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『ギリシャの神々』
 オスロ国際平和研究所の研究仲間たちと共同出版を予定している『戦争の倫理(The Ethics of War)』(ケンブリッジ大学出版局刊)の編集会議のために、キプロス共和国に来ています。のどかな島のあちこちに古代遺跡があり、地中海の青が眼に沁み入ります。
 ここへ来る前にギリシャに立ち寄りましたが、地下鉄のストライキに遭遇したものの、ニュースで聞くような経済破綻の悲壮感を感じることはありませんでした。ただ、国民性のせいか経済状況のせいか分かりませんが、国民に笑顔が少ないことやドライバーのマナーが極めて悪いことが気になりました。
 それよりも、地下鉄に乗るたびに四人一組のスリに囲まれたのには驚きました。如何にも怪しい眼つきで、こちらを見ているので、プラットフォームにいる時から、それと分かるのですが、満員電車の中で思い切り体を擦りよせて来るので、彼らの餌食にならないように、全身の神経を使う必要があります。世界の都市の中でも、これほど大量のスリが跋扈している地下鉄も珍しいと思います。
 さて、ギリシャ神話には多くの神々が登場しますが、今回はアテナ神を祀るパルテノン神殿や冥界の女王ペルセポネの神殿など、幾つかの神殿を訪れました。アテネでレンタカーを借り、エーゲ海沿いに走るアポロコーストをドライブしましたが、海洋の神ポセイドンの神殿が、アッティカ半島の最南端・スミオン岬に凛々しく建っていました。どこでも、般若心経と感謝念仏を称えましたが、なぜか何千年も前に礼拝されていた神々が、こちらに感応道交しているような感覚を持ちました。
 とくにゼウスの神殿では、お経を上げているうちに、私の傍らに一匹の野良猫が寄ってきて、神殿に向かい行儀よく坐ったのには、驚きました。ちなみに、オリュンポス十二神の中で最高神とされるゼウスは、類稀な好色漢で姿を変えてはいろいろな女神に手を出すものの、正妻ヘラに対しては頭が上がらないという恐妻家だったそうです。
 キプロス島には、愛美と恋愛の女神アフロディティ神殿の遺跡がありますが、毎朝、地中海に向って感謝念仏を称えるうちに、彼女の輝きが燦々と降り注ぐ太陽の光となって、今回の旅を祝福してくれているような気分になりました。
 いろんな国を訪れて教会やモスクで祈るのは、私にとってごく自然なことですが、一神教や多神教の区別を超えて、どこにいても人間と神々は繋がっているというのが、私の正直な感想です。(2010・3・14)