昼寝のすすめ

睡眠不足は眠気の原因となりますが,夜間に十分な睡眠をとった場合でも,午後にはしばしば強い眠気(post-lunch dip)が起こります1). 午後の眠気は昼食と関連づけられることが多いのですが,昼食をとらなくても午後には眠気がおこりますし2), 食事の影響を取り除くために小刻みな時間間隔で少しずつ食事を与えた場合でも起こります3). このような理由から,午後の眠気については,食事そのものの影響は少ないと考えられます. ここでは,このような午後の眠気を改善し,快適な日常生活を送るための方法として,15分から20分程度の短い昼寝の効用について述べたいと思います.

昼寝の効果

公共の乗り物など短時間の間,うとうとするだけですっきり目が覚めたという経験は誰しも持っていると思います. ところが,休日など,つい居眠りしてしまった結果,目覚めたときの気分が悪く,眠らなければよかったと後悔することもあります. これは睡眠慣性(sleep inertia)と呼ばれている現象で,目覚めてもまだ睡眠が続いているような状況を指します. また,昼寝をすると,夜眠れなくなることも経験します.そのため,不眠症患者に対しては,日中に仮眠をとることは禁句とされてきました4). このように,昼寝をとることで眠気が改善される場合もあれば,かえって逆効果になる場合もあります. すっきりと目覚めるだけでなく,夜もよく眠れるような昼寝をとるためには,いくつか留意すべき点があるのです.

1.仮眠の長さ

眠りにつくときは,最初にうとうとした状態である睡眠段階1に入ります. 眠り始めてから5〜10分程度で睡眠段階2に達します. 睡眠段階2は,息遣いが規則正しくなる段階で,比較的浅い睡眠段階です. 眠り始めて20分を経過しますと,より深い段階3,そしておよそ30分を経過すると最も深い段階4に達します 5). 睡眠をモニタするためには,脳波を測定しますが,睡眠段階3と4の最中には,大きくて緩やかな波形である徐波(デルタ波)が出現します. この徐波が出現する段階3と4をあわせて徐波睡眠と呼ぶこともあります.日中に30分以上,昼寝しますと,徐波睡眠まで達してしまいます. 徐波睡眠の出現時間は,1日の中でおおよそ決まっていますので,日中に徐波睡眠が出現してしまいますと,夜には徐波睡眠が少なくなってしまいます 6). 昼寝をすると夜眠れなくなるという日常体験は,このように仮眠時間が長すぎることに原因があります. また,長時間の昼寝をとりますと,目覚めたときの睡眠慣性が長く尾をひいてしまいますから,目覚めたとき気分が悪かったり,疲労感が残ったりするのです.
したがいまして,昼寝による悪影響を取り除くには,昼寝の時間を短くすることが必要となります. 15〜20分間程度の短い昼寝であれば徐波睡眠は出現しませんので,このような悪影響はほとんど起こりませんし,午後の眠気や作業成績も改善します 7)

2.仮眠をとる時刻

ところが,昼寝の効果は,いつ昼寝をとるかによって異なります. 午後の一番眠い時間帯に昼寝をとることができればいいのですが,昼間働いている労働者や,授業のある学生にとっては,このような時間帯に眠ることは許されません. そこで,昼寝をとる時間の余裕がある昼休みに20分間の昼寝をとった場合を調べてみますと,作業成績の改善には効果はもちませんが,午後の眠気を改善する効果があることがわかりました 8). このことから,午後に昼寝をとる時間が確保できない場合は,休憩時間が比較的長い昼休みを利用して短い昼寝をとることも,午後の眠気の予防対策として有効であると言えます.

3.仮眠の習慣

仮眠習慣をもつ人の場合は,昼寝の時間が長くても,昼寝による悪影響はほとんどないことが報告されています 9,10). しかし,仮眠習慣を持たない人では,1時間以上の昼寝は効果が少ないばかりか,睡眠慣性の影響が強く残り,かえって眠気や疲労が残ります 10)
短い昼寝でも,習慣化するよう毎日昼寝をしますと,昼寝をとるようになってから3日以上経過した時点でその効果が現れます 11). 昼寝を3日以上連続してとりますと,午後の眠気はより改善していきます. このような短い昼寝でも,1日目では睡眠慣性の影響を受け,約5分間は眠気が残りますが,昼寝を3日以上連続してとれば,このような睡眠慣性の影響もほとんど見られなくなります.

睡眠慣性の低減法

以上,短い昼寝には,午後の眠気を低減する効果があることを述べてきましたが,先に述べましたように,起床直後には睡眠慣性の影響により眠気が残り,作業効率が低下したり,再び居眠りしてしまうなどの危険性が存在します. そこで,次に,昼寝の後の睡眠慣性を低減する方法について述べます.

1.覚醒刺激

眠気ざましには,覚醒作用のあるカフェインが日常的に用いられています. カフェインは,経口投与しておよそ45分以内に胃腸から99%が吸収され,血漿中の濃度は,服用してから15~120分で最大になります 12). カフェインを服用してからその効果が現れるまで15~30分程度かかることを考慮しますと,短い昼寝をとる直前にカフェインを服用しておけば,起床直後にカフェインの効果が現れ,睡眠慣性を低減することができことが考えられます. そこで,20分間の短い昼寝をとる前に200mgのカフェインを含有するコーヒー100mlを摂取した場合と,目覚めた直後に覚醒を高める操作として2,000ルクスのまぶしい光を1分間照らした場合,さらに,起床直後に25℃の水で顔を洗ってもらった場合で,その後の眠気がどのように変化したかを調べました 13). 昼寝をとらなかった場合と比較しますと,単に昼寝をとっただけでも眠気は低減しましたが,カフェインを服用した直後に昼寝をとった場合が最も効果が高く,次いで起床直後にまぶしい光を照らした場合も眠気ざましに効果的でした. 洗顔は起床直後5分間の睡眠慣性を抑える効果はありましたが,その効果はあまり持続しませんでした. 作業成績を調べますと,昼寝前にカフェインを服用した場合と,起床直後にまぶしい光を照らした場合に,高い成績を維持していました.
この実験では,カフェインと短い昼寝を組み合わせた効果を調べていますが,他の実験結果によれば,短い昼寝を組み合わせた方がカフェインだけの効果よりも,眠気の予防効果が大きいことが明らかとなっています 14)

2.自己覚醒法

睡眠から覚醒するときには,自律神経系の活動が急激に高まることが知られています. 昼寝から目覚めるときも,このような変化が起こりますから,体への負担を少なくするためには,起床する前から徐々に覚醒への準備を行うよう睡眠をコントロールする方法が必要となります. このような方法に自己覚醒法があります.目覚し時計などを使わずに決められた時間に自分で目覚める方法です. この自己覚醒法による効果を調べる実験を行いました 15,16). この実験では,昼寝を開始してから15分たったら自分で起きるよう求めました. 15分たったとき実験者が呼びかけて起こした条件と比較したところ,自己覚醒した方が起床後の眠気が抑えられていました 15). さらに,昼寝の最中の心拍数を測定しましたら,自己覚醒した場合には,目覚める3分前から心拍数が増加し,徐々に目覚めたときの水準まで高まっていました 16). このことから,自己覚醒法を用いれば,すっきりと目覚めることができることがわかりました.

高齢者における短い昼寝の効果

最後に,高齢者における短い昼寝の効果について述べます. 65歳以上の高齢者に30分の昼寝をとってもらいますと,午後の眠気が改善し,覚醒度や作業成績も上昇しました 17). また,毎日30分の昼寝をとると,夜間睡眠も良好になることが報告されています 18)
一方,昼寝の最中には血圧が低下しますので 19,20,21),中高年が昼寝をすれば,高血圧や虚血性心疾患の予防に役立つという報告もあります 22,23). しかし,その反面,睡眠から起床する際には交感神経系の活動が急激に亢進しますので,午前中に多発する脳梗塞や心筋梗塞が昼寝〜目覚めたときにも発生する可能性があることも指摘されています 21,24). 実際,高齢者における昼寝の習慣と死亡危険率との関係をみた報告によりますと,昼寝の習慣をもたない高齢者と比較しますと,1時間以上の昼寝を習慣的にとっている高齢者では,死亡の危険率は3倍,2時間以上の昼寝をとっている場合では14倍に達しています 24). また,昼寝の時間とアルツハイマー型痴呆発生の危険率を調べた報告によりますと,昼寝の習慣のない高齢者と比較して1時間以上の昼寝を習慣的にとっている高齢者では,危険率は2倍以上に増加していました 25)
ところが,昼寝の習慣があっても,その昼寝が1時間以内の高齢者の場合には,死亡危険率は昼寝をとらない高齢者と差はなく 24),昼寝の時間が30分以内であればアルツハイマー型痴呆発生の危険率は5分の1まで低下することが報告されています 25). さらに,短い昼寝に自己覚醒法15,16)を導入すれば,昼寝から目覚めた直後におこる交感神経系活動の急激な亢進を低減することも可能になります. このように,30分間以内の短い昼寝であれば,午後の眠気予防と夜間睡眠の改善に役立つだけでなく,種々の疾患の予防効果をもつ可能性をもっています. ただし,女性高齢者の死亡危険率は,昼寝をとらない場合と比較して,1時間以内の昼寝でも死亡率は5倍になっていたとする報告もあります 24). 昼寝の時間が30分間以内であれば死亡危険率は低下するのか,あるいは短い昼寝の効果に性差が存在するかは,今のところ明らかにはなっていません. このような短い昼寝の効果については,さらに検討する必要があるでしょう.

引用文献

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