研究テーマ

研究テーマは

です。分子の内殻電子を励起・イオン化するためには,軟X線またはそのエネルギーに相当する電子線が必要です。シンクロトロン放射光や電子線を用いて,内殻電子を励起させた後の分子の挙動について,さまざまな角度から研究を行っています。 また,挙動の比較対象として深い価電子領域での実験も行っています。放射光での実験では,兵庫県西播磨のSPring-8という大型放射光施設や,広島大学内の共同利用施設HiSOR,分子科学研究所のUVSOR,つくばのフォトン・ファクトリー(PF)を使用しています。

最近はPFCと総称される温室効果ガスやその代替物質を対象に研究を進めています。地球環境問題を考える上で基礎となるデータとなります。

最近の研究

内殻励起とは

内殻電子は原子核の近くに存在し,その束縛エネルギーは原子の種類によって異なります。 したがって,分子内の特定の原子の内殻電子を励起することができます。これを内殻励起とよびます。 分子を内殻励起すると,Auger崩壊という過程を経て価電子を失い結合解離が起こります。 この崩壊過程が励起過程に依存すれば,特定の結合を切断する「分子メス」としての利用が期待されます。 実験は軟X線またはそのエネルギーに相当する電子線を用いて行います。

角度分解質量スペクトル

図1: c-C4F8の質量スペクトル(左図)とその拡大図
図1
内殻励起により解離イオンを生じることから,その質量スペクトルを測定すれば解離イオン種が分かります。 また,解離イオンによっては放出角度分布をもつことから,放射光の偏光面に対して質量分析管を0°方向と90°方向に設置して,角度分布も測定します。 右図は四員環化合物のc-C4F8分子のフッ素内殻励起で生成した解離イオンの角度分解質量スペクトルを表しています。 この励起エネルギーでは,F+解離イオンが放射光の偏光面と平行方向に飛び出していることがわかります。 詳しい解析によって,放射光の偏光面に対して環が垂直に配向した分子が光を吸収し,F+イオンを解離していることが分かりました。

解離イオン対の測定

図2: c-C4F8のPEPIPICOマップ
図2
内殻励起によりしばしば2つ以上の解離イオンを生成します。 この解離イオン対は光電子-光イオン-光イオン同時計測(PEPIPICO)法という手法を用いて測定することができます。 分子のイオン化により放出する電子の検出信号をスタートとして,1つの分子から解離生成した2つのイオンを同時観測するものです。 右図は最初に検出器に到達したイオンをFirst Ion,その次に検出器に到達したイオンをSecond Ionとして,それぞれの飛行時間を両軸にとり,検出イベント数を濃淡でプロットしたPEPIPICOマップです。 各イオン対に対応する「島」が見えます。 その傾きの解析から解離経路を推定することができます。 CF2+とC3F3+の場合では島の傾きが-1のため,遅延型電荷分離とよばれる解離過程を経て生成していることが分かります。

電子衝撃による内殻励起

図3: 2-アミノ-3-メチルピリジンの質量スペクトル
図3
内殻励起に必要なエネルギーは軟X線領域であるため,現在では放射光を利用した研究が主ですが,励起源として電子線を用いることでも可能です。 電子衝撃イオン化とよばれます。 電子銃があれば実験室で手軽に測定できますし,電子線による励起では光励起では見られない現象が起こることも過去の研究では確認されています。 右図は,2-アミノ-3‐メチルピリジンの (a)窒素内殻,(b)炭素内殻,(c)価電子領域で励起またはイオン化をして得た質量スペクトルです。 窒素内殻励起で特徴的な解離イオン種が見られます。当研究班ではこの解離機構を明らかにしました。

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