【更新は不定期。】

『陽起石とクシャミ』
  私には、かつて二つの自慢話がありました。一つ目は、白髪がないこと。二つ目は、風邪を引かないことです。前者のほうはまだ辛うじて維持しているのですが、後者はまったくのウソになってしまったのです。この二年ほど、やたらと風邪を引くようになったからです。
  発熱はないのですが、クシャミと鼻水が止まらなくなる。しかも、必ず自宅に帰ったときに、そうなるのです。もう少し詳しくいえば、朝、寝室からリビングルームに出て行った時に、クシャミが出始め、とうとう止まらなくなるのです。朝の水シャワーと夜の温冷浴で、あまり寒さもこたえない体になっているのに、なぜか風邪の症状が出てしまうのです。
 老化が始まって、体温調整機能が衰えたのか、内蔵疾患なのかと、いろいろ考えてみたのですが、心当たりがない。でなければ、シックハウス現象かなと思ったのですが、家内は平然としています。ならば、その家内当人へのアレルギー症状かなと疑い始めたのですが、三十年近く同居しているわけですから、今さらと考え直しました。第一、恐妻アレルギー症候群なら、クシャミぐらいで済まず、もっと致命的疾患に罹っているはずです。
 ところが、ついにその原因が分かったのです。最近、拙著『観音の光に包まれて』(春秋社)にも登場される庵主さま(90歳)を訪れた際、なんとなく風邪の話をしたのです。そうしたら、こう言われたのです。
 「先生、どこかで拾ってきたものを、家に置いてへん?」
 「いろんな石を外国で拾ってきたりしますけど・・・」
 「白い石とか・・・」
 「う〜ん、そうだ!台湾でもらって来た石があります。陽起石と言って、これを家に置いておくと、男の「陽」が、よく「起つ」からと言って、親切な台湾人のオバサンが呉れたんです」
 そういう中国語だけは、私もよく分かるのです。まことに軽薄な私は、それを後生大事に持ち帰り、リビングルームに置いていたのです。
 「それやねえ。昔、その石があった所で大地震があって、ふたつほどホトケさんが入ったはる」
 「えっー!?」
 私は、いわゆる憑依現象というものを否定しませんが、なるべくそういうことには意識を向けないようにしてきました。たとえ、悪霊というものが存在するとしても、そのようなものに関わりを持たない意識状態を保つべきだというのが、私の持論だからです。
 ところが、石ころ一つに影響を受けて、この二年間、クシャミに悩まされてきたのです。それで、急いでミロクの里・永照院で供養をし、山に埋めました。そのとたん、ぴたりとクシャミが止まったのです。まるでキツネに化かされたような話です。
 この経験から何を学ぶべきでしょうか。一つは、つまらぬ物を家に置かないこと。もう一つは、人間の念の強さです。「一念岩をも徹す」と言われるように、この現象を逆から解釈すれば、祈りの念を強く持てば、何でも実現するということです。
 とすれば、陽起石というモノに頼らず、私は自己の念力において、精力絶倫となるべきだったのです。それは冗談ですが、自己の願うところを出来るだけ具体的なイメージとして、心の中に保ち続けることの大切さを改めて教えられました。(2011・1・27)

「台湾タロコ渓谷」