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先進医療開発科学講座 歯周病態学研究室

当講座は、大学院で歯周病および歯内療法の研究を行っており、
歯学教育において歯周病学および歯内治療学を担当しています。



1. 歯周組織再生療法に関する研究
間葉系幹細胞や神経栄養因子の有用性について研究を行っています。
2. 歯周病における疾患感受性に関する研究
特殊な歯周病は宿主側の因子が原因であると考えられています。
患者の血清や好中球を用いて、この機序解明に関する研究を行っています。
3. 歯周病増悪因子に関する研究
ストレスなど種々の因子の歯周病への関与について研究を行っています。
4. 歯周病の診断に関する研究
唾液などを用いた遺伝子診断法を用いて、口腔内細菌叢の遷移について調べ、診断に役立てようとしています。
5. 歯周病予防の研究
宿主の細胞に着目した予防法を開発しています。
6. 根尖性歯周炎治療に関する研究
感染細菌除去と細胞機能を制御する新しい治療法確立に向けた研究を行っています。
間葉系幹細胞や神経栄養因子を用いた歯周組織再生療法が全国的に注目されており、歯周病の治療として期待されています。


【歯学部パンフレット2009「歯学科 Hilight of the year」掲載インタビュー】


 「広大の栗原英見」といえば日本を代表する歯周組織再生研究の権威の一人である。骨髄から分離した間葉系幹細胞を用いて歯周組織がほぼ完全に再生することは、研究室レベルですでに明らかにした。現在は臨床研究へと進んでいる。また一方で、広く一般の歯科医院で歯周組織再生治療が可能となるように、“サイトカイン”と呼ばれる「脳由来神経栄養因子」を用いた歯周組織再生治療法の開発を進めている。この二つに共通するキーワードは「細胞機能の制御」である。



 栗原教授と話していると、「アルツハイマー病の研究」、「防御系胃薬の研究」、「肝硬変や動脈硬化の研究」など、一見歯科医療とは無関係な話だらけである。もちろん、栗原教授は歯周病治療を専門医であり、研究者である。

 この一見無関係と見える幅広い研究シーズに共通しているのは、「細胞機能の制御」である。

 これまで「歯周病治療」といえば、歯根表面の歯石をとり、歯周ポケットを除去し、形が不整になった骨を削る治療であった。いずれも"削る"治療であった。

 そこに、細胞による組織再生という全く新しい治療概念を持ち込み、実現しようとしている。一体、どのような治療を目指しているのだろうか?

 一般に組織の再生には、"細胞"、"足場"、"増殖因子"の三つの要素が不可欠とされています。そして、歯周組織再生においても、この三つの要素は、一連の流れ(カスケード=cascade)に従って起こって行くと考えられます。

 その歯周組織再生のカスケードを発動するのには、体の外から細胞を入れてあげる方法と、体の中の細胞を利用する方法があります。体の外から細胞を入れてあげる方法、すなわち細胞を移植する方法が、骨髄幹細胞を用いた歯周組織再生で、体の中の細胞を利用する方法が、"サイトカイン療法"です。」

 なるほど、歯周組織の再生といっても、外からと内からと2通りあるわけだ。


 それでは、この方法と間葉系幹細胞とはどう関わるのだろうか?

 幹細胞には大きく分けて、3つあります。一つは、胚性幹細胞(ES細胞)で"万能細胞"と呼ばれ、理論上、体の全ての細胞を作り出すことが出来ます。次に、"体性幹細胞"といわれるもので、成人の組織にも存在する幹細胞で、神経幹細胞、造血幹細胞など聞いたことがあるかと思います。三つ目は、京都大学の山中教授が作り出した"iPS細胞"(人工多能性細胞)です。

 今現在すぐに利用可能な幹細胞は、上記3つのうちの体性幹細胞です。私たちは骨髄から分離した"間葉系幹細胞"を使っています。骨髄間葉系幹細胞は、骨、軟骨、腱、筋肉、脂肪、神経などを作る細胞に分化させることが出来ます。私たちはすでに、動物実験で歯周組織の再生に有効であることを明らかにしました。」

安全で、有効性が高く、効率的な臨床応用を目指して、臨床研究も実施しました。現在も、より優れた治療法を確立するための研究が続いています。」


 −幹細胞の特徴はなんですか?

 幹細胞を用いた医療の最大の特徴は細胞を患者さんの体の外に取り出して、様々な加工が出来ることです。これまでは、幹細胞の多分化能(いろいろな器官の細胞に分化する能力)を利用して、体外で数を増やした幹細胞を、病巣局所で分化させることを主に行って来たのです。

 しかし幹細胞は体の外で数を増やすことができるだけでなく、体の外であらかじめ、様々な細胞に分化させて利用することも出来るのです。例えば、患者さんの幹細胞を使って体外で骨を作って移植することも出来るようになりました。

 また、ひどい歯周病で抜いてしまった歯の根の表面に正常な歯と同じようなセメント質や靭帯を体外で再生して、インプラントのように移植することも将来的に可能になると思います。」
【資料説明】幹細胞移植手術の流れ
細胞治療専用に作られた、細胞移植治療室と細胞培養室(臨床専用)で細胞の質を担保して、培養する。


 −確かに、骨髄間葉系幹細胞移植による歯周組織再生は、進行した歯周組織破壊に対して、大学病院などの大きな医療機関で行う治療として有効ですね。しかし、もう少し、程度の軽い歯周病に対してはどうでしょうか?これまでにも、歯周組織再生治療が行われてきたのではないですか?

 ええ、これまでも軽度な歯周組織破壊に対して歯周組織再生治療はありました。しかし、手術手技が難しかったり、術後の感染が多かったりして、一般の開業歯科医の先生方には十分に普及していません。つまり、スキル依存型の医療なんですね。

 そこで、歯周組織再生の治療を確実に行う方法として、"サイトカイン療法"を考えています。これは、軽度な歯周組織破壊に対して、患者さんの体の中にある細胞を活性化してあげる方法です。」


 −移植するのではなしに?
 ええ、移植しないのです。でも、"細胞機能を制御する"というコンセプトは骨髄間葉系幹細胞の移植治療と共通しています。

 そして、この治療法は、先ほどのスキル依存型の治療とは異なり、"プロトコール"主導の治療法だという点が大きな特徴です。

 つまり、適応症を守り、決まった手順を守って治療すれば、誰でも確実に組織再生が誘導できるのです。

 これまでも、類似の方法として、動物タンパクを用いる方法がありますが、100%安全とはいえません。より安全性の高い治療法が求められています。私たちが、発見し、開発している方法は、"脳由来神経栄養因子"を局所投与する治療法です。」


 −なにやら、難しい名前ですね。もう少し詳しく説明してもらえますか?

 "神経栄養因子"というのは、"神経"と名前がついていますけど、神経だけではなく、骨や血管の再生にも関係しています。人間では4種類あって、その中の一つである、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor-BDNF)が歯周組織を再生する能力があることを、私たちの研究室で発見しました。そしてこれを応用した歯周病治療法が"サイトカイン療法"です。

 難しい再生手術をしなくても、この物質を再生したいところに入れるだけで、歯周組織再生のカスケードを動かすことが出来ます。濃度や、基材などを決めるための最終的な動物実験が終了して、臨床研究をする前の段階まで来ています。この治療法が開発されれば、軽度な歯周組織破壊に対しては、簡単な歯周外科手術が出来る先生なら、誰でもが安全で、確実に再生治療が出来るようになります。」

【写真説明】実際の幹細胞移植手術



 −広島大学歯学部は組織再生治療の研究が進んでいると聞いています。先生の“サイトカイン治療”もその一つでしょう。ここの歯学部で組織再生治療研究が発展した背景はなんでしょうか?

 間葉系幹細胞を用いた組織再生は医療として確立していくにはまだまだ色々な問題があります。細胞を培養する人の資格の問題、細胞を培養する時の培地の問題、幹細胞のソースの問題や、患者さんの負担をもっと軽くすることなどです。とても幅広い分野の研究を同時に進めなくてはなりません。

 ところが、広島大学歯学部には、最先端再生医療の研究者が各分野で沢山います。例えば、安全性の高い無血清培地などでは、口腔生化学の加藤幸夫教授、口腔外科の岡本哲治教授が世界的に評価されています。また、歯科矯正学の丹根一夫教授の細胞凍結技術、口腔健康科学科の二川浩樹教授の抗菌ペプチドを用いた細胞培養法など世界的な研究が目白押しです。一方のサイトカイン療法でも、口腔病理学の高田隆教授のグループはエナメルタンパクの一部を合成したペプチドの研究で素晴らしい成果を上げています。同じ学部の中でこれだけの質の高い研究が行われているところは無いと思います。

 これだけ各分野のトップレベルが揃っていると、身近に情報交換が出来て、互いに切磋琢磨する環境にあります。これが一番大きな要素でしょう。さらに、(株)ツーセルなど大学発ベンチャー企業も側面から強力にサポートしています。」

 なるほど、広大歯学部の全体レベルの高さが“サイトカイン治療法”を生んだということになろう。

 それにしても厚生労働省の調査では、歯周病患者数は約5000万人、重症患者数は約700万人と見られている。もはや国民病だ。糖尿病との関係も科学的に明らかになっている。一刻も早い“サイトカイン療法”の実用化が望まれる・・・。