博士によって行われている。多糖結合ドメインに蛍光タンパク質を融合したタンパク質を作成する。その蛍光標識タンパク質が植物の細胞に結合する部位や結合量で、細胞構造を視覚的に解析する。糸状菌と植物の相互作用を解析するために用いることが成功している。   http://www.ritsumei.ac.jp/r-kenkyu/1/2008/08-03_rikou/2008_kiban-kenkyu_yano-shigekazu.pdf

クリックケミストリー

クリックケミストリーという手法が発展してきている。

様々な生理活性物質、阻害剤の構造を改変しさらに強力な作用を示す化合物を創製することは価値が高い。クリックケミストリーは非常に有用に使われる。

生理活性物質に蛍光やビオチンなどのラベルを付加できれば、その化合物と相互作用する因子を見いだすのに使える。今までは生理活性物質にラベルとなる残基をつけた化合物を合成し細胞に与えることが行われていた。しかしそのような余計な構造が付加されることで本来の作用や局在が失われてしまうことがあり得る。付加する残基を最小限のものとし、細胞に与えた後で、細胞内で効率よく選択的にラベル付加反応を行うことを目指した研究が進んでいる。そのためにも「クリックケミストリー」が用いられる。

現代化学 2008年 06月号 10分で読める有機化学トレンドウォッチ(3)    生命現象に切り込むクリックケミストリー    佐藤健太郎

(株)インビトロジェン が、クリックケミストリーを用いて細胞の新生DNA合成を研究する試薬キットを開発し発売している。エチニルウリジンを細胞に与えDNAに取り込ませる。さらに Oregon Green azide を加え反応させる。アジドとアルキニル(エチニル)基は穏和な条件で特異性の高い反応を起こす。Click-iT EdU Microplate assay という名前で売っている。

Minitags for small molecules: detecting targets of reactive small molecules in living plant tissues using click chemistry   Kaschani F, Verhelst SH, van Swieten PF, Verdoes M, Wong CS, Wang Z, Kaiser M, Overkleeft HS, Bogyo M, van der Hoorn RA.   Plant J. 2008 Oct 25. [Epub ahead of print]

植物細胞の重要な構成成分にペクチンがある。ペクチンはカルボシキル基を持つ。クリックケミストリーによってペクチンを特異的に修飾し可視化する方法が開発された。

Illuminating the wall: Using click chemistry to image pectins in Arabidopsis cell walls.   Anderson CT, Wallace IS.   Plant Signal Behav. 2012 Jun 1;7(6). [Epub ahead of print]   PMID: 22580708

2009年7月号の「化学」に、特異的阻害剤〜トシル基〜ラベル(ビオチンなど)を結合させた化合物を用い、細胞抽出液または生細胞内の目的タンパク質に選択的にラベルを取り込ませるという研究成果の解説が掲載されていた。   分子イメージングの新ステージ ── 細胞有機化学による斬新な化学プローブ分子の誕生   高岡洋輔・築地真也・浜地 格

細胞表層にDNAを結合し、異種の細胞同士を設計通りに並べる/表面に DNA を固定した微粒子(DNA ナノ粒子)が示す興味深い性質

NEDO海外レポート(1042号)  http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1042/1042.pdf?nem に、興味深い新技術が紹介されていた。動物細胞の細胞表層に、まず修飾基をつけた人工糖を提示するように細工する。その人工糖に、化学合成したDNAを結合させる。これによって、細胞表層に特定の配列を持ったDNAを提示した細胞を作成する。以前から「細胞表層工学」と呼ばれ発展している技術、考え方と同じである。細胞の種類に応じて表面に提示するDNAの配列を適当に設計する。例えば、A細胞とB細胞について、それぞれに相補的な配列を持つDNAを提示させる。そうすると、A細胞とB細胞を混ぜるとDNAを介した特異的な強い結合がおきる。細胞の数の比率を変えることによって、A細胞をB細胞が取り囲むような構造体を効率よく作ることができる。それによって、単に細胞を混ぜたのでは起こりえない、細胞同士の相互作用による分化や機能発現を試験管内で引き起こすことができるようになる。 http://www.pnas.org/content/early/2009/03/06/0900717106.abstract?etoc

高分子の微粒子の表面に DNA を固定した素材(DNA ナノ粒子)を用い、様々な興味深い現象が発見されている。   http://www.riken.go.jp/lab-www/bioengineering/index.htm   理化学研究所 前田バイオ工学研究室

QCM-D 生体マテリアルインタラクション解析システム

メイワフォーシスという会社のカタログにあるシステム。QCM というのは、Quartz Crystal Microbalance 水晶振動子を用いた、微小質量測定装置である。 水晶振動子は、様々な電気回路で基準となる、周波数が安定した電気振動を作り出すために使われている。結晶の形、大きさを設計して電気回路と組み合わせることで振動が持続する。結晶の質量がほんの少し変化しても、振動の周波数に大きな影響がある。 このことを微小な質量の測定に利用できる。結晶に金粒子などを蒸着する。またはスピンコートという方法で薄膜を作る。外部に一部分露出させ、そこにサンプル溶液をのせる。サンプル溶液に含まれる分析したい物質が表面に吸着すると、吸着した物質の質量に応じて振動の周波数が低下する。

QCM では周波数変化を測定する。それだけでなく、もう少し工夫したのが QCM-D 法である。結晶に金粒子を蒸着する。または適当な物質をスピンコートする。外部に一部分露出させ、そこにサンプル溶液をのせる。サンプル溶液に含まれる分析したい物質が表面に吸着する。 その状態で、発振回路を OFF にして振動を減衰させる。 そうすると一瞬で振幅が0になるのではなく、指数関数的に減少していく。 そうなるように回路を作っておく。 この場合、結晶に吸着したサンプルの質量ではなく、粘性が効いてくる。 粘性が低い(摩擦が小さいことに相当)サンプルではエネルギーを吸収(散逸)することがないので、振動が減衰するのに時間がかかる。バネの運動のモデルと同じで、もし摩擦が全然ないなら、一度振動を始めたバネはいつまでも振動が続く。 粘性が高い(摩擦が大きいことに相当)サンプルでは、サンプルがエネルギーを吸収(散逸)するので、振動の減衰が大きい。バネの運動のモデルと同じで、もし摩擦が大きいなら、伸びたバネの運動の振幅はすぐに減衰して止まってしまう。 粘性だけでなく、吸着状態の違いによってもエネルギーの吸収(散逸)の仕方は変化する。 弾性も測れるらしい。 エネルギーを吸収(散逸: Dissipation)する度合いを数値化して、ΔD 値と呼んでいる。 この値によって単なる質量だけでない、サンプルの構造変化に関する情報が得られる。

雑誌「応用物理」

応用物理学会の和文雑誌で、当大学ではありがたいことに図書館で誰でも読める。上に書いたことの情報源の多くを得ている。広告に掲載されている、いろいろなセンサーや機器には生物学にも使えそうなものがあり興味深い。

2020 年 89 巻 7 号 p. 390-393 原子間力顕微鏡を用いた生体分子の特異的結合の解析 キマダ モンダルテ エヴァン アンジェロ, 田原 寛之, 張 嶺碩, 林 智広

2020 年 89 巻 6 号 p. 343-346 微細加工からデジタルバイオ分析へ 渡邉 力也

2020 年 89 巻 5 号 p. 269-273 核医学の未来を切り拓(ひら)くイメージング物理研究 山谷 泰賀, 吉田 英治, 田島 英朗, 高橋 美和子

2020 年 89 巻 5 号 p. 283-286 スマート農業に向けた土壌環境センサ設置のコツ 清水 崇弘

2020 年 89 巻 4 号 p. 196-202 光検出磁気共鳴顕微鏡 岩粼 孝之

2019 年 88 巻 12 号 p. 791-796 赤外光で見るナノの世界 藤田 康彦

2019 年 88 巻 12 号 p. 808-812 解釈可能な機械学習を用いた人間主導マテリアルズインフォマティクス 岩崎 悠真

2019 年 88 巻 11 号 p. 740-743 動脈硬化症の極早期診断を目指した超音波プローブの開発 荒川 元孝, 金井 浩

2019 年 88 巻 10 号 p. 686-689 生物の不思議を光で再現する 内田 欣吾

2019 年 88 巻 8 号 p. 522-527 細胞検索エンジンが拓(ひら)く新世界 生命科学・医療・バイオ産業への展開 合田 圭介

2019 年 88 巻 8 号 p. 528-534 クモ糸に学ぶ構造タンパク質素材 鈴木 隆領

2018年3月号 「超解像顕微鏡の原理と展望」藤田先生による解説

2017年12月号  「原子間力顕微鏡による1細胞レオロジーの定量計測 ─ 細胞の個性とエルゴード性」 岡嶋 孝治先生による解説   「蛍光計測による海苔(のり)の生育診断」 岡本 保先生による解説

第85巻、第4号(2016)  「農業情報センシングの低コスト化」川原 圭博先生による解説 樹木の水分状態、またそれと比例関係にある光合成量を熱力学的に効率よく推定する方法などが解説されている。

第83巻、第1号(2014)  嗅覚センサーや、嗅覚センサーからの情報を処理する方法に関する特集 

第81巻 第11号 (2012)  「進化し続けるMRI―原理とその特徴―」など

第80巻、第02号(2011) 「先端医療を支える応用物理」

第78巻、第12号(2009)  一分子・一細胞解析技術の進展  次世代シーケンサーや一分子計測などについて解説されている。

第77巻、第12号(2008)  バイオイメージング技術の現状と展望

2007年7月号 には「ナノ領域の力学特性計測」という小特集がある。

第75巻 第6号 (2006) 「分子イメージングと光診断 」などの記事がある。

第70巻、第8号(2001) 〈特集〉応用物理と境界領域

第70巻、第6号(2001)〈生体計測のための分光技術〉

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