Bowerman, Melissa and Levinson, Stephen C. (eds.). Language Acquisition and Conceptual Development. Cambridge University Press. 2001. 5 Perceiving intentions and learning words in the second year of life Michael Tomasello       Pp.132−158 報告者 坂田陽子(愛知淑徳大学) 言語獲得の認知的ベースに関するほとんどの研究は、例えば、どのように幼児が特定の 言語項目や表現指示対象物を概念化するかというような、意味的内容に関心がある。 しかし、他者が指示しようと意図する可能な指示対象物だけを考えることができること に関する資料は十分ではない。→7つの実験をあげて、複雑な相互状況下で子ども(18〜 24ヶ月児)が大人の指示意図を決定できることを述べる=言語獲得の基礎をなす。 ●現在の語意学習に関する言語獲得研究→2つのアプローチあり @制約アプローチ(constraints approach) A社会プラグマティックアプローチ(social-pragmatic approach)…筆者支持 1. 語学習の2つの知見 ●制約アプローチの知見(e.g. Markman 1989, 1992; Gleitman 1990)  ・学習者は次の2つによって新しい語の獲得を試みる。   1)新しい語が現実世界をどのように“マップ”しているかということについての、 可能な仮説リストをつくり、   2)擬似科学的な(semi-science)方法によって、間違った仮説を排除する。 →しかし、学習者に与えられた状況の中には、可能な言葉の意味に対する仮説がありすぎ る。→不要な仮説を検討する以前にあらかじめ排除する“ヘッドスタート”ができるよう になっている。=“制約” ●筆者の見解→“制約”のみで語意学習の問題を解くことは出来ない。 ・制約は、ある特定の(specific)文脈における、他者の特定の指示的意図についての社 会プラグマティック情報と共にのみ、働く。  …新奇語の指示的意味の決定=制約+プラグマティックな手がかり(e.g.視線の方向) ↓ ●社会プラグマティックアプローチの知見(Tomasello, 1992; Tomasello & Kruger, 1992 およびこれからこの章で報告するすべての研究)  ・“制約説”と異なる視点をとる。→真偽条件的意味論(truth-conditional semantics) を否定。なぜなら、真偽条件意味論からは、例えば同じ土地が利用する人によって違 う呼ばれ方をすることを説明できない(海岸−船員、コースト−ハイカー、地面−ス カイダイバー、ビーチ−日焼けをする人)(Fillmore,1982; 他)。 真偽条件的意味論…子どもは語を世界にマップするといった、マッピングメタファー。 ・“言語”に対する、社会プラグマティックの考え方→世界の自然言語のそれぞれは、何 千年もの人間の歴史を通して作り上げられてきた独自のコミュニケーションの慣習 (conventions)(Talmy, 1996)。人間の言語自体は、シンボル−文法シンボルとシン ボルのカテゴリーを含む−と、人間がシンボル化するという経験から成り立っている (Langacker 1987, 1991)。 ●語意学習に関する社会プラグマティックアプローチ プロセスの2つの側面に注目   1)生まれた後で子どもが経験する構造化された社会的世界−スクリプト、ルーティ ン、社会的ゲーム、その他のパターン化された文化的相互作用に満ちた世界。   2)その構造化された世界へ同調し参加するための子どもの能力  ・語の学習がおこなわれるすべての事例において、子どもは大人の指示的意図を理解す るために能動的な活動をおこなっている。  ・語学習…他の文化的スキルや慣習を学ぶのと同じ基本的なやり方で語を学習する。ま た、社会的相互作用の一種の副産物、もしくは他者との社会的相互作用の不可欠な一 部分として語を獲得する。それは、社会的相互作用の自然な流れの中で行われる。 2.社会的相互作用の“流れ”の中で語を学習すること  ・制約論的視点…事物名称を明示的文脈の中で学習するというのが語学習の典型的事例 であると考えられている。   明示的文脈…大人が子どもに語を学ばせようと意図し,そのため語が指示する事物を 発話と時間的接近を伴って子どもに“見せる”(例えば持ち上げたり指差したりする) ということ。 →この場合、大人が特定事物を意図しているということへのプラグマティックな子どもの 理解は、あまりにも基本的でシンプルなので、見過ごされている。 →しかし、語学習が行われる他の状況の中にはもっと複雑な場合がある。以下に論じる 研究の中で、複雑な状況があることを明らかにする。また、新奇語学習のために“視線方 向”だけでなく、それ以外の社会的プラグマティック情報を子どもが使っているというこ とを主張する。 ・実験は、新奇語をゲームの流れの進行の中へできるだけ自然に導入しつつ行われる。 また、指示対象物となり得る事物は多数存在している。大人が意図した指示に対する 様々なプラグマティック手がかりは、子どもがそれらの手がかりに対して感受性をも つかどうか見るために、異なる研究の中で付与された。 2.1 大人が見つけようと意図している対象物がどれかを決定すること ●Tomasello & Barton(1994, Study 4) [手続き]24ヶ月児 / 子どもの目を見ながら「トーマを探しに行こう」と教示 / 1列に並 べた5個のバケツのところへ行く(バケツの中には子どもが名前をしらない新奇な事物が 入れられている;ターゲットは被験児間でランダム) / 実験条件は2つ @探索なし条 件→大人がすぐに1個のバケツの所へ行き、興奮した様子でターゲットを発見し、子ども に手渡す。A探索あり条件 (p.138 Fig. 5.1) →大人はバケツの所へ行き、最初の2つの事 物は拒否(顔をしかめそれを元に戻す)。その後初めてターゲットを興奮した様子で発見し、 子どもに手渡す。/ 発見した後は「この中には何があるか見てみよう」といいながら、そ の他の事物をそれぞれ興奮しながらとりだすことを何度か繰り返す。 / 理解テスト(トー マを持ってくるよう教示)と産出テスト(ターゲット事物の名称を尋ねる)を実施。 [結果]2条件とも、理解・産出ともに高成績  [結果の解釈]1)子どもは、大人の意図は特定のトーマとよばれる事物を見つけることで あることを最初から理解している。2)子どもたちは、大人の行動や感情表現を観察しつ づけ、大人が興奮し探索を終了することによって、大人が何かを発見したいという最初か らの意図を達成したとわかるまで、その観察を続けていた。ただし、大人の「興奮」か「探 索の終了」のどちらが意図を達成したことを理解する決定要素になったかはわからないが、 それら大人の行動が意味のある手がかりになったと考えられる。視線手がかり×→(子ど もの目を見ながら教示)、最初に見たのも手がかり×→(もし使っていたら探索なし>あり)。 ●Akhtar & Tomasello(1996,Study1) [手続き] Tomasello & Barton(1994, Study 4)にバリエーションをつける。違い…@5つの バケツのうち1個は、他とはっきり区別がつく外見をもつおもちゃの納屋(barn)に換え られた。A初めから大人が新しい言語を使わないで発見ゲームを何度か行い、子どもにお もちゃの納屋の中にはどのような事物があるかわからせておく。 / その後新奇語を呈示。 この時実験中事物を入れておく場所は一定。納屋の中の事物は常にターゲット。 / 「さあ, トーマを見つけよう」/ 実験条件2つ @指示対象物条件…実験者はすぐに納屋のところ へ行きターゲット事物を取り出す。A指示対象物欠如条件(p.140 Fig. 5.2)…実験者が納屋 のところへ行き開けようとするが開かない。がっかりした表情で「鍵がかかって開かない」 と言う。 / 理解テストと産出テストを施行。 [結果]2条件とも、理解・産出ともに高成績 / 統制群(ターゲット語を言わず、「この中に 何があるか見てみよう」と教示)は理解テストはチャンスレベル [結果の解釈]先のTomasello & Barton(1994, Study 4)と同じ。“失望”を手がかりにした。 子どもは、大人の意図を理解する方法を複数持っている。大人の行動やコミュニケーショ ンの意図について、また異なる状況においてどのように振舞えば良いかという事について、 極めて柔軟な社会的理解をしている。これは18ヶ月児にもあてはまる(Tomasello ら、 1995)。→言語発達の初期から子どもの語学習のスキルに組み込まれている。 (報告者コメント;生得的?) 2.2 大人が行おうとしている動作はどれかを決定すること ●動詞の獲得に関する実験;Tomasello & Barton(1994, Study 3) [手続き]24ヶ月児 / 1つの新奇な動詞を教授 / 2つの動作が可能な1つの装置を使用 / 実験条件2つ @ターゲット先行条件…実験者がある新奇な動作を行おうと意図している ことを告げる。例えば「私はこれからビッグバードにプランクします。」「ほら(There!)」 と言ってターゲット動作を実施。 / その直後「偶発的に」別の動作を同装置で行い、「お っと(Whoops!)」と言う。Aターゲット後行条件…偶発的動作→意図的動作(p.142 Fig. 5.3) / 新しいキャラクター人形に対して大人が行った動作を産出させる(「ミッキーマウスにプ ランクできる?」)。 [結果]条件に関係無く(意図的動作の順序に関係なく)、子どもは新しい動詞を大人が意図 した動作に結び付けていた。 [結果の解釈]先述と同じ。 ●関連実験;Akhtar & Tomasello(1996,Study2) [手続き] 24ヶ月児 / 何も新奇語を言わず4つの新奇な動作を呈示 (1つの動作に1つの 小道具(人形)が対応している)/ その後、新奇な動詞(ターゲット)が4動作のうち1つ に関係付けられた言語を呈示、その際、実験条件2つ @指示対象条件…実験者は「アー ニ−にパドしましょう」と言って、次にターゲット動作を実施。その後他の3つの動作も 呈示。A指示対象欠如条件(p.143 Fig. 5.4)…「アーニ−を見つけられなかったのでパドで きなかった」その後他の3つの動作呈示。 / 理解テストと産出テスト [結果]2条件とも、理解・産出ともに高成績 / 統制群は理解テストはチャンスレベル [結果の解釈]先述と同じ。加えて、指示対象欠如条件でも(実際の動作を見なくても)、大 人が何をしようとしたか理解できた。 子どもの初期の語の学習…意図的な動作の理解>偶発的な動作の理解→柔軟性の高い社会 的理解が可能。16〜18ヶ月の幼児でも意図的動作の理解可能(Carpenter ら,1996;  Meltzoff, 1995)。 2.3 大人にとって何が新しいかを決定すること ●語学習プロセスにおける子どもの意図理解の役割を検討した実験;Akhtar, Carpenter & Tomasello (1996) [手続き] 指示対象物について何も特別な手がかりが与えられない状況を設定 / 24ヶ月児 / 新奇な3個の事物 / 事物で子どもは2人の実験者と1人の親と遊ぶ / 大人は子どもの注 意を事物に向けさせるように演技(この間、言語呈示なし)/ 次に、実験者1人と子ども だけで4番目の事物(ターゲット)で遊ぶ / 4つの事物を一列に並べる / 大人が戻ってく る / 実験条件2つ @言語条件(p.145 Fig. 5.5)…「ギャザーがある」A無言語条件…「お もちゃがある」/ 理解テスト(ギャザーを持って来させる)と産出テスト [結果]言語条件ではターゲット語を学習、しかし無言語条件ではランダム反応 [結果解釈]子どもは、1)どの事物が部屋を離れた大人たちにとって新奇なものだったか を知っており、2)大人は談話の文脈中で新しいことにのみ関心を示し、またそれについ て話す時のみ新しい言語を使うと言うことを知っている(=大人たちは他の3つのおもち ゃですでに遊んでいたので、そのことで興奮するのはおかしい。従って、3つのおもちゃ が指示対象物であるという考えを排除できた)。 (報告者コメント;「おもちゃ」はランダム反応でも正解では??=逆に大人の意図が理解 できたのでは?=子どもはおもちゃ>ギャザーが分かっているのでは??) ●関連実験;Tomasello & Akhtar(1995, Study1) [手続き]24〜26ヶ月児 / 基本的手続きはAkhtar, Carpenter & Tomasello (1996)と同様 / 新奇刺激呈示(名前も動作も未知)→ターゲット動作を行う時に「モディー!」と1語発 話 / 実験条件2つ(p.146 Fig. 5.6) @動作新奇条件…まず、事物を使ってこんなことを する。次に同じ事物を使ってあんなことをする。最後に「モディ!」A事物新奇条件…ま ず、事物を使ってこんなことをする。次に同じ事物を使ってあんなことをする。最後にモ ディに対して同じことをする /産出テストと理解テスト / 理解テストの前にプリテスト あり「〜を見せて」 [結果]プリテスト…事物<動作,動作新奇条件…モディ=ターゲット動作,事物新奇条件 …モディ=ターゲット事物 [結果解釈]子どもの意図の理解は存在論的カテゴリーの境界さえも越えて子どもたちを導 くことができる。 幼児が大人の指示意図を特定するために、新奇性を利用できる。また、新奇性を使用して 事物か動作か、大人の意図を特定できる。→言語獲得やコミュニケーションにとって重要 なスキル。 2.4 大人が自分に何をしてほしいと意図しているか決定すること ●Tomasello & Akhtar(1995、Study2)(p.147 Fig. 5.7) [手続き] 子どもは、大人が動作か事物のいずれかを指示している最中に新奇語「ウィジッ ト」が呈示されるのを見る / 実験条件2つ @動作強調条件…あたかも動作を要求した教 示 A事物強調条件…単に事物を差し出して教示 /産出テストと理解テスト / 理解テス トの前にプリテストあり「〜を見せて」 [結果]動作新奇条件…ウィジット=ターゲット動作,事物新奇条件…ウィジット=ターゲ ット事物 [結果解釈] Tomasello & Akhtar(1995, Study1)と同じ。 2.5 要約 ●子どもが様々な相互作用の状況のすべてにおいて語を学ぶことができるという事実は、 語の学習理論にとってとても重要な事実→少なくとも2つの説明が可能。  1)子どもは学習状況それぞれに対処できるように学ぶ−各状況で別々に大人が使った 新しい語を、可能性のある語意のうちのどれに“マップ”するか学ぶ。  2)一方、語学習は他者や他者の意図的な動作についての深くかつ広範な理解(言語獲 得以前に可能)の上に打ち立てられたスキル学習のプロセス。 →以下でこれらの仮説を検討する。 3.初語の学習 ●18〜24ヶ月児≠1歳前半(初語期)…他者の意図的な行為の理解に依存していない。初 語の学習は、同時期の、他の社会認知的・文化的学習スキルの一部分。 ●初語を学習し始めるのと同時期に、視線の追随、社会的参照、模倣学習が開始される。 ・偶然ではなく、これらのスキルはすべて、“他者とは、外界の事物に対する注意や情動 や行動について、能動的に追随しかつ共有することが出来るような、意図をもった主体 である”ということを理解する能力に関連している(=same basic)。  →ただし、言語的シンボルは特別な特性をもつ(=他者に対する直接的にコミュニケー ト行為)。これは、とりわけ1歳をすぎる頃からの(言語的シンボルを使用した)模倣 学習からはじまる→単なる身体動作の模倣ではなく、大人の意図関係の模倣。 ●子ども(infant)が対象物を意図的に操っている大人を観察し、そして子ども自身でそ の行為を学習するプロセスを考えよう。→モデルp.151 Fig. 5.8 role reversal, bidirectionality / intersubjectivity (Saussure, 1916),  socially "shared" (Akhtar & Tomasello, in press) ●子どもの初語は、基本的(fundamental)な方法で他者の意図的な行為を知覚したり理 解したりするための能力に依存している。では、他者の意図について、いろいろな解釈が 可能な場合、子どもはどのように理解するか?→自分の経験と“同じ”意図的行為 (報告者コメント;経験のない場合は?推論は問題としないのか??)   4 結論 ●語学習能力の根元にある主要な社会的認知スキルは、他者の意図的行為を理解する能力 である。→いわゆる“心の理論”≒チンパンジー≠自閉症 ●もっと後期に出現する言語の文法的側面…初期の語学習と同じ方法で学習する=文化的、 模倣的学習によって文法的側面を取り入れる。 (報告者コメント;ならば、語学習と文法学習が同時期におきても構わないのでは??) ●語習得の2つの認知的基盤: 1)大人同様のやり方で世界を何かに概念化するための子どもの発達している能力。 2)大人のコミュニカティブな意図が、特定のコミュニカティブ環境の中で、その世界の 特定の側面へ向かっていることを理解するための子どもの発達している能力。 報告者コメント @他者との相互作用の経験がない“語(名詞・動詞など含めて)”は獲得できないのか? →帰納的推論、カテゴリー、概念は?? A社会相互的手がかりをもとに語を学習するとしても、その手がかりを利用できるスキル、 能力は、生得的?(e.g. 心の理論) B筆者はすべての認知発達において領域固有の立場をとらないのか。 (報告者コメント;経験のない場合は?推論は問題としないのか??)