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『法然の涙』
 待望の処女小説『法然の涙』(講談社、¥1900)が、いよいよ20日に発売されます。その日に書店に並ぶかどうか、地方によって異なると思いますが、少なくとも23日の出版記念パーティー会場では、刷り上がったばかりの本を揃えることができると思います。
 昨年一年間、NHK教育テレビ『こころの時代』で法然の思想を語ったことを契機に、思い切って書き始めたフィクションですが、こんなに早く出版に漕ぎ着けることが出来て、とても嬉しく思います。執筆中、いろいろと法然関係の情報を提供して下さった方に、心よりお礼を申し上げます。
 宗教の本質は、史料分析を眼目とする学問的研究では把握できないものがあります。そもそも宗教とは、人間の想像力の所産に過ぎない。だから、その核心を掴みたければ、同じ生身をもつ人間として、対等な立場から想像力を駆使していくよりほかありません。となれば、フィクションこそが宗教の核心に迫る最良の表現手段ということになります。
 ところで、なぜタイトルが『法然の涙』なのかといえば、過酷な人生が人間の眼から絞り出す血の涙と、その苛酷さを生き抜いた先に見えてくる仏の光が人間の眼に溢れさせる歓喜の涙の双方を、ドラマチックに描きたかったからです。
 装丁は、元ロック歌手で、そのユニークな画風が国際的にも高く評価されている壁画家・木村英輝氏が「幸福の蛙」をモチーフに大胆な構図を決めてくれました。カバーを眺めているだけでも、楽しくなります。
 本書執筆でフィクションに味をしめたというべきか、すでに第二作『魔界入り難し』に手を染め、今度は一休の風狂を時代官能小説ふうに描写しようと試みています。これは、技術的にかなり難しい作品となりそうです。
 第三作目は、イエス・キリストの小説を書きたいと考えています。東洋人にしか描けない真のイエス像があるという確信が、私にはあるからです。この小説で実像のイエスを復活させるのが、私の夢ですが、なるべく英訳をして、欧米人にも読んでほしいと思っています。
 実は、夢はどんどん膨らんで、第四作目の構想もあります。私の先祖は、関東北部に古代王朝を樹立した高麗系帰化人ですが、謀叛の意ありという誤解を受け、大和朝廷の遠征軍によって、一族が皆殺しになりました。それは古文書で確かめられる史実です。古代日本に繰り広げられた壮絶な人間ドラマを描くことによって、私は自分の先祖を供養したい、それをしなくては、死ねないという気持ちでいます。
 いっぱしの小説家を気取って、決して学者を廃業したというわけではなく、来月には首都ワシントンで開催される安全保障関係のシンポジウムに招聘されています。還暦を迎えた今年、いよいよ迫りくる老化に立ち向かうべく、新境地に挑戦していく覚悟でおります。(2010・10・15)    

「幸福の蛙」