化学反応は分子内あるいは分子間での原子や原子団の組み替えプロセスであり,分子の構造やエネルギーあるいは電子状態が時間とともに変化する現象である。化学反応過程におけるこれらの変化を追跡することにより,反応速度や反応経路の選択性や特異性に関する情報を得ることができる。
当研究室では,振動励起分子や電子励起分子の反応挙動を,速度論(kinetics)および動力学(dynamics)両面から実験的に観測すると同時に,分子軌道計算によって得られる反応過程を支配するポテンシャルエネルギー曲面上でのトラジェクトリ計算などを利用して,化学反応素過程の解明を目指して研究を進めている。
化学反応動力学
(KAWANO Factory)
研究テーマおよび最近の成果
★ 高振動励起分子の反応素過程の研究
大気化学および燃焼化学において最近注目されている,振動励起分子の化学反応素過程の解明を目指して研究を行っている。
2005(平成17年)4月に着任した山崎が,同年9月にレーザ等装置一式を前任地(新潟大)より移設し,2006(平成18)年2月に実験を開始した。自作の単極無声放電装置で合成したオゾンを紫外光(266 nm)で解離し,生成した高振動励起酸素分子O2(X3Σu-, 6 ≤ v ≤ 15) を,B3Σu-−X3Σg-遷移を利用するレーザ誘起蛍光(LIF)法により検出することに成功した。単一振動準位占有数の経時変化の観測から,CF4が振動励起酸素分子の単一量子緩和剤としてきわめて有効であることを見出し,独自に開発した『Profile積分法』(Integrated-Profiles Method; IPM)を利用して,振動準位v = 6〜14のCF4との衝突による緩和速度定数を決定するとともに,光解離直後の振動エネルギー分布を決定した。解析結果にもとづいて,無極性分子衝突の高速振動緩和機構およびオゾン紫外光解離の動力学に関する考察を行った。
この成果は,Phys. Chem. Chem. Phys., 8(16), 1936-1941 (2006)に掲載され,Profile積分法による解析図が同誌の内表紙(Inside Front Cover)を飾った。
Profile積分解析図
★ 量子状態を制御した分子イオンの化学反応ダイナミクス研究
分子イオンは,一般に中性分子に比べて反応性が2-3桁以上高く,その化学過程の基礎的解明は生体系から星間化学にわたる幅広い研究領域で重要視されている。本研究では,イオン・分子反応の微視的反応過程の解明を目的として,イオンビーム法を用いた反応実験装置の開発を行っている。レーザー分光法と質量分析技術によって,分子イオンの量子状態および並進運動を制御した反応性散乱実験を行い,ポテンシャルエネルギー曲面上の核運動のレベルでイオン・分子反応メカニズムを解明する。特に,有機化学の微視的モデルとして広く受け入れられている有機反応論を,反応ダイナミクス研究の視点から考察することを大きな目標としている。
★ 内殻励起化学反応の反応メカニズムの理論的解明
我々は密度汎関数法を用いた内殻励起化学反応を理論的に追跡する手法の開発を行っている。昨年内殻励起動力学を加味したオージェスペクトル計算手法を新規に開発し,その応用例として水のO1s --> 4a1励起における超高速解離過程に対して適用した。また同様の手法をHF, NH3に対しても適用し,我々の手法の一般性を確かめた。
内殻励起化学反応機構
★ 分子内動力学と単分子分解反応過程
化学反応は分子内の原子の組み換えによって起こるが,その詳細を理解するためには分子内エネルギーの緩和過程を理解する必要がある。我々は反応が起きるまでのエネルギー移動過程を理論的に調べる手段として短時間時間-周波数解析と最大エントロピー法によるスペクトル推定法を組み合わせることで短時間(数10fs)の情報をもとに精度よくスペクトルを作成する手法を開発した。
軌跡計算から得られた
スペクトログラム
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〒739-8526 東広島市鏡山1-3-1
広島大学大学院理学研究科化学専攻
反応物理化学研究グループ